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竜殺しの英雄  作者: しんや
第1章 『火の精霊王』
4/22

第4話 『桜花』、そして『炎竜の迷宮』へ

『おはようございます、マスター』

「おはよう、ラグ」

『準備はお済みですか?』

「あぁ、できてるよ」


 俺はもう一度ざっと装備を確認した。

 前に作ったシャツとズボンを着て、シャツの上から昨日作った鎧を着け、その上に外套を羽織っている。

 さらにラグを納めた鞘は、腰に吊るすと地面に擦るので背中に背負っている。

 ラグの鞘は、ラグと同じような少し青みがかった白銀の金属製だ。

 剣を抜く時は流石に上に抜くのはキツイので、少し力を入れて横にスライドさせれば抜くことのできる構造になっている。

 ちなみ、納める時は上からでも横からでも納めることができる。

 腰の後ろには2丁の魔導銃を留め具で留めている。

 この魔導銃は以前『VLO』で使っていた物より、遥かに強力な物になっている。

 そして、ズボンのベルトの右側にはスローイングダガーのホルダーを、左側には多目的ナイフ(カテゴリーの【短剣ナイフ】とは違うもの)のホルダーを着けている。


「特に問題ないな」


 そう言いながら、俺は剣の滑り止めの目的で着けている指貫きのレザーグローブを、ギュっとした。


「じゃあ、行くか」


 あまりジェラルドさん達を待たせる訳にもいかない。




 村の出口までジェラルドさん達が見送ってくれていた。

 クラッドのおっさんまで来ている。


「はい、これ。お昼に食べてね」


 ソファラさんがサンドイッチをくれた。


「ありがとうございます」

「ディーン君、くれぐれも無理はしないで下さい」

「いつでも帰ってきて下さいね、ディーンさん」

「死ぬんじゃねぇぞ、小僧」


 リリアの目が潤んでいたので、頭をポンポンと撫でてやりながら――


「必ず、また来ます」


 ――と俺は言った。


『マスター、そろそろ……』

〈そうだな〉

「それじゃあ、俺はそろそろ行きます。お世話になりました」


 そう言って、俺は踵を返して村の外に歩き出した。




「それでラグ、次は『桜花』だったな?」


 俺は歩きながらラグに尋ねた。


『はい。マスターのギルド登録のために、『桜花』に行きましょう。『迷宮』にも近いですしね』


 『桜花』はこの国『桜花』の首都だ。(ややこしいな……)

 冒険者ギルドはそれなりの規模の街にはあるが(ウィプル村には無かった)、ギルド登録はその国の首都にあるギルド本部でしかできない。


「『桜花』にはどのくらいで着きそうだ?」

『マスターなら全力を出して走れば、30分くらいで到着しますよ?』

「できるか!! そんなことをしたら、衝撃波で周りが滅茶苦茶になるだろう」


 【加速】の限界倍速の10倍速で走れば早く到着はできるだろうが、発生する衝撃波で周りは滅茶苦茶になる。

 それに人がいたら洒落にならない。

 戦闘ではそれを利用することもあるが……


「そうじゃなくて、普通に歩けばってことだ」

『そうですね……昼過ぎには着くでしょう』

「そうか」


 それにしても、お約束だとこういうのは、隣に可愛い女の子がいるはずなんだがな……


『……リリアを連れて来れば良かったのでは?』

「そんなことしたら、ジェラルドさんと、何よりソファラさんに殺されるよ……っていうか冗談だよ。流石にまだ他人の命を預かる気はしないよ」

『そうですか……』


 そんなことを話しながら、俺たちは『桜花』への道を歩いていった……




「で、あれは何だ?」


 まだ距離はかなりあるが、2mはあるでかい蛾がこちらに向かって飛んでくる。

 【遠見】のExスキル【鷹の目(ホークアイ)】を起動しつつ、ラグに尋ねた。


『キングモスですね。マスターも知っているはずですが』


 やっぱりな。

 そうだとは思ったが、一応確認しておいた。

 『キングモス』は見た目はでかい蛾で、撒き散らす鱗紛には色々な毒を含んでいる厄介な魔獣だ。


「でも、こんなところにいる奴じゃなかったと思うが……」

『確かに珍しいですね……『アーリグリフ』から飛んできたのでしょうか?』


 『アーリグリフ』は『魔族』の国で、この国の南東にある国だ。


「そうかもな。だが、どうする? 放っておいて良いもんじゃないだろ?」

『そうですね。『キングモス』は比較的強力な部類の魔獣ですので、余計な被害をもたらす前に、ここで始末してしまいましょう』

「そうだな。あの見た目じゃ、罪悪感も感じないしな」


 動物型の魔獣よりは抵抗も少ない。(何といっても所詮虫だ)

 それにあいつの進行方向の先には『ウィプル村』がある。

 放っておく訳にはいかない。


「ラグ、【狙撃形態】になってくれ」

『了解しました、マスター』


 【狙撃形態】は、ラグを『対物魔導狙撃銃』の形状に変化させるためのものだ。

 ラグが光の粒子に変化し、目の前に集まってくる。

 そして、2秒ほどして1丁の長大な魔導狙撃銃が俺の両手の中にあった。

 全長は1.5mほどで、白銀に輝いている。


「流石に他の形態に比べると、時間がかかるな」

『はい。どうしても『魔導銃』のような、複雑な機構の物は時間がかかってしまうのです……申し訳ありません……』

「別に責めてはいないさ。それにこんな物、通常の戦闘では滅多に使わないしな。気にするな」


 俺はそう言いながら、【鷹の目(ホークアイ)】を停止し魔導狙撃銃のスコープを覗き込む。

 発射時の反動はほとんどないので、立ったままだ。


「サポートは任せたぞ、ラグ」

『わかりました。お任せ下さい、マスター』


 本来は風向きなどを計算しなければならないが、その辺りのことはラグに任せる。


『弾種はどうされますか、マスター?』

「『貫通弾ピアシングシェル』だ」


 魔導狙撃銃では『通常弾』、『炸裂弾バーストシェル』、そして『貫通弾ピアシングシェル』の3種類の弾丸を撃ち分けることができる。

 『貫通弾ピアシングシェル』は『通常弾』よりさらに貫通力を増した、ニードル状の弾丸を放つことができる。

 その貫通力はほとんどの防具や、『魔導盾マジックシールド』の障壁を無力化する。

 しかしその反面、1発撃つごとに20秒の『待ち時間(ディレイ)』があり、連射はできない。

 しかも、『対物魔導狙撃銃』では最低でも魔力(MP)を3000も込めなくてはいけない。(『魔導狙撃銃』は2000)

