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竜殺しの英雄  作者: しんや
第2章 『風の精霊王』
9/22

第9話 新たな力と再会

いつもお読みいただいている読者の皆様、どうも有り難う御座います。

この第9話から第2章が始まります。

これからも宜しくお願い致します。

それではつたない文章ではありますが、読者様方の少しでも良い暇つぶしになればと思います。

 『脱出エスケープ』で『火の精霊王の迷宮』を抜け出し、俺たちは森の入り口まで戻ってきていた。


「これからどうするの、ディーン?」

「一旦『桜花』に戻るよ。アドルさんとの約束もあるからな」


 もうそろそろ調査も終わっている頃だろう。


『そうですね。そろそろ一月経ちますし』

『でももう夕方だよ、マスタ~。今から『桜花』に行くんですか~?』


 アイギスの言う通り、もう陽が沈む。


「そうだな。少し試したいこともあるし、今日はこの辺りで1泊するか」


 試したいこととは、当然『創造クリエイト』で寝泊まりできる空間を創ることだ。


『主殿、我はどのようにすれば良い?』


 スレイプニルが俺に尋ねてきた。


「そうだなぁ。普段は自由に行動してくれても構わない。けど今日のところは色々とやっておきたいことがあるから、俺たちと一緒にいてくれ」


 【調伏テイミング】スキルで契約を結んでおきたいし、騎乗するのに必要な鞍なども作っておきたい。


『承知した』


 スレイプニルがそう応えるのを聞き――


「それじゃあ、ラグ。俺はもう、『創造クリエイト』で空間を創れるようになっているんだよな?」

『ええ、できますよ。まぁ異空間自体は、以前から創れましたけどね……』

「うるさい。物を入れるだけの空間はインベントリがある俺には必要なかったし、別にいいんだよ。それで、どのくらい魔力を使えば良いんだ?」

『取り敢えず、全魔力を込めてみては? 私もどれほどの空間が出来るか、見てみたいですし』


 相変わらず他人事だと思って無茶言いやがって。

 まぁ良い。

 セファイドとの戦闘で消費した魔力も、すでに回復しているしな。


「じゃあ、やるぞ。『創造クリエイト』」


 俺は全魔力を使い、『創造クリエイト』を唱えた。

 空間が裂け、魔力が流れ込む。

 しばらくそのまま時間が経ち――


「あ~、だるい……やっぱり、大量の魔術を一度に消費するのはキツいな……それで空間は出来たか?」


 俺は大量の魔力を消費した倦怠感に耐えながら訊いた。


「大丈夫、ディーン?」

『出来てるよ~、マスタ~』

『早速、確認してみましょう』

『大丈夫か、主殿?』


 ロゼとスレイプニルは心配そうに、ラグとアイギスは気にした様子もなく、言った。

 こいつらラグとアイギスは、本当に俺のことをマスターだと思ってんのか?


「……大丈夫だ。それじゃあ、確認してみよう。『解錠オープン』」


 そう俺が唱えると、ロゼが使った時よりも遥かに大きい裂け目が現れた。

 そのサイズはスレイプニルを含め、俺たちが難なく通り抜けられるほどだ。


『それじゃあ、入ってみましょう』

「本当に入っても大丈夫なの?」

『大丈夫だよ~、ロゼお姉ちゃん』

「そう。なら、入りましょうか」


 ロゼお姉ちゃん!?

 確かに、声の感じからすればロゼの方が年上っぽいが…

 まぁ良いか、ロゼも気にしていないみたいだし。

 そんなことを思いながら、裂け目をくぐる。


「お~、広いな」

「なんて広さなの……私が創ったのとは、全然違う……」

『流石ですね、マスター』

『ひろ~い』

『流石、王がお認めになったお方』


 俺たちは各々、この空間に対する感想を述べる。

 俺が創った空間は一辺が2kmほどの立方体の空間だ。

 一辺の長さはあまりに長いので大体の感覚だが、そのくらいはあるだろう。


「これならホームが造れるな」

「ホーム……?」


 ロゼが不思議そうに訊いてくる。


「まぁ、家みたいなものだよ。これで野宿しなくて済むな」

『そうですね。まだ時間もありますし、造りますか?』

「そうだな。材料さえ集めてしまえば、ホーム自体はスキルですぐに造れるしな」


 俺はラグにそう答えると――


「ロゼはどうする? ここにいるか?」


 ――とロゼに尋ねた。


「嫌よ。ここ、真っ暗じゃない。私も外に出るわ」


 確かにここは【暗視】を起動しなければ、お互いの姿を確認できないくらい暗いしな。

 まぁスレイプニルの鬣が炎のように輝いているから、少しは明るいが…


「わかった。じゃあ、出よう」


 俺はロゼとスレイプニルを伴い、外に出る。

 俺たちが外に出ると裂け目が閉じた。


「それじゃあ、俺は材料の木を切ってくるよ。ロゼも一緒に行くか?」

「……私がエルフだと知って、そんなことを言っているの?」

「……?」


 俺はロゼに一緒に来るか――と尋ねたが睨まれた。

 訳がわからない……

 俺、何か気に触るようなこと言ったか?


『ハァ~。マスター、前にも言ったように『エルフ』や『ダークエルフ』は森の民と呼ばれているのですよ? 木を切るところを好んで見る訳がありません』

『マスタ~は何も知らないんだねぇ~』


 ラグとアイギスが呆れたように言ってくるが――


「……ラグ、そういうことは先に教えておいてくれ。ロゼ、すまなかった。じゃあ、木も切らない方がいいか?」


 仕方ない、石造りにでもするか。


「必要な木を切るのまでは気にしないわよ。ただ、それを見ていようとは思わないわね」

「そうか、覚えておくよ。じゃあ俺は行ってくるけど、ロゼはここで待っていてくれ。この辺りの魔獣なら大丈夫だとは思うが、気をつけろよ? スレイプニルもロゼのことを頼む」

「わかったわ」

『承知した』


 ロゼとスレイプニルが応えたのを聞き、俺は近くの森に向かって歩き出した。




「この辺りで良いか?」

『はい。ここなら『火の精霊王の迷宮』ではありません』


 俺がラグに場所を尋ねたのは、迷宮の木や岩などは神龍の力で保護されていて特別な理由が無い限り、決して切ったりできないからだ。


「それじゃあラグ、【両手斧グレートアックス形態】だ」

『了解しました』


 ラグが、三日月型の巨大な刃を持った片刃の両手斧グレートアックスになる。


「じゃあ、切るか」


 俺はラグの変化を確認し、そう言うと木を切り始めた…




「こんなもんか……」

『沢山切ったね~。ロゼお姉ちゃんが見てたら倒れちゃうね』

「うるさいぞ、アイギス……ラグ、どうにかしてくれ……」

『アイギスが私の言うことを聞くはずありません。諦めて下さい……』

『良くわかってるじゃない~、ラ・グ』

「ハァ~、もう良い……必要な量も集まったし、戻ろう」


 俺は切った木をインベントリに入れ、ロゼたちのいる場所へと歩いていった。



「あれ? ロゼは何処だ……?」


 俺が元の場所へと戻ると、ロゼもスレイプニルもいなかった。


『何処に行ったのでしょうね?』

「わからん。【気配察知】で探すか……」


 ロゼも強くなったし、スレイプニルも一緒にいるはずなので心配はいらないと思うが……

 俺は【気配察知】を最大範囲で起動し、ロゼたちを探す。


「いた。何してんだ、あんな所で?」


 ロゼたちの反応は、ここから少し離れた川辺にあった。


『さぁ? 取り敢えず、行ってみましょう』

「そうだな」

『…………』


 俺はラグに応え、反応のあった方へ歩いていった。

 アイギスが黙っていたのが、少し気になったが……



 しばらく反応を頼りに森の中を進んでいると――


「この辺りか…?」


 森を抜け、川辺に出た。


『ッ!? 主殿!?』


 スレイプニルが驚いたような声をあげる。


「え? 何だ?」


 俺は訳がわからず、スレイプニルの方へ目を向けるが――


「キ、キャアアアァァァー!!」


 ロゼの絶叫が聞こえてきた。


「な、何だ…?」


 ロゼの方へ目を向けようとすると、


『ッ!? 駄目です、マスター!!』

『いかん、主殿!!』


 ラグとスレイプニルが制止するが、もう遅い……

 川の中には水浴びをしていたのか、全裸のロゼがいた……


「なっ!? す、すまん、ロゼ!! 悪気はなかったんだ!!」


 ロゼは体を隠すようにしゃがみ込んでいる。


『本当にぃ~? 少し考えればわかりそうだけどぉ~。覗きたかったんじゃないのぉ~?』

「黙れ、アイギス!! 本当に知らなかったんだ!! 信じてくれ、ロゼ!!」


 俺は必死でロゼに言い訳をする。


「い・い・か・ら――」


 ヤバい!!

 ロゼの右手に『デモンズ・スピア』が握られている!!


「さっさとあっちに行けっ!! このバカー!!」


 ロゼが漆黒の槍を俺に向かって投げる。


「本気で投げやがった!! アイギス、障壁展開!!」


 俺はアイギスにそう言いながら魔力を込めるが、障壁が展開される様子はない。


「おい、アイギス!! どうなってる!?」

『…………』


 アイギスは完全に俺を無視している。

 そんなことをしている内に槍はもう目の前だ!!


