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竜殺しの英雄  作者: しんや
第1章 『火の精霊王』
7/22

第7話 『火の精霊王の迷宮』、そして『転生』

「『ダークニードル』」


 ロゼが掲げた魔導杖ワンドから、闇を凝縮したような無数の針が、鳥型の魔獣に向け放たれる。

 無数の闇の針に貫かれた魔獣は、呆気なく墜ちていく。


「どう? 私の魔術は」


 魔導杖ワンドのブーストを受けてはいたが、【詠唱破棄】を使ってこの威力なら問題はない。

 しかし――


「威力は問題ないよ。でも魔術の使い方に問題があるな。何故、闇属性上級魔術の『ダークニードル』を使ったんだ?あの程度の魔獣なら、下級魔術で充分だったはずだ」

「それは……」

「言い訳はしない約束だろ?」


 俺は『火の精霊王の迷宮』に着くまでに襲ってきた魔獣で、ロゼの戦闘訓練をすることを提案したのだ。

 ロゼも望んだのでいくつか約束をし、訓練をすることになった。

 その約束の1つが『言い訳をしないこと』で、先程の戦闘が最初の戦闘だった。


「う……ごめんなさい」

「魔力(MP)は、当然だが限りがある。確かにロゼの魔力量は多いが、迷宮では連戦になることも珍しくはない。温存できるならした方が良い。そのためには魔獣の強さを知らなければならないが、確かロゼは【リーブラの魔眼】を使えただろ? これからは必ず魔獣の強さを確認して、過剰な威力の魔術を使わないようにな」