 俺でも10発撃てば魔力(MP)は空っぽになる。(まぁ、『待ち時間(ディレイ)』の間にいくらかは回復するが……)

 そして、魔導狙撃銃に魔力を込める。

 普通は銃身に埋め込まれた『精霊結晶』に込めるのだが、この魔導狙撃銃はラグの宝玉がその役割をしている。

 魔力は念のため、4000ほど込める。

 スコープの中の視界はラグが解析した情報が反映されている。

 俺は息を止め、手の震えが収まった瞬間に引き金を引いた。


 『ドッ!!』


 次の瞬間、発射音とともに弾丸が射出され、『キングモス』が下にある森の中へ墜落していく。


「よし!! 命中したみたいだな」


 俺は【魔導狙撃銃】もマスターしているが、それでも外れる時は外れる。


『落下地点に行ってみましょう、マスター』

「そうだな」


 事前に周りに人がいないことは確認しているので(色々見られると面倒だからだ)、誰かの上に落ちたということはないが、『キングモス』の生死は確認しておかなければならない。

 俺はラグを【通常形態】に戻しつつ、落下地点に向かって歩き出した。




 森の中をしばらく歩いた所で、『キングモス』を発見した。

 『キングモス』はまだ死んでいなかったが、ピクピクしているだけなので時間の問題だろう。


「相変わらず、昆虫系はしぶといな……」


 頭の先から胴体の半ばまで貫かれているのに生きているのが、その証拠だ。


『マスター、とどめを刺しますか?』

「う~ん、その内死ぬだろう。放っておこう」


 たかが虫といえど、流石にそれは可哀相な気がした。(それに面倒臭いし)


『そうですか。それと気づいているとは思いますが、この世界では魔獣を倒してもドロップアイテムなどはありません』

「そうだろうな。あの狼を殺した後、インベントリを見たがそれらしい物は何も無かったからな」

『この世界では魔獣を殺した後、素材などを得るためには、魔獣から直接剥ぎ取らなければなりません』


 爪や角などはまだ良いが、毛皮を剥ぎ取るところを想像すると流石にエグイな……

 しかし、そうしなければ素材が手に入らないのならば仕方がない。

 確か『キングモス』の素材になる箇所は、『羽』だったはずだ。

 『キングモスの羽』から採れる『鱗紛』は、各種解毒剤の調合――【錬金】を用いて薬を作ること――に必要な素材の1つだ。


「じゃあ、『羽』を貰っていくか」

『マスター、ついでに『触角』もお願いします。『キングモス』の『討伐証明部位』になっていますので。もしかすれば、『桜花』のギルドに討伐依頼が出ているかもしれません』