「うおっ!!」


 俺は【縮地】で横に跳ぶ。

 漆黒の槍は俺の髪を数本引き千切りながら通り過ぎ、背後の森を吹き飛ばす。


「おいおい……まともに喰らってたら危なかったな……ロゼは俺を殺す気か……」


 俺は背後の森の様子を見ながら呟いた。


「フフフ……殺す気なんてないわよ? ただ、ちょーっと痛い目を見てもらうだけよ」

「ッ!?」


 俺が恐る恐る振り返ると、そこにはローブを羽織り、剣を持ったロゼが立っていた……

 顔は笑ってるが、目が笑ってない……

 正直、滅茶苦茶怖い……


「ま、待て、ロゼ……少し落ち着こう。というか、森の民じゃなかったのか? 森が吹き飛んでるぞ? それにローブの前を閉じないと、見えてるんだが……」


 俺がそう言った瞬間ロゼのこめかみに血管が浮かび、【闘気術】も使えないのに何かのオーラを纏う。


「……へぇ、言いたいことはそれだけ?」

『マスターはアホですか……』

『これはもうしょうがないよね』

『…………』


 ロゼが右手で剣を振り上げ、他の3人(?)が呆れている。


「わ、わかった。俺が悪かったから……」


 そう言って俺は土下座しようとするが――


「もう遅いわよ」


 ロゼが左手で持った鞘が高速で横に振り抜かれる。


「ぐはっ!!」


 殺す気はなかったんだな……

 そんなことを思いつつ、横っ面を鞘で強打された俺の意識は途切れた……




「……痛っ……」


 俺は目が覚めると、川辺に寝かされていた。

 体を起こすと、頭に乗せられていたのか、濡れタオルが落ちる。

 顎が滅茶苦茶痛い……


『目が覚めたようですね、マスター』

「ラグ、俺はどのくらい気を失っていたんだ?」


 すっかり陽が沈んでいる。


『1時間くらいですよ。ロゼさんにお礼を言ってくださいよ? 気絶したマスターの看病をしてくれたのですから』


 気絶“させられた”んだけどな…


「……ロゼは今、何処だ?」

『川の方にいますよ。ロゼさんにちゃんと謝ってくださいよ、マスター』

「わかってるよ」


 俺はラグにそう言い、川辺に座っていたロゼの方へ歩いていく。

 ロゼはチラッと俺の方を振り返ったが、すぐに川の方へ向き直る。


「何か用……?」


 うっ……

 まだ、かなり機嫌が悪いようだ……


「さっきは本当にすまなかった。後、看病してくれてありがとう。まだ気が済まなければ、好きなだけ殴ってくれ」


 俺は頭を下げながらロゼに言った。


「……ハァ、もう良いわよ。私もディーンに言ってなかったし、魔術を撃ったり鞘で殴ったりして少しスッキリしたしね」


 どうやら許してくれそうだ。


『よかったねぇ~、マスタ~。許してくれて』


 アイギスがそう言ってきたが――


「ていうかおまえ、ロゼが水浴びしてるって気づいていたな? 何で言わなかったんだ?」

『ん~。そっちの方が面白そうだったから』


 こいつは……


「しかもわざと障壁を展開しなかったな?」

『マスタ~ならあのくらい簡単に躱せたでしょ?』

「ディーン、悪いのはあなたなんだから、アイちゃんを責めたら駄目よ? そんなことをしたら、また私が怒るわよ?」


 アイちゃん!?

 もしかしなくても、アイギスのことだろうな……


「ロゼ、その『アイちゃん』というのは何だ?」

「え? アイちゃんがそう呼んで欲しいって」


 何だ、それは……


『マスター、それはリシェル様が付けたアイギスの愛称です』

「あ~、なるほど」


 あいつが付けたなら納得だ。


『そうだよ~。マスタ~もそう呼んで?』

「……遠慮する」


 流石にその呼び方を俺が使うのは、色々とキツい……


「それじゃあディーンも起きたし、食事にする?」

「作るのを任せても良いか? 俺はその間に、ホームを造っておきたい」

「いいわよ」


 そう言ってくれたので、ロゼに道具と食材を渡し、俺はホームを造ることにする。


「『解錠オープン』」


 俺は空間への入り口を開く。

 【暗視】を起動しつつ中に入り、インベントリから木を取り出そうとするが――


「とその前に……」


 俺はしておくことを思い出し、土属性魔術を使って床に土を敷き、ホームの建材として使う石材も創り出す。


「こんなもんで良いか」


 入り口付近を除く、空間全体に深さ1mほどに土が敷き詰められたのを確認し、改めて木を取り出す。


「よし、じゃあ始めるか」


 土がきちんと固められているのを確かめ、【建築】スキルを起動する。

 瞬く間に、木や石材が切り分けられ、建物が組み上がっていく。

 そうしてしばらく待つと、俺が『VLO』で使っていたものよりでかい一軒家が出来た。


「こんなもんか」


 外見は純和風と言うほどではないが、少し和風よりの和洋折衷といった感じだ。

 俺は中に入り、出来を確かめていく。

 この世界には家に入るときに靴を脱ぐ習慣はなさそうなので、玄関はない。

 扉を開けると、リビングが広がっている。

 1階にはリビング、キッチン、風呂やトイレなどがあり、2階には寝室用の部屋を取り敢えず5部屋造ってある。

 1階、2階の各部屋を確認し、次は離れへと向かった。

 離れは3つあり、1つは工房と鍛冶場になっていて、もう1つは道場だ。

 そして、最後の1つはスレイプニルのための厩舎になっている。

 必要ないかもしれないが、一応造っておいた。


「特に問題ないな。道具とかの整理は後でしよう」


 俺はそう言って外に出た。


「ディーン、夕食が出来たわよ」


 ちょうど料理も出来たようだ。


「わかった。こっちも作業が終わったから食べよう」


 そう言ってロゼとともに料理を食べ始める。


「そういえば、スレイプニルは何も食べないのか?」


 俺はスレイプニルの食事が気になり、訊いてみた。


『我は精霊たちと同じようにマナを取り込んでいるので、特に食事は必要ないのだ』

「へぇ~、そうなのか」

「それは良いわね」


 俺とロゼがそう言うと――


『普通に食事を摂ることもできるぞ? 我は食事をするのは結構好きだ』

「何を食べるんだ?」


 肉とか言われたら嫌だな。


『野菜だな。そこらの草も食べられるがあまり美味くない。それに肉はあまり好まないな』


 良かった。

 その辺りは普通の馬だ。


「じゃあ、これ喰うか?」


 俺はそう言って、サラダに入っていたオレンジ色のキュウリのような野菜をスレイプニルの口元に持っていく。

 スレイプニルはそれを食べ――


『うむ、美味いな。ロゼ殿の料理の腕前はかなりのものだな』


 サラダなんて切って盛っただけのような気もするが……


「ありがとう、スレイプニル。……後、ディーン? 何か失礼なことを考えなかった?」

「そ、そんなことある訳ないだろ? だから、フォークをこっちに向けるのを止めてくれ……」


 ロゼの勘が鋭くなってないか……?


「じゃあこれからは、スレイプニルの食事も作るわね?」

「あぁ、そうだな。それで良いか、スレイプニル?」

『有り難い。宜しく頼む』


 そんなことを話しながら食事をしていった。


『ねぇ、ラグ。何で私たちは食事できないの……?』

『私が知っている訳ないでしょう……』



 そうして食事が済んだので――


「それじゃあロゼ、ホームを造ったから見てくれ。あ、スレイプニルも一緒に見てくれよ」

「わかったわ」

『承知した』

「じゃあ、『解錠オープン』」


 空間の裂け目を開き、俺たちは【暗視】を起動し中へと入る。


「どうだ、ロゼ? 中々のものだろう?」

「中々なんてものじゃないわよ……あまり見ない感じの家だけど、かなり立派じゃない」


 やっぱりこの世界では和風の家は珍しいのか?