「わかったわ」

「もちろん身の危険を感じれば、そんなことは気にしなくて良いからな?」


 ロゼは俺の言葉に頷くとナイフを抜き、さっきの魔獣の剥ぎ取りをしに行った。


『マスターにしては厳しい言葉でしたね』

〈当たり前だろ。ロゼの命が懸かってるんだ。手抜きも遠慮もしないさ〉

『そうですね』


 それにしても、あのナイフは一応、料理に使う為に作ったんだけどな……


『ロゼさんはそんなこと気にしないのでは? 冒険者歴も長そうですし』

〈まぁ、本人が気にしていないなら、良いか〉

「終わったわよ。行きましょう」

「あぁ、行こう。魔術を使う時は【詠唱破棄】を使うのを忘れるなよ?」


 できれば早めに【詠唱破棄】をマスターして、【無詠唱】を覚えてもらいたい。


「わかってるわよ」


 そして、俺たちは迷宮に向かって歩いていった……




「何故、わざわざ森の中で野宿するの?」

「それは後でわかるよ。それより、どっちが料理する? ロゼは【料理】スキル持ってるよな?」


 今は日も暮れ、森の中で野宿の準備中だ。

 あれから何度か魔獣に襲われたが、ロゼが危なげなく倒していった。


「失礼ね。持ってるわよ。何なら今日は私が作りましょうか?」


 やはり女性だからなのか、料理には自信があるようだ。


「それじゃあ、お願いするよ。俺はその間に薪を拾ってくるから」


 そう言って俺はインベントリから『調理道具一式』と食材を取り出し、ロゼに渡す。


「わかったわ。気をつけてね。まぁディーンには、必要ないかもしれないけど……」

「ハハハ、ありがとう。じゃあ、行ってくる」


 ロゼに応え、俺は薪を拾いに行く。

 そうしてしばらく薪を拾っていると――


『良かったのですか、マスター?』

〈何がだ、ラグ?〉

『ロゼさんに料理を任せたことですよ。彼女は恐らく、剥ぎ取りに使ったナイフで食材を切りますよ?』


 あぁ、忘れてた……


〈まぁ、大丈夫だろう〉


 自分で作る時は気にするだろうが、それ以外の時は気にしないようにしよう。

 そうしている内に、充分な量の薪が集まったので戻ることにする。


「おかえり。料理はもう出来てるわよ」


 野宿している場所に戻ると、料理が出来上がっていた。


「おっ、美味そうだな」


 出来ていた料理は、定番のシチューのような料理だ。

 これを見る限り、ロゼの【料理】の熟練度は俺とほぼ変わらないようだ。


「それじゃあ、食べましょう?」

「あぁ、食べよう」


 俺は薪を置き、料理を食べることにした。

 なるべく食材を切ったナイフのことは考えないようにしつつ、シチューを1口食べる。


「美味い」

「良かった。いっぱい食べてね?」


 やはり俺が作る物より、野菜が多く使われているが美味い。

 そうして2人とも料理を食べ終わり、一息吐いていた。


「そういえば、森の中で野宿する理由をまだ教えてもらってないわ」


 そうだったな。


〈ついでだし、ラグのことも教えてしまっても良いか?〉

『構いませんよ』

「わかった。それじゃあ、ラグ、ロゼに挨拶を」

『はじめまして、ロゼさん。私は『ラグナレク』――ラグとお呼び下さい』


 ラグがロゼにも聞こえるように話す。


「い、今のは何!? 頭の中に直接、声が聞こえてきたわ!!」


 やっぱり驚くよな……


「ロゼ、落ち着け。今のはこいつの声さ」


 そう言って俺は、ロゼの前にラグを差し出した。


「……た、確かに、『ラグナレク』とは言っていたけど……」

「ラグは意思を持つ剣なんだ」

『はい。私は意思を持っています。これから、宜しくお願いします』

「驚いたわ……すると、偶にディーンが黙り込んでいたのは――呼び方はラグで良いのかしら、ラグと話していたのね?」

「ん? あぁそうだな。ロゼの前でも何度か話していたな」

「……何を話していたかは、聞かないであげるわ」

「ハハ、そうしてもらうと助かるよ……それとラグには、もう1つ機能があるんだ。ラグ、【鋼糸形態】」

『了解しました』


 ラグが光の粒子になり、手甲に変化する。


「こういう風に、ラグは剣以外の形態にもなることができる」


 そう言いながら、俺はロゼに両腕の手甲を見せる。


「…………」


 ロゼの目が点になってる。


「ロゼ、ロゼ! 大丈夫か…?」

「……もう、ディーンのことでは驚かないと決めていたけど、これには驚いたわ……『ラグナレク』に意思があって、しかもこんな機能があったなんて……」

「まぁ、驚くよな。という訳で、これからはラグのことも宜しく頼むよ」

『宜しくお願いしますね、ロゼさん』

「こちらこそ宜しくね、ラグ」


 挨拶が済んだので、俺は鋼糸を展開する。


「何をするの?」

「鋼糸で魔獣が近寄らないように、罠を作るのさ。これには木を利用しないといけないから、森の中で野宿するんだよ」

「そうだったの……寝ずの番を立てなくても良いし、これは便利ね」

「だろう?」


 そんなことを話しながら寝る準備を始める。


「明日には『火の精霊王の迷宮』に着くか?」


 俺はラグに尋ねた。


『はい。今日と同じくらいのペースで行けば、昼頃には着くでしょう』

「そうなの? それじゃあ、明日のために早めに寝ましょう」


 そう言って、俺たちは自分のシュラフに潜り込んだ。


「おやすみ、ロゼ、ラグ」

「おやすみ、2人とも」

『おやすみなさい、マスター、ロゼさん』


 俺たちは挨拶を交わし、眠りに落ちていった……

 あ、ラグの手入れを忘れた……

 まぁ、良いか……




 翌日、昨日ラグが言ったように昼過ぎには迷宮の入り口へ辿りついていた。


「ここが『火の精霊王の迷宮』なの?」

「そうだ。ロゼは来たことがないのか?」


 俺たちの前には『炎皇狼の迷宮』ほどではないが、広大な森が広がっている。


「ええ、ここに来るのは初めてよ」

「そうなのか。ラグ、ここの構造は森と火山の2つに分かれているのか?」

『はい。その通りです』


 やはり『火の精霊王の迷宮』の構造は『迷路型メイズ』の森と、『迷宮型ダンジョン』の火山という2つの構造を持つ、『特殊型アンノウン』の一種のようだ。


「どういうことなの?」

「聞いての通り、この迷宮は2つの構造を持っていて、前半は目の前の森、後半は向こうに見える火山を攻略していくことになる」


 俺は森の向こう側に見える、噴煙を噴き上げている火山を指差しながら答えた。


「大変そうね……」

「その通りだ。かなりの長丁場になるから、覚悟しておいてくれよ? それとロゼには、この森の中で『転生』をしてもらうから、そのつもりで」


 ロゼが『転生』するために必要なクエストの討伐対象になっている『ミラージュエント』は、この森に出現する。


「わかったわ」


 ロゼは期待からか、緊張からか、魔導杖ワンドを握り締めている。


「そんなに緊張しなくても、フォローはするから」

『そうですよ、ロゼさん。マスターが守ってくれますよ』

「わかったわ。ちゃんと守ってね?」


 俺とラグの言葉で緊張も解けたのか、笑顔でそう言った。


「任せろ。ただし知っているとは思うが、迷宮の魔獣は外の奴らより遥かに強いから油断はするなよ?」


 ロゼが俺の言葉に頷いた。


『それでは、行きましょう』


 ラグの言葉で、俺たちは森の入り口へと歩いていった……




 『火の精霊王の迷宮』森林部 第1区画



 俺たちは今、森林の中の道を周りを警戒しながら並んで歩いている。


「さて、迷宮に入った訳だが、ここに出る魔獣は上位種ばかりだ。決して油断はしないようにな。それと『ミラージュエント』が出たら、俺が周りにいる奴らの相手をするから、ロゼは『ミラージュエント』の相手をするんだ。あいつは動きは遅いし、魔術は使わないから、近づかず遠距離から魔術を撃ちまくれ」

「わかったわ。任せておいて」

「よし、じゃあ行こう」


 そうしてしばらく進むと、前方に『ヘルウルフ』が5匹と『クリムゾンホーク』が1羽、こちらに向かって来るのが見えた。


「ロゼ、魔獣だ。『クリムゾンホーク』が1羽いるから、そいつは任せた」

「了解」


 俺はロゼの返事を聞きつつ、群れに向かって駆ける。


「『シャドウブレード』」


 ロゼが呪文を詠唱するのが聞こえ、三日月状の黒い刃が5つ、『クリムゾンホーク』に向かっていく。

 俺はそれを横目に見ながらラグを抜き、【縮地】で一気に距離を詰める。

 距離を詰めた1匹を一刀のもとに斬り伏せ、すぐさま別の奴の元へと跳ぶ。

 そうして、次々と『ヘルウルフ』を屠っていく。

 最初の1匹を倒してから20秒ほどで『ヘルウルフ』を殲滅した俺は、ロゼが闘っている『クリムゾンホーク』の方へと目を向ける。


「あっちも終わったようだな」


 ちょうど『クリムゾンホーク』が黒い刃に切り裂かれ、墜ちながら消えていくところだった。

 俺は周りに落ちている『精霊石』を拾い、ロゼの方へ歩いていった。


「やったな、ロゼ」


 ロゼも『精霊石』を拾い、こちらに歩いてきていた。


「1羽だけだったから、大したことなかったわ」

「流石は元『A+(Aプラス)』と言ったところか」

「からかわないで。それよりも、ディーンの方が凄かったわよ。『ヘルウルフ』5匹をあんなにあっさり倒してしまうなんて」

「それほどでもないさ。それじゃあ、先に進もう。日が暮れる前にセーフルームを見つけておきたい」


 そう言って、俺たちは先に進むことにした。

 歩きながら、戦闘での基本的な役割分担を決めていく。


「ロゼは『クリムゾンホーク』みたいな、空を飛んでいる魔獣を優先的に攻撃してくれ。俺がその間に敵の注意を引きつつ、地上にいる奴らを片付けるから」

「ええ、わかったわ」

「それじゃあ、基本的にはそういうことで」


 そんなことを話しながら進んでいると、また魔獣の群れがいた。


「流石はこの国の最高難易度の迷宮だな。魔獣との遭遇率が半端じゃない」


 しかも、『ドゥルガ』の上位種『ドゥルガン』が混じっている。

 こいつは『ドゥルガ』と同じく他の魔獣を呼び寄せるので厄介だ。

 さらに、ラッキーなのかはわからないが、『ミラージュエント』までいる。


「ロゼはさっきと同じように、『クリムゾンホーク』から片付けてくれ。それが終わったら、『ミラージュエント』だ」


 ロゼに指示を飛ばすと同時に群れに向かって駆ける。


「ラグ、【大鎌デスサイス形態】」

『了解しました』


 右手の剣が大鎌デスサイスに変化するのを、重さで確認しながら左の魔導銃を抜く。


「『ダークニードル・レイン』」


 ロゼが闇属性上級範囲魔術『ダークニードル・レイン』を使った。

 『ダークニードル』と同じような闇の針が、上空から魔獣の群れに向かってまさに豪雨の如く降り注ぎ、上空を飛んでいた3羽の『クリムゾンホーク』の内の2羽を貫き、さらに地上にいた魔獣すら貫いていく。

 流石に地上にいた奴らには致命傷を与えられなかったようだが、動きが止まる。


「ナイスだ」


 俺は動きを止めた『ドゥルガン』を魔導銃で撃ち貫き、魔術の範囲外にいた『クリムゾンホーク』も撃ち落す。

 すぐさま魔導銃を戻し、ロゼの方へ行こうとしていた『ヘルウルフ』2匹を大鎌デスサイスで薙ぎ払う。

 ロゼが『ミラージュエント』に魔術を放つのを確認しながら、飛びかかってきた『メギドリザード』を回し蹴りで粉砕、そのまま回転しつつ魔導銃を抜き『バウジーガ』に弾丸を撃ち込む。


「これで『ミラージュエント』以外は片付いたな」

『あちらも、もうすぐ終わるでしょう』


 俺は周囲を警戒しながらロゼの闘いぶりを眺める。

 当然危なくなれば助けに入るつもりだが、その必要もなさそうだ。

 ロゼの放った5つの黒い刃に、『ミラージュエント』が切り裂かれる。


「終わったな」

『そのようですね』


 そう言ってロゼの方へ歩いていく。


「ロゼ、大丈夫か?」

「……ええ、大丈夫よ。少し魔力を使いすぎただけだから……」


 ロゼは少し息があがっていた。


『最初の魔術は上級範囲魔術でしたからね。その分、魔力消費が激しかったのでしょう』

「そうだな。だけど、あれは良い判断だった。俺も助かったよ」

「ふふ、どういたしまして」

「ロゼはそのまま休んでいてくれ。『精霊石』は俺が集めてくるよ」

「そうさせてもらうわ……」


 そう言って、ロゼはその場に座った。

 俺は周囲の警戒を怠らないようにしながら、散らばっている『精霊石』を集めていく。

 ロゼには『玉兎の魂』で作ったアクセサリを装備させているので、魔力もすぐに回復するだろう。

 あのアクセサリに付いている【MP自動回復】のスキルは、1秒間にMPを最大値の0.3%回復させるという驚異的なものだ。


「もう、行けるか?」


 『精霊石』を拾い終わったので、ロゼに声をかけた。


「大丈夫よ。行きましょう」

『後、9体ですね』


 討伐する『ミラージュエント』のことだろう。


「あぁ、そうだな。でもロゼの闘いぶりを見る限り、すぐに終わりそうだ」

「そうだと良いわね。私も早く『転生』したいから」


 そんなことを話しながら、俺たちは攻略を再開した……




「もうすぐセーフルームに着くはずだ! 頑張れ!!」


 俺はすぐそこまで迫っていた『ヘルウルフ』2匹を纏めて叩き斬りながら叫んだ。


「『ウォーターボール』!! 流石にこれはちょっとキツいわね……」


 ロゼが『クリムゾンホーク』に向かって水球を放つ。

 あれから俺たちは、魔獣の群れと何度も遭遇したが難なく倒してきた。

 しかし陽も沈みかけ、そろそろセーフルームを見つけられるだろう――と思っていたところに『ミラージュエント』2体と『ドゥルガン』3体を含む、数十匹の魔獣の群れに引っ掛かってしまった。