「そういうことなら触角も取るか。依頼が出てれば、報酬を貰えるかもしれないし」


 そう言って俺はラグを鞘から抜きつつ、『キングモス』に近づいていった。

 すると――


『……マスター、何をしているのですか……?』


 ――とラグが意味のわからないことを言った。


「いや、何って……羽と触角を切り取ろうとしているんだが」

『なら、何故私を鞘から抜くのですか? マスターの腰にナイフがあるじゃないですか。そちらを使って下さい』

だよ!! このナイフは果物の皮を剥いたりするための物だ。剥ぎ取りになんか使えるか」

『私だって、こんな雑用をするための物ではないのです』

「……わかったよ。ナイフでやるよ。意外と我が儘だな……」

『我が儘ではないのです。プライドの問題です』

「わかった、わかったから……」


 『桜花』に着いたら、もう1本ナイフを買おう……

 そう心に決めてラグを鞘に納め、代わりに多目的ナイフを引き抜き、ため息を吐きながら剥ぎ取りを始めた……




「おっ、見えてきたな」


 『キングモス』の剥ぎ取りを終えた後、昼食を食べ、しばらく歩くと『桜花』が見えてきた。

 ちなみに、『キングモス』の素材はインベントリに入れてある。


『予定よりは少し遅れましたが、夕方までには到着できそうですね』


 『キングモス』との戦闘などがあったので、その分遅れたが問題はなさそうだ。

 俺は気になっていたことをラグに尋ねてみた。


「なぁラグ、やっぱり『桜花』には『アレ』があるのか?」

『あれ…? あぁ、『アレ』ですか。当然ありますよ。『桜花』の由来ですし』

「あるのか!! それは楽しみだ」


 俺は少し歩くスピードを速めながら、『桜花』に向かって進んでいった……




「やっぱり、いつ見ても壮観だなぁ~」


 俺は、『桜花』の街並みを眺めながら感嘆した。

 その理由は『桜花』の名にあるように、街中の至る所に桜の木が植えてあるのだ。

 しかもこの桜、どういう原理かわからないが常に満開だ。

 これだけでも充分美しい光景だが、俺が感嘆した最大の理由は桜の花弁の色だ。

 ここの桜の花弁は普通のピンク色だけではなく、実に様々な色がある。

 しかしその色が原色なら、とても見れたものではないが、その花弁の色は淡いパステルカラーなので長時間見ていても目は疲れない。

 様々な色の花弁が宙を舞う光景は、一見の価値がある美しいものだ。

 『VLO』でも、多くのプレイヤーがこの光景を一目見ようと訪れていたものだ。


「何度見ても美しい光景だ……」


 俺が桜に見惚れていると……


『マスター、そろそろギルドに行きましょう』


 ラグに注意された……


〈風情のわからない奴だな……〉


 ここにはもう周りに人がいるので怪しまれないように、心の中で呟いた。


『私でも風情くらいわかります。ここはいつ来ても満開でしょう。それよりもギルドに行くのが先です』

〈それはそうなんだがな……〉


 まぁ、仕方がない。

 ラグの言う通りなので、ギルドに行くとしよう。


〈じゃあ、行くか〉

『はい、行きましょう。ギルドは街の中心部にあります』


 それから、俺たちは街の中心部に向かって歩いていった。

 街並みを眺めながら、しばらく歩いていると冒険者ギルドが見えてきた。

 冒険者ギルドの建物は本部だからかなのか、2階建ての結構大きな建物だ。

 表には冒険者ギルドを表す、2本の剣が交差したデザインの看板がある。

 デザインは『VLO』と同じだなぁと思いながらドアを開け、建物の中に入っていく。

 中には冒険者らしき多くの人がいて、一瞬注目されたが視線はすぐに外れていく。


『登録を済ませてしまいましょう、マスター』

〈そうだな。登録受付は……あそこか〉


 いくつか並んでいる受付の中から、登録受付を探し出す。

 受付の上に大きく『登録』と書かれているし、他の受付に比べ人が少ないので、すぐにわかった。

 ちなみに、文字は見たことのない物だったが、何故か理解できた。

 まぁ、あいつ(ディオス)のおかげ(?)だ。

 登録をするために列に並ぶ。


〈ラグ、登録をする際に何か注意することはあるか?〉

『文字も読めますし、書けますので特にないでしょう。あっ、名前は『ディーン』でお願いします。出身地は書かなくても良いので、空欄で大丈夫です』


 出身地を書かなくても良いのは助かる。

 何て書けば良いか、わからない。

 いざとなれば、『ウィプル村』と書こうと思っていたのだ。


「次の方どうぞ。お待たせしました」


 ラグと話している内に俺の番が来たようだ。


「ギルド登録をお願いします」


 受付は『人族』の女性で可愛い感じのお姉さんだ。


「それでは、こちらの用紙に記入をお願いします。出身地は空欄でも結構ですが、他の項目は後々虚偽だと判明した場合は罰せられる可能性がありますので、気をつけて下さい。文字は書けますか? もし書けないようでしたら代筆致します」

「わかりました。文字は書けますので、用紙をお願いします」


 用紙をもらった俺は名前を始め、種族などの項目を埋めていく。

 書き終わったので、受付のお姉さんに用紙を返す。


「もう一度確認しておきますが、虚偽はありませんね?」

「ありません」


 実際に嘘は書いていないので、そう答える。


「わかりました。それではこの『精霊結晶』に血液を1滴で良いので垂らして下さい。それであなた専用のギルドカードが出来上がります」

「わかりました」


 俺は腰のスローイングダガーを引き抜き、左手の人差し指を少し切り、血を1滴『精霊結晶』に垂らした。(ナイフを使うのは少し気が引けた……)


「ありがとうございます。こちらの布をお使い下さい」

「構いませんよ。このくらい、すぐ治ります」

「わかりました。それではギルドカードを作りますので、あちらで少々お待ち下さい」


 そう言ってお姉さんは椅子の並んでいる方を示し、俺の記入した用紙と『精霊結晶』を別のギルド職員に渡した。


「わかりました」


 俺はお姉さんに言われた方に行き、椅子に座ろうとしたが――


『マスター、その前に『キングモス』の討伐依頼が出ているか、確認しておきませんか?』

〈それもそうだな、ただ待つのも退屈だし〉


 依頼が貼り出されているボードの前にやって来た。


〈色々な依頼があるな〉


 『VLO』にも色々なクエストがあったが、これは同じくらいに多い。

 討伐依頼を始め、採取依頼、護衛依頼と色々ある。

 そんな多数ある依頼の中から、『キングモス』の討伐依頼を探していく。


〈う~ん、無いなぁ~〉


 討伐依頼が貼り出されている箇所を見ていくが、『キングモス』の討伐依頼は出ていない。


『出ていないものは、仕方がありませんね。素材はギルドでも買い取ってもらえるので、後で買い取ってもらいましょう』

〈そうだな。俺に解毒剤は必要ないし、このままじゃ宿屋に泊る金も無いしな〉


 こちらに来る前に金は、デスぺナでほとんど失っている。


『私は野宿でも構いませんけどね』

〈俺が嫌だ〉


 どうしようもない場合は野宿もするが、なるべくならベッドで寝たい。


『まぁ素材を買い取ってもらえれば、宿屋に泊るお金くらいにはなるでしょう』

〈そう願うよ〉


「ディーン様。カードが出来上がりましたので、受付までお越し下さい」


 依頼を見たり、ラグと話している間にカードが出来たようだ。

 カードを受け取るために、再び登録受付に行く。


「お待たせしました。こちらが、あなた専用のギルドカードになります。依頼を受ける時や報告時、ランクアップ時に必要になりますので、失くさないようにして下さい。紛失された場合はどのような理由でも、再発行時には20000ティルを頂きます。これについては、異議申し立ては受け付けませんのでご了承ください」

「わかりました」


 まぁインベントリに入れておけば、失くすことも盗まれることもないだろう。


「ランクアップについての説明は必要ですか?」

〈ラグ、ランクアップは『VLO』と同じか?〉

『はい、同じです。他のことも大体は同じです』

「大丈夫です。知ってますから」

「そうですか。他に質問はございますか?」


 全部知っているが、それも少し変に思われるかもしれないので、少し質問しておく。


「依頼は、自分のランクより2つ上のランクまで受けられるはずでしたよね?」

「はい、その通りです。ただし、失敗した場合は違約金が発生します。さらに、依頼のランクに関わらず3回失敗されますと冒険者資格を剥奪され、その後2年間はギルド登録はできませんので、お気をつけく下さい」

