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竜殺しの英雄  作者: しんや
第1章 『火の精霊王』
8/22

第8話 精霊王の試練

 『火の精霊王の迷宮』火山部 地下1階



「う……何、この匂い……」


 俺たちは洞窟内にあった階段を降り、地下1階に来ていた。


「硫黄の匂いだな。この迷宮には、所々高濃度の火山ガスが溜まっている場所があるから、気をつけるんだ」


 火山ガスは有毒で、吸い込めばHPダメージを受けてしまう。


「それに火属性の魔術はあまり使わないでくれ。ガスは可燃性だからな」


 ガスの溜まっている場所で火属性魔術を使えば、大爆発が起こる。

 まぁそれを利用して敵を吹き飛ばしたりすることはできるが、この迷宮にいる魔獣はほとんどが火属性に耐性を持っているので、大して意味は無い。


「わかったわ。気をつける」

「後、下層に行くほど暑くなるからな」


 この迷宮は下層に行けば行くほど、火山の中心部のマグマ溜まりに近づくので下層の方はかなり暑い。

 ロゼが俺の言葉に頷いたのを確認し――


「よし、それじゃあ行こう」


 俺たちは迷宮の攻略を開始した。




『ソファラさんの依頼を忘れないようにして下さいよ、マスター?』


 そういえば、『マンドラゴラ』の採取をしなければいけなかったな。


「すっかり忘れてたよ。でも、『マンドラゴラ』の叫び声はどうする? 俺は『アイギス』があるから大丈夫だが、ロゼは即死効果を受けてしまうぞ?」


 後で俺1人で取りに来るか――と考えたが――


『心配いりませんよ、マスター。『森の賢者』の称号効果で、ロゼさんは『マンドラゴラ』の叫び声の即死効果のような、毒を持つ薬草を採取する際のマイナス効果を無効化できます。それにマスターもロゼさんも【採取】をマスターしていますが、称号効果でロゼさんの方が成功率は高いです』

「そうなの? それじゃあ『マンドラゴラ』を見つけたら、私が採取するわね」

「任せるよ。俺は失敗した時に備えて魔獣の警戒をしよう」

『その方が良いでしょうね。即死効果は無効化できても、魔獣を呼び寄せる効果はロゼさんでも、どうにもなりませんからね』

「わかった」

「それじゃあ、行きましょう」


 そんなことを話しながら歩いていると――


「魔獣の群れがいるわ。あれは……『フレイムトーチ』? 『ギミックトーチ』の上位種かしら?」


 ロゼが魔獣の群れを見つけ、【リーブラの魔眼】で確認したのか俺に訊いてくる。


「あぁそうだ。他にも『ヴァンパイアバット』や『ファイアメイジ・ゴブリン』がいるな。『フレイムトーチ』と『ファイアメイジ・ゴブリン』は火属性魔術を使ってくる。さらに『フレイムトーチ』は魔術に耐性があって、特に火属性はほとんど効かないから気をつけろよ」