 『ドゥルガン』2匹は俺が即座に始末したが、もう1匹は他の2匹より知能が高いのか、何と『ミラージュエント』の上に乗って隠れていたのだ。

 途中までそれに気がつかず、仲間を呼ばれてしまった。

 さらに十数匹の魔獣が群れに加わり、流石にこれはマズイ――と思ってセーフルームに向け撤退中である。

 最初に俺がロゼを抱えて群れを飛び越えたので、今は背後から追撃されている訳だが――


「チッ!! このままじゃ埒が明かないな。ロゼ、範囲魔術はまだ使えるか?」

「後3回くらいなら、回復を待たなくても使えるわ」

「なら頼む。ロゼの魔術に合わせ俺が突っ込むから、ロゼは『クリムゾンホーク』と『ミラージュエント』を倒してくれ」

「わかったわ」


 走りながらそう言葉を交わすと――


「準備は良いか?」

「ええ」

「じゃあ、始めてくれ」


 俺はそう言うと、靴底で地面を削りながら振り返る。

 ロゼもそのまましばらく走り、振り返ると――


「『シャドウブレード・ミリアド』」


 即座に魔術を放った。

 無数の黒い刃が魔獣を切り裂いていく。


「ラグ、【魔法剣】起動。『ゼピュロス』」

『了解しました』


 ラグが応えると同時に、剣が旋風を纏う。

 それを確認しつつ、俺は群れへと突っ込んだ。

 先頭にいた『ヘルウルフ』を逆袈裟に斬り裂く。

 すると旋風が巻き起こり、周りの魔獣を切り裂き、吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた魔獣を闇の針が貫くのを確認しつつ、『メギドリザード』を縦に分断する。

 さらに突風が荒れ狂い、魔獣たちを吹き飛ばしていく。


「流石に『ミラージュエント』は無理か」


 体重の軽い魔獣は粗方吹き飛ばしたが、流石にでかいだけあって『ミラージュエント』はこの突風に耐えている。


「本当はロゼに倒させたいが、仕方ないか……」


 もう1体の『ミラージュエント』はすでにロゼが倒しているので、こいつは俺が倒すか――と思っていると、ロゼが放った『ダークニードル』が『ミラージュエント』を貫いていった。


「やるなぁ。でもこれで、数はまだいるが、残っているのは雑魚ばかりだな」


 そう呟くと俺は【魔法剣】を停止、【縮地】でロゼの傍まで跳んだ。


「ラグ、【魔導杖ワンド形態】だ」

「何をする気なの、ディーン?」


 ロゼが不思議そうに訊いてくる。


「面倒だから、一気に終わらせる」


 そのために【魔法剣】で吹き飛ばし、距離を取ったのだ。

 俺は魔導杖ワンドに変化したラグに、【魔力装填】で大量の魔力(MP)を込める。

 その量は1万だ。

 余剰の魔力が漏れ出し、魔導杖ワンドがぼんやりと蒼く輝く。


「『レゾリューション』」


 俺は魔導杖ワンドを掲げ、魔術を放った。

 魔導杖ワンドから魔獣たちへと不可視の波動が迸る。

 すると、魔獣たちは先頭にいた奴から次々と塵へと分解されていく。

 そして、数秒ほどで残っていた十数体の魔獣は全て塵へと還った……


「い、今のは何の魔術なの……?」

「無属性最上級殲滅魔術『レゾリューション』さ」


 この魔術は、同じ無属性最上級魔術の『ショックウェイブ』のように魔術を掻き消したり、麻痺を与えるような効果は無いが、複数の魔獣を一瞬で消し去ることができる強力な魔術だ。

 ただし、成功率はかなり低く消費魔力も5000とかなり多い。

 そこで俺は魔導杖ワンドにはアーツスキルが存在しない替わりに、魔力を込めれば魔術の威力や効果が発動する確率が上がる『ブースト能力』があるのを利用し、大量の魔力を魔導杖ワンドに込めてこの魔術を放ったという訳だ。


「……そんな魔術も使えたのね……私が仲間になった意味ってあるのかしら……?」

「さっきの戦闘でも、的確なフォローをしてくれたじゃないか。仲間になってくれて、本当に助かってるよ」

「……まぁ私が連れて行ってって言ったんだから、良いんだけどね」


 そんなことを話しながら『精霊石』を拾っていく。

 ちなみに『レゾリューション』で魔獣を倒しても、『精霊石』は残る。(迷宮の外で使えば、素材は手に入らないだろうが……)


「かなりの量ね。これだけで、一体いくらになるのかしら……」


 流石にギルドで鑑定をしていただけあって、そういうことが気になるようだ。


「そういうことはロゼの方が詳しいだろう? 大体どのくらいになるんだ?」

「詳しく鑑定してみないとわからないけど、これだけで5万ティルはありそうね」


 そんなにあるのか。

 セーフルームに着いたら、詳しく鑑定してもらおう。


「それじゃあ拾い終わったし、先に進もう。もう少しでセーフルームのはずだ」

「ええ、行きましょう。はい、これ」


 俺はロゼが渡してきた『精霊石』をインベントリに放り込み、先へ進んで行った……




 あれから15分ほど進むとセーフルームに着いたので、まずは食事にすることにした。


「今日は俺が作るよ。ロゼはその間、鑑定していてくれ」


 俺はそう言い、インベントリから今日入手した『精霊石』を出していく。


「わかったわ」


 ロゼは俺が取り出した大小様々な『精霊石』を手に取り、鑑定していく。


「さて、何を作ろうか」


 俺はインベントリにある食材を眺めつつ、メニューを考えた。

 これを使ってみるか。

 市場のおっちゃんに勧められた真っ赤なホウレン草みたいなヤツだ。

 それと肉を使った炒め物に、スープとパンで良いか。

 メニューを決め、手際良く料理を作っていく。

 10分ほどして料理が出来上がったので――


「食事が出来たぞ。食べよう」


 鑑定はまだ終わっていない様子だったが、ロゼを呼んだ。


「わかったわ」


 ロゼが手を休め、こちらに来たので夕食を手渡す。

 そうして食事をしていると――


「今日のことを考えると、あの時ディーンが大量の『精霊石』を持って来たのも納得できるわ」

「あの時は悪かったな……」


 意外と根に持っているのか……?


「仕事だったし、気にしてないわ。それに食事も奢ってもらったようだしね」

「なら良いが……それに、今日みたいなでかい群れにいつもいつも遭遇する訳じゃないぞ?」

『そうですかね? マスターはかなりの頻度で、大きな群れに遭遇していると思いますが』


 そうだったか?

 考えてみると、そんな感じもする……


「……まぁ、経験値や『精霊石』を沢山入手できるから、良いんだよ」

『そういえば、今日だけで5体も『ミラージュエント』を倒しましたね』

「そうね。この調子でいけば、遅くても明後日には『転生』できるかしら?」


 今日遭遇した『ミラージュエント』は全てロゼが倒したので、すでに目標の半分だ。


「早ければ明日にはできるかもな。それと【詠唱破棄】の熟練度はどうなっている?」


 俺が聞くと、ロゼはステータスウィンドウを開いた。


「そっちも、もう990になってるわ。明日にはマスターできそう」


 仲間になってから、魔術を使う際は必ず【詠唱破棄】を使うように言ってあるので、熟練度も早いペースで上がっている。(まぁ、元々900はあった訳だが……)