「わかりました。気をつけます」

「ディーン様は登録したばかりですのでランクは『C-(Cマイナス)』となり、受けることができる依頼はランク『C+(Cプラス)』までとなりますので、宜しくお願いします。他には何かありますか?」

「もう大丈夫です。あっ、後、素材を買い取ってもらいたいのですが、何処に行けば良いですか?」


 『キングモス』の素材を買い取ってもらいたいので、買い取りをしている場所を聞いておく。


「素材をお持ちなのですか? わかりました。あちらの買い取り受付に行き、職員の指示に従って下さい」

「わかりました。ありがとうございます」


 俺はお姉さんに言われたように、買い取り受付に行った。

 俺がギルドに来た時はかなりの人が並んでいたが、今はほとんどいない。

 買い取り受付にいたのは、眼鏡をかけたかなり美人の『ダークエルフ』のお姉さんだった……

 少し性格はキツそうだが、かなりの美人だ……


『……何故、2回言ったのですか?』


 ラグの声で正気に戻った。

 見惚れてしまっていたようだ……

 それにしても綺麗な女性ひとだ……


『しっかりして下さい、マスター!!』


 い、いかん、また見惚れてしまっていた。


『本当にしっかりして下さい……』

「そ、素材を買い取ってもらいたいのですが……」


 少しどもってしまった。


「わかりました。では、こちらにどうぞ」


 『ダークエルフ』のお姉さんは特に気にした様子もなく、俺を近くにある部屋に案内した。

 部屋に入るとお姉さんがマスクを着けて――


「それでは、素材を出していただけますか?」


 ――と言った。

 マスクを着けたのは、素材の中にはこの『キングモスの羽』のように毒を持つ物もあるからだろう。

 まぁ、俺には関係ないが。


「はい。これです」


 俺はインベントリから『キングモスの羽』を取り出し、台の上に置いた。


「ッ!? 『キングモスの羽』ですか……これを何処で?」

「……? 『桜花』に来る途中に見かけたので始末したんですが……何かまずかったですか……?」

「いえ、そういう訳ではないのですが……ディーン様は、先程登録をされたばかりですよね? 『キングモス』は、成り立ての冒険者が勝てる魔獣ではないので……ディーン様は、何処かで戦闘訓練を受けたことがあるのですか?」

〈どうする、ラグ? 『来訪者』だと言ってしまっても良いのか?〉

『微妙なところですね……適当にはぐらかしても構わないですが、ギルドに不信感を持たれると後々各国を旅するのに不都合があります。かと言って『来訪者』だと明かしてしまうと、色々面倒なことになるかもしれません』

「そういえば、さっき『キングモスの羽』を出した時も……」


 俺がラグと話している間に、お姉さんは1人で呟きながら何やら考えている……


〈本当にどうする? このお姉さん、自力で俺が『来訪者』ということに辿り着きそうなんだけど……〉

『マスターにお任せします……』

〈おいっ、そんなこと言うなよ。一緒に考えてくれよ〉

『…………』

〈無視するな!!〉

「ディーン様、少しこちらでお待ちいただけますか?」

「はい……」


 そう言って、お姉さんは部屋から出て行った。

 何かもう色々バレてるみたいだ……




 それからしばらく部屋で待っていると、お姉さんが戻ってきた。


「ギルドマスターがお呼びですので、一緒に来ていただけますか。『キングモスの羽』はそのまま置いていってもらって構いません。それと討伐証明部位の『触角』もお持ちでしたら、置いていって下さい。一緒に鑑定しますので」

「わかりました」


 俺はインベントリから触角を取り出し、『キングモスの羽』の隣に置いた。


「……やはりそれは『インベントリ』なのですね?」

「はい、そうです」


 もう俺が『来訪者』とバレている様子なので、言ってしまっても良いだろう。


「そうですか……それでは行きましょう。」


 お姉さんは部屋から出ると、別の職員に鑑定を頼み2階へと続く階段の方へ歩いていった。

 俺はお姉さんについて行きつつ――


〈ラグ、さっきバレると面倒なことになるって言ったよな? あれはどういうことだ?〉


 ――とラグに尋ねた。


『以前にも言いましたが『来訪者』たちは皆、この世界の人間に比べ強大な力を持っていました。なので、色々と厄介な依頼をされる可能性があります。全員が悪意を持っている訳ではないですが、注意はしておいた方が良いでしょう』