 俺はロゼに魔獣の特徴を説明し、剣を構える。

 向こうも俺たちに気づいたようだ。


「俺が前で食い止めるから、ロゼは弱点の風属性や闇属性の魔術で援護してくれ」

「わかったわ」


 俺はロゼの返事を聞きながら群れに向かって駆ける。


「ラグ、【大鎌デスサイス形態】」


 道幅は10mくらいなので、大鎌デスサイスも余裕で振り回せる。

 俺は間合いに飛び込んだ『ヴァンパイアバット』3匹を大鎌デスサイスを薙ぎ払い、斬り裂く。

 魔術を詠唱していた『ファイアメイジ・ゴブリン』をロゼの放った風の渦が、『ヴァンパイアバット』を数匹巻き込みながら切り裂いていく。

 しかし、魔術の範囲外にいた『フレイムトーチ』や『ファイアメイジ・ゴブリン』が一斉に魔術を放つのを見て――


「チッ!!」


 俺は大鎌デスサイスを柄の真ん中辺りを中心に勢いよく回転させる。

 すると回転している大鎌デスサイスの周りに半径5mほどの巨大な障壁が現れ、放たれた炎の槍や火の矢を全て弾く。

 【大鎌デスサイス】の防御系アーツスキル『リぺイル・サーキュラー』だ。

 俺は放たれた魔術を全て弾いたのを確認し、大鎌デスサイスの回転を止めつつ【縮地】で一気に距離を詰める。

 同時にロゼが放った風の刃が残っていた『ヴァンパイアバット』を切り裂く。


「おらぁぁ!!」


 俺は体ごと回転させ、『フレイムトーチ』と『ファイアメイジ・ゴブリン』2体を纏めて薙ぎ払う。

 そして翼を切り裂かれ地面でもがいていた『ヴァンパイアバット』を踏み潰し、戦闘が終了した。

 俺は『精霊石』を拾いながら――


「う~ん、やっぱりロゼにも魔導盾マジックシールドが必要だな」


 ――と俺は呟いた。


「そうね。さっきも私を庇ってくれたんでしょう?」


 確かにロゼの言う通り、先程の『リぺイル・サーキュラー』はロゼを守るために使ったのだ。

 俺自身を守るだけなら、『アイギス』を展開するだけで充分だ。


「ロゼを守るのは別に良いんだが、いつでも俺が守れるとは限らないしな」

『この迷宮のトレジャーボックスから、入手できるかもしれませんよ? 手に入れられなかったら、魔導具ショップで買いましょう』

「できれば、トレジャーボックスから手に入れたいな」


 ショップで売っている物よりは、トレジャーボックスからの入手品の方が圧倒的に高性能だ。


「そうね。手に入れられると良いわね」


 そんなことを話しながら『精霊石』を拾い集め、攻略を再開した。




 『火の精霊王の迷宮』火山部 地下3階



 あれからかなりの回数戦闘をしたが、ロゼのレベルが上がったからか、森林部に比べ順調に攻略が進んでいた。


「疲れていないか、ロゼ?」

「ええ。ディーンの言う通り、SPやVITを上げていて良かった。疲れ方が全然違うわ」

「そうだろう。――ん? あれは『マンドラゴラ』か?」


 道端に茂みがあるのを見つけた。


「そうみたいね。採取してくるわ。ディーン、道具を貸してくれる?」


 俺はインベントリから『採取セット』を取り出し、ロゼに渡す。


「じゃあ任せた、俺は周囲の警戒をしているから」

「わかったわ。任せておいて」

「ラグ、彼女が『マンドラゴラ』の採取に成功する確率はどれくらいだ?」


 俺は周囲を警戒しながらラグに尋ねる。


『道具の性能、称号の効果を合わせても90%ほどでしょう』


 流石に100%とはいかないか……

 成功させてくれると良いが……


「終わったわよ。成功したわ」


 ラグと話している内に採取が終わったようだ。


「早かったな。成果は?」

「『マンドラゴラ』と『ベラドンナ』が採れたわ」


 『ベラドンナ』は猛毒を持つ薬草で、毒を無効化できる道具を使わないと沈黙毒を受けてしまう。

 しかし、沈黙毒を癒す『キュアサイレンス・ポーション』や『MPエクステンド・ポーション』の材料になる貴重な薬草だ。


「流石だな。貴重な薬草ばかりだ」

「他にも採取できる場所があれば、採取するわね」

「頼むよ。それじゃあ、先に進もう。そろそろセーフルームを見つけたい」


 もうすぐ陽も沈む。


「そうね」

『そうですね』


 ロゼとラグの返事を聞きながら先に進んでいった。




 あれから5回ほど戦闘をし、セーフルームを見つけた。


「ふぅ、何とか陽が沈む前に辿りつけたな」

「ご、ごめんなさい。私の所為で……」


 ロゼが謝ってくる。


「気にする必要はないさ。俺がやっていても、失敗しただろうし」


 あれから採取も3回ほどしたのだが、その内の1回はロゼが『マンドラゴラ』の採取を失敗してしまったのだ。

 その叫び声で大量の魔獣が呼び寄せられ、その殲滅に時間がかかってしまった。

 さっき謝っていたのはそのことだ。


「ありがとう。それじゃあ、夕食の準備をするわね」


 今日はロゼが作るようだ。


「それじゃあ『炎狼の肉』と『紅熊こうゆうの肉』、どっちを食べたい?」


 どうせなのでステータスが上がる食材を使ってもらおう。


「う~ん、じゃあ『炎狼の肉』にしましょう。食べたことがないし」

「わかった。それじゃあ、これ」


 俺は食材と道具をロゼに渡す。


「すぐに作るから、少し待っててね」


 そう言ってロゼは料理を始めた。

 その間に俺は、『マンドラゴラ』と『ベラドンナ』を使ってポーションを作ることにする。

 俺はインベントリから『錬金釜』と素材を取り出す。


『マスター、依頼の分まで使わないで下さいよ?』

「わかってるよ、それくらい」


 ラグに言われるまでもなく、ソファラさんに渡す分はきちんと残している。

 俺はラグに応えながら、まずは『ベラドンナ』を釜に放り込む。

 しばらく待つと、『キュアサイレンス・ポーション』が2つ出来上がった。


「よし、出来たな。これはロゼに渡しておこう」


 魔術を使うロゼには、沈黙毒は致命的なものだ。


『マスターは『アイギス』で無効化できますしね』

「そうだな。次はこれだ」


 今度は『マンドラゴラ』と『ベラドンナ』を釜に入れる。

 次に作るのはMPの最大値を200増やす『MPエクステンド・ポーション』だ。


「食事が出来たわよ。――何を錬金しているの?」


 料理が出来たので、ロゼが呼びに来たようだ。


「色々と便利なポーションだよ。後でロゼにも渡すよ」


 そんなことを話している内に『MPエクステンド・ポーション』が出来上がった。


「よし、出来たな。それじゃあ、食事が冷める前に食べよう」


 俺は『錬金釜』を仕舞い、夕食を食べることにする。

 出来ていた料理は、俺が作ったのと同じビーフシチューのような料理だ。


「『炎狼の肉』の味はどうだ、ロゼ?」


 ロゼは『炎狼の肉』を食べたことがない――と言っていたので感想を聞いてみた。


「クセも無いし、『死紅熊の肉』より美味しいわ。これなら毎日でも食べられるかも」

「本当か? 『炎狼の肉』はまだまだあるから、毎日でも食べられるぞ」

「うっ……やっぱり毎日は無理かも……」

「まぁ毎日だと、流石に飽きるしな。でもステータスも上がるし、できるだけ使うようにしよう」

「美味しいから、食べること自体に抵抗はないわ」


 飽きないように料理のレパートリーを増やそう。

 そんなことを話しながら食事をしていった。

 そうしてしばらくすると2人とも食事が済んだので、レベルアップの確認も兼ねてステータスを確認してみる。


「まずはロゼからだな。――とその前にこれを飲んでくれ。MPの最大値が200増える」

「わかったわ」


 俺が『MPエクステンド・ポーション』を渡すと、ロゼが飲み干す。


「これも美味しいわね」


 『MPエクステンド・ポーション』はアップルティーに似た味だ。


「大抵のポーションは美味いよ。中には微妙なのもあるけどな。じゃあ、ウィンドウを開いてくれ」


 ロゼは頷き、ステータスウィンドウを可視状態で開く。


「やっぱり、かなりレベルが上がってるな」

「自分のことだけど、とても信じられないわ……」


 ロゼのレベルは46になっていた。

 今日だけで20も上がっている。


「それで今回はどのステータスを上げれば良いの?」

「そうだな……」


 STRは取り敢えず、今はいいか。


「じゃあHPに50、SPに40、VITに65、AGIに95を振り分けてくれ」

「わかったわ」


 ロゼがポイントを振り分けていく。

 これでロゼのステータスはHPが25100、SPが15000、VITが573、AGIが800になった。


「SPは上限値に達したな。俺のSP値とほとんど変わらないよ」

「そうなの? それじゃあ、次はディーンの番ね」


 ロゼはそう言いながら、ウィンドウを閉じる。

 代わりに俺がウィンドウを可視状態で開く。


「…………」


 昨日、今日合わせて、たった2しか上がってない…


「す、凄いじゃない。2レベルも上がってるわよ……」

「フォローをしてくれて、ありがとう……良いんだ……『人族』はレベルが上がり難いし、俺はそれなりの高レベルだから……」


 しかし、取得経験値が4倍になっているのに、これだけしか上がっていないとは……

 どれだけ上がり難いんだよ……


『仕方がありませんよ。これからも迷宮を攻略していけば、上がりますよ』

「ラグの言う通りよ。気にしないで」


 2人に慰められつつ、俺はポイントをHPとMPに10ずつ振り分けた。

 これで俺のステータスはHP、MP共に34000となった。


「それじゃあポイントも振り分けたし、寝るか」

「そうね。明日も早いしね」


 そう言って俺たちは『浄化ピュアリフィケイション』を使ったり、着替えたりして寝る準備をしてシュラフに潜り込み眠りに就いた。




 『火の精霊王の迷宮』火山部 地下4階



 今日も朝から迷宮を攻略している。

 結局、『キュアサイレンス・ポーション』はインベントリに入れてある。


『沈黙状態になれば、『解錠オープン』も使えませんしね』

「うるさいな。あの時は気がつかなかったんだよ」

「ディーンって偶に抜けてるわよね……」


 くっ……

 ロゼにまで呆れられた……


「……先は長いんだから、急ぐぞ」


 そう言って、先に進んで行った……

 魔獣との戦闘をこなしつつ、攻略をしていると――


「お、ラッキー。トレジャーボックスだ」


 この迷宮で見つけた、初めてのトレジャーボックスだ。


「何が入っているのかしら? 楽しみね」

「そうだな。俺が開けるから、ロゼは見張りをしていてくれ。魔獣が来たら俺を呼ぶんだぞ?」

「わかったわ」


 俺はロゼにそう言うと、【罠確認】を起動しトレジャーボックスを調べる。


「ん? 罠があるな。それもかなり厄介そうだ」

『この迷宮は中々の難易度ですからね。価値の高い物が入っているのかもしれませんね』

「そうだと良いがな」


 俺は【罠解除】を起動しながらラグに応える。


「これで大した物じゃなかったら、ショックだな」


 俺は罠を解除しながら呟いた。

 失敗することはないが、中々厄介な罠だ。


「よし、解除できたぞ」


 さっそく開けてみる。


「……これは『ブーツ』か? どう見ても女性用だな」


 中に入っていたのは、羽飾りの付いた編み上げのロングブーツだ。

 デザインからして女性用だろう。


『これは『フェザーブーツ』ですね。中々の逸品ですよ。装備するだけで、AGIが100上がります。防御力も高いので、是非ロゼさんに装備してもらいましょう』


 高性能な装備品の中には装備できる性別や種族が限定されている物があるが、これもその1つのようだ。


「ロゼ!! こっちに来て、これを装備してみてくれ」


 部屋の入り口で魔獣を警戒していたロゼを呼び、『フェザーブーツ』を装備するように言う。


「わかったわ」


 ロゼがこちらに来たので『フェザーブーツ』を手渡す。


「私には少し大きいみたいだけど……」

「大丈夫だ。装備してみればわかるよ」


 ロゼが装備ウィンドウを開き、『フェザーブーツ』を装備する。


「ッ!? 驚いたわ……装備した途端、サイズがぴったりになった……」


 やっぱりな。


「迷宮で入手できる高性能な装備品は、大抵装備するとサイズが合うようになっているんだ」


 原理はわからないが、神龍の力か何かだろう。


「それにAGIが100も上がってる……防御力も高いし。こんな良い物、貰って良いの?」

「当たり前だろう。それに、それは女性専用の装備だ。俺が貰っても、装備できないよ」

「わかったわ。ありがとう」


 やはり新しい装備は嬉しいのか、ロゼは笑顔でそう言った。


「仲間に良い装備を用意するのは当然だ。だから気にしないでくれ」


 ロゼの新しい装備も手に入ったし、今回のトレジャーボックスは当たりだったな。


『それじゃあ、先に進みましょう』

「そうだな」


 そう言って、若干嬉しそうなロゼと共に攻略を再開した……




 『火の精霊王の迷宮』火山部 地下6階



「ここまでは順調に来たな」


 かなり速いペースで攻略が進んでいる。


『やはりロゼさんがレベルアップしていっているのが、大きな要因ですね』

「そうだな。VITは流石に俺より低いが、SPはほとんど変わらないからな」


 VITが低いのでSPの減りは早いが、それは『スタミナポーション』で補える。


「ディーンのアドバイスのおかげよ」

「それもあるかもしれないが、やっぱりロゼが頑張っているからだよ」


 実際、動きや俺との連携がどんどん洗練されていっている。

 『フェザーブーツ』の効果で俺の動きにある程度、ついて来られるようになったのも要因の1つだろう。


「この調子なら、ロゼに近接戦闘の技術を教えても良さそうだな」

「無理、無理よ。私は『ダークエルフ』なのよ? 近接戦闘なんて無理だわ……」


 確かに『ダークエルフ』は、近接戦闘に向いている種族ではないが――


「何も俺のように闘え、とは言っていないさ。ただ近接戦闘の技術は学んでおいて損はないし、ロゼにはいずれ中距離での戦闘もしてもらおうと思ってる。その時に必要になる技術だ」

「そんなことを考えていたのね――わかったわ。戦闘のことにおいては、ディーンの方が詳しいし」

「まぁ詳しいことは、この迷宮の攻略が済んでからだな。取り敢えず今できることはレベルを上げて、AGIを1000にすることだな。そうすれば【加速】を覚えられる」


 装備での上昇値を含めると、あと100だ。

 このくらいなら充分上げられるだろう。


「わかったわ。頑張ってみる」

「その意気だ。じゃあ、今日は地下10階を目指そう」

『流石にそれは無茶です、マスター』

「それは無理よ、ディーン……」


 2人が同時に否定してくる。


「大丈夫だって。俺に任せろ」


 そんなことを話しながら俺たちは迷宮を進んでいった。




 『火の精霊王の迷宮』火山部 地下8階



 俺たちは今、コボルトの大群と戦闘をしていた。


「ロゼ!! そっちに1匹行ったぞ!!」


 俺は『コボルト・ウォーリア』の斧を弾きながらロゼに注意を促した。


「わかったわ!! 『シャドウブレード』!!」


 ロゼは囲まれないように動きつつ、魔術を放つ。

 ロゼが放った黒い刃が『コボルト・マジシャン』や『コボルト・ナイト』を切り裂くのを見つつ、俺は返す刀で『コボルト・ウォーリア』を切り裂く。


「くそっ!! このままじゃキリが無いな。」


 『コボルト・ナイト』が突き出した槍を刀の峰を滑らせるように受け流しつつ、『コボルト・ファイター』が繰り出した飛び蹴りを右手で掴み、他のコボルトに向かって放り投げる。