 結構洋風にしたんだけどな。


「中も見てくれ。色々と造ってあるから。スレイプニルはしばらく待っていてくれ」

「ええ、行きましょう」

『承知した』


 そう言って俺とロゼは家の中に入った。


「ここはリビングだ。食事したりする所だな。あっちにキッチンがある」

「広いわね。これならゆっくりと休めるわ」

「まだまだ見せたい場所は沢山あるぞ」


 次は風呂場に連れていった。


「ここは何……? あの四角いのは何なの?」


 ロゼが湯船を指差しながら不思議そうに訊いてくる。


「あれは湯船と言って、あそこに湯を溜めて中に入るんだ。まぁ、水浴びみたいなものだ」

「え!? ということは、いつでも水浴びできるの!?」

「まぁ湯さえ溜めれば、いつでも入れるな」

「それは凄く嬉しいわ」

「後で使い方を教えるよ。じゃあ、次だ」


 ロゼがキラキラした目で湯船を見ている。


「行くぞ、ロゼ?」

「……ええ、早く見て回りましょう? 早く使ってみたいわ」


 ロゼが待ちきれないように言ってくる。


「次は2階だ」


 俺たちは階段を上がり、2階へと行く。


「2階には俺たちの私室がある。5部屋あるから、好きな部屋を使ってくれ。部屋はどれも同じ造りだから」


 そう言って、俺は階段から一番近い部屋の扉を開ける。


「ここも広いわね。この部屋だけで、前に私が住んでいた部屋と同じくらいあるわ……」

「まだベッドがないから、今日のところはシュラフで我慢してくれ」


 ベッド自体はあるが、マットやシーツがない。


「そんなの全然構わないわ。野宿に比べたら100倍はマシよ」

「ハハ、街に戻ったら買いに行こう」


 やっぱりロゼも野宿は嫌だったんだな。


「工房や鍛冶場はロゼにはあまり関係ないから、次は道場だな」

「わかったわ」


 取り敢えずロゼに工房兼鍛冶場の離れの場所だけ教え、道場に連れていく。


「ここが道場だ。ここで訓練すれば、少しだが熟練度を得られる。明日からは、毎朝ここでロゼの訓練をするからな?」

「魔術も使えるの?」

「流石に最上級魔術を使うと壊れるから外でな。上級までなら大丈夫だ」

「わかったわ」


 一通り説明したのでスレイプニルの所へ戻る。


「次はスレイプニルの番だな。一応厩舎を造ってみたが、どうだ?」


 俺はロゼとスレイプニルを伴い、厩舎にやって来た。


『これは立派だな。我には勿体ないくらいだ』

「そんなことないさ。気に入ってくれたか?」

『気に入った。有り難う、主殿』

「こんなことくらい、お安い御用さ」


 スレイプニルはそう言うと厩舎の中に入り、くつろいでいる。

 本当に気に入ってくれたようだ。


「じゃあ、風呂の使い方を教えるよ」

「ッ!? 早く行きましょう!!」


 俺はロゼに引き摺られながら、風呂場へと行った……



 俺は再び風呂場に行き、ロゼに風呂の使い方を教えていた。


「この湯船に水属性魔術で水を入れて、火属性魔術で温めるだけだ。簡単だろ?」


 俺はそう言うと実践して見せた。

 あっという間に湯船にお湯が満たされる。


「そうね。簡単だわ」

「後は実際の風呂の使い方だが、まずはそこの桶でお湯を汲んで体を流してくれ。本当は洗うんだが、まだ石鹸が用意できてないから今は我慢してくれ」

「セッケンって何?」


 この世界は石鹸も無いのか?

 確かに今まで見たことはないが……


「材料が揃えばすぐに作れるから、楽しみにしていてくれ」

「わかったわ。楽しみにしておくわね」

「それじゃあ、実際に入ってみると良い。脱衣場の扉には鍵を掛けられるようになっているから、ちゃんと掛けてくれよ?」


 あんな惨劇は二度とご免だ。


「わかってるわよ」

「お湯の温度は自分で調節してくれ。じゃあ、ごゆっくり」


 ロゼが俺の言葉に頷いたのを見て、俺は脱衣場から出ていった。


「じゃあ、ロゼが風呂に入ってる間に色々と作るか……」

『マスター、ロゼさんの武具ですか?』

『覗きに行かないの~?』

「その通りだ、ラグ。後はスレイプニルの鞍とかもだな。……アイギスは黙れ」


 本当に何でこんな性格なんだ……?


『冗談だよ、マスタ~』


 そんなことを言い合いながら俺は離れへと歩いていった。



「さてとロゼの武器を作る訳だが、どんなのがいいと思う?」


 俺はロゼがセファイドから貰った『マナ結晶』を、掌の上で転がしながら言った。


『そうですね……やはり剣の扱いにも慣れてきたようですし、片手直剣の類が良いのでは?』

『私もそう思う。ロゼお姉ちゃんも、最初の頃より剣を扱い慣れてきたよね』

「ん? 最初の頃って何でアイギスが知ってるんだ?」


 こいつが覚醒したのはついさっきだ。


『意識自体は前から、マスタ~がラグと契約した時からあったんだよ? ただ、喋れなかっただけ。だから、マスタ~たちの事はずっと見てたよ? たとえるなら、夢で見てたって感じかな』

「そうだったのか。というか、今更だがアイギスも意思を持ってるんだな。まさか、クラスⅤの魔導兵装は全て意思を持ってるのか?」


 アイギスみたいなのがこれ以上増えたら、流石に堪らない。


『いえ、意思を持っているのは私とアイギスだけですよ。私たち――『ラグナレク』と『アイギス』は対になっている魔導兵装なので』

「そうか。話が逸れたな、ロゼの武器の話に戻そう。俺はロゼに【ソードウィップ】を使わせようかと、思ってるんだが……どう思う?」

『オリジナルカテゴリーの【ソードウィップ】ですか。良いんじゃありませんか? それなら今までの【片手剣】の熟練度も無駄になりませんし』

『そうだね。それに何か、ロゼお姉ちゃんに似合ってる気がする』

「アイギス、それはロゼに言うなよ……それでこの『マナ結晶』なんだが、これにはどんな特徴があるんだ?」


 俺は『マナ結晶』を親指と人差し指で挟み、眺めながら言った。


『1つは『精霊結晶』よりも遥かに魔術との相性が良いことです。もう1つは私たちに使われている『マナ結晶』ほどではありませんが、精霊王たちの力を得ることで能力が成長します』

『これにはもう、セファイド様の力が込められてるね』

「それは凄いな……」


 流石は精霊王が創っただけはある。


「そんなものを渡すなんて、セファイドは本当にロゼを気に入ったんだな」

『あの方自身、勇猛果敢なお方ですからね。ロゼさんのあの時の行動を気に入ったのでしょう』

「ロゼには、二度とあんなことをして欲しくはないがな……」


 俺はそんなことを呟きつつ、武器の素材となる金属や道具類を取り出す。

 剣身は硬度を重視して『オリハルコン』と『アダマンタイト』の合金で、刃と刃を繋ぐ鋼線は魔力の通りが良い『オリハルコン結晶』と『セイクリッドミスリル』の合金で作ることにする。

 これで多少のことでは刃毀れもしないし、ロゼの魔力で操りやすくなるはずだ。


「それじゃあ、作るか」


 そう言って俺はロゼの武器を作り始めた……



「よし、出来たぞ」


 俺の目の前には一振りの剣があった。


「後は『マナ結晶』を填め込んで、紋章を刻むだけだな」


 俺は作業台の方へと行き、『加工道具一式』と『刻印道具』を取り出して剣を仕上げていく。

 そうして10分ほど経つと――


「あ、ここにいたのね。お風呂、気持ち良かったわ」


 風呂から出てきたロゼがやってきた。

 ローブなどの装備は解除し、シャツとズボンといった軽装だ。


「それは良かった」

「ところで、何を作ってるの?」

「前にも言ったが、ロゼの新しい武器を作ってたんだよ。ちょうど完成したところだ」


 俺はそう言って出来上がった剣をロゼに見せる。


「片手直剣ね。ラグほどではないけど、少し長いわね? でも、剣ならもう持ってるわよ?」


 ロゼはどうしてわざわざ作ったの?――と言いたげだ。


「ただの剣じゃないのさ。ちょっと持ってみなよ」


 そう言って俺はロゼに剣を差し出す。


「わかったわ。……見た目よりかなり軽いわね」

「それはそうさ。『軽量化』の紋章を刻んである。他にも『自動修復』の紋章も刻んであるから、もし刃毀れしても勝手に直る」

「それは凄いわね……」

「後は剣に魔力を込めてみてくれ」

「わかったわ」


 そう言ってロゼが魔力を込めると、剣身が20ほどに分かれ、鋼線で繋がった鞭状に変化した。


「ッ!? 驚いた……これは何?」


 流石にロゼは驚いている。


「オリジナルカテゴリーに属する、【ソードウィップ】と言う武器さ。通常状態は【片手剣】に属する、普通の片手直剣だ。当然、【片手剣】のアーツスキルも使うことができる。しかし魔力を込めると、今のような鞭状に変化するんだ。その状態の時はオリジナルカテゴリー【ソードウィップ】として扱われ、専用のアーツスキルしか使えなくなる」