〈そういうことか。精々気をつけるとしよう〉


 ここまで来たら、誤魔化すのはもう無理だ。


「ここがギルドマスターのお部屋です。ギルドマスターは中でお待ちなので、入って下さい」


 ラグと話している間に着いたらしい。


「わかりました」


 お姉さんの後に続いて部屋に入る。

 部屋の中には、『亜人族』の内の『獣人族』の1種族『獅子族』の老人がいた。

 『獅子族』の外見的特徴である、たてがみのような髪が真っ白なので間違いないだろう。

 しかし、衰えた感じはまるでなく、気押されそうな威圧感だ。

 じーさんや高弟の人達と同じ気配がする。

 正直、勝てる気がしない。


「お主がディーンか?」

「はい、そうです」

「儂は『アドル』。このギルドのギルドマスターじゃ。お主のことは『ロゼ』から聞いておるが、『来訪者』というのはまことか?」


 『ロゼ』というのは『ダークエルフ』のお姉さんのことか。


「はい。本当のことです。俺は確かに『来訪者』です」

「……そうか。話を聞かせてもらっても良いかの?」

「わかりました」


 そして俺はジェラルドさんに話したように、これまでのことを『VLO』のことに触れずに話していった。



「うむ。そういうことか。そうすると、お主が背負っておるその剣が『ラグナレク』か? 見せてもらっても良いかの?」

「はい、構いませんよ」


 そう言って、俺はラグを抜いて目の前のテーブルに置いた。


「うむ。言い伝えの通りじゃの。もう仕舞っても構わんぞ」


 俺はラグを鞘に納めつつ――


「それで俺はどうなるんですか?」


 ――とアドルさんに尋ねた。


「そう身構えんでも良いぞ? 心配せずとも、別に取って喰おうという訳ではない」

「それはそうでしょうけど……」


 あんたが言うと洒落になってない……

 なにせ獅子、ライオンの獣人だ……


「ただお主には、いくつか頼みことをしたいんじゃ。報酬もちゃんと用意しよう。どうじゃ? 決して悪いようにはせんぞ?」

「頼みを、依頼を受けるのは別に構いません。俺にできることならやりましょう。しかし、俺にはやらなければならないことがあります。ご存知だとは思いますが……」

「わかっておる。お主のやることを邪魔しようとは思わん。当然じゃろ? お主はこの世界を救おうとしておるのじゃから。しかし、邪神龍の封印が解けてきておるからなのか、このところ各国で色々と厄介なことが起こっておるようじゃ。この『桜花』でも色々と起こっておる。お主が討伐した『キングモス』のことも、その1つじゃ」

〈本当なのか、ラグ?〉

『はい。確かにこのところ、おかしなことが各地で起こっているようです。恐らく、結界から漏れ出す邪神龍の邪気や瘴気が原因でしょう』

「そういうことでしたか。でも、今すぐには無理です」


 明日か明後日にも、迷宮に行く予定なのだ。


「それもわかっておるよ。こちらも調査に、まだしばらく時間がかかる。早くとも1ヶ月ほどはかかるじゃろう」


 俺も『火の精霊王』に会うには、それくらいはかかるはずだ。


「俺の方も、それくらいかかります。その頃に、またここに来るようにしましょう」

「うむ。それで構わんよ。後はお主のランクじゃが、流石にC-(Cマイナス)では何かと不便じゃろう。言い伝えでは過去2人の『ラグナレク』の『マスター』は、最高ランクのSSダブルエスだったそうじゃ。お主もそれで良いかの?」


 おいおい……

 確かに俺は『VLO』ではSSダブルエスだったが、そんな簡単に……


「いや、それは嬉しいのですが……俺はあまり目立ちたくないのです」

「大丈夫じゃ。その辺りのことは、こちらに任せておくんじゃ。お主がカードを見せびらかせたりしない限り、目立つことはないじゃろ。お主との窓口も、そこのロゼに専任しよう」

「ですが……」

「この世界の住人である儂らには、これくらいのことしかしてやれんのじゃ。どうか受け取ってくれんかの?」

「……わかりました」


 俺はアドルさんの提案を受けることにした。

 確かにSSダブルエスになれば様々な優遇を受けることができるし、助かることには違いない。


「それではお手数ですが、ギルドカードをお渡しいただけますか?」

「わかりました」


 俺はインベントリからカードを出し、ロゼさんに渡す。


「それでは少々お待ち下さい」


 そう言ってロゼさんは部屋から出ていった。


「それで、お主はこれからどうするんじゃ? 何処かの迷宮に行くんかの?」

「はい。取り敢えず『火の精霊王』に会おうと――」


 そうして俺とアドルさんは、俺の今後の予定やそれに関するアドルさんのアドバイス、そしてアドルさんの冒険者時代の話を、ロゼさんが戻ってくるまでしていた。

 戻ってきたロゼさんから、ランク表記がSSダブルエスに変わったギルドカードと『キングモス』の討伐報酬などを受け取り、俺はギルドを後にした。




〈ここか……〉

『そのようですね』


 俺たちはアドルさんに紹介された宿屋、『ソルンの導き亭』の前に来ていた。


〈でかくて高そうな宿屋だったら、どうしようかと思ったが意外と普通だな〉


 『キングモス』の討伐報酬などで60000ティルを貰ったが、ある程度は残しておきたい。

 宿屋に来る途中で、ナイフとラグや他の武器を手入れするための布を買ったので、もうそれほど残ってはいないが……


『そうですね。それほど大きくはありませんが、良く手入れがされていますね』


 そんなことをラグと話しながら宿屋の中に入った。

 宿屋の入口近くにあるカウンターに『人族』のおばちゃんがいた。


「いらっしゃい。1人かい?」

「はい。泊まりたいのですが……」

「食事はどうするんだい?」

「食事付きなら、いくらになりますか?」

「1泊2食付きで6000ティルだよ。食事無しなら5000ティルだけど、後で食堂で食べるなら1食700ティルになるよ」


 妥当な値段だな。


「夕食と明日の朝食をお願いしたいのですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。それじゃあ、食事付きにするかい?」