 『コボルト・ナイト』を鎧ごと縦に分断し、そのままさらに踏み込み『コボルト・ファイター』を逆袈裟に斬り裂く。


「ディーン、どうするの!? いつまでもは魔力が持たないわ!!」


 すでに俺とロゼが倒したコボルトは100体を優に超えている。


「大群を統率している『コボルト・ジェネラル』がいるはずだ!! 他の奴らより一回り大きいから、探してくれ!!」


 『コボルト・ウォーリア』を蹴り砕きながら叫んだ。

 見渡す限りコボルトの群れで、俺だけでは探し出せない。


「わかったわ!!」


 ロゼも魔導杖ワンドで『コボルト・マジシャン』を殴り飛ばしながら叫ぶ。

 俺はコボルトたちを斬り裂き、蹴り飛ばしながら『コボルト・ジェネラル』を探す。

 ロゼも魔術を放ってコボルトを貫き、吹き飛ばしながら探している。


「見つけたわ!! ディーンの前方100m!!」


 俺はロゼが言った方に目を向ける。

 すると、『コボルト・ナイト』より少し派手な鎧を着た『コボルト・ジェネラル』がいた。


「俺が突っ込むから、援護を頼む!!」

「了解!!」


 ロゼの返事を聞きながらコボルトの群れの中心に飛び込み、桜色の閃光を纏った刀を一閃する。

 すると俺の周囲に無数の剣閃が発生し、コボルトたちを斬り裂く。

 【刀】のアーツスキル『桜花千斬閃』だ。

 刹那、風の渦が俺の横を通り過ぎて『コボルト・ジェネラル』までの道が開く。

 ロゼが『ブラストハリケーン』を放ったようだ。

 すぐさま俺は『コボルト・ジェネラル』に向かって跳び――


『#%$&¥&*+!!』

「何を言ってるか、わからねぇよ!!」


 『コボルト・ジェネラル』が周りのコボルトに何かを言っていたが、刀を一閃し首を刎ねた。


『&%%$#、&&¥**!!』


 周りのコボルトたちは混乱し、何かを叫んでいる。


「『コボルト・ジェネラル』はった!! 殲滅するぞ、ロゼ!!」


 俺は刀を鞘に納め、双銃を抜く。


「わかったわ!!」


 混乱するコボルトたちに、俺は弾丸を、ロゼは魔術を叩き込み、殲滅していった……


「お疲れ。大丈夫か、ロゼ?」


 流石に無傷では切り抜けられなかったのか、所々に怪我をしている。


「少し怪我したけど、軽傷よ」

「そう言う訳にはいかないさ。『パーフェクト・シャインヒーリング』」


 そう言って、俺はロゼに回復魔術をかける。


「ん……ありがとう。」


 ロゼの怪我が即座に癒されていく。


「ローブはその内勝手に直るから」


 ロゼのローブにも俺の外套と同じように、『自動修復』の紋章を縫い込んである。


「わかったわ。じゃあ、『精霊石』を拾いましょうか?」

「これを、か……」


 俺たちの周りには数え切れないほどの『精霊石』が散らばっている。


「文句を言っても仕方ないでしょう? それに今日中に、地下10階に行くんじゃなかったの?」

「いや、流石にもう無理だろう……」


 そんなことを話しながら俺たちは『精霊石』を拾い集め、先へと進んでいった……




 『火の精霊王の迷宮』火山部 地下9階



「結局、地下10階までは行けなかったな……」


 俺たちは今、地下9階のセーフルームで夕食の準備をしていた。

 今日も『マンドラゴラ』と『ベラドンナ』、さらに『ソウルグラス』が手に入った。

 なので料理はロゼが作り、俺はこれらの素材を使いポーションを作っている。

 この3つの素材を使うと、『MPエクステンド・ハイポーション』を作ることが出来る。


「明日頑張れば良いじゃない。取り敢えず食事が出来たから、食べましょう?」


 料理を作り終えたロゼが、呼びに来た。


『ロゼさんの言う通りです。今日の分も、明日頑張れば良いんです。それに地下10階まで行けなかった原因の、あのコボルトたちに引っ掛かったのはマスターですよ?』

「待て!! あんな1本道でどうしろと――」


 俺が反論しようとすると――


「はい、2人ともそこまで!! 折角作った料理が冷めるわ。早く食べましょう」

「……わかった」


 ロゼに止められたので食事にする。

 今日は『紅熊の肉』を使った網焼きだ。


「お~、美味そうだ」

「ふふ、ありがとう」


 そう言って俺たちは料理を食べていった。

 食事をした後は、もう日課になっているロゼのレベルアップの確認だ。


「今日もかなり戦闘したから、結構上がってるんじゃないか?」

「そうだと良いわね」


 ロゼがステータスウィンドウを開く。


「あ、14も上がってるわ」


 今日もかなり上がってるな。


「あれだけの数のコボルトと闘ったからな。それくらい上がるさ。それじゃあ、ポイントを振り分けよう」

「今回はどうするの?」


 使えるポイントは140か……

 【加速】を覚えてもらいたいし、100はAGIとして……


「AGIに100と、残りの40はVITだな」

「じゃあ、それで振り分けるわね」


 ロゼがポイントを振り分け――


「スキルを確認してみてくれ。AGIが装備を含めて1000になったから、【加速】を覚えているはずだ」


 ロゼがスキルを確認する。


「覚えてるわ」

「スキルスロットにはまだ空きがあったよな? 【加速】をスロットにセットしてくれ」

「したわよ」

「よし。それじゃあ、なるべくこれからの戦闘では【加速】を使ってくれ。最初は2倍速までしか加速できないが、熟練度が上がればもっと高倍速で加速できるようになるから」

「わかったわ。それにしても、どんどん凄まじいステータスになっていくわね……」

「これからまだまだ強くなるさ。それと、これも飲んでおいてくれ。MPの最大値が400増えるから」


 そう言って、俺は『MPエクステンド・ハイポーション』をロゼに手渡す。


「ありがとう。飲んでおくわ」

「それじゃあ、今日は休もう。明日からは、さらにペースを上げて行くぞ?」

「ええ。望むところよ」


 ロゼはポーションを飲み干し、笑顔でそう言った。


『ロゼさんも、ずいぶん精神的に逞しくなりましたね』

「あぁ、そうだな。頼もしい限りだ」


 そう言って俺たちは眠ることにした。

 ちなみに俺も1レベルだけだが上がっていたので、HPとMPに5ポイントずつ振り分けた。


『おやすみなさい、マスター、ロゼさん』

「おやすみ」

「おやすみ、2人とも」


 そして俺は眠りに落ちた……




 『火の精霊王の迷宮』火山部 地下33階



 あれからさらに2日が過ぎ、今は地下33階に到達していた。


「流石に暑いな……」

「そうね……」


 俺もロゼも少しグッタリしている。

 俺の外套やロゼのローブには『適温維持』の紋章を縫い込んでいるのに、この暑さだ。


『そろそろ中層ですからね。周りの様子を見てもわかるように、大分マグマ溜まりに近付いています』


 ラグが言うように上層とは違い、岩壁の所々からマグマが流れ出ている。


「ねぇ、ディーン。この暑さ、どうにかできないの?」

「ロゼは【複合魔術マルチプル・マジック】は使えるようになっていたよな?」

「ええ。昨日使えるようになったばかりだけどね」


 【複合魔術マルチプル・マジック】は【魔力操作】のExスキルで、2つ以上の魔術を同時に使うことができるようになるスキルだ。


「じゃあ『ウインドメイル』と『ウォーターベール』を使えば、少しは暑さも和らぐと思うぞ?」

「やってみる。【複合魔術マルチプル・マジック】、『ウインドメイル』・『ウォーターベール』」


 水滴を含んだ風の鎧をロゼが纏う。


「どうだ?」

「結構涼しくなったわ。ディーンも使ってみれば?」


 俺もロゼと同じように【複合魔術マルチプル・マジック】を使い、風の鎧を纏う。


「お~、これは良いな」

『それでは暑さの問題も解決したことですし、先に進みましょう』

「おまえは良いよな。暑くなくて……」

「本当よね……」


 そんなことを話しながら進んでいると――


「ロゼ、止まれ」


 俺は手を横に伸ばし、ロゼを止めた。


「どうしたの?」

「前を良く見てみろ」

「――少し景色が歪んでる……?」

「そうだ」

「陽炎の所為じゃないの?」

「まぁ見てろ」


 俺は前方に右手を突き出し――


「『ファイア・アロー』」


 火属性下級魔術を使う。

 火の矢が突き進み――


 『ドンッ!!』


 かなりの規模の爆発が起きた。


「ッ!! 驚いた……」

『あそこには火山ガスが溜まっていたようですね』

「そうだ。良く見ればわかるから、ロゼも気をつけていてくれ」

「わかったわ。――それでディーン。あれはどうするの? どう見ても魔獣の群れなんだけど……」


 どうやら先程の爆音で魔獣が寄ってきたようだ。


「すまん……殲滅しよう」

「まぁ、良いけどね」


 ロゼは右腰に佩いていた鞘から片手直剣を引き抜く。

 俺もロゼに倣い、ラグを抜く。

 向かって来る魔獣の群れは、『メギドリザード』の亜種『メギドヒュドラ』に『フレイムトーチ』の最上位種『ブラストトーチ』、幽霊型の魔獣『バウ・ジン』からなっている。


「ロゼは、魔術を使う『ブラストトーチ』と『バウ・ジン』を優先してくれ」

「わかったわ。『ブラストハリケーン』」


 ロゼが剣を掲げ、魔術を使う。

 放たれた風の渦が『ブラストトーチ』を切り裂く。

 それと同時に、俺は【縮地】で『メギドヒュドラ』の元へと跳ぶ。