「そんな武器があったのね……」

「扱いが難しいから、あまり知られていないのかもな」


 本当は【ソードウィップ】は『VLO』であるプレイヤーが作り出したもので、この世界には無いだろうが、説明が面倒なのでそう言っておいた。


「これを知ってるということは、ディーンは使えるの?」

「一応な。マスターはしていないが、ロゼに基本を教えることくらいならできる」


 昔、【鋼糸】を教えることを条件に教わったが、結局ほとんど使わなかった。

 理由は、用途が【鋼糸】と被っているからだ。


「だから、明日から使い方を教えるよ。扱いきれない場合は、また別の武器を考えよう」

「わかったわ。必ず修得してみせるから」

「期待しておくよ。それじゃあ俺は他にも色々と作るから、ロゼは先に休んでいてくれ」

「わかったわ。あまり無理しないようにね?」


 そう言って、ロゼは部屋へと戻っていった……


 「じゃあ、俺もさっさと作業を済ませて風呂に入るか」


 それから俺はセファイドとの戦闘で壊れた鎧、スレイプニルの鞍や手綱、ロゼの剣の鞘や新しい金属製の軽装鎧、その他細々とした物を作り、風呂に入ることにした。


「やっぱり、俺は日本人なんだなぁ~。あ~、気持ち良い」


 そんなことを呟きながら風呂に入り、休むことにした。

 ちなみに、風呂のお湯は魔術で家の外に撒いた。


「明日は『桜花』に戻らないとな」

『そうですね。いつまでもはゆっくりしていられませんし』

『え~、もう少しゆっくりしようよ、マスタ~』

「まぁ、今回ばかりはアイギスの気持ちもわかるが、これからいつでもここに来れるんだ。我慢してくれ」


 そんなことを話しながらラグとアイギスの手入れをして、俺は眠りに就いた。




「おはよう、ロゼ」

「おはよう、ディーン」


 俺たちは挨拶を交わして道場へ向かう。

 ちなみに俺とロゼの部屋は、階段を上がってすぐの向かいの2部屋だ。


「おっと、その前に『コレ』を設置しておかないとな」


 外に出た俺は、そう言ってインベントリからある物を取り出す。


「それは何? ずいぶんと大きな『精霊結晶』だけど……」

「これは『イミテーション・サン』という魔導具だ。本当はもっと小さくて、掌に乗るサイズだ。『闇の精霊王の迷宮』とかの真っ暗な迷宮で時間を知るための物なんだ」

「それが何で、こんな巨大なサイズになってるの?」

「こう使うのさ!!」


 俺は渾身の力で『イミテーション・サン』を、空間の中心の上空に向かって投げた。

 すると『イミテーション・サン』は上空で停止し浮遊したまま、まさに太陽の如く輝く。


「へぇ~、本当に太陽みたいね。どうやって作るの?」

「作り方自体は簡単だぞ? 『精霊結晶』に太陽属性の魔術を込めるだけだ」


 俺は『フレイムドラゴン』が残した巨大な『精霊結晶』を球体にし、全魔力を使って太陽属性魔術を込めたのだ。


「俺がこの空間にいる間に魔力を勝手に吸収して、外の太陽と同じように昼は明るく夜は暗くなる。これでこの空間でも大体の時間がわかるだろ?」

「それは便利ね」


 そんなことを話しながら明るくなった空間を歩き、道場へと向かった。


「それじゃあ、稽古を始めるぞ?」

「ええ、わかったわ」

「じゃあ、まずは【ソードウィップ】の扱いからだ」


 俺はそう言って鞘に納まった剣をロゼに手渡す。


「ラグ、適当でいいから【ソードウィップ】の形態になってくれ」

『適当でよろしいのですか? まだ形態変化の登録はできますよ?』

「どうせ使わないし、適当で構わないよ」

『了解しました』


 ラグがそう応えると変化が始まる。

 やはり構造が複雑な分、変化に少し時間がかかる。

 それでも1秒ほどだが。


「【ソードウィップ】の最大の特徴は、縦横無尽にあらゆる方向から襲いかかる攻撃だ。試してみせるから見ていてくれ」


 そう言って俺はラグを鞭状に変化させ、昨日作っておいた的を放り投げる。

 そしてラグを何度か高速で振り、的を微塵に斬り裂く。


「ロゼのソードウィップは最大10mの範囲まで攻撃できるし、【魔力操作】で分かれた剣身を繋いでいる鋼線を操れるように作ってあるから、魔術の得意なロゼには扱いやすいはずだ」

「わかったわ」

「よし、それじゃあ俺に攻撃してみてくれ」


 そう言うと俺はラグを【杖術形態】にしつつ、ロゼと5mほどの間隔を空けて向き合う。


「大丈夫なの?」

「いくらなんでも、それは俺を舐め過ぎだ」

「わかったわ。じゃあ、いくわよ?」

「あぁ、来い」


 ロゼがソードウィップを振り、攻撃してくる。

 俺は杖でそれを弾きつつ――


「甘すぎるぞ!! 手加減なんてしなくてもいい!!」

「くっ…」


 ロゼは縦に横にと次々と攻撃を繰り出す。


「直線的すぎる。ただ振るんじゃなく、攻撃の途中で魔力を通し軌道を変えるんだ!!」


 俺は躱し、弾きながら叫ぶ。


「わかった!!」


 ロゼが魔力を通したのか、ソードウィップが空色の輝きを放つ。

 次第に攻撃の軌道が複雑さを増していく。

 足を狙ってきた切っ先が直前で俺の顔に向かい跳ね上がる。


「その調子だ!! 魔力だけじゃなく、手首の返しでも操れ!!」


 俺は顔へと跳ね上がった切っ先を頭を振り躱す。

 完全には避けきれず、頬が薄く切り裂かれ血が流れる。

 ロゼは俺の言った通りに手首の返しも使いソードウィップを操る。

 魔力に操られ、物理法則を無視した動きで俺を襲う。


「流石だな。これはちょっとキツい」


 少し本気を出すか。

 俺はさらに躱すスピードを上げる。

 ロゼも操る速度を上げるが、慣れない武器では追いつかない。

 そして、俺は操作が甘くなったソードウィップを杖で弾き飛ばし――


「そこまで!!」


 俺は終わりを告げた。


「……どうだった?」


 息を切らせたロゼが訊いてくるので――


「初めてにしては上出来だ。この調子で腕を磨けば、この距離なら俺でも躱せなくなるな」

「本当?」

「あぁ、本当だ。まだまだ甘いところもあるから、明日からも厳しくいくぞ?」

「ええ、お願い」

「じゃあ5分休憩したら、次は剣の稽古だ」

「え……?もう終わりじゃないの……?」

「当たり前だろ? まだ1時間もやってないぞ?」

「……わかったわ」


 ロゼが休憩している間に、俺は昨日作っておいた模擬刀を取り出す。

 俺の分は刀で、ロゼの分は剣だ。

 両方とも金属製だが、当然刃は潰してある。


「はい、休憩終わり」

「もう……」

「戦闘訓練においては、優しくはしないぞ?」

『ドSね、ドSだわ』


 アイギスが茶々を入れるが、無視だ。


「わかったわ。見てなさい。ボコボコにしてあげるわ……」

「ハハハ、その意気だ。できるものなら、やってみろ」


 俺はわざと挑発するように、ニヤリと笑いながら言った。

 そうしてロゼに模擬刀を手渡す。


「よし、来い!!」

「やぁ!!」


 俺が言った瞬間、ロゼが上段から打ち込んでくる。

 ロゼの剣を受け流しながら――


「踏み込みが甘い。もっと床を踏み抜く勢いで」

「せいっ!!」


 少し速さを増した横薙ぎを一歩下がって躱し――


「防御も忘れるなよ」

「くっ!!」


 俺は模擬刀を逆袈裟に斬り上げる。

 手加減はしているがロゼは受け流せず、体勢が崩れる。

 俺は次々と打ち込みながら――


「魔術を使っても良いぞ? もちろん上級までだぞ?」

「……完全に舐めてるわね」


 ロゼは俺の刀を受けながら後ろへ跳ぶと――


「『ファイアランス』」


 いきなり上級魔術を放った。


「そのくらいじゃまだまだ」


 俺は模擬刀に気を纏わせ、炎槍を打ち砕く。


「な!? 魔術を砕くなんて……」

「1本出したくらいじゃ、俺には届かないぞ?」

「まだまだ!!」


 斬りかかってきたロゼをあしらいながら、稽古は進んでいった……



 あれから格闘術の稽古もして、今日の稽古が終了した。


「大丈夫か、ロゼ? これからは、毎日こんな感じだぞ?」

「ハァ……ハァ……ハァ……」

「喋るのも、無理そうだな…」


 ロゼは疲労困憊すぎて喋れない。


「取り敢えず風呂場まで連れていってやるから、風呂に入っていてくれ。俺はもう少し稽古をしてから、朝食を作るから」


 ロゼは風呂に入れることに目を輝かせたが、さらに稽古をすると言った俺に対して、信じられないものを見たような目を向ける。


「まぁ昔からやってれば、このくらい何でもないよ」


 そう言いながら俺はロゼを抱え上げ、風呂場へと連れていった。




 俺は風呂に湯を張り、ロゼに入っているように言って外に出た。


「さて、それじゃあセファイドとの契約で何が変わったのか確認するか」


 契約してから色々とあったので、まだ確認ができていなかったのだ。


『それではマスター、ウィンドウを開いて下さい』


 俺は言われた通りステータスウィンドウを開く。



 Name:ディーン

 種族:人族(転生2回)