「それは良かった。【詠唱破棄】と【無詠唱】では、消費魔力も威力も段違いだからな」


 【詠唱破棄】はマスターしても、消費魔力は2倍で効果は0.5倍だ。

 しかし【無詠唱】は覚えたてでも、消費魔力は1.5倍で効果は0.7倍だ。

 そんなことを話しながら食事をする。

 今まで1人で食事をしていたが、やっぱり1人より誰かと一緒に食べる方が美味しく感じられるな。


「片付けも俺がするよ。ロゼは鑑定の続きでもしていてくれ」


 2人とも食べ終わったので、俺は片付けをすることにした。


「ありがとう。美味しかったわ」


 ロゼはそう言うと、鑑定の作業に戻っていった。

 そうしてしばらく経ち、俺は片付けが終わったので、ラグの手入れをしながらロゼが鑑定をするのを眺めていた。


「ふぅ、終わったわ」

「お疲れ様。果物、食べるか?」


 俺は剥いておいたバナナ味のリンゴ――のような果物――をロゼに手渡す。


「ありがとう」

「それで、いくらになりそうだ?」

「15万ティルほどかしらね。かなりの額だわ」

「結構な額だな。金はあって困る物でもないし、助かるな」


 これからも金は絶対に必要な物だからな。


「そうね。でも、これを鑑定するギルドの職員の事を思うと……」

「…………」


 まぁ、仕事だと思って諦めてもらおう。


『それではマスター、ロゼさん、明日も早いのでもう休みませんか?』

「そうだな」

「そうね」


 俺たちはラグの言葉に従って寝ることにする。

 俺はインベントリから2人分のシュラフを取り出し、片方をロゼに渡す。


「あっ。後、私のザックも出して?」


 インベントリにはロゼの私物も入っている。


「はい」


 ザックを出し、ロゼに手渡す。

 ロゼはザックから着替えを取り出しているようだ。


「『浄化ピュアリフィケイション』は使わないのか?」


 これを使えば、特に着替えなくても良いはずだが……


「使うわよ。気分の問題よ」


 女性ならでは――と言ったところか?