 間合いに入った瞬間に剣を薙ぎ、『メギドヒュドラ』を斬り裂く。

 ロゼも【加速】を使って高速で『バウ・ジン』に接近し、袈裟切りに剣を振り下ろし斬り裂く。


「『ショックウェイブ』」


 俺は『ブラストトーチ』が放ってきた魔術に向け、衝撃波を放つ。

 衝撃波は魔術を掻き消しつつ、『ブラストトーチ』を吹き飛ばす。

 すぐさま後を追うように跳び、吹き飛んだ『ブラストトーチ』と傍にいた『メギドヒュドラ』を纏めて分断する。

 その間にロゼが最後の『バウ・ジン』を風の刃で切り裂き、戦闘が終了した。


「ロゼの剣捌きも中々サマになってきたな」

「そう? ディーンに比べれば、まだまだよ」

「そう簡単に並ばれたら、ショックだよ」

「必ず追いついてみせるわ」

『ロゼさんなら、できますよ』

「ふふ、ありがとう、ラグ」


 そんなことを話しながら『精霊石』を拾い集め、俺たちはセーフルームを探し始めた。

 それからしばらく探すとセーフルームを見つけることができたので、今日は休むことにした。


「今日は『炎狼の肉』を使った料理で良いか?」


 『紅熊の肉』は全部使ってしまったので、残っているレア食材は『炎狼の肉』だけだ。


「ええ、良いわよ。『紅熊の肉』より『炎狼の肉』の方が私は好きよ」

「わかった。じゃあすぐ作るから、少し待っていてくれ」


 俺はそう言って準備をし、作り始める。

 しばらくすると料理ができたので――


「出来たぞ。食べよう、ロゼ」


 俺は剣の手入れをしていたロゼに声をかけた。


「わかったわ」


 ロゼが手入れを止め、こちらにやって来る。


「今日の闘いを見て改めて思ったが、ロゼも強くなったよな」


 俺はシチューを食べながら言った。


「良い装備を手に入れられたしね」


 ロゼが使っている片手直剣や右腕にしている腕輪は、迷宮のトレジャーボックスから入手した物だ。

 片手直剣は特殊な効果は無いが、魔力と相性の良い『セイクリッドミスリル』製だし、腕輪も魔導杖ワンドほどではないが、魔術のブースト効果がある。


「それにレベルも大分上がったしな」

「後で確認しておかないとね」


 ロゼのレベルアップの確認とポイントの振り分けは、もはや日課だ。

 そんなことを話している内に夕食を食べ終わった。


「じゃあ、いつものポイントの振り分けをするか?」

「ええ。毎日の楽しみだもの」


 やはりレベルが上がって、強くなっていくのは楽しいよな。


『マスターは滅多に味わえないですけどね』

「ほっとけ」

「4レベル上がってるけど、どれに入れれば良いの?」

「それじゃあ、HPとMPに10ずつ、VITに20入れてくれ」

「わかったわ」


 ロゼがポイントを振り分けていく。


「それじゃあ、ステータスを見せてくれないか?」

「良いわよ」


 今のロゼのステータスはこんな感じだ。



 Name:ロゼ

 種族:ハイダークエルフ(転生1回)

 称号:森の賢者

 Lv:80/500

 HP:27100/30000

 MP:27600/30000

 SP:15000/15000

 STR:540/750

 DEX:750/1000

 VIT:633/750

 AGI:905/1000+100

 INT:1130/1500

 WIS:1100/1500

 スキルスロット:30/100



「流石にレベルが上がりづらくなってきたな」


 今日も結構戦闘をしたが、4レベルしか上がらなかった。

 ちなみにAGIのところの+100というのは、装備の効果で上昇している値だ。


『ロゼさんのレベルも、もう80ですからね。流石に1日で10レベルとかは上がりませんよ』

「それでも4レベルも上がってるんだから充分よ。それより、久しぶりにディーンのステータスを見せてよ」

「構わないけど前に見た時から、大して変わってないぞ?」

「それでも見たいの」

「わかったよ」


 俺はステータスウィンドウを可視状態にして開く。



 Name:ディーン

 種族:人族(転生2回)

 称号:なし

 Lv:243/500

 HP:35000/40000

 MP:35000/40000

 SP:16000/20000

 STR:1515/2000

 DEX:1510/2000

 VIT:1525/2000

 AGI:1535/2000

 INT:1500/2000

 WIS:1500/2000

 スキルスロット:50/100



「相変わらず、凄まじいステータスよね……私も強くなったつもりだけど、これを見ると自信をなくすわ……」

「ロゼは確実に強くなってるよ。それは俺が保証する」

『私も保証しますよ』

「ありがとう、2人とも」

「それじゃあ、もう休むか」

「ええ。明日中に地下40階まで行けると良いわね」

『そうですね』


 そう言って俺たちは各々寝る準備をし、眠りに就いた……




 『火の精霊王の迷宮』火山部 地下35階



 暑さを和らげるために風の鎧を纏いながら、俺たちは朝から迷宮を攻略している。

 そして、小規模ながら厄介な魔獣がいる群れと戦闘になっていた。


「『リムクゥル』は俺に任せろ。ロゼは『ホーンドアーケロン』を頼む」

「わかったわ」


 『リムクゥル』は人形型の魔獣で、見た目は1.5mほどの不気味な木の人形だ。

 しかし長い爪を持っていて、その爪で攻撃されるとかなりの確率で麻痺状態になってしまう。

 『ホーンドアーケロン』は3mほどの角があるでかい亀のような魔獣だ。

 マグマの中に生息していて、今回も岩壁から流れ出たマグマが溜まっていた所から出現した。

 麻痺毒を持つ『リムクゥル』は俺が相手をし、一撃の威力は高いが動きの遅い『ホーンドアーケロン』の相手はロゼがする。

 俺とロゼは同時に剣を抜き――


「ラグ、【大鎌デスサイス形態】」

「『ダークニードル』」


 俺はラグを大鎌デスサイスに変化させながら『リムクゥル』に向かって【縮地】で跳び、ロゼは『ホーンドアーケロン』に向かって無数の闇の針を放つ。

 俺は大鎌デスサイスを右から左に薙ぎ払い、『リムクゥル』を2体纏めて斬り裂く。

 闇の針は甲羅に弾かれるものもあるが、いくつかは甲羅を貫通し砕いていく。

 すぐに俺は柄を回転させて刃を斬り上げ、別の1体を股間から2つに分断する。

 そのまま体を左に回転させ、背後から迫っていた1体の首を刈る。

 ほぼ同時にロゼが甲羅の砕けた場所から剣を突き刺し――


「『フレアボム』」


 火属性上級魔術を放ち、『ホーンドアーケロン』を爆散させる。

 いかに火属性に耐性があろうと、あれでは一溜まりもないだろう。

 あっさりと魔獣を殲滅し――


「中々えげつない倒し方をするな……」


 俺は『精霊石』を拾いながら呟いた。


「何か言った?」


 ロゼが剣を向けながら訊いてきる。


「イエ、ナニモ……」

「そう? なら良いわ」


 ロゼは剣を鞘に納め、『精霊石』を拾っていく。


〈何か段々ロゼが怖くなっていくな……〉


 流石に、今のロゼに全力で魔術を使われたら俺でも危険だ……


『マスターが余計なことをしたり、言ったりしなければ大丈夫ですよ』


 ラグとそんなことを話しながら『精霊石』を拾っていった……

 そして、攻略を進めているとトレジャーボックスを発見した。


「久しぶりだな。中層に来てからは、初めてか?」

「そうなるわね。何が入っているのかしら……」

魔導盾マジックシールドだと良いですね』

「そうだな。取り敢えず、ロゼに必要な装備は魔導盾マジックシールドだけだからな」

「そうね。それがあればディーンの負担も減らせるし……」

「じゃあ、開けてみよう」


 俺は【罠確認】で罠を確認する。


「お、罠がある。これは中身に期待が持てるな」


 大抵の場合、罠があるトレジャーボックスには貴重な物が入っている。

 まぁ、偶に空っぽの時もあるが……

 俺はスキルで罠を解除し――


「それじゃあ、開けるぞ」


 ロゼがワクワクしているのが、手に取るようにわかる。

 そんなことを考えながら開けると――


「これは……腕輪なの?」


 中には、何かの花の意匠が施された腕輪が入っていた。


「いや、これは――ラグ?」

『はい。魔力が感じられます。何かの紋章が刻まれた腕輪の可能性はありますが、恐らくは魔導盾マジックシールドでしょう。装備してみて下さい』

「だってさ、ロゼ?」

「私?」

「それはそうだろう。この意匠からして、確実に女性限定の装備だ」

「……わかったわ」


 ロゼは少し不安そうに腕輪を手に取り、ウィンドウを開いて左腕に装備する。


「性能はどうだ? 魔導盾マジックシールドなのか?」


 ロゼがウィンドウを可視状態にして見せてくる。



 魔導兵装クラスⅣ『クイーン・オブ・ザ・ナイト』

 障壁タイプ…ナイトシールド

 常時…精神異常無効化

 魔力障壁展開時…物理ダメージ70%カット、全属性ダメージ80%カット

 特殊固有スキル…『全能力上昇』



「ラグの言う通り、『ナイトシールドタイプ』の魔導盾マジックシールドだな」


 銘は『クイーン・オブ・ザ・ナイト』か。

 たぶん『ナイト』はknightじゃなく、nightだろうな。

 『クイーン・オブ・ザ・ナイト』は『月下美人』という意味だ。

 ということは、腕輪の意匠は月下美人の花なのか?