 称号:認められし者

 Lv:245/500

 HP:35000/40000

 MP:35000/40000

 SP:16000/20000

 STR:1515/2000

 DEX:1510/2000

 VIT:1525/2000

 AGI:1535/2000

 INT:1500/2000

 WIS:1500/2000

 スキルスロット:50/120



「称号が変わってるな」


 称号が『認められし者』になっている。

 精霊王に認められた者という意味だろう。


『このくらいはまだ序の口だよ、マスタ~。スキルも確認してみてよ?』


 俺はアイギスに言われた通りスキルを確認する。


「【加速】が【疾風迅雷】に、【縮地】が【縮地无疆しゅくちむきょう】になっているな……しかも【火の精霊王の加護】というスキルが増えてる」


 契約時に流れ込んできた知識によると、【疾風迅雷】は以前使った【加速】と【縮地】の同時使用と同じ効果をノーリスクで使えるようだ。

 そして、【縮地无疆】は【縮地】の移動距離が最大500mまで拡張されたスキルだ。


「【火の精霊王の加護】とは何だ?」


 これだけは知識が無かった。


『それは説明するより、実際に試した方が早いですね。下級で良いので火属性魔術を使って下さい。くれぐれも、ホームの方に撃たないで下さいよ?』

「わかった。」


 俺はホームとは逆の方を向き――


「『ファイア・アロー』」


 初歩の『ファイア・アロー』を放つ。

 火の矢が地面に着弾した瞬間――


 『ドンッ!!』


 まるで『フレイムドラゴン』の炎弾のように火柱が噴き上がる。

 【鷹の目(ホークアイ)】で確認すると、着弾地点の土が吹き飛んでいた。


「下級でこの威力か……凄まじいな……」

『はい。なので、くれぐれも外で使う時には気をつけて下さい』


 それはそうだな。

 こんなもの、そう簡単には使えない。


『マスタ~、最上級魔術も使えるようになってるよ?』


 アイギスが言ってきたので取り敢えず使ってみる。


「『ノヴァ・エクスプロージョン』」


 セファイドも使ってきた、火属性最上級殲滅魔術を使う。

 直径5cmほどの炎弾が放たれ、膨張し爆裂する。


「セファイドが使ったのとほぼ変わらない威力だな……これも迷宮以外では使えないな……」


 この威力だと地形が変わる……


『もう1つだけ、このスキルの効果がありますよ。魔導銃を抜いて下さい』

「わかった」


 左の魔導銃を抜く。


「抜いたぞ。どうするんだ?」

『それでは『火』をイメージしながら魔力を込めて下さい』


 ラグが言ったように、燃え盛る炎をイメージしながら魔力を込める。

 魔導銃に填め込まれた『精霊結晶』がいつもと違い、紅く輝く。


『それでは撃ってみて下さい』


 俺は魔導銃を構え、放つ。

 すると魔導銃から炎弾が放たれた。


「……これは何だ?」

『マスターは火の魔力を操れるようになったのですよ。だから、火属性魔術の威力が上がったのです』

「そうだったのか……まるで火の精霊だな」

『そうだよ? マスタ~は、もう人よりも精霊に近い存在だよ?』

「…………」


 え~、俺はもう人じゃないってことか……

 何となくわかってはいたが、実際に言われると結構ヘコむな……


『最終的には、アリューゼ様のお力を受け継がなくてはならないのです。それは人の体のままでは不可能ですからね』

『そうそう。それにもうマスタ~は不死じゃないけど不老だよ? ロゼお姉ちゃんなら、跳んで喜んでるよ?』

「不老って……もうこれ以上、歳を取らないのか?」

『はい。髪が伸びるなどの代謝はしますが』

『それじゃあ私たちのスキルを確認して、戻ろうよ。そろそろロゼお姉ちゃんがお風呂から出てくるよ?』

「そうだな。」


 アイギスの言うことはもっともなので、俺自身の事は気にしないことにして、ラグとアイギスのスキルを確認する。



 魔導兵装クラスⅤ『ラグナレク』

 常時…永久不滅、形態変化、質量変化

 特殊固有スキル…【覚醒】、【クラウ・ソラス】



 魔導兵装クラスⅤ『アイギス』

 常時…精神異常、猛毒、沈黙毒、麻痺、即死攻撃無効化

 魔力障壁展開時…全ダメージ100%カット

 特殊固有スキル…【SP減少半減Ⅱ】、【SP自然回復量UPⅡ】、【取得経験値倍加Ⅱ】、【HP自動回復】、【MP自動回復】、【障壁展開制限解除】



「まぁ、アイギスの方のスキルは何となくわかるな。だが、ラグの方の【クラウ・ソラス】って何だ?」

『え~、聞いてよ~』

「はいはい、後でな。それで、ラグ?」

『【魔法剣】ですよ。セファイド様が使っていた炎の剣を、覚えていますよね? あの剣です』

「な!? あんな無茶苦茶な性能の剣が使えるのか?」

『流石に、物質を透過することはできませんよ? 私が炎を纏うのですから』

「使ってみて良いか?」

『いいですよ』

「それじゃあ、ラグ。【魔法剣】起動、『クラウ・ソラス』」

『了解しました』


 ラグが応えると、剣が業火を纏う。


「……流石に持ち主は熱く感じないな」


 セファイドが使った時は対峙しているだけで服が焦げたのに……


『まぁ持ち主を焼き殺したら、洒落になりませんからね……』


 俺はラグの言葉を聞きながら業火を纏った剣で地面を一撫でする。

 地面があっさりと融解してガラス状に固まる。


「凄まじいな……これも使いどころを間違えないようにしないとな」

『そうですね』


 こんなものを考えなしに振り回したら、間違いなくロゼまで殺してしまう。


『もう戻ろうよ~』


 アイギスがそう言うので――


「そうだな。そろそろ戻らないとヤバいな」


 俺はそう言って、アイギスのスキル説明を聞きながら家の方へと歩いていった……

 ついでにレベルが10上がっていたので、ポイントを振り分けておいた。



 家に戻り、俺たちの朝食(昼食?)とスレイプニル用のサラダを手早く作ったが、ロゼはまだ風呂から出ていなかった。

 流石に心配になり声をかけたが、どうやら風呂の中で酷使した筋肉を揉み解していたようだ。

 中々正しい風呂の使い方だ。

 スレイプニルに食事を持って行き、しばらく待っているとロゼが出てきた。


「身体中の筋肉が痛いわ……」

「すぐに治るよ。それにしばらく続ければ、筋肉痛にもならなくなる」

「そうよね……ディーンは全然平気そうだものね……」


 ロゼが恨みがましそうに言ってくるので――


「仕方ないな……『パーフェクト・シャインヒーリング』――どうだ、少しは楽になったか?」

「まだ少し痛いけど、全然マシになったわ……もっと早く使ってくれても良かったじゃない……」

「そう言うな。その方が自分の未熟さが良くわかるだろ? それに効くかどうか、わからなかったしな」

「う~、それはそうだけど……」

「まぁこれからも、あまりに痛みが酷ければ使うから。それよりも食事を食べて『桜花』へ戻ろう」

「……わかったわ」


 そうして俺たちは食事を食べ始めた。




 食事を食べ終わり、ロゼたちと異空間の外へと出ていた。


「『イミテーション・サン』はちゃんと機能しているな」


 空間の中と外ではほとんど明るさに差は無い。


「そうね。これなら時間がわからなくなったりはしないわね」

「そうだな。それで今から『桜花』に戻る訳だが……スレイプニル、おまえに乗せてもらっても良いか?」

『当然だ、主殿。我はそのためにいるのだから』

「ありがとう。じゃあ、鞍と手綱を付けさせてもらうぞ?」

『承知した』


 スレイプニルはそう言うと、着けやすいようにしゃがんでくれた。


「すまない。ちなみに鎧も作ってみたんだが、着けて良いか?」

『重ね重ねすまない。我は防御に難がある種族だから助かる』

『焔神馬は魔術で攻撃はできますが、近接戦には弱いですからね』

『うむ、そうなのだ。かと言って、そう簡単には近寄らせはしないがな』

「何か自信がありそうね?」

『後でわかるよ、ロゼお姉ちゃん』


 そんなことを話しながらスレイプニルに装備させていった。

 そして装備をさせ終わり、スレイプニルが立ち上がると――


「お~、これは……」

「流石ね……」

『これは見事ですね……』

『マスタ~にしては良いセンスね~』


 スレイプニルに着けた鎧は、昔の西洋の軍馬が着けていたような鎧だ。

 スレイプニルの炎のような毛色と合わせるように、『オリハルコン結晶』製だ。

 防御力も問題ないだろう。

 流石にくつわをはめるのは躊躇われたので、手綱は首筋を守る鎧に接続してある。


『これは良い物のようだ……凄まじく軽く、着けている感じが全くしない』


 鎧には『軽量化』の紋章を刻んである。

 これでスレイプニルには負担がかからないはずだ。


「それじゃあ、行くか」

「そうね」

『では主殿、ロゼ殿、我の背に乗ってくれ』


 俺たちが乗りやすいように再びしゃがんでくれる。


「ありがとう、スレイプニル」

「すまないな」


 跳び乗れないことはないが、やっぱりこっちのほうが乗りやすい。

 ちなみにロゼが前で、俺が後ろからロゼを抱えるように手綱を握る。


『では、しっかり掴まっていてくれ』


 そう言うとスレイプニルの足元に炎が現れ、凄まじい速度で駆ける。


「うおっ!!」

「きゃ!!」


 かなりのGが発生し、後ろに飛ばされそうになる。


「待て待て、スレイプニル!! こんな速度じゃ人を撥ねるぞ!!」


 俺は風の音に負けないように大声で叫ぶ。


『心配召されるな、主殿』

『大丈夫ですよ、マスター』

『そうだよ~』


 何かを知っていそうな3人(?)は、気楽に言ってくる。


「何が大丈夫なんだ!?」


 俺がそう怒鳴った瞬間、スレイプニルが空を翔ける。


「な!?」

「キャアー!!」