「これから着替えるけど、こっち見ないでね?」


 俺は素直にロゼに背を向ける。

 口調は優しかったが、目が『見たら殺す』と語っていた…

 まぁたとえ見たとしても、ロゼのステータスじゃ俺は殺せないがな。


『そういう問題ではないでしょう……』


 どうやら俺だけに話しかけているようだ。


〈冗談だよ。そんなことする訳ないだろ〉


 しかし後ろでゴソゴソと着替えの音がするのは、中々忍耐力を試される。


〈戦闘の後は性欲が増すっていうのは本当なんだろうか……?〉

『私が知っている訳ないでしょう。ロゼさんに言い付けますよ?』

〈俺が悪かったから、それだけは勘弁してくれ〉

「もう良いわよ。ってどうかしたの、ディーン?」


 ロゼの着替えが終わったようだ。


「い、いや、何でもないよ」


 そう言って、俺も『浄化ピュアリフィケイション』を使い、装備を外してシュラフに潜り込む。


「そう? なら良いけど……」


 ロゼもシュラフに潜り込んだ。


『それでは明日も頑張りましょう、マスター、ロゼさん』

「あぁ」

「おやすみ、ディーン、ラグ」


 そうして、俺たちは眠りに落ちていった……




 『火の精霊王の迷宮』森林部 第2区画



「今日中に第3区画までは行っておきたいな」


 俺たちは今日も朝から迷宮の攻略をしている。


「でも、こうも魔獣に襲われ続けたんじゃ厳しいかもね……」


 まだ攻略を始めてから2,3時間しか経っていないが、すでに戦闘は10回を超えている。


「そうだよなぁ。でも、そればっかりはどうしようもないしな…」

『なるべく魔獣と遭遇しないことを、祈るしかありませんね』


 そんなことを話しながら歩いていると――


「ん? あれは『サンデュック』か?」


 道端の茂みに『サンデュック』が生えているのを見つけた。


「そうみたいね。採取していきましょう」

「そういえば、『ダークエルフ』は【採取】にボーナスが付くんだったよな?」


 『エルフ』、『ダークエルフ』は【採取】に熟練度が上がりやすい、良い物を採取しやすい、といったボーナスが付く。


「そうよ。私も【採取】はマスターしてるわ」


 それなら、ロゼに採取を頼もう。


「それじゃあ、『サンデュック』の採取を頼むよ」


 俺はインベントリから『採取セット』を取り出し、ロゼに渡した。


「わかったわ。任せておいて」


 ロゼは『採取セット』を受け取り、茂みへと歩いていった。

 俺は周囲を警戒しながら採取の様子を眺める。

 特に魔獣の気配も無く、ロゼの採取が終わる。


「終わったわ。『サンデュック』だけじゃなく、『ファーシェ』も取れたわよ」

「おお、流石だな」


 『サンデュック』は、HPの最大値を100上げられる『HPエクステンド・ポーション』を作ることができる。

 『ファーシェ』も『スタミナポーション』の素材だ。


「よし、じゃあ先に進むか」


 薬草をインベントリに放り込み、俺たちは先へと進んでいった。




「ロゼ!! 上だ!!」


 俺は『キラーワスプ』を3匹纏めて大鎌デスサイスで斬り裂きながら叫んだ。

 ロゼは俺の声で上を見上げつつ、咄嗟に後ろへと跳ぶ。

 次の瞬間、ロゼの頭上の木の枝から『ブラッドバイパー』が牙を剥きだし、ロゼに飛びかかった。

 ロゼは左手で逆手にナイフを抜き、『ブラッドバイパー』を斬り裂く。


「近接戦も中々できるな」


 俺は『デッドリィマンティス』が振り下ろした巨大な鎌を、大鎌デスサイスの刃の曲線を利用して受け流す。

 そしてすぐさま『デッドリィマンティス』の頭部を刈り取る。


「ロゼに【格闘術】の特訓もさせるか……」


 先程の動きは良かったが、まだまだ甘い。

 そんなことを呟きながら飛んで来たでかいクワガタのような虫型魔獣『スタッグビートル』を斬り裂き、ラグを【二刀形態】に変化させながら『ヘルウルフ』に向かって跳ぶ。

 逆手に持った二刀で舞うように『ヘルウルフ』5匹を瞬時に屠り、右手の刀をロゼの方に向かっていた『バウジーガ』に投げた。

 刀が『バウジーガ』に刺さると同時に、ロゼの『シャドウブレード』が『ミラージュエント』を切り裂き、戦闘が終了した。


「大丈夫か?」


 戦闘が続いたので、ロゼには少し疲れが見て取れる。


「まだ大丈夫よ。少し疲れたけど……」


 俺に比べれば、ロゼはSPも少ないし、VITも低い。

 疲れるのは俺よりも早いはずだ。


「じゃあ、俺は『精霊石』を拾ってくるから、ロゼは休んでいてくれ」

「ありがとう。そうさせてもらうわ」


 そうして『精霊石』を拾い終わると、俺たちは攻略を再開した。




 『火の精霊王の迷宮』森林部 第3区画



 あの後、第2区画でも何度か戦闘があったが、何とか第3区画まで来ていた。


「……大丈夫か、ロゼ?」


 流石に疲労困憊の様子だ。


「大丈夫――と言いたいところだけど、正直キツいわ……」


 戦闘中も偶に注意が散漫になっていたし、無理はさせられないな。


「今日はこの区画のセーフルームで休む予定だから、もう少し頑張ってくれ」

『もうすぐセーフルームがあるはずです。頑張りましょう、ロゼさん』


 この区画もほとんど攻略したので、ラグの言う通り、もうすぐセーフルームのはずだ。


「わかったわ。早く休みたいし、行きましょう」

「あぁ」


 俺はこれまでよりも、さらに周囲の警戒をしながら先に進んでいった……

 それからしばらく進むとセーフルームに着いたので、まだ陽は沈んでいないが今日はここで休むことにする。


「まだ夕食には早いが、どうする?」

「う~ん、もう少ししてからにしない? ちょっと休みたい……」


 そう言うと、ロゼは座り込んでしまった。


「そうだな。それで、【詠唱破棄】はマスターできたか、ロゼ?」


 俺も座りながらロゼに尋ねた。

 ロゼがウィンドウを開き――


「あ、マスターしてるわ。【無詠唱】に変わってる」

「やったな、ロゼ」

『もう1つ、お知らせがありますよ』

「何だ、ラグ?」

『ロゼさんが討伐した『ミラージュエント』が10体を超えました。『転生』できますよ』

「本当なの、ラグ!? 嘘じゃないわよね!?」

『そんな嘘、吐きませんよ。本当です』

「よく数えてたな?」


 戦闘が激しくなったので、途中から数えてなかったのだ。


『マスターもロゼさんも、数えていないようでしたので』

「それでどうやって『転生』するの!? 今すぐしましょう!!」

「お、落ち着け、ロゼ」

『落ち着いて下さい、ロゼさん』


 ロゼは興奮しすぎて、ラグに詰め寄っている。

 ラグは今、俺が抱えるように持っているので、そこに詰め寄ると……


「ご、ごめんなさい」


 ロゼは自分の体勢に気づいたのか、顔を赤くし、離れる。


「ふぅ。それでラグ、『転生』はどうやってするんだ? 俺も知りたいんだが」

『マスターにも手伝ってもらいますよ? それに準備には少し時間がかかりますので、夕食の後にしましょう』

「そういうことなら、さっそく夕食を作りましょう!! さあ、ディーン。早く『調理道具一式』と食材を出して。今日は私が作るから」

「わ、わかったから、少し落ち着けよ……」


 俺はインベントリから『調理道具一式』と食材を取り出し、ロゼに渡す。


「じゃあ、パパッと作っちゃうから、少し待っててね」


 そしてロゼは、嬉々として料理を作り始めた。


「疲れはどっかに吹っ飛んだみたいだな……」

『そうみたいですね……』


 俺はその様子を若干呆れつつ眺め――


「それで、さっきの俺が手伝うことって何だ? 『ミラージュエント』の討伐を手伝うだけじゃなかったのか?」


 少なくとも、『リーン』に聞いたのはそれだけだ。


『はい。直接手伝ってもらうのは討伐だけですが、ロゼさんが『転生』するためにリーン様を呼び出さなければなりません。そのためには、神域を創り上げなければならないのです』


 神殿に行けばそんなことをしなくても良いんですけどね――と付け足しながらラグが言った。


「それはわかったが、俺は何をすれば良いんだ?」

『神域を創るために鋼糸を利用したいので、その時に手伝ってもらいたいのです』

「そういうことか。わかった、手伝うよ」

「出来たわよ。食べましょう」


 ラグと話している内に料理が出来たようだ。


「お~、凄いな」


 やはり『転生』できるのが嬉しいのか、料理が豪華だ。


「ちょっと頑張りすぎたかしら……?」

「いや、美味そうだし、構わないよ」


 そんなことを話しながら料理を食べていった。


「そ、それじゃあ、さっそく……」


 2人とも食べ終わったところで、ロゼが待ち切れないように言った。

 本当は一息吐きたかったが、ロゼはソワソワしている。


「ラグ、始めよう。これ以上はロゼが待ち切れないみたいだ……」

『そうですね』

「もうっ、からかわないで!」

『それではマスター、【鋼糸形態】に変化します』

「わかった」


 ラグが鋼糸用の手甲に変化する。


『ロゼさんは部屋の中心に立って下さい』

「わかったわ」


 ロゼは部屋の中心に向かって歩いて行く。

 ロゼが部屋の中心に立ったので――


『それでは始めます。マスターは鋼糸を展開して下さい。鋼糸の制御は私がします。ロゼさんは動かないで下さいね』

「わかった」

「わかったわ」


 俺は鋼糸を展開し、制御はラグに任せる。

 ラグの制御する鋼糸が、ロゼを中心とした半径5mほどの半球状の複雑な紋章に編み上がっていく。

 そうして始めてから5分ほど経ち――


『紋章は完成しました。それではマスター、魔力を込めて紋章を起動して下さい』

「わかった。魔力はどのくらい込めれば良いんだ?」

『3万でお願いします』


 おい、俺のほぼ全魔力だぞ……


『今日はもう休むだけでしょう?それにロゼさんのためです』

「……わかったよ」


 この世界では魔力(MP)は精神力のようなものだ。

 一度に大量に消費すると、かなり疲れるのだ。

 文句を言っても仕方ないので、【魔力装填】で鋼糸に魔力を込める。

 すると紋章が輝き、発動する。


『またお会いしましたね、ディーン殿。そして――はじめまして、ロゼさん』


 紋章に囲まれている空間に『リーン』が現れた。


「あぁ、ロゼを『転生』させてやってくれ。頼んだぞ、リーン」

「宜しくお願いします、リーン様」

『わかりました。それではロゼさん、あなたの気持ちに偽りも、変わりもありませんね?』

「はい。ありません」

『それでは輪廻を司りし『リーン』の名において、『転生』を許可します』


 リーンがそう言うと、ロゼの足元に紋章が現れる。

 そして、その紋章が輝きながら上昇する。

 紋章はロゼの頭上まで上昇すると、消えた。


『終了しました。これでロゼさんは『ハイダークエルフ』です』


 ロゼの見た目は、ほとんど変化していない。

 敢えて言うなら、エルフの特徴の尖った耳が少し長くなっているくらいだ。


「どうだ、ロゼ? 体に変化は感じるか?」

「え、ええ。何かの枷が外れたような感じ……これが『転生』……」

『これでロゼさんは、これまで以上の力を手に入れられるでしょう。しかし、いきなり強くなる訳ではありませんので、お気をつけ下さい。それではディーン殿の魔力も尽きそうですので、この辺りで失礼します。ディーン殿、ラグナレク殿、ロゼさん、また機会があればお会いしましょう』


 そう言うと、リーンは光とともに消え去った。


「あいつは、唐突に消えるのが趣味なのか……?」


 確かに紋章の効果を持続させるために魔力を込め続けていたので、そろそろ魔力が尽きそうだが……


『ああいう方なので、気にしないで下さい』


 最初に会った時もあんな感じだったしな。

 そんなことを話しながら鋼糸を解除する。

 紋章が解けると、ロゼがこちらに歩いてきた。


「そうだ。ロゼ、ステータスを見せてくれ。」


 俺は歩いてきたロゼへ声をかけた。


「わかったわ」


 ロゼがステータスウィンドウを開く。



 Name:ロゼ

 種族:妖精族・ハイダークエルフ(転生1回)

 称号:森の賢者

 Lv:001/500

 HP:15000/30000

 MP:25000/30000

 SP:9500/15000

 STR:400/750

 DEX:700/1000

 VIT:500/750

 AGI:700/1000

 INT:1100/1500

 WIS:1100/1500

 スキルスロット:30/100



 種族がハイダークエルフになり、そして同種族への『転生』のボーナスとしてステータスも上がっている。


「凄いわね……『転生』しただけで、ステータスが上がってる……」

「だがリーンも言っていたように、急に強くなる訳じゃない。確かにそこら辺の冒険者や魔獣くらいは難なく倒せるが、この迷宮の魔獣はまだキツい。決して油断はするなよ?」

「わかったわ」

「それじゃあ、これを装備してくれ」


 俺はロゼが転生した後に装備させようと作っていた物を、インベントリから取り出しロゼへ渡す。

 金属のように硬い樹『結晶樹』に、各種のドラゴンの鱗を打ち付けた軽装鎧だ。

 『ダークエルフ』は鎧の類を装備できないが、『ハイダークエルフ』になれば軽装鎧の一部が装備できるようになる。


「ありがとう。大事にするわね」


 そう言って、ロゼは鎧を装備ウィンドウから装備する。


「どうだ? 動き難いとかはないか?」

「ええ、大丈夫よ」

「そうか。じゃあ、次はスキルを確認してくれ。俺の知識じゃ、確か『ハイダークエルフ』は上級精霊魔術と最上級闇属性魔術、それに特殊属性魔術も最上級まで使えたはずだ」


 ロゼがスキルを確認していく。


「ええ、使えるようになってるわね。だけど、上級精霊魔術と闇属性や特殊属性の最上級魔術は、魔術書が無いとほとんど使えないわね。上級精霊魔術をいくつかと、最上級魔術が1つ使えるけど……」