 実際に見たことはないから、本当にそうなのかはわからないが。


「クラスⅣの魔導兵装なんて、初めて見たわ……凄い性能……こんな物、Sランクの冒険者でも持っていないわ……」

魔導盾マジックシールドの中でも、かなり上位の逸品ですね。性能もかなり良いので、是非ロゼさんが使うべきですね』

「そうだな。タイプもナイトシールドだし、使いやすいだろう。それでラグ、固有スキルの『全能力上昇』を説明してくれ」

『まぁ、名前そのままの効果ですが、HP、MP、SPは5000上昇、他のステータスは250上昇します』


 『アイギス』並みの、凄まじいスキルだな……


「ステータスは上昇しているか、ロゼ?」

「ええ、してるわね」

『その上昇効果は、装備している間だけなので気をつけて下さいね』

「こんな良い物、そうそう外さないわよ。でも売ったら、一体いくらになるのかしら……?」


 ウィンドウを閉じながらロゼが恐ろしいことを呟いた。


「おいおい……売らないでくれよ? これほどの性能を持つものは、中々無いぞ? まぁそれはもうロゼの物だから、ロゼの好きにして良いが……」


 別に金に困っている訳でもないし。


「ちょっと思っただけよ。私だってこんな良い装備、売らないわよ」

「それなら良いが……」

「ちょっと!! 信じてないわね?」


 というか、SPが+5000されるということは、ロゼのSPの最大値は俺より多いのか……

 女性に体力で負けているのは地味にショックだ……


「……? どうしたの、ディーン?」

『そっとしておいてあげて下さい、ロゼさん……』


 そんなことを話しながら俺たちは攻略を再開した……




 『火の精霊王の迷宮』火山部 地下50階



 『クイーン・オブ・ザ・ナイト』を入手してから、1日が経過した。

 ロゼの装備もほぼ揃い能力的にも俺と大差は無くなったので、かなりのペースで攻略が進んでいた。


『マスター、ロゼさん、これより下の階には『ファイアドラゴン』がいますので、注意して下さい』

「わかった。ロゼは『ファイアドラゴン』のことを知ってるか? 以前、『炎竜の迷宮』に行ったことがあると言っていたが」

「いえ、知らないわ。あの時は、そんな下層の方まで行けなかったから……」

「そうか。『ファイアドラゴン』は名前の通り、かなり強力な火属性魔術を使ってくるドラゴンだ。動きは速くないが、決して近付くなよ? 尾や翼での一撃もかなり強力だ。ロゼもかなり強くなったが、まともに喰らうと危険だからな」

「わかったわ」

「あと、ブレスにも注意してくれ。必ず予備動作があるから、良く見てればわかる」

「ブレスにも気をつけるわ」


 ロゼに『ファイアドラゴン』のことを説明しながら歩いていると――


「さっそくお出ましだな」


 少し先の部屋に『ファイアドラゴン』が1体いるのを見つけた。


「幸い他の魔獣はいないようだ。ロゼの『ファイアドラゴン』との初戦闘としては、ちょうど良いだろう」

「わかったわ。行きましょう」


 俺たちは剣を鞘から抜きながら部屋に突入した。


「俺が斬り込むから、ロゼは魔術で援護だ!! ラグ、【斬馬剣グレートソード形態】」


 俺はラグを変化させながら駆ける。

 俺たちに気づいた『ファイアドラゴン』が吼え、周囲に無数の炎の槍が浮かぶ。


「『ブラストハリケーン』」


 ロゼが放った風の渦が炎の槍を幾つか掻き消し、『ファイアドラゴン』に衝突する。

 『ファイアドラゴン』はその体が切り裂かれるのも構わず、俺たちに向かって炎の槍を放つ。

 俺はそれを躱しつつ接近しながら、ロゼの方へと目を向ける。

 ロゼは【加速】を使って炎槍を躱し、直撃しそうなものは魔導盾マジックシールドで防いでいる。


「心配はなさそうだな」


 俺はそう呟きながら斬馬剣グレートソードを振り被り――


「ハァッ!!」


 渾身の力で振り下ろして『ファイアドラゴン』の右の前肢を斬り飛ばす。


『GYAOO!!』


 怒り狂った『ファイアドラゴン』の尾の一撃を後ろに跳んで躱す。

 憎々しげに俺を睨みつけた『ファイアドラゴン』の右眼に、ロゼの放った『ダークニードル』が突き刺さる。

 再び『ファイアドラゴン』が吼え、さらに狂ったように振り回される尾を躱し――


「ロゼ、ブレスが来るぞ!! 気をつけろ!!」


 『ファイアドラゴン』がブレスのモーションに入ったのを見て、ロゼに注意を促す。


「わかったわ!!」


 俺とロゼは狙いを分散させるため、別々の方向へと跳ぶ。

 次の瞬間『ファイアドラゴン』が俺の方を向き、炎の奔流のようなブレスを吐き出す。

 俺は『アイギス』の障壁を展開させ、【縮地】で『ファイアドラゴン』へと跳ぶ。

 炎の中を突き進み、抜けた瞬間に斬馬剣グレートソードを一閃させ、そのまま駆け抜ける。

 『ファイアドラゴン』の胴体が斬り裂かれ、同時に頭部に漆黒の槍が突き刺さり、爆散する。

 ロゼが『デモンズ・スピア』を放ったようだ。

 頭が消し飛んだ『ファイアドラゴン』が光の粒子になり消えていく。


「どうだった? 『ファイアドラゴン』と闘ってみて」


 俺はロゼと自分に、聖属性下級回復魔術『キュアライト』を使いながら聞いた。


「流石に強かったわね。ブレスが私の方に来ていたらって思うとゾッとするわ……」

「充分闘えていたよ。とどめを刺したのもロゼだしな」

「そうだけど……あまり闘いたい相手ではないわ」

『残念ながらこの迷宮には、かなりの数の『ファイアドラゴン』がいます。頻繁に闘うことになるかもしれません』

「そんなに心配そうな顔をするな。ロゼなら慣れれば1人でも闘えるようになるよ」

「そうだと良いけど……」


 そんなことを話しながら『精霊結晶』と『ファイアドラゴンの鱗』を拾い、俺たちは先へと進んでいった。




 『火の精霊王の迷宮』火山部 地下62階



「そっちは大丈夫か、ロゼ!?」


 俺は『フレイムランス』を躱しつつ、人形型魔獣『フレイムゴーレム』を叩き斬りながら叫んだ。


「ええ、大丈夫よ!!」


 ロゼも『メギドヒュドラ』を斬り裂き、『シャドウブレード・ミリアド』を放ちながら叫ぶ。

 無数の黒い刃が、魔獣の群れと『ファイアドラゴン』を切り裂く。

 俺は迫ってきた『リムクゥル』の頭を蹴り砕き、『ファイアドラゴン』へと【縮地】で跳ぶ。

 炎の槍を障壁で弾き、剣で『ファイアドラゴン』の首を断つ。

 さらに『ホーンドアーケロン』の上位種『メガロアーケロン』を甲羅ごと刺し貫きながら――


「こっちの『ファイアドラゴン』はった!! あとはそっちの1体だけだ!!」

「わかったわ!! こっちの奴は任せて!!」


 ロゼは『ガライゴン』の上位種『ガラディウス』を『ダークニードル』で貫き、『バウ・ジン』を逆袈裟に斬り上げる。

 『ファイアドラゴン』がブレスを吐くが【加速】で範囲外へと避け――


「『デモンズ・スピア』!!」


 漆黒の槍が『メガロアーケロン』を貫通し、『ファイアドラゴン』へと迫る。

 頭部を狙った槍は躱されるが、右の翼に突き刺さり、右の前肢ごと吹き飛ばす。

 すぐさまロゼは距離を詰め、左眼に剣を突き刺し――


「『フレアボム』!!」


 『ファイアドラゴン』の頭部が爆散する。

 俺は『フレイムゴーレム』と『バウ・ジン』を纏めて斬り裂きながら、その様子を眺め――


「ロゼ!! 後ろだ!!」


 ロゼは咄嗟に横へと跳ぶが――


「キャアッ!!」


 ロゼの後ろへと迫っていた『リムクゥル』の一撃を受けてしまう。


「ロゼ!! チッ、邪魔だっ!!」


 突進してきた『メガロアーケロン』を気を纏わせた右拳で弾き飛ばし、【縮地】でロゼの元へ跳ぶ。

 倒れたロゼに襲いかかろうとしていた『リムクゥル』の頭を拳で砕き――


「ロゼ、大丈夫か!?」


 怪我は大したことはなさそうだがロゼは動かない。


「麻痺になっているのか!? 『パーフェクト・シャインヒーリング』!!」


 これでロゼは大丈夫だろう。


「……ラグ、【魔法剣】起動。『ゼピュロス』」

『了解しました』


 剣が旋風を纏う。

 ロゼを傷つけた魔獣と、守れなかった自分にイラつく……

 俺の感情に反応するように、纏った旋風が荒れ狂う。


「滅べ」


 俺は横薙ぎに剣を一閃する。

 凄まじい突風が魔獣たちを襲い、微塵に斬り裂いていく。

 【魔法剣・ゼピュロス】の最上位アーツスキル『アナイアレイション・ブラスト』だ。

 魔獣を全て殲滅したのを確認し――


「ロゼ、大丈夫か?」

「……ええ、大丈夫よ。それよりもごめんなさい。心配かけて……」

「いや、俺の方こそすまない。守れなくて……」

「そんな……私が油断したのが、いけなかったのよ。ディーンが謝る必要なんてないわ」


 そう言ってロゼは微笑んだ。


『そうですよ、マスター。ロゼさんはもうあの頃のように弱くはありません。過剰な守護はロゼさんに失礼ですよ』

「そうよ。ラグの言う通り。私はいつまでも、ディーンに守られるだけじゃないわ」


 そうか。

 俺は今まで心の何処かでは、ロゼのことを一緒に闘う仲間としてではなく、守らなければならない存在だと思っていたのかもな。


「わかった。2人の言うことはもっともだ。しかし、やっぱり俺はロゼが傷つくのは嫌だ。だから俺に可能な範囲で守る。だが、今回のように謝るのはやめるよ。それで良いか?」