「こら、ロゼ!! 暴れるんじゃない!! 落ちないように抱えてるから大丈夫だ!!」


 パニックになったロゼが暴れるのを必死で押さえる。

 しばらくして、スレイプニルが少し速度を落とす。


「ハァ~、これはどういうことだ……?」


 俺はやっと落ち着いたロゼを、改めて抱え直しながら訊く。

 ロゼはまだ少し震えている。


『すまない、主殿。悪乗りしすぎた』

『これは焔神馬の特殊固有スキル【天翔】ですよ』


 そのまま、『天』を『翔』けるから【天翔】だろう。


「知っていたなら先に言えよ。ロゼを見てみろ、まだ震えてるぞ」


 俺は片手で手綱を握りつつ、もう片方の手でロゼの頭を撫でる。


『ごめんね~、ロゼお姉ちゃん。高い所、苦手だった?』

「そんなことはないけど……いきなりだったから……ディーンもごめんなさい」

「俺は気にしてないよ。ほら、スレイプニルとラグもちゃんと謝れ」

『すまなかった、ロゼ殿』

『すみませんでした、ロゼさん』

「もう良いわよ。空を翔けるっていうのも、気持ち良いしね」


 ロゼはもう慣れたのか、この空の旅を楽しんでいる。


「悪乗りもほどほどにしておけよ?――それで、どのくらいで『桜花』に着くんだ?」

『そうですね。この速度で行けば、陽が沈む前には着くでしょう』

「それは凄まじく速いな。徒歩の時は途中で1泊したのに。流石はセファイドが勧めただけのことはあるな」

『速度を上げれば、もっと早く着くぞ? どうする?』

「それはやめて」


 スレイプニルの提案をロゼが即座に却下する。

 スレイプニルはロゼの言葉に何かを感じたのか、少し体を震わせ――


『……承知した』


 大人しく頷いた。


「じゃあ、ロゼ。到着までしばらくかかるみたいだし、その間にその剣の銘を考えてくれ」


 俺は、ロゼが左の腰に佩いている鞘に視線を向けながら言った。

 ロゼの剣は、オリジナルカテゴリーの武器なので自分で銘が付けられるのだ。


「私が付けても良いの?」

「あぁ。俺が付けても構わないが、俺にその類のセンスはないし、ロゼが使う剣だ。自分で付けたいだろう?」

「そうね。考えてみるわ」


 そして1時間ほど経った時――


「決めたわ。この剣の銘は『ネビュラ』よ」

「星雲か。良いんじゃないか」


 ソードウィップ状態を星雲に見立てのだろう。


「名前を付けると、急に愛着が湧くわね」

「ハハ、良いことじゃないか。ロゼの相棒なんだから、大切にしてやってくれ」

「そうね。その通りだわ」


 そんなことを話しながら俺たちは『桜花』へと進んでいった。



 あれから2、3時間ほどスレイプニルの上で過ごし――


「お、『桜花』が見えてきたな」


 遠目にだが『桜花』の街が見える。

 予定より早く、まだ昼過ぎといったところだ。


「ディーン、流石にこのまま街に降りたらパニックになるわ」

「それもそうだな。スレイプニル、ある程度近づいたら地上に降りてくれ」

『承知した』


 スレイプニルはそう応えて高度を下げていく。

 地上に降り、ある程度『桜花』に近づいた所で俺たちはスレイプニルから降りる。


「しばらく時間がかかるが、スレイプニルはどうする? そこら辺で時間を潰してるか?」


 街中にスレイプニルを連れていく訳にもいかないので、俺はどうするかを尋ねた。

 すでに【調伏テイミング】で契約は結んでいるので、何処にいても【召喚】で呼び出せる。


『我はホームで休んでいよう。あそこを気に入ったのでな』

「そうか、わかった。『解錠オープン』」


 俺が空間の入り口を開くと、スレイプニルは悠々とした足取りで入っていった。


「彼はずいぶんとあそこを気に入ったようね」

「そうだな。造った甲斐があるよ」


 そんな言葉を交わしながら俺たちは『桜花』へと歩いていった……




「おぉ、久しぶりじゃの、ディーン殿。それにロゼも」

「お久しぶりです、アドルさん」

「ご無沙汰してます、アドル様」


 俺たちは『桜花』に着くと、すぐにギルドへと赴きギルドマスターと会っていた。


「ディーン殿は何やら雰囲気が変わったの? その様子から察するに、精霊王との契約は上手くいったようじゃの」

「はい。無事、契約をすることができました」

「それは何よりじゃ。ロゼの雰囲気も変わっておるが、どうやら『転生』したようじゃの?」


 流石と言ったところか、アドルさんはロゼの『転生』にも気づいたようだ。


「はい。ディーンのおかげで、『転生』することができました」

「そうか、そうか。それは何よりじゃ」


 まるで孫娘の成長を喜ぶお爺ちゃんだ。

 実際の年齢はロゼの方が上だと思うが……


「それとロゼよ。お主はもうワシの部下ではないんじゃから、『様』なぞ付けなくて良いぞ?」

「いいえ、それはできません。それでは私は鑑定を手伝ってきます」


 そう言うと、ロゼは『失礼します』と部屋から出ていった。


「いいんですか? ロゼはもうギルド職員ではないんじゃ?」

「構わんよ。あやつがああ言うということは、かなりの量の換金があるんじゃろ?」


 確かに俺たちはこの部屋に来る前に、要らない『精霊石』や素材などの換金を頼んだ。

 そのあまりの量に、職員のお姉さんは少し涙目になっていたが……


「すみません。いつも、いつも」

「何、気にすることはないぞ? こちらとしても、貴重な素材が大量に手に入るからの。ディーン殿のおかげで、ここ最近の『桜花』の市場は賑わっておるよ」

「そう言ってもらえると助かります。それじゃあ、本題に入りましょう」


 世間話はこのくらいで良いだろう。


「そうじゃの。それで調査の結果じゃが、ある程度の報告は上がってきておるが、まだ確証が掴めておらんのじゃ」

「そうなのですか? それでは、俺はどうすれば良いんですか?」

「調査を行なっておる冒険者たちからの報告では、どうやら『アーリグリフ』が最も多く異変が起こっておるようじゃ」


 魔族の国『アーリグリフ』か……


『確か、『キングモス』の棲息地も『アーリグリフ』でしたね』

〈そういえば、そうだったな〉


 ずいぶん前のことなので、すっかり忘れていた。


「じゃから、Sランクを筆頭にAランク以上の冒険者を『アーリグリフ』に調査に向かわせたが、芳しい結果は上がっておらんようじゃ。どうやら『魔物』が入り込んでいる――ということは聞いておるが……」

「『魔物』ですか……それは大丈夫なのですか? 『魔物』の中にはかなり強力な個体もいますが……」


 俺は『魔物』とは『VLO』でしか闘ったことはないが、かなりの強さを持つものもいた。

 こちらの世界で言えば、『神獣』クラスだろう。

 Sランクの実力がどれほどのものかはわからないが、かなり危険だろう。


「Sランクもおるから、早々危機に陥ることはないと思うが……それでも不安は残る。じゃから、ディーン殿には『アーリグリフ』に赴いて、彼らと協力して可能なら『魔物』を排除してもらいたいんじゃ」

〈どうする、ラグ? おまえの意見を聞かせてくれ〉

『……マスターの中では、もう結論は出ているのでしょう? 反対はしませんよ。『アーリグリフ』には『風の精霊王』もいますしね』

〈そうか〉


 ラグの言う通り、俺の中で結論は出ていた。


「わかりました。俺も『アーリグリフ』には行かなくてはなりません。その依頼、受けましょう。ただしその冒険者たちが足手纏いだと判断したら、容赦なく置いて行きます。それでも構いませんか?」

「お主の判断に任せよう。元より、お主に逆らえる冒険者はおるまいて」

「わかりました。それでは、すぐに『アーリグリフ』に向かいましょう」

「それが、そうもいかなくての……ギルド総本部のグランドマスターがお主に会いたがっておるんじゃ。なので、一度『グランドティア』に行ってくれんか?」

「それは別に構いませんが……」


 『グランドティア』はこの大陸の中心に位置しているので直接『アーリグリフ』にも行けるが、『魔物』の方もかなり切迫しているようだが…


「『アーリグリフ』のギルドにも、お主のことを伝える時間が必要じゃしの……」

「そうですか……わかりました。それでは『グランドティア』を経由して、『アーリグリフ』へと向かいましょう」

「すまんの。宜しく頼む」

「任せて下さい。それでは失礼します」

「ロゼにも宜しく言っておいてくれんかの」


 俺はアドルさんの言葉に頷き、部屋を出た。

 そして、ロゼとギルドのお姉さんが鑑定をしている部屋に行く。


「ロゼ、鑑定は終わったか?」

「あ、ディーン。ちょうど今、終わったわよ」

「そうか、お疲れ様。――それで、そっちのギルドの職員の人は平気か?」

「あ~、あまり大丈夫ではないわね。……少し休憩してきなさい。買い取り金額は私が言っておくから」

「……わかりました。ありがとうございます、ロゼさん」


 ギルドのお姉さんはそう言うと、少しフラつきながら部屋を出ていった。


「悪いことをしたかな……」

「まぁ仕事だと思って、我慢してもらうしかないわね……」

「ロゼも手伝ったことだしな。それで、いくらになった?」

「あ~、大体250万ティルね。端数もいくらかあるけど、どうする?」

「さっきの人にでも、ボーナスとして渡しておいてくれ」

「そうね。お金も、もうかなりあるしね」


 そんなことを話しながら部屋を出て受付に行き、金を受け取る。

 端数は、鑑定をしてくれたお姉さんに渡してもらうように頼んだ。

 すると受付のお姉さんが――


「ディーン様、ソファラ様の依頼はお済みですか?」

「はい。終わってますよ」


 俺はそう言って、インベントリから『マンドラゴラ』を取り出す。


「ッ!? 流石ですね……ディーン様はソファラ様と既知だと伺っておりますが、『マンドラゴラ』はギルドの方からお渡ししておきましょうか? それとも、ディーン様が直接お渡しになりますか?」