 ロゼのために、魔術書も用意しないといけないな。

 『火の精霊王』に会ったら、色々と魔導具ショップや迷宮に行ってみるか。


「それで、この『森の賢者』っていう称号は何だ?」

「私は知らないわ。だけど、『エルフ』や『ダークエルフ』は森の民と呼ばれているから、それと関係あるんじゃないかしら……」

『それは『ハイエルフ』や、『ハイダークエルフ』に与えられる称号ですね。その効果は、【採取】にさらにボーナスが付きます』


 ロゼは知らないようだったが、流石にラグは知っていた。


「へぇ~。それじゃあ、これからは採取はロゼに任せるか」

「ええ、任されたわ」


 それからしばらく話し、まだ寝るには少し早いので各々好きなことをしていた。

 ロゼは今日入手した、『精霊石』の鑑定をしている。

 そして俺は、【錬金】で『サンデュック』と『ファーシェ』をポーションにしていた。


「よし、出来た」


 『HPエクステンド・ポーション』を1つと、『スタミナポーション』を4つ作った。

 『ファーシェ』は以前入手していた物も使った。


「ロゼ、これを飲んでくれ」


 俺はロゼに『HPエクステンド・ポーション』を手渡す。


「わかったわ。……結構美味しいわね」


 『HPエクステンド・ポーション』はオレンジジュースのような味だ。


「これでHPの最大値が100増えたはずだ。後、これを渡しておくよ」


 俺は『スタミナポーション』を全部、ロゼに渡した。


「それを飲むとSPの回復速度が速くなるから、SPが減った時に飲んでくれ」

「ありがとう。でも、どうやって持っておこうかしら?」


 そういえばロゼの荷物も全部、俺のインベントリに入れているんだった。


「ザックを出そうか?」

『それよりも良い方法がありますよ』

「どんな方法なの、ラグ?」

『時空属性下級魔術『創造クリエイト』で異空間を創り、その中に仕舞っておけば良いのです。そうすれば、荷物にもなりませんしね』


 以前に、俺が野宿をしなくても良い方法を訊いた時の魔術だろう。


「それはロゼに使えるのか?」

『ええ、マスターのように巨大な空間を創ろうという訳ではないので、大丈夫ですよ』

「どういうことなの?」

『マスターは野宿が嫌で、『創造クリエイト』で創った異空間で寝泊まりしようとしているのですよ』

「…………」


 ロゼが呆れたような目で見てくる。


「……良いだろ、別に。ロゼだって、野宿よりはベッドで眠りたいだろう?」

「……それはそうだけど……」

『まあまあ、良いじゃないですか。今のマスターでは、そんなに巨大な空間は創れませんから。それよりも、今はロゼさんのことです。『創造クリエイト』を使ってみて下さい』

「わかったわ。魔力はどのくらい使えば良いの?」

『戦闘に必要なアイテムを仕舞うだけですから、5000ほどで充分ですよ』

「了解。それじゃあ――『創造クリエイト』」


 ロゼが魔術を使うと空間に裂け目ができ、そこにロゼから魔力が流れていく。

 そして10秒ほど経ち――


『空間が固定されました。『スタミナポーション』を入れてみて下さい』

「わかったわ」


 ロゼが異空間の中に『スタミナポーション』を入れる。

 すると、空間の裂け目が閉じた。


『アイテムを取り出したい時は、『解錠オープン』と唱えて下さい』

「『解錠オープン』」


 ロゼが唱えると、再び裂け目が現れる。

 俺とロゼは裂け目から、中の空間を覗き込む。

 一辺がおよそ2mほどの立方体の空間になっていて、底の方に『スタミナポーション』が4つあるのが見える。


「どうやって取るんだ、アレ?」

「……さあ? 少なくとも、私の手はあそこまで届くほど長くはないわ……」


 そんなことを話していると――


『手を入れて、取りたい物を思い浮かべて下さい』


 ロゼが言われたように、裂け目に手を入れる。

 そしてロゼが裂け目から手を引き抜くと、そこには『スタミナポーション』が握られていた。


「……これは便利ね」

「そうだな。機能もほとんどインベントリと変わらないな」

『インベントリと違って、時間は流れていますから食材などを入れておくと、普通に傷みますよ? ちなみに『解錠オープン』は魔力を使わないので、安心して下さい』

「そうか、わかった」


 ロゼは何が面白いのか、『スタミナポーション』を入れたり出したりして遊んでいる。


『そろそろ休みますか? 夜も更けてきましたし』


 『転生』や色々している内に、結構な時間が経ったようだ。


「そうだな。ロゼ、明日も早いし、遊んでないでそろそろ休もう」

「うっ……わかったわ」


 流石に恥ずかしかったのか、耳まで真っ赤だ。

 そうして、俺は『浄化ピュアリフィケイション』を使い、ロゼはさらに着替えをしてシュラフに潜り込んだ。


「明日中にこの森を抜ける予定だから、頑張ろう」

「そうね。『転生』もできたし、明日からはもっとディーンの力になってみせるわ」

『くれぐれも無理はしないで下さいね、ロゼさん』


 そんなことを話しながら、俺たちは眠りに就いた……




 『火の精霊王の迷宮』森林部 第4区画



『マスター、この区画から『炎狼』が出ますので、お気をつけ下さい』


 やはり出るのか……


「ロゼは『炎狼』と闘ったことはあるか?」

「ある訳ないでしょ……」

「だよなぁ。『炎狼』とはなるべく俺が闘うようにするが、ロゼも気をつけてくれ」

「わかったわ」

「それじゃあ、行こう」


 そうしてしばらく進んでいくと――


「魔獣だ。『ドゥルガン』がいるから、仲間を呼ばれる前に片付けるぞ」

「わかったわ。私は魔術で援護する」

「頼む。じゃあ、行くぞ」


 俺はロゼにそう言うと、左の魔導銃を抜きながら駆けた。

 『ドゥルガン』に魔導銃のアーツスキル『トライデント・ショット』を放つ。

 弾丸が途中で3つに分かれ、青く輝く弾丸の軌跡がまさに三つ又の槍のようだ。

 『ドゥルガン』は避けきれず、弾丸の1つに貫かれる。


「『ブラストハリケーン』」


 ロゼが直線状の風の渦を放ち、『ヘルウルフ』を含む魔獣5体を巻き込んでいく。

 俺はそれを横目で見ながら魔導銃を戻し、【縮地】で『ミラージュエント』の元へ跳ぶ。

 剣に【纏気術】で気を纏わせ、『ミラージュエント』を横に両断する。

 『キラーワスプ』を左の拳で砕き、すぐさま『デッドリィマンティス』を斬り裂く。


「『ウインドブレード』」


 ロゼの放った風の刃が『クリムゾンホーク』を斬り裂き、戦闘が終了する。


「さっきのは風属性上級魔術だな? 使うのは初めてなのに、使いこなせていたな」

「ええ、『ブラストハリケーン』はまだ扱いやすい魔術だから。ディーンを巻き込んでしまわないか、心配だったけど、上手くいって良かったわ」

「これからも援護を頼むよ。くれぐれも、俺を巻き込むなよ?」

「わかってるわよ。さっきのは冗談よ」

『そのくらいにして、先に進みませんか?』


 ラグの言葉に頷き、俺たちは『精霊石』を拾って先に進んでいった。




「来たぞ。『炎狼』だ。ロゼは離れていろ!! ラグ、【刀術形態】だ!!」

「わかったわ!!」


 俺はロゼの返事を聞きつつ、【縮地】で『炎狼』の元へ跳ぶ。

 『炎狼』は2匹いる。

 早めに倒さなければ、ロゼに危険が及ぶ。

 ロゼは『ブラストハリケーン』を放ち、他の魔獣たちを吹き飛ばす。

 俺は地面を左足で削りつつ、右脚で『炎狼』の1匹を蹴り飛ばす。

 もう1匹が俺に飛びかかり、右前足を叩きつけてくる。


「破ッ!!」


 それを刀で受け、左手で【格闘術】のアーツスキル『寸勁』を叩き込む。

 『炎狼』が吹き飛んでいくのを確認しつつ、飛びかかってきた『ヘルウルフ』を斬り裂く。