「良いわ。だけど守れなかったからって、私の見ていない所で落ち込むのも駄目だからね? 後、守ると言ってくれたのは嬉しかったわ」


 そう言って再びロゼは微笑んだ。

 今まで見てきた中で一番綺麗な笑顔だ。


『あれ? マスター、照れてるんですか?』

「うるさい。黙れ、ラグ」

「へぇ。ディーン、照れてるの?」

「くっ……」


 俺はロゼとラグにからかわれながら『精霊石』等を拾い、攻略を再開した。




 『火の精霊王の迷宮』火山部 地下80階



「暑いー!!」

「言うなよ……余計、暑くなる……」


 あれから1日が経ち、俺たちはとうとう迷宮の下層に到達していた。

 マグマが至る所を流れ、内部の温度はさらに上昇し、もはや暑いというより熱い。

 さらには、所々にマグマの川まで流れている始末だ。


「ローブ、脱ぎたい……」

「前にも言ったが、そのローブには『適温維持』の紋章を縫い込んである。脱ぐと、もっと暑いぞ?」

「じゃあ、ディーンが脱いでよ……その格好を見ているだけで、暑くなるわ……」

「無茶言うなよ……」


 俺に死ねと言うのか……


『2人とも文句を言っても仕方ありませんよ? それより、早く先に進んだ方が良いと思いますが』


 ラグがそう言った瞬間、ロゼの目が据わった。


「ディーン、ラグを貸して」

「……何をする気だ……?」

「そこのマグマの川に突っ込んで、私の気持ちを少しでも味合わせてやるわ」

『えー!?』

「……気持ちはわからなくもないが、やめてやれ」

『ちょっ!? マスターも気持ちはわかるって何ですか!?』

「ハァ、もう良いわ。先に進みましょう」

「そうだな」

『2人とも、ちょっと待って下さいよ!?』


 俺たちはまだ何かを言っているラグを無視して、攻略を再開した。

 魔獣と闘いつつ、しばらく先に進んでいると――


「おっ、採掘ポイントだ」

「え? 何?」

「採掘ポイントだよ。――と言ってもロゼには見えないか。【採掘】のスキルで鉱石を手に入れられる場所のことで、ロゼがスキルを持っていれば、あそこの岩壁が光って見えるはずなんだけどな」

「そうなんだ。じゃあ、採掘するの?」

「あぁ、すぐ済むから見張りを頼む」

「わかったわ」


 俺はインベントリから『採掘セット』のつるはしを取り出し、岩壁を削っていく。

 そうして5分ほど岩壁を削り――


「よし、終わった」


 採掘にかかる時間はSTRの値と道具の性能に左右されるが、俺はどちらも高いのですぐに終わる。


「終わったの?」

「あぁ、結構採れた」

「何が採れたの?」


 俺は採掘した鉱石をロゼに見せる。


『これは……『セイクリッドミスリル』に『アダマンタイト』、それに『フレアエレメント』の原石ですね。後は『ミスリル』などの下位の金属の原石ですね』

「そうみたいね……でも、こんなに沢山……」


 ロゼも【鑑定】で確認したようだ。


「まぁ、あって困る物でもないしな」


 この迷宮の攻略が終われば、ロゼの武器も作る予定だしな。


「それもそうね。じゃあ、先に行きましょう?」

「そうだな」


 鉱石をインベントリに入れ、俺たちは先に進んでいった。




 『火の精霊王の迷宮』火山部 地下93階



「破ッ」


 俺は躍りかかってきた『フレイムゴーレム』に『寸勁』を叩き込み、『ブラストトーチ』を斬り裂く。


「『ウインドスライサー』」


 ロゼの放った円状の風の刃が『バウ・ジン』を分断し、さらに『リムクゥル』2体を切り裂いていく。

 俺は【縮地】で『ファイアドラゴン』の頭上へと跳び、頭部に剣を突き刺す。


「やぁ!!」


 ロゼが最後に残った『メガロアーケロン』を甲羅ごと叩き斬り、戦闘が終わった。


「ふぅ、終わったな」


 俺は『精霊石』を拾いながら言った。


「動くとさらに暑いわね……汗だくだわ……」


 俺もロゼと同じく汗だくだ……


「あ~、風呂に入りてぇ~」


 こうなると、改めて風呂に入りたくなる。


「フロって何?」


 ロゼが知っている訳ないか。


「その内わかるよ」


 俺は密かにある計画を立てている。


「……?」

『そろそろ陽が沈みますよ? セーフルームを探しましょう』

「そうだな」

「そうね。早く着替えたいわ……」


 俺たちは『精霊石』を拾い集め、セーフルームへと急いだ。

 それから30分ほど迷宮を探索しセーフルームを見つけたので、今日はそこで休むことにした。


「こう暑いと食欲も湧かないわね……」


 ロゼが食事の手を止める。

 一応食べやすいように、夕食は『炎狼の肉』を使った冷製パスタだ。


「食べておかないと、体力が持たないぞ?」

「わかったわ」


 俺がそう言うと、ロゼが再び食べ始める。

 俺も食事を再開し、しばらくすると2人とも食べ終わった。


「明日には最下層に行けるな」


 俺は着替えているロゼに背を向けたまま、ラグに尋ねた。

 もちろん、気を紛らわせるためだ。


『そうですね。最下層へ行けば、火の精霊王の試練を受けることになります』

「精霊王の試練って何するの?」


 着替えが終わったロゼが、訊いてきた。


『十中八九、戦闘です』

「またか……戦闘以外の試練はないのか?」


 『炎皇狼』も『フレイムドラゴン』も試練は戦闘だった。


『大抵は戦闘ですね。マスターの力を確認するという点においては、戦闘をするのが適していますからね』

「その戦闘は私も闘って良いの?」

『駄目ですね。試練を受けられるのは、マスターだけです』

「そう……」


 たとえロゼも受けられるとしても、俺は許可するつもりはない。


「そう心配するな。俺なら大丈夫だから」

『精霊王は炎皇狼やフレイムドラゴンとは、比較にならないくらい強いです。油断はしないで下さいよ?』

「……わかってるよ」


 恐らくロゼがいるからラグは言わなかったが、精霊王との戦闘は命を懸けたものとなるだろう。


「それじゃあ、明日に備えて寝るか」


 今考えても仕方ないと割り切り、眠ることにする。


「明日も頑張りましょうね」

「あぁ、頑張ろう」

『頑張りましょう』


 そう言葉を交わし、俺たちは眠りに就いた……




 『火の精霊王の迷宮』火山部 地下99階



『この扉の奥にある階段を降りれば、最下層です。マスター、扉に炎皇狼とフレイムドラゴンの『証』を填めて下さい』


 俺たちの前には、華麗な装飾が施された巨大な扉がある。


「わかった」


 俺はインベントリから2つの『証』を取り出し、扉の窪みへ填め込む。

 すると――


 『ゴゴゴゴゴ……』


 扉が横にスライドして下へと続く階段が現れる。


「行こう」

「ええ」

『最下層は1つの部屋しかありません』

「わかった」


 そう言って俺たちは階段を降りていった……




 『火の精霊王の迷宮』火山部 最下層



 最下層はそのほとんどがマグマで、階段から続く通路の先に半径1kmほどの陸地があるだけだ。


「良く来た、『来訪者』ディーンよ」


 その陸地の中央に1人の偉丈夫が立っている。


「貴方が『火の精霊王』ですか?」


 その偉丈夫は身長は2mほどと大きいが、見た目は俺と変わらない。

 唯一違うのは、腰まで届きそうな髪が炎だという点だ。


「そうだ。我が、原初の焔にして火の精霊王『セファイド』だ」

『お久しぶりです、『セファイド』様』

「おお、ラグナレクも久しいな」


 火の精霊王の名は『セファイド』と言うらしい。


「それで、どのような試練を?」

「うむ、そのことだがな。お主は『アイギス』を持っていよう?」

「はい、確かに持っています」


 俺は左腕をセファイドに見せながら答えた。


「実は『アイギス』は我が管理を任されている魔導兵装で、我が試練を乗り越えた者に与えられるのだが、今回はディオス殿の計らいで既にお主が持っておる」


 もしかして、試練はなしとか言うのか?