 う~ん、久しぶりにジェラルドさん達にも会いたいし、スレイプニルがいれば移動に時間もかからないだろう。


「俺が直接渡しに行きますよ」

「わかりました。それでは、こちらが報酬となります。お受け取り下さい」

「ありがとうございます」


 俺は報酬の1万ティルを受け取り、ギルドを後にした。



 「それで、ディーン。次は何処に行くの?」


 ギルドを出て、すぐにロゼが尋ねてきた。


「取り敢えず買い物を済ませてから『ウィプル村』に行く。ロゼも聞いていたように、ソファラさんに『マンドラゴラ』を渡さないといけないからな」

「その後は?」

「グランドマスターに会うため、『グランドティア』のギルド総本部へ行く。その後は『アーリグリフ』だな。アドルさんの依頼と『風の精霊王』に会うためだ」

「忙しくなりそうね……」

「あぁ、そうだな」


 そんなことを話しながら、ロゼのアドバイスを聞きつつ食材を買い込んでいく。


「ロゼ、この街に家具屋のような店はあるか?」

「あるわよ。それがどうしたの?」

「寝具を買わないといけないだろ? 他にも色々買っておきたいし」

「そうだったわね。だったら、良いお店があるわ」

「じゃあ、そこに行こう」

「ええ、こっちよ」


 ある程度食材を買った後、ロゼに案内されて家具屋へとやってきた。


「ここよ」

「でかい店だな……」


 俺の目の前にはかなりの大きさの店があった。


「扱っている商品が大きい物が多いからね。じゃあ、入りましょう?」

「そうだな」


 そう言って俺たちは店に入っていく。


〈なぁ、ラグ。馬車って家具なのか……?〉


 何故か、かなりの種類の馬車が売られている。


『この世界では長距離の旅をする時は、寝泊まりに馬車を使いますからね。家具のようなものかもしれません』


 そうなのか……?


「どうしたの、ディーン? ボーっとして」

「いや、馬車も売ってるんだなと思ってな」

「私たちには必要ないでしょ? ――あぁ、そういうこと。ラグに聞いていたのね?」

「まぁ、そうなんだが……何でわかったんだ?」

「アイちゃんが教えてくれたのよ」


 俺には聞こえないようにアイギスが教えたようだ。


『マスター、ロゼさんとアイギスは良くマスターに聞こえないように話をしていますよ?』

「何だって?」

『もうっ。バラさないでよ、ラグ!!』

「バラされたら困るようなことを話しているのか……?」

「別に、普通におしゃべりしているだけよ?」

「…………」


 何を話していたかは聞かない方が良さそうだ……


「……まぁ仲が良いのは、良いことだ」

『そうそう。わかってるじゃない、マスタ~』

「そういうことよ。私だって、偶には女の子同士で話がしたいしね」

「わかったよ。好きにしてくれ……」


 そんなことを話しながら買い物をしていく。

 マットは2人とも最高級の物を買った。

 シーツは手触りがシルクのようなもので、色は俺は白、ロゼは女性らしく淡いピンクだ。

 他にもカーテンなど様々な物を買っていく。

 特にロゼは様々な物を買っている。


「このくらいで良いわね」

「どれだけ買うのかと思ったよ……」

「そう? そんなには買ってないと思うけど」

「そ、そうか……」


 会計をすると、店員はホクホク顔だ。

 これだけ買えば当然だ。

 上等な装備一式くらいの値段になった。


「お買い上げになられた品物は、どちらにお送りすれば宜しいですか?」


 店員さんが尋ねてくるが――


「あぁ、構いませんよ。持って帰ります」


 そう言うと俺は買った物に触れ、次々とインベントリに放り込む。


「え!?」


 店員さんが驚き、声を上げる。


「ほ、ほら、時空属性魔術ですよ!!」


 ロゼが焦ったように『解錠オープン』と唱え、開いた異空間を見せている。


「そ、そうですよね……驚いた……でもあんな大きなもの……」

「あははは、驚かせてごめんなさい」

「いっ……」


 ロゼが店員さんの言葉を遮るように謝りながら、俺の足を思いっ切り踏んでくる。


「お、驚かせて、すまなかったな……」

「いえ。こちらこそ、すみませんでした。それではお買い上げ、有り難う御座いました。またお越しください」


 そう言う店員さんに見送られながら店を後にする。


「もう、ディーン。気をつけてよ?」

「いや、ラグはインベントリを使っても大丈夫だと言っていたぞ?」

『いくら時空属性魔術だと言い訳はできても、あんな大きな物を入れられるほどの異空間を創れる術者はそうはいません。もう少し考えて下さい』

『マスタ~は、本当に考えなしだね』

「くっ……こいつら……」


 そんなことを言い合いながら街の外へと歩いていく……

 街の外へ出た俺は空間を開き、スレイプニルを呼ぶ。


「休んでいたところすまないが、また乗せてくれ」

『何、気にすることはないぞ、主殿』

『マスター、『ウィプル村』はここから北西の方角ですね』

「わかった。じゃあスレイプニル、頼む」


 俺たちが騎乗したのを確認したスレイプニルは、『ウィプル村』へと天を翔けていった。


『あ、マスター。【神眼】を使ってみて下さい』

「……? わかった」


 俺はラグに言われ、【神眼】を起動する。


「うお!? 何だこれは!?」


 【神眼】を起動し右眼を閉じると、俺の体に『火の精霊』が纏わりついていた。


『マスターがセファイド様に認められたので、火の下級精霊が寄って来ているのですよ。特に害はありませんし、むしろ魔術が強力になります。その威力はホームで使った時の比ではありませんよ?』

「そうなのか。まぁ邪魔にもならないから良いけどな。それに、前は見えなかった白と黒の球体も見える」

『それが光と闇の精霊です。白いのが光で、黒いのが闇です』

「へぇ~」


 光の精霊はそれなりにいるが、闇の精霊はまだ昼間だからか、ほとんどいない。


「ディーンは精霊が見えるの?」

「あぁ、この眼のおかげでな」


 俺がそう言うと、ロゼは振り向き俺の顔を見上げる。


「左の瞳が金色になってるわ!? 何なの、それ……?」

「ん? これは元々ディオスの左目なんだ。だから魔力を込めると、瞳が金色になって精霊が見えるようになる」

「ディオスって『時空神ディオス』様!?」

「あいつに『様』なんて付けなくて良いぞ?」

「そういう訳にはいかないわよ……それよりも、ディーンって本当に人間なの?」

「俺も気にしてるからあまり言わないでくれ……それとも俺が怖くなったか?」

「そんなことある訳ないじゃない!!」

「そうか、良かった」


 実は少し心配していたんだがな。


「次、そんなことを言ったら殴るわよ?」

「ハハ、悪かったよ」

「本当よ。私がディーンを怖がるはずないじゃない」

「ありがとう、ロゼ」

「ふふ、どういたしまして」


 そんなことをしている内に『ウィプル村』が見えてきた。


「スレイプニル、またある程度近づいたら地上に降りてくれ」

『承知した』


 そうしてスレイプニルは再びホームへと帰り、俺たちは『ウィプル村』へと歩いていった。



 俺たちはソファラさんの工房へと行き――


「こんにちは、ソファラさん。ディーンです」


 俺は扉をノックしながら言った。


「は~い。あら、ディーンさん。と、ロゼさん? 2人ともお久しぶりね」

「お久しぶりです、ソファラさん」

「ご無沙汰しています、ソファラ様」


 俺たちはそれぞれに挨拶をする。


「それで、今日はどうしたの?」

「はい。ソファラさんの出していた依頼を受けた――」


 俺が訪ねた理由を話していると――


「ディーンさん!!」

「おっと。久しぶりだな、リリア」


 リリアが飛びついてきた。


「本当ですよ。あれから全然来てくれないから……」


 リリアが突然言葉を止め、俺の陰に隠れる。


「突然どうしたんだ、リリア?」

「あのお姉さんは誰?」


 リリアがロゼを見ながら俺に訊いてくる。


「あぁ、彼女はロゼだ。今、俺と一緒に旅をしている」

「そうなの、ロゼさん?」

「あ、はい」


 俺の答えにソファラさんがロゼに質問し、ロゼが肯定する。


「そうなんだ……」


 リリアはそう呟き、俺の外套を強く握る。


「リリア……?」

「ふふ、リリアったら……それでディーンさん、ここに来た理由は?」

「そうでしたね。俺がソファラさんの出していた依頼を受けたので、リリア達に会うついでに品物を持って来たんです」

「私が出した依頼……?」


 まさか忘れているのか?