「はい。それでお願いします」

「前払いで6000ティルになるけど、良いかい?」


 俺は6000ティルを取り出し、カウンターに置いた。


「これで良いですか?」

「ちょうどあるね。それじゃあ、205号室でこれが鍵だよ。夕食が出来たら部屋まで呼びに行くけど、これから出掛ける予定はあるかい?」

「いえ、部屋にいますよ。じゃあ、お世話になります」


 そう言って俺は鍵をもらい、部屋へ歩いていった。

 しばらく部屋でゆっくりと寛いでいると、カウンターにいたおばちゃんが呼びに来た。


「夕食が出来たから、食堂まで来ておくれ」

「わかりました」


 そうおばちゃんに応え、俺は食堂に行き夕食を食べた。

 値段の割には量もあり、とても美味かった。

 アドルさんには感謝しないとな。

 そんなことを考えつつ、明日は迷宮に行くので早めに休むことにした。




 俺は食堂でパンとスープ、サラダにハムエッグといった朝食を食べ、一度部屋に戻り装備を整えてから宿屋を出ることにした。


「お世話になりました。食事、美味しかったです」

「その格好からして冒険者だろうけど、無理をして死ぬんじゃないよ」

「わかりました。またこの街に来ることがあったら、お世話になります」

「あぁ、気をつけて行ってくるんだよ」


 そして俺は宿屋を出て、食糧を買うために朝市をやっている市場へと行った。


「取り敢えず、買えるだけの食料を買っておくか」


 インベントリに入れておけば、賞味期限などを気にする必要もない。

 俺は取り敢えず肉類、野菜、果物、パンを買えるだけ買った。


〈パンも嫌いじゃないが、米が食べたくなるな〉


 和食も食べたいし。


『和食はありませんが、米に似た物なら大陸の南に位置する『妖精族』の国『ティルナノーグ』にありますよ』

〈本当か!? それは楽しみだ〉

『その内、行かなければならないのです。今は、目の前のことに集中して下さい』

〈わかってるさ〉


 ラグとそんなことを話しつつ買い物を済ませ、迷宮に行くために街を出る。


〈それでまずどっちの迷宮に行くんだ、ラグ?〉

『どちらでも構わないと思いますよ。マスターにお任せます』


 『火の精霊王』に会うためには、まず守護者である『フレイムドラゴン』と『炎皇狼』の試練を受け、認められて『証』を貰わなければならない。

 そのどちらから先に会いに行くかを、話しているのである。


〈う~ん、『フレイムドラゴン』だな〉


 『アイギス』ならブレスは100%カットできるので、『炎皇狼』よりは闘いやすいはずだ。


『それでは、まずは『炎竜の迷宮』ですね。『炎竜の迷宮』はここから南にあります』

〈どのくらいの距離だ?〉

『恐らく、今日中に到着するのは無理でしょう』

〈それじゃあ、途中に街か村はあるか?〉

『残念ながらありませんので、野宿ですね』

〈そうか……〉


 野宿をしなければならないことに少し肩を落としつつ、『炎竜の迷宮』に向かって歩き出した。




 今は森の中で野宿の準備をしていた。

 道中、何度か狼型や鳥型の魔獣に襲われたが難なく撃退した。(狼型の魔獣の剥ぎ取りをした時は、吐きそうになったが……)


「ハァ~」

『……そんなに野宿が嫌なのですか?』

「嫌という訳じゃないが、気は乗らないな……」

『あまりお薦めはできませんが、野宿をしなくても済む方法がありますよ』

「本当か!? 教えてくれ!!」

『以前に、インベントリと似た効果のある『時空属性魔術』の話をしたことがありますね。その魔術は異空間を創りだし、その中にアイテムなどを保管する魔術なのですが、それを使えばマスターならかなり大きな空間を創ることができるはずです』

「そんな魔術があるんだな」


 『VLO』にはそんな魔術は無かったはずだ。


「それで、その魔術を使えば野宿しないで済むんだな?」

『はい。ですが、今は使えませんよ』

「何でだ!?」

『それほどの規模の異空間を創造するのは、今のマスターではまだ無理です。少なくとも、『火の精霊王』と契約するまでは我慢して下さい』

「そ、そうか……」


 それなら仕方がない。

 少なくとも『火の精霊王』と契約すればできるようになるのだ、今は我慢しよう。


「それで、何でお薦めできないんだ? かなり便利だと思うが……」

『異空間の中は時間の流れの速さは同じなのですが、光がありませんので時間感覚が狂うのです。たとえ魔術で光を作っても、それはあまり変わりません』

「それは中々厄介だな」


 時間感覚や体内時計が狂えば、体調を崩したりすることもあるらしいしな。


『まぁ長時間異空間に居続けなければ、そういうことにはならないでしょう』

「そうか。わかった。気をつけよう」


 でも、今日は野宿ということだ……

 あまり愚痴を言っていても仕方ない。

 準備を続けよう。

 俺は鋼糸を周りに張り巡らせ、魔獣対策の罠――魔獣が鋼糸の領域に入れば、問答無用で切り裂く――にした。


「それじゃあ、寝るか」


 明日はいよいよ迷宮だ。




「ここだな」

『はい。ここが『炎竜の迷宮』です』


 俺の目の前には迷宮の入り口がある。

 迷宮には4つの種類がある。

 『迷宮型ダンジョン』、『迷路型メイズ』、『塔型タワー』、『特殊型アンノウン』の4つだ。

 この『炎竜の迷宮』は、『迷宮型ダンジョン』で地下に潜っていくタイプだ。


「それじゃあ、潜るか」


 そう言って俺は迷宮へと入った。




 『炎竜の迷宮』地下5階


 

「しつこいんだよ!!」


 飛びかかってきた獅子型の魔獣『バウファング』を、【通常形態】のラグで斬りながら叫んだ。

 俺は今、『バウファング』の群れを相手にしていた。


「どれだけいるんだよ、こいつら……」


 すでに10匹は斬ってる。

 横から突っ込んできた別の個体を闘気を纏わせた蹴りで砕き、駆ける。


「ラグ、【大鎌デスサイス形態】!!」


 ラグを大鎌デスサイスに変化させ、群れの先頭の5匹を纏めて切り裂く。

 そして右手で魔導銃を引き抜きながら魔力を込め、『散弾ショットシェル』を放ち後続の4匹を撃ち抜く。


「残り3匹!!」


 その3匹が同時に飛びかかってきた。


「甘いんだよ!!」


 俺は大鎌デスサイスのアーツスキル『アラウンドスライサー』で、体ごと回転させ周りを360°全てを切り裂く。

 アーツスキルの黄色い閃光を纏った刃で飛びかかってきた3匹を両断し、戦闘が終了した。


「ふぅ~、疲れた……」

『お疲れ様です、マスター。ツイてなかったですね』


 そうなのだ。

 この階までも魔獣には襲われたが、ここまでの群れはいなかった。


「それじゃあ、『精霊石』を拾うか」


 迷宮の中では、魔獣を倒しても死体は残らず『精霊石』が残される。

 実体のある幻影のようなものだ。

 ラグ曰く、神龍の力でそうなっているそうだ。(もはや、何でもありだな……)