 もしそうなら嬉しいが。


「我はそのことに少々憤りを感じていてな」


 おいおい、何か話の雲行きが怪しくなってきたぞ……


「なので、本気で手合わせをしよう。それを今回の試練とする」

「……どうなってんだ、ラグ?」

『私に言われましても……元々血の気の多い方ではありましたが……』

「それで構わぬな、ディーンよ?」

「わかりました」


 どうせ変えてくれと言っても聞き入れられそうにないし、元々試練が戦闘になるのは予想済みだ。

 俺はディオスをぶん殴る理由がまた1つ増えたな――と思いつつ答えた。


「それでは、そちらの娘よ。巻き込まれたくなくば、通路まで下がるが良い」


 セファイドがロゼに下がれと命じる。


「ロゼ、言う通りにするんだ」

「……わかったわ。気をつけてね、ディーン」


 そう言うとロゼは通路まで下がる。


「あぁ」


 俺はロゼに応え、陸地の中央まで進む。


「準備は良いか?」

「構わない」


 俺は剣を鞘から抜きながら答える。


「では、始める!!」


 そう言った瞬間、セファイドの両手首と両足首に炎が現れる。


「ラグ、【魔法剣】起動。『ゼピュロス』」


 剣が旋風を纏う。


「ほう。なら、こちらも。出でよ、万物を焼き尽くす業火のつるぎ。――これを人に使うのは初めてだ」


 セファイドの右手に炎の剣が握られる。


「それでは、いくぞ」

「来い!!」


 セファイドが一気に距離を詰め、剣を薙いでくる。


「くっ、速い」


 俺は何とか一歩後ろへ下がって躱し、お返しに剣を振り下ろす。

 俺が振り下ろした剣は炎の剣によって受け止められる。

 そのまま力を込め押し込もうとすると――


『いけません、マスター!!』


 ラグがそう言った瞬間、炎の剣が俺の剣を透過して目前に迫る。


「うおっ!!」


 俺は咄嗟に後ろへ倒れ込むように躱し、そのまま片手でバク転して距離を取る。


「今のを良く躱したな」

「何だ、今のは……」


 確かに直前まで、俺の剣と炎の剣は鍔迫り合いをしていたはずだ。

 それがいきなり透過してくるとは……

 ラグの警告がなければ危なかった。


『あの炎の剣は、持ち主の意思で、物質と非物質の状態を切り替えられるのです』


 ――ということは、あの剣を受け止めるのは無理ということだ。


「それは反則だろう……」


 距離を取りつつ闘うか、躱すしかないか。

 そんなことを考えながら【縮地】でセファイドに向かって跳ぶ。


「疾ッ!!」


 間合いに捉えた瞬間に逆袈裟に斬り上げるが、躱される。

 しかし俺はさらに一歩踏み込み、剣を振り下ろす。


「ぬっ!!」


 それも躱されたが、髪の一部が宙を舞い火の粉のように消える。

 俺はすぐに後ろへ跳び、距離を取る。


「やるな。だが!!」


 セファイドがこちらに向けた左手から、直径5cmほどの炎弾が放たれる。

 何だ――と思いながら躱しつつ距離を詰めようとするが――


『ッ!? マスター、全方位に障壁を!!』


 警告に従い、『アイギス』に魔力を込め、俺を包み込むように障壁を展開する。

 刹那、炎弾が50mほどに膨張して爆裂する。


「なっ!? ぐわっ!!」


 衝撃が『アイギス』を貫通して、俺を襲う。

 今のは確か、火属性最上級殲滅魔術『ノヴァ・エクスプロージョン』だ。

 しかし、魔術名称の詠唱すらしていなかった。


「まさか、完全に無詠唱で魔術が使えるのか……?」

『その通りです。ただし、火属性のみですが……』


 何の慰めにもなっていない。

 これで下手に距離を取るのも駄目になった。

 あんなものを連発されたら、いくら『アイギス』でも防ぎ切れない。

 こうなったら覚悟を決めて、近接戦闘をやるしかない。

 そう決心すると俺は【縮地】で距離を詰め、間合いに入った瞬間に【縮地】を停止、【加速】を最大倍速で起動する。

 同時に【闘気術】も起動し、全身に気を纏う。


「破ッ!!」


 セファイドの足を払うように蹴りを叩き込むが躱され、炎の剣が袈裟切りに振り下ろされる。

 それを俺は円を描くように躱し、逆袈裟に剣を斬り上げる。


「ふんっ!!」


 セファイドが剣の腹を左の肘で叩くように弾き、そのまま左の拳が俺の胸に当てられる。

 俺は悪寒がして咄嗟に後ろへ跳び下がろうとするが――


「破ッ!!」

「がっ!?」


 凄まじい衝撃が俺を襲い、吹き飛ばされる。


「ゲホッ……」


 内臓をやられたのか口から血が溢れる。


「ディーン!!」


 ロゼが俺の名を叫ぶ。


「【格闘術】まで使えるのか……」


 俺は外套の袖で血を拭いながら鎧を見る。

 かなりの硬度を持つはずの鎧が見事に陥没している。

 やはりさっきの技は『寸勁』だ。


「咄嗟に後ろへ跳び、威力を逸らしたか。やりおるな」


 幸い骨は折れていない。


「【複合魔術マルチプル・マジック】、『ウインドメイル』・『ウォーターベール』」


 これで打撃や炎を少しは軽減できるはずだ。

 無いよりはマシだろう。

 俺は再びセファイドの元へと跳ぶ。

 俺の【加速】や剣の一振りで衝撃波が生まれ、突風が荒れ狂う。

 セファイドも己の周りに炎の槍を浮かべて次々と撃ち出し、炎の剣を薙ぐ。

 互いの攻撃を躱し、弾き、掻き消す。

 周囲は突風や炎が荒れ狂い、まさに灼熱地獄だ。


「疾ッ!!」


 俺の一閃をセファイドが弾き、俺の頭を狙い蹴りを繰り出す。

 俺はそれを掻い潜り、顎を打ち上げるように掌底を繰り出す。


「セイッ!!」


 セファイドが頭を振るように掌底を躱しつつ炎の剣を振り下ろすのを、俺は腹に蹴りを叩き込み、その反動で跳び退る。


「ク、クハハハハ……!! 強いな。あ奴らが気に入る訳よ」


 フレイムドラゴンと炎皇狼のことか……?

 多分、そうだろう。

 俺は肩で息をしつつ、そう考える。


「だが、そろそろ終わりにしよう。次の一撃耐えられるか?」

「望むところだ」


 セファイドの持つ炎の剣がさらに輝きを増し、白熱する。

 凄まじい熱量だ。

 闘気と2つの魔術、3重に防いでいるにも関わらず、外套やズボンから薄っすらと煙が上がる。


「これは早めにケリをつけないと、やばいな」

「それではいくぞ」


 セファイドが距離を詰め、白熱した剣を右から袈裟切りに振り下ろす。

 俺はそれを躱すが外套の胸元が焼き切れる。


「もらった!!」


 俺は剣をセファイドの胸へと突き出すが――


「甘い!!」


 袈裟切りに振られた剣が、その軌道をなぞるように逆袈裟に斬り上げられる。

 俺は剣を止め、咄嗟に左に躱すが、さらに剣がから竹割りに振り下ろされる。


「くっ!!」


 俺はさらに左に踏み込み、円を描くように躱す。

 振り下ろされた剣は、そこからさらに右からの逆袈裟に斬り上げられる。


「何だと!? これはまさか……」


 左から刃が迫ってくるので、これ以上左には躱せない。

 俺は体勢が崩れるのを覚悟で、無理矢理右に躱すがこれが予想通りなら……

 次は躱せない。

 予想通り、斬り上げられた剣が左から袈裟切りに振り下ろされる。

 俺は咄嗟に左手に剣を持ち替え、右腕に気を凝集する。

 俺の高濃度の気を纏う右腕と炎の剣が激突する。

 刹那、凄まじい光が発生する。

 そして、光が収まり――


「これを受けて倒れなかった者は、お主が初めてだ。咄嗟に右腕を犠牲にしたその判断、見事」

「ぐっ……」

「ッ!?」


 ロゼが息を呑むのがわかる。

 俺の右腕は肘から先が無かった。

 しかも切断面は完全に炭化し、今もボロボロと崩れている。

 幸い神経が焼き切れたからか痛みは何とか耐えられるが、体の一部を失ったことで額に脂汗が浮かぶ。

 俺は片膝を突いてしまう。


「ディーン!! よくも!!」


 そう言うとともに、ロゼが右手に漆黒の槍を生み出しながら走ってくるのが視界の端に入る。


「やめるんだ、ロゼ!!」


 俺の制止を聞かずロゼは――


「『デモンズ・スピア』!!」


 漆黒の槍を放つ。

 俺は慌ててロゼに駆け寄り――


「無茶をするな!! 『パーフェクト・シャインヒーリング』!!」


 ロゼは荒れ狂う炎で大火傷を負っていた。

 俺はロゼの火傷を癒しながら、急いで通路まで片手で抱えていく。


「こんな無茶は二度とするな」


 俺はロゼを降ろしながら言った。


「だってディーン、その腕……」

「心配するな。戦闘が終われば治せる。ロゼも知ってるだろう?」

「知ってるけど――」

「大丈夫だ。俺は死なない」


 まだこんな所で死ぬ訳にはいかない。

 そう言って、俺はセファイドの所へと戻る。


「連れが失礼した」

「何、気にすることはない。あの娘の気概、気に入った」


 セファイドは漆黒の槍を握り砕きながら言った。

 どうやら当たる前に掴み取ったようだ。


「じゃあ、続きだ」

「ほう。まだやるのか?」

「当たり前だ。ラグ、試したいことがあるが良いか?」

『マスターにお任せします』

「わかった」


 俺は【魔力装填】で剣に魔力を込める。

 剣に纏った旋風が魔力を喰い、さらに荒れ狂う。

 だが、まだだ。

 俺はさらに【纏気術】で気を纏わせる。

 剣に異常があればすぐに止められるようにしつつ観察するが、異常は見られない。

 ラグ以外の武器で試した時は素材が何であろうと、この時点で武器は塵になった。


「いけるな」


 魔力と気を纏った剣は蒼く光り輝き、魔力と気を喰らった旋風は凄まじいまでに荒れ狂い、外套の裾を激しくはためかせる。

 俺は左手の剣を構える。

 右腕が無い分バランスが取りづらいが、やるしかないだろう。


「ほう。これは……」

「今度はあんたがこの一撃に耐えてみせろ」


 そう言って俺はセファイドに向かって跳ぶ。

 間合いに入った瞬間、剣を右から袈裟切りに振り下ろす。

 躱されるが地面を抉るほどの烈風が吹き荒れ、セファイドが体勢を崩す。

 俺はそのまま、先程の軌道をなぞるように左から逆袈裟に斬り上げ、さらにから竹割りに振り下ろし、右から逆袈裟に斬り上げる。

 俺が一閃するごとに烈風が荒れ狂い、セファイドの体勢が徐々に大きく崩れていく。


「ぬうっ!!」

「これで決める!!」


 俺は渾身の力で左から袈裟切りに振り下ろす。

 流石と言ったところか、セファイドは炎の剣で受け止めるが、透過させる暇も与えずにそのまま押し込む。

 満足な体勢ではなかったセファイドの剣を弾き、右肩から左脇腹まで斬り裂く。

 烈風が傷口をさらに引き裂きながら、セファイドを吹き飛ばす。


「ハァ……ハァ……やったか?」


 俺が使った技は、セファイドが俺の右腕を消し飛ばしたのと同じ、【片手剣】の連撃系アーツスキル『ライジング・エッジ』だ。

 セファイドが吹き飛んでいった方を見てみると――


「見事だったぞ、ディーン殿」


 セファイドが無傷で立っていた。


「な……に……?」


 そんな馬鹿な!?