「『マンドラゴラ』の採取ですよ、ソファラ様」

「あぁ!! ――あれを受けたの?」

「はい、偶々ソファラさんの依頼を見つけたものですから。まぁ、実際に採取したのはロゼですけどね」


 俺はそう言いながら『マンドラゴラ』を取り出し、ソファラさんに渡す。


「本当に『マンドラゴラ』ね。へぇ、これをロゼさんが……」

「そうですよ」

「まぁここで立ち話もなんだし、上がっていって?」

「それじゃあ、お邪魔します」


 そう言って俺たちは工房へと入る。

 その間、リリアは俺にくっついたままだ。

 そろそろロゼの視線が……


「リリア、そろそろ離してくれないか……?このままじゃ座れないんだが……」

「う~」

「リリア、ディーンさんが困っているでしょう?」

「は~い……」


 やっとリリアが離してくれたので、俺たちは椅子に座った。


「まずはお礼を言わなきゃね。ありがとう、ディーンさん、ロゼさん」

「用事のついでだったので、気にしないで下さい。報酬も貰ってますし」

「ディーンの言う通り気にしないで下さい、ソファラ様」

「『様』は付けなくて良いわよ、ロゼさん。その様子だと、もうギルド職員じゃないんでしょう?」

「はい。それではソファラさんで」

「それで良いわよ。それじゃあ、色々と聞かせてもらおうかしら」


 ソファラさんの目がキラキラしてる……

 俺がここに来たばかりの時のようだ……


「え~、じゃあここを出てからの話からで――」


 そうして俺と、途中からはロゼもこれまでのことを話し、ソファラさんに質問攻めにされた……

 何を訊かれたかは、言いたくない……




「精霊王との契約……そんなことがあったのね……」

「腕は大丈夫なんですか、ディーンさん?」


 話し終わると、ソファラさんは驚いたように呟き、リリアは心配そうに訊いてくる。


「ほら、この通り。心配はいらないさ」


 俺はリリアに袖を捲って右腕を見せる。

 俺の腕が無傷なのを見るとリリアは安心したように微笑むが――


「……その腕の紋様は何ですか、ディーンさん?」

「ん? あぁ、これはさっき言った精霊王との契約の証さ」

「へぇ~」

「それで、あなたたちはこれからどうするの?」

「ギルドマスターに依頼されたことがあるので、『グランドティア』を経由して『アーリグリフ』に行きます」

「そう……それじゃあ、またしばらく会えなくなるわね」

「えぇ~。もうちょっとゆっくりしていって下さいよ」


 俺がこれからの予定を話すとリリアが不満そうな声を上げる。


「う~ん、そうしたいのは山々なんだが……」


 色々と状況も切迫しているので、あまりゆっくりとはしていられない。


「まあまあ。リリアもこう言ってるし、夕食を食べていかない? そのくらいの時間はあるでしょう?」

「まぁ、そのくらいなら。ロゼもそれで構わないか?」

「ええ、良いわよ」

「本当!? やったぁー!!」

「ふふ。それじゃあリリア、お父さんに早く帰ってくるように言ってきて?」

「わかった」


 そう言うとリリアは工房を出ていった。


『マスター、以前はご馳走になりましたし、今回は私たちが食事をご馳走してはどうですか?』

〈それもそうだな〉


 俺はロゼに視線を向けると、ロゼも頷く。


「もし良ければ、今回は俺たちに食事をご馳走させてくれませんか?」

「それは構わないけど……じゃあ、キッチンを貸しましょうか?」

「それは大丈夫ですよ」

「そうなの……? じゃあ、何処かに食べに行くの?」

「違いますよ。まぁ、後のお楽しみということで。それよりも、いくつか売って欲しい薬草があるのですが、構いませんか? 在庫がある物だけで良いですから」

「それは構わないけど……何に使うのかしら?」

「それも、後のお楽しみということで」

「わかったわ」


 俺はソファラさんに案内され、薬草を置いている倉庫にやって来た。

 薬草は乾燥させて保存してあるようだ。


「じゃあ、コレとコレ。後、ソレもお願いします。全部でいくらですか?」

「こんなので良いの? このくらいなら、ディーンさんは軽く集められるでしょう?」

「まぁ、そうなのですが……今夜必要なので、採りに行く暇がなくて」

「そうなの? ディーンさんにはお世話になってるし、お金は要らないわ」

「そういう訳にはいきませんよ。ちゃんと払います」

「じゃあ、1000ティルね」


 ソファラさんはそう言うが、この量なら2000ティルくらいが相場のはずだ。


「それは安すぎます。2000で」


 俺はそう言って、ソファラさんに2000ティルを渡す。


「もう。別に1000ティルで構わなかったのに……」

「お金に困っている訳ではありませんからね。このくらいは払いますよ」

「ディーンさんがそれで良いなら、別に構わないけど……」

「良いんですよ。それじゃあ、戻りましょうか。そろそろ、リリアとジェラルドさんが帰ってくる頃でしょう」

「そうね。戻りましょうか」


 そう言って、俺とソファラさんは工房へと戻った。


「ディーン君、久しぶりだね。元気そうで良かったよ」


 俺たちが工房に戻ると、ちょうどリリアとジェラルドさんも帰ってきた。


「お久しぶりです。ジェラルドさんも、お元気そうで何よりです」

「お帰りなさい、あなた。今日はディーンさん達が夕食をご馳走してくれるそうよ?」

「それは楽しみだ。それで何処に食べに行くんだい?」


 流石は夫婦と言ったところか、ジェラルドさんはソファラさんと同じ質問をする。


「何処にも食べに行かないらしいけど、『後のお楽しみ』と言って教えてくれないの」

「へぇ。それじゃあ、どうするんだい?」

「ディーン、もう言っても良いんじゃない?」

「そうだな」


 ロゼの言う通り、あまり勿体をつけても仕方ない。


「それじゃあ、我が家にご招待します。『解錠オープン』」


 俺が魔術を使うと空間に裂け目が現れる。


「「「ッ!?」」」


 ジェラルドさん達は一様に驚いている。


「さぁ、どうぞ。この中に俺たちの家があります」

「大丈夫ですよ、入っても害は有りませんから」


 そう言って俺とロゼはジェラルドさん達を連れ、裂け目を潜った。

 そして裂け目を潜り抜けると――


『主殿、我は腹が減ったのだが……』


 この空間にはマナが無いので、腹を空かせたスレイプニルがそう言いながら近づいてきた。


「すまないな。すぐに準備するから、もう少し待っていてくれ」

「ごめんね、スレイプニル」

『承知した。ところで、彼らは主殿の客人か?』

「そうだ。俺がこちらに来たばかりの時に世話になった人達だ」

「ディーン君、彼(?)は一体……?」

「紹介します、こいつは火の精霊王に仕えていた神獣『焔神馬』で、名をスレイプニルと言います。今は俺たちとともに旅をする仲間です」

『我はスレイプニル。宜しく頼む、主殿の恩人たち』

「は、はぁ、こちらこそ宜しく?」


 流石にジェラルドさんとソファラさんは面食らっている。

 一方、リリアは興味津々な様子でスレイプニルに手を伸ばす。


「わぁ。暖かい」


 リリアはスレイプニルを撫で、はしゃいでいる。

 スレイプニルも気持ち良さそうにしている。


「それじゃあ、家に行きましょう」

「後でご飯を持って行くわね、スレイプニル」

『宜しく頼む、ロゼ殿』


 スレイプニルと別れ、俺たちは家へと向かう。


「これは……凄い豪邸だね」

「そんなことありませんよ。ジェラルドさんの家と同じくらいですよ?」


 そんなことを話しながら家へと入り、ロゼが夕食を作る。

 ソファラさんも手伝うようだ。

 俺はその間に工房で、ソファラさんから買った薬草と『桜花』で採取しておいた桜の花弁――当然、宙に舞っていたもの――で石鹸を作る。

 その様子をついてきたリリアとジェラルドさんが、興味津々な様子で見ている。


「それは何を作ってるんだい?」

「石鹸、というものですよ」

「何に使うの、ディーンさん?」

「後のお楽しみだ」

「それは楽しみにしておきましょう」


 そんなことを話している内に出来上がったのでリビングへと戻り、ロゼとソファラさんが腕に寄りを掛けて作った夕食を食べる。

 ちなみに、スレイプニルの夕食は山盛りのサラダだ。

 夕食後リリアがスレイプニルに乗りたいと言ったので、スレイプニルに頼み、俺とリリアを乗せ空間の中だけだが、地上を駆けたり、空中を翔けたりして楽しんだ。

 その後風呂に入ることを勧め、俺がジェラルドさんに、ロゼがソファラさんとリリアに入り方を説明して風呂に入った。

 折角作ったので、石鹸で体や髪を洗うのも試してもらう。

 結果は、途中で泡が目に入ったリリアが泣くというトラブルはあったが、風呂は大変好評だった。

 特に女性陣には、石鹸も好評でソファラさんにいくつかあげた。

 それから皆でリビングで少し話をして、ジェラルドさん達は帰っていった。


「賑やかだったわね?」

「あぁ、こういうのも悪くないよな」


 俺とロゼは寝る前に、リビングで明日の予定の確認も含めて話をしていた。


「そうね。また時間があれば来ましょう? リリアちゃんも妹みたいで可愛かったし」


 ロゼとリリアは最初はぎこちなかったが、途中からは仲良くなっていた。


「そうだな。スレイプニルがいてくれるおかげで、移動に時間はかからないからな」

「それで、明日は『グランドティア』に行くんでしょう?」

「あぁ、予想以上にゆっくりしてしまったからな。流石にもう行かないと」

「わかったわ」

「じゃあ明日に備えて、もう休むか」

「ええ、そうしましょう」

「ちなみに、朝は稽古があるからな?」

「うっ……わかってるわよ」

「なら、良いよ。それじゃあ、おやすみ」

「おやすみ、ディーン。明日こそ、まともに一撃を喰らわせてみせるわ」

「ハハ。まぁ頑張れ」


 俺はロゼに苦笑しつつ、ロゼは悔しそうに、それぞれの部屋へと入っていった……

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