 辺りには20個近い『精霊石』が散らばっている。

 『精霊石』はギルドで換金できるほか、【錬金】の素材になったり【加工】でアクセサリにしたりできる。

 ちなみに、『精霊結晶』は純度の高い『精霊石』のことだ。

 そうしている内に拾い終わったので、そろそろ先に進むことにしよう。




 『炎竜の迷宮』地下15階



「結構進んだな」


 あれから『バウファング』や尾が火のような孔雀『ファイアテイル』、大蜥蜴のような『ガライゴン』などに襲われたが、特に負傷もせずにここまで来た。


『そうですね。予定より早いペースです。ですが、そろそろ休める場所を探した方が良いでしょう』

「そうだな。そろそろ夕方だ。ところで、セーフルームってあるのか?」

『ありますよ。確かこの階にもあったはずです。探しましょう』

「わかった。行こう」


 何故夕方かわかるかと言うと、ほとんどの迷宮は外と同じように、時間に合わせて明るさが変わるからだ。

 これも神龍のおかげらしい……

 それからしばらくウロウロとしていると、セーフルームを見つけた。


「取り敢えず、飯だ。腹が減った……」


 装備を解除するのもそこそこ――鎧と魔導銃を外しただけ――に、俺は夕食の準備を始めた。

 インベントリから、『調理道具一式』を取り出す。

 『調理道具一式』は携帯コンロのような物に(燃料は『精霊石』)、鍋やフライパンなどだ。

 俺は一緒に取り出した肉や野菜などの食材をナイフ(食材用)で適当に切り、鍋に放り込む。

 そして『水属性魔術』で鍋に水を満たし、買っておいた調味料も入れ、コンロの火を着ける。

 俺は【料理】スキルの熟練度はそんなに高くないので、簡単な物しか作れない。

 出来上がったスープとパンを食べ、ラグに尋ねた。


「ラグ、ここは本当に魔獣は入って来れないのか?」

『はい。それは確実です。ただし他の冒険者が入ってくることはあるので、注意は怠らないで下さい』

「わかった」


 俺は使い終わった『調理道具一式』をインベントリに放り込み、替わりにシュラフを取り出した。

 明日も迷宮の攻略だ。

 早めに休もう。

 取り敢えず、【気配察知】のアラームは自分の周囲半径10mに設定しておく。

 外套なども脱ぎ、ラグは鞘ごと手の届く範囲に置いておく。

 そしてシュラフに潜り込む。


「おやすみ、ラグ」

『おやすみなさい、マスター。ゆっくり休んで下さい』


 こうして、俺の迷宮での1日目は終わった。




 『炎竜の迷宮』地下20階



 俺は朝から迷宮の攻略を進めていた。

 確か『VLO』では、この階から出現する敵が変わったはずだ。


「どうなんだ、ラグ?」

『ええ、この階から魔獣はさらに強力になります。お気をつけ下さい』

「わかった」


 そう言って俺は、下の階に下りる為の階段を探し始めた。

 そうしていると――


「おっ、トレジャーボックスだ。ラッキー」


 迷宮の一室でトレジャーボックスを見つけた。


「久しぶりだな」

『そうですね。トレジャーボックスは、最初にいくつか見つけただけでしたしね』


 しかも、その中身は多少のティルと大したことのない装備品だ。

 まぁこの迷宮の難易度はそんなに高くはないので、仕方がないのかもしれないが……


『この世界でそんなことが言えるのは、マスターくらいですよ。この世界の冒険者たちにとっては、充分高難易度な迷宮です』


 そんなラグの言葉を聞きながら、俺は【罠確認】を起動しトレジャーボックスを調べた。


「ん? 罠があるな。解除するか」


 【罠確認】を停止し、【罠解除】を起動し罠を解除する。

 当然ながら【罠確認】も【罠解除】もマスターしているので失敗することはない。

 罠が解除されたので、トレジャーボックスを開ける。

 この瞬間はいつまで経ってもワクワクする。


「…………」


 中身は10000ティルが入っていた。

 ま、まぁカラよりは良いとしよう。

 俺は気を取り直して迷宮の攻略を再開した。

 そして迷宮を進んでいると、少し先の曲がり角から『ギミックトーチ』が現れた。

 『ギミックトーチ』は迷宮で死んだ冒険者の魂が、ランタンに宿ったといわれる魔獣だ。(獣ではないが……)