 無傷だと!!

 確かに手応えはあったし、剣が斬り裂くのも見た。

 なのに……


「心配するな。お主の一撃、確かに我に届いていたぞ」

「なら、何故……」


 無傷なことの説明がつかない。


「ここは『火』の精霊力が集まる場所。この場所で我が死ぬことはない。それにお主の力は、しかと見せてもらった。試練は合格だ」

「本当か……?」

「もちろんだ。それでは『証』を渡そう。そこの娘もこちらへ来るが良い」


 そう言ってセファイドが腕を一振りすると、荒れ狂っていた炎があっさりと消え去る。


「ディーン!! 良かった……無事で……」


 ロゼが走ってきて、俺に飛びついた。

 泣いているようだ……


「すまなかったな。心配させて」

「……本当よ……私、貴方が死んだらどうしようかと……」

「そうか……」


 俺は剣を鞘に納め、ロゼの頭を撫でる。

 しばらくそうしていると――


『マスター、ロゼさん、セファイド様がお待ちですし、もうその辺で……』

「そうね……」


 ロゼがそう言って体を離す。


「おっと、そうだ。『パーフェクト・シャインヒーリング』」


 俺は自分に回復魔術をかける。

 時間を巻き戻すように、右腕が元通りになるのを確認し――


「お待たせしました」

「何、構わんよ。それでは『証』を渡そう。『アイギス』を前に出してくれ」


 俺は左手を前に突き出す。

 すると、セファイドの胸の――人間なら心臓がある辺りから直径2cmほどの紅い宝玉が出てきて、『アイギス』に埋め込まれる。

 宝玉を良く見てみると、中で炎のようなものが揺らめいている。


「これが『証』ですか?」

「そうだ。無論、それだけではないがな」

「え? 熱っ!!」


 セファイドがそう言った瞬間俺の足元に紋章が現れ、右腕に一瞬灼熱感が奔る。

 袖を捲り右腕を見てみると、炎のような、何かの紋章の一部のような、タトゥーみたいな紋様が刻まれていた。

 それを確認した瞬間、頭の中に膨大な情報が流れ込んでくる。


「ぐっ……」


 思わず頭を抱え、しゃがみ込む。


「ディーン!? 大丈夫?」


 こちらもほぼ一瞬で収まった。


「あぁ、大丈夫だ」


 俺はロゼに答えながら立ち上がる。


「何があったの?」

「かなりの量の情報が頭に流れ込んできた。ほとんどが魔術の知識だったが……」


 流れ込んできたのは火属性魔術の知識だ。

 その中には俺の知らない最上級魔術の知識もあった。


「『契約』も終わったようだな。気分はどうだ?」

「自分の中の枷が外れたような感じです」


 まるで『転生』をした時のような感覚だ。


「うむ。後でスキルを確認すると良い。色々と変わっているはずだ。それと『アイギス』、そろそろ起きんか」

『もう起きてますよ~。話しかけるタイミングが無かっただけです~』

「な、何だ!? 誰の声だ?」


 いきなり女の子の声が頭の中に響いた。


『マスター、今のは『アイギス』の声ですよ。アイギス、マスターに挨拶して下さい。後、その喋り方をいい加減にやめて下さい』

『もう、ラグナレクはいつもうるさいなぁ。初めまして、かな? よろしくね、マスタ~』

「本当にアイギスなのか…?」


 俺は左腕の『アイギス』を見ながら、言った。


『そうですよ~。もうマスタ~ってば私の意識がないのを良いことに、いつも無茶な要求ばかりして~』

「おい!! その言い方だと、俺が何かしたみたいじゃないか!?」


 案の定、ロゼが白い目で俺を見てる……


『アイギス!! いい加減にしなさい!!』

『あははは。冗談だよ、マスタ~。あとラグナレク、うるさい』


 ハァ、中々イイ性格をしているようだ……

 セファイドも苦笑している。


「すまんの、ディーン殿。どうやら、先々代のマスターに影響を受けたようでな。まぁ、悪気はないから許してやってくれ」


 先々代って、リシェルかよ……

 あいつは本当に何をしてくれてんだ……


「まぁ、怒ってる訳じゃないので良いですよ……」

「そうか。まぁ、宜しく頼む。それとお主の記憶を少し見させてもらったが、ここまで徒歩で来たようだな?」

「ええ、そうですね」


 記憶を見られたことについては、触れないでおこう……


「それでは何かと不便だろう。ここは1つ、餞別をやろう」

「良いのですか?」

「我も久々に本気で闘えて、楽しませてもらったからな。その礼だ。受け取ってくれ」


 俺は死ぬかと思ったけどな……


「わかりました。有り難くいただきます」

「うむ。出でよ、『スレイプニル』」


 セファイドがそう言うと紋章が出現し、その中から1頭の馬が現れる。

 【召喚】の紋章だったようだ。


『お呼びですか、王よ?』


 どうやら、『スレイプニル』と呼ばれた馬が話しているようだ。


『あれは……神獣『焔神馬』ですね。確か、セファイド様の愛馬だったはずですが』

「うむ。今からそなたのあるじは、そこにいるディーン殿だ。彼の力になってやってくれ」


 そう言えば、いつの間にか俺の呼び方が『ディーン殿』になってるな。

 そんなことを考えていると、『スレイプニル』が俺の目の前に歩いてきた。

 俺の知っている神話のように足が8本あったりはしないが、その身体は炎のような緋色で鬣はまさに炎そのものだ。

 俺が昔、高弟の人に連れられて見に行った競馬のサラブレッドより二回りは大きいが、その身体は引き締まっていて、鈍重さは微塵も感じない。


『お初にお目にかかります、ディーン殿。これからは宜しくお願い致します。『スレイプニル』とお呼び下さい』


 そう言いながらスレイプニルは頭を下げた。


「こちらこそ、宜しく頼む」


 俺はスレイプニルの首筋を撫でながら言った。

 スレイプニルは気持ち良さそうに、『ブルル』と啼いた。


「スレイプニルもお主を気に入ったようだな。それと――そちらの娘、名は何と言う?」


 セファイドがロゼに向かって尋ねた。


「え!? 私…?」

「この場に女性はロゼしかいないよ」


 俺がそう言うと――


『マスタ~、私も女の子ですよ~?』


 アイギスがそう言うが、おまえは腕輪だろう……


「そうだ。ロゼ――と申すのか。先程の炎渦巻く戦場へ飛び込んだ気概、そしてその魔術、気に入った。是非、これを受け取って欲しい」


 セファイドはそう言うと、右手をまるで空気を握り固めるように握り締める。

 そして、その掌を開くと直径3cmほどの宝玉があった。


『あれは『マナ結晶』ですね』

「何だ、それは?」


 聞いたこともない。


『マナとは精霊の力の源となる、まぁ魔力のようなものです。『マナ結晶』はそれが物質化したもので、超高純度の『精霊結晶』です。ちなみに先程、『アイギス』に埋め込まれた宝玉や私の宝玉も、あれより純度は高いですが同じものですよ』

「そうなのか」

「これを使い武器を作ると、かなりの性能を持った物が作れるだろう。ディーン殿に作ってもらうと良い」

「……ありがとうございます」


 俺がラグと話している間に、ロゼがセファイドから『マナ結晶』を受け取っていた。


「それでは、そろそろ戻ると良い。そなたらが長時間ここにいるのは辛いだろう」


 確かに滅茶苦茶暑いしな……


「そうですね。戻ります」

「うむ。アイギスにスレイプニルよ、しかとディーン殿の力となるのだぞ?」

『承知しました、王よ。しばしのお別れを』

『わかってますよ~、セファイド様』

「それではディーン殿、この世界のこと、宜しく頼みましたぞ」

「任せて下さい」


 俺はセファイドにそう答えると――


「それじゃあ、戻るぞ?」


 ロゼたちに確認を取る。


「ええ、そうしましょう」


 ロゼが答えるのを聞き――


「『脱出エスケープ』」


 魔術を使い、俺たちは『火の精霊王の迷宮』を後にした。

お読みいただいて、誠に有り難う御座います。

何とか、更新できました。

お待たせしてしまって、申し訳ありません。

これで、第1章は終わりとなります。

次話からは第2章となるのですが、その前に少し改訂したい箇所がありますので、そちらを先にやりたいと思います。

誤字、脱字等ありましたらご報告お願いします。

ご感想、ご批判等もお待ちしております。

それではまた次話で。

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