 吹き飛んだ『炎狼』が体勢を立て直す前に『炎狼』の元へと跳び、刀で首を刎ねる。


『マスター!! もう1匹が!!』


 その声で残った『炎狼』を確認すると、ロゼの方へ駆け出そうとしていた。


「チッ!! ラグ、【馬上槍ランス形態】!!」


 ラグが変化するのを確認しつつ、【纏気術】を使い馬上槍ランスに気を纏わせる。


「間に合え!!」


 すぐに馬上槍ランスを渾身の力で投げる。

 馬上槍ランスは途中にいた魔獣を貫き、さらには空気の壁すら突き破り、音速で『炎狼』へと迫る。

 今まさに、ロゼへと襲いかかろうとしていた『炎狼』に突き刺さり、そのままの勢いで『炎狼』ごと吹き飛んでいく。


「ロゼ、大丈夫か!?」

「ええ、大丈夫よ!!」


 見たところ怪我も無いようだ。


「良かった」


 俺はラグを投げてしまったので、【闘気術】で全身に気を纏い、残りの魔獣を殲滅していった……

 戦闘が終わり、ロゼがラグを拾って俺の方へと歩いてきた。

 ラグが重いのか、引き摺っている。


『酷いですよ、マスター。また私を投げるなんて……ロゼさんも地面に擦ってます』

「ごめんなさい。だってラグ、凄く重いのよ」

「許せ、ラグ。あの場合は仕方ないだろう? ロゼもすまない」

「助けてくれたし、怪我もして無いから気にしないで」


 俺はラグを受け取り、ロゼと共に『精霊石』や『精霊結晶』、『炎狼の肉』、『炎狼の毛皮』を拾って攻略を再開した。




 『火の精霊王の迷宮』森林部 第5区画



「ロゼ、『ミラージュエント』は頼んだぞ」


 『ミラージュエント』をロゼに任せ、俺は『炎狼』へと斬りかかった。


「わかったわ。――『フレイムランス』」


 ロゼが放った炎の槍が『ミラージュエント』に突き刺さり、燃やし尽くす。

 俺の攻撃は『炎狼』に躱されるが――


「予想済みだ」


 俺は『炎狼』の動きを予測し、左の魔導銃を撃ち込む。

 弾丸は見事に『炎狼』の眉間を撃ち貫く。

 それを見届け、もう1体の『ミラージュエント』へと跳び、から竹割りに両断する。

 俺を急襲してきた『クリムゾンホーク』を、ロゼの『シャドウブレード』が切り裂く。


「助かった」


 ロゼに礼を言い、飛びかかってきた『バウジーガ』を蹴り上げ、剣で貫く。

 そして『バウジーガ』が刺さったままの剣で、右から来た『メギドリザード』を斬り払い、左手に持ったままの魔導銃で『デッドリィマンティス』を撃ち貫く。

 そうしている内に、ロゼが『ブラストハリケーン』で残りの魔獣を吹き飛ばして戦闘は終わった。


「お、ラッキー。また『炎狼の肉』を落としてる」


 『精霊石』を拾い集めていると、『炎狼の肉』が落ちているのを見つけた。

 第4、第5区画を合わせると、これで10個目だ。


『これで、ステータスの強化が大分楽になりますね』

「どういうこと……?」

「ん? ロゼは『炎狼の肉』を食べたことないのか?」

「当然でしょ。見たのも今日が初めてなんだから」


 そういえば、そうだったな。


「こいつを料理に使って食べると、AGIが5上がるんだ。しかも、美味い」

「へぇ~、それは楽しみだわ」


 そんなことを話している内に拾い終わったので、先に進むことにする。

 この区画も大分攻略したので、そろそろ森を抜けるはずだ。


「ラグ、この森にはやっぱり『番人』がいるのか?」


 俺は歩きながらラグに訊く。


『はい。『ブラッディ・デスベア』とその取り巻きの『クリムゾンベア』がいますよ』

「そうか。わかった」

「聞いたことがない魔獣だけど、どんな奴なの?」

「『ブラッディ・デスベア』は体長5mくらいの赤くてでかい熊だ。そして、『クリムゾンベア』はそれより少し小さい3mほどの赤い熊だ」

『ちなみに『ブラッディ・デスベア』は『炎皇狼』や『フレイムドラゴン』よりは弱いですが、『神獣』です。当然、『炎狼』より強いですよ』


 ロゼの顔が真っ青になっている。

 『炎狼』より強いと聞かされれば、当然か……


「ラグ、脅すようなことを言うんじゃない。心配するな、ロゼ。『ブラッディ・デスベア』の相手は俺がするし、こいつの動きは速くない。ロゼは取り敢えず、『クリムゾンベア』を倒してくれ。こいつも動きは遅いから、遠距離から魔術で攻撃すれば大丈夫だ」

「……わかったわ。やってみる」

「その意気だ。ただし一撃の威力はかなりあるから、決して近づくなよ?」

「気をつけるわ」

「よし、じゃあ行こう。そろそろ『番人』がいるはずだ」


 そんな話をしながら俺たちは攻略を進めていった。




「ここだ。ロゼは『スタミナポーション』を飲んでおけよ」


 あれから何度か戦闘をした後、俺たちは『番人』の待つ広場へと辿り着いた。


「わかったわ」


 ロゼは異空間を開き、ポーションを取り出して飲んでいる。

 その間に俺は広場を覗き――


「お~、いるいる」


 血のように紅い『ブラッディ・デスベア』と、赤い『クリムゾンベア』が5匹うろついている。


『あの数の『クリムゾンベア』なら、ロゼさんでも何とかなりますね』

「そうだな。ロゼには『クリムゾンベア』を殲滅した後、俺の援護をしてもらうか」


 そんなことをラグと話している内に、ロゼの準備が済んだようだ。


「準備は良いか、ロゼ?」

「ええ」

「ロゼは『クリムゾンベア』を殲滅した後、俺が合図したら『ブラッディ・デスベア』に最大威力で魔術を叩き込んでくれ」

「わかったわ」

「それじゃあ――いくぞ、ロゼ、ラグ!!」

「了解」

『了解しました』


 そうして俺たちは広場へと駆け出した。


『GOAAA!!』


 俺たちに気づいた『ブラッディ・デスベア』が吼え、その声に反応した『クリムゾンベア』たちが一斉に俺たちの方を向く。


「『ブラストハリケーン』」


 ロゼの放った風の渦が俺の横を通り過ぎ、『クリムゾンベア』の1匹を切り裂きながら吹き飛ばす。


「ラグ、【斬馬剣グレートソード形態】」


 俺はラグを変化させながら別の『クリムゾンベア』へと【縮地】で跳び、頭から一刀両断にする。

 すぐさま、斬馬剣グレートソードを頭上に掲げ――


 『ガキィ!!』


 『ブラッディ・デスベア』が振り下ろした右手の鋭い爪を受け止め、後ろへと跳ぶ。

 刹那、俺のいた空間をもう1本の右腕が切り裂いていく。


「相変わらず、面倒臭い攻撃だな……」


 俺は『ブラッディ・デスベア』の攻撃を躱しつつ、呟く。

 『ブラッディ・デスベア』は2対4本の腕を持っているので、連続で攻撃して来るのが厄介だ。

 動きはそれほど速くないので、躱すこと自体は難しくないのだが……

 俺はそんなことを考えながら『クリムゾンベア』を確認すると残り2体まで減っていた。

 あれからさらに、ロゼが1体屠ったようだ。


「俺も負けていられないな」


 そう言いつつ、『ブラッディ・デスベア』の左腕の片方を斬り飛ばす。

 狂ったように振り回される3本の腕を躱しながら、途中邪魔だった『クリムゾンベア』を気を纏わせた蹴りで砕く。

 それと同時に、ロゼの放った『ダークニードル』が最後の『クリムゾンベア』を貫く。


「ロゼ、魔術の準備をしておいてくれ!!」


 俺は『ブラッディ・デスベア』の攻撃を躱しながら、ロゼに魔術の準備を頼む。


「わかったわ!! 5秒ちょうだい!!」


 ロゼはそう応え、呪文の詠唱に入る。


「……出でよ、全てを貫きし禍々しき漆黒の槍よ……」


 俺はロゼの詠唱を聞きながら、『ブラッディ・デスベア』の右腕を1本斬り飛ばす。


「準備できたわ!!」


 ロゼの方を見ると、ロゼの左手に漆黒の槍が握られている。


「合図をしたら、放て!!」

「わかったわ!!」


 俺は『ブラッディ・デスベア』の攻撃を躱しながら隙を探す。

 今だ!!

 俺は『アイギス』に魔力を込め、発生した障壁を『ブラッディ・デスベア』に叩きつける。

 盾を使った唯一のアーツスキル『シールド・バッシュ』だ。

 この技は攻撃力は皆無だが、敵を数秒間だが気絶スタン状態にできる。

 『ブラッディ・デスベア』が気絶スタン状態になり、動きが止まる。


「ロゼ、今だ!!」


 すかさず俺はロゼに合図を出す。


「我が前に立ち塞がりし敵を穿て、『デモンズ・スピア』!!」


 ロゼが左手に持った漆黒の槍を投げ放つ。

 槍が闇の粒子の尾を引きつつ、凄まじい速度で『ブラッディ・デスベア』に迫る。

 俺は巻き込まれないよう、即座に跳び離れる。

 刹那、漆黒の槍が『ブラッディ・デスベア』に突き刺さり、凄まじい爆発が起こる。

 俺はその衝撃波に耐えつつ、『ブラッディ・デスベア』の方を見る。


「…流石は最上級魔術だな」


 『ブラッディ・デスベア』は跡形も無く消し飛んでいた。

 俺はロゼの方へと歩きながら声をかけた。


「大丈夫か、ロゼ?」


 ロゼは今にも倒れそうなほど疲弊している。


「……流石にもう無理……魔力が尽きたわ……」


 上級魔術を連発していたし、最後の魔術は闇属性最上級滅殺魔術だ。

 最初から使える最上級魔術だが、あの威力だ。

 改めて最上級魔術の凄さが実感できる。


「今日はこの先のセーフルームで休もう。『精霊石』を拾ってくるから、しばらく休んでいてくれ」


 俺がそう言うとロゼは声を出すのも怠いのか、頷いてその場に座り込んだ。

 その様子を眺めながら『精霊石』を拾い集める。

 『クリムゾンベア』は『精霊結晶』と『紅熊こうゆうの爪』や『紅熊の肉』を落としている。

 そして、『ブラッディ・デスベア』は『精霊結晶』と『死紅熊の肉』を落としていた。


「おっ、ついてるな。食材を落としてる」


 『紅熊の肉』はVITが5、『死紅熊の肉』はSTRが5、VITが10上がる食材だ。

 少しクセのある味だが、美味いのでロゼも気に入ってくれるだろう。

 そんなことを考えている内に拾い終わったので、ロゼのところへ戻る。


「もう行けるか? 何なら背負ってやるぞ?」

「それじゃあ、お願いするわ」


 冗談のつもりだったんだが……

 仕方ない、今更冗談だとも言いづらいしな。

 そしてロゼを背負い、俺はセーフルームへと歩いていった……




 広場を抜け、少し歩くとセーフルームに着いた。


「今日は俺が食事を作るよ。ロゼはその間、レベルアップしているだろうから、ポイントを振り分けていてくれ」

「わかったわ。どのステータスに振り分ければ良いの?」

「取り敢えずHP、SP、STR、VITを優先してくれ」

「HPとSPはわかるけど、STRやVITは魔術を使う私には、あまり関係がないわよ?」


 まぁ普通なら、MPやINT、WISに入れるだろうな。


「関係なくはないさ。STRが500を超えれば、金属製の武具を一部だが装備できるようになるし、VITが上がればSPの消費量が減るから、迷宮の攻略が楽になる」

「そうだったの……わかったわ」


 確かにMPやINTも必要だが、今のところ装備で補えているので後回しだ。


「それじゃあ料理を作ってるから、どれに入れるか迷ったら訊きに来てくれ」


 俺はそう言うと料理の準備を始めた。

 今日は『死紅熊の肉』を使った鍋を作ることにする。


「STRやVITが上がるし、ちょうど良いだろう」


 俺は鍋に肉や野菜を切って放り込み、水と調味料を入れて煮込んでいく。

 灰汁を取りながら鍋を見ていると――


「見て見て、こんなにレベルが上がってるー!!」


 ロゼが嬉しそうに飛び跳ねながら俺の所へやって来て、ステータスウィンドウを見せてくる。

 そう言われて見ない訳にもいかず、ウィンドウを見てみると――


「お~。流石にあれだけ闘えば、かなりレベルが上がったな」


 ロゼのレベルは26になっていた。

 今日だけで25も上がっている。

 『ブラッディ・デスベア』にとどめを刺したのが、大きいようだ。


「でしょう!?」

「それでロゼ、ポイントの振り分けは終わったのか?」

「あっ……」


 まぁわかってはいたが、終わっていなかったようだ。


「料理も出来たし、後で一緒にやろう」


 俺は苦笑しながらロゼに言った。


「ご、ごめん」

「気にするな。さぁ、食べよう」

〈ロゼって偶に、リリアと同じくらいの歳に見えるよな……〉

『まぁ、それだけ嬉しかったのでしょう』


 そう言って俺たちは鍋を食べ始めたが――


「……ねぇ、これって何の肉? 美味しいけど、食べたことがないんだけど……」

「ん? あぁ、『ブラッディ・デスベア』の肉だ。ちょっとクセがあるけど美味いし、STRが5、VITも10上がる」


 俺は『死紅熊の肉』を齧りながら答えた。


「…………まぁ、美味しいし、ステータスも上がるなら……」


 ロゼは一瞬何とも言えない顔をしたが、再び食べ始めた。

 そうしてしばらくすると2人とも食べ終わったので、ロゼのステータスにポイントを振り分けていく。

 今回、ロゼはレベルが25上がったので、使えるポイントは250ポイントだ。


「それで、どうするの?」

「そうだな……じゃあ、HPとSPに50、STRに130、VITに残りの20を振り分けてくれ」

「わかったわ」


 ロゼが俺の言った通りにポイントを入れていく。

 これでロゼのステータスはHPが20100、SPが13000になり、料理で上がった分も含めるとSTRが502、VITは525となった。


「これで、明日からの攻略がずいぶん楽になるはずだ。今は金属製の武具は用意できないから、『火の精霊王』に会うまで我慢してくれ」

「わかったわ。でも今の装備でも充分凄いから、新しく作らなくても構わないわよ?」

「まぁ、俺も色々考えてるのさ。決まったら、ロゼにも言うよ」

「……? わかったわ」

「それじゃあ、明日からは後半の火山を攻略していくことになる。それに備えて少し早いが、今日はもう休もう」

「そうね。そうしましょう」


 そうして俺たちは寝る準備をし、シュラフに潜り込んだ。


『マスター、先程の話はロゼさんの武器のことですか?』


 ラグが俺だけに話しかけてきた。


〈あぁ、そうだ〉


 俺はロゼが『転生』してから、ロゼの武器をどうするかを考えていた。


〈ラグも一緒に考えてもらうから、そのつもりでな〉

『わかりました』


 そんなことを話しながら眠りに落ちていった……



 俺たちの前には、火山の奥へと続く洞窟が口を開けていた。


「これが、後半の『迷宮型ダンジョン』の火山への入り口だ。」

「ここが……」

『中には、強力な魔獣がうろついています。2人とも、気をつけて下さい』

「わかったわ」


 ロゼがラグの言葉に頷く。


「よし、それじゃあ行こう」


 そう言って、俺たちは洞窟の奥へと進んでいった……

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