 見た目は宙に浮くでかいランタンだが、真ん中辺りが口のように裂けていて、舌のように炎がチラチラ漏れている。

 咄嗟に左の魔導銃を引き抜き、魔弾を撃ったが避けられてしまった。


「チッ!!」


 こいつは『火属性魔術』を使ってくる厄介な奴だ。

 『ギミックトーチ』の周りに魔導紋章が浮かび、火属性上級魔術『フレイムランス』を放ってくる。


「当たるかっ」


 こちらに向かって飛んできた炎の槍を、前に駆け出しつつ掻い潜る。

 『ギミックトーチ』はさらに魔術を放とうとしているが、そんな暇は与えない。

 紋章を浮かべながら距離を取ろうと、後ろに下がる『ギミックトーチ』に俺は【縮地】を起動し、瞬時に距離を詰め【通常形態】のラグを逆袈裟に振り抜いた。

 その一撃で斜めに分断された『ギミックトーチ』が、溶けるようにして消えていく……


「やっぱり、魔術を使われると面倒だな」


 先程のように単発ならどうとでもなるが、同じ『フレイムランス』でも10本、20本となれば一気に厳しくなる。


『そうですね。魔術を使う魔獣を優先して倒したり、『アイギス』で防ぎながら攻撃するしかないでしょうね』

「そうだな。さっきみたいに不意討ちじゃなければ、どうとでもできるんだがなぁ」


 迷宮の中では、【気配察知】で敵の位置を知ることができない。


『この階からは魔術を使用する魔獣も増えますので、お気をつけ下さい』

「了解」


 そんなことをラグと話しながら、迷宮を攻略していった。




 『炎竜の迷宮』地下28階



「そろそろ夕方か?」


 辺りが暗くなり始めている。


『そうですね。もう少しで陽も沈むでしょう。セーフルームを探しますか?』


 できればキリの良い地下30階まで行っておきたかったが……


「そうだな。無理をしても仕方がない。セーフルームを探そう。それにしても、今日はあまり進めなかったな……」

『仕方がありませんよ。かなり大きな群れに遭遇してしまいましたからね』


 途中までは順調に進んでいたのだが、この上の地下27階で巨大な群れに引っかかってしまったのだ。

 『バウファング』の上位種『バウジーガ』や『ギミックトーチ』、『ゴブリン・マジシャン』、『ドゥルガ』などの群れだった。

 最初の内は20匹ぐらいだったが、何より厄介だったのが猿型の魔獣『ドゥルガ』だ。

 こいつはそれほど強くはない魔獣だが、ひたすら逃げ回り、さらに他の魔獣を呼び寄せるのだ。

 一番に始末しようとしたが、部屋のあちこちに逃げ回り、追いかけていると『ギミックトーチ』や『ゴブリン・マジシャン』が魔術を使ってくるし、『バウジーガ』が飛びかかってくるしで散々だった。

 最終的には多少のダメージを覚悟して、斬馬剣グレートソードで邪魔な奴らを叩き斬り、逃げ回る『ドゥルガ』に双銃の連射を浴びせ殲滅した。

 結局50匹ほどの魔獣を相手にしたので、攻略が全然進まなかったのだ。


「今日は運が悪かったと諦めるか」


 そうしてセーフルームを見つけ、昨日よりさらに適当な夕食を食べ、眠りに就いた。




 『炎竜の迷宮』地下36階



「ふっ!!」


 襲いかかってきた『バウジーガ』の最後の1匹を切り払い、『精霊石』を拾うために俺はラグを鞘に納めた。


「ふぅ~。結構進んだな」


 俺は昨日の遅れを取り戻すべく、早朝からトレジャーボックスを探すのもそこそこに、猛スピードで迷宮を進んでいた。


『まだ昼過ぎですからね。かなりのハイペースです。疲れはありませんか、マスター?』

「あぁ、大丈夫だ。それに、今のところ大きな群れにも遭ってないしな」


 幸いなことに今日は多くても5匹ほどの群れにしか遭っていない。

 ここまで早く来れたのも、そのおかげだろう。


「このペースで行けば、今日中に地下45階くらいには行けそうだな」

『……それは難しいかもしれません。地下40階からはさらに強力な魔獣が増えます』

「『VLO』ではそんなことはなかったが……。具体的にはどんな魔獣が出るんだ?」

『増えるのは1種類の魔獣だけで、『ファイアドラゴン』です』

「何!? 『ファイアドラゴン』!? そいつはここの最下層のボスだったぞ!! そんな奴がウロついているのか!!」

『あまり数は多くありませんので、運が良ければ遭わないでしょう。それに最下層にいるのはその上位種の『フレイムドラゴン』です』

「そ、そうか。『ファイアドラゴン』でも後れは取らないが、注意しておかないとな。それに、明日中に最下層に到達したいから、できるだけ進んでおきたいしな」


 そう言って俺は少しでも先に進むべく、攻略を再開した。




 『炎竜の迷宮』地下40階



「ここから『ファイアドラゴン』がいるんだな?」

『はい。くれぐれも注意して下さい』


 早く先に進みたいが、なるべく慎重に行こう。

 そうして曲がり角を鏡で確認しつつ進み、しばらくすると――


「いたよ……『ファイアドラゴン』だ……」


 曲がり角の先に『ファイアドラゴン』がいた。

 しかも、他の魔獣も何匹かいる。


「こっちに向かって来ているから、るしかないな……『ドゥルガ』がいないのが、せめてもの救いか」


 体長1.5mくらいのドラゴンのような魔獣『メギドリザード』と『ゴブリン・マジシャン』が一緒にいるので、先に始末してしまいたい。

 特に『ゴブリン・マジシャン』は魔術を使うので最優先だ。

 先手を取るべく左の魔導銃に魔力を込め、曲がり角から飛び出した。

 そして、向こうが反応する前に『ゴブリン・マジシャン』を全て撃ち貫く。


「よし!!」


 魔弾は狙い違わず、全弾命中する。

 先制は上手くいった。

 【加速】を10倍速で起動し、魔導銃を腰に戻しつつ群れへと飛ぶように駆ける。


「ラグ、【二刀形態】!!」


 両手に刀があるのを感触で確かめつつ、近くの『メギドリザード』の首を右の刀で刎ねる。

 すぐにその場を飛び離れつつ、次の『メギドリザード』の頭に左の刀を逆手に持ち突き刺す。

 『ファイアドラゴン』のブレスと魔術の狙いを定めさせないように高速で動き回りながら、二刀で次々と『メギドリザード』を屠る。

 最後の『メギドリザード』を縦に両断した時――


「マズッ!!」


 『ファイアドラゴン』の周りに20個程の『フレイムランス』の紋章が浮かんでいるのが見えた。

 咄嗟に『アイギス』に魔力を込めつつ、横へ跳ぶ。


 『ドドドドドッ!!』


 炎の槍が掠めていく。

 いくつかは当たったようだが、『アイギス』が全て防いでいた。


「こいつが無かったら死んでるな……ラグ、【斬馬剣グレートソード形態】」


 二刀を斬馬剣グレートソードに変え、【縮地】で『ファイアドラゴン』の足元まで跳ぶ。

 そして――


「おらぁぁ!!」


 『ファイアドラゴン』の右の後ろ足を斬り飛ばす。


『GYAOOO!!』

「ぐわっ!!」


 斬り飛ばした瞬間、尻尾で薙ぎ払われた。

 吹き飛ばされたが、何とか空中で回転し着地する。

 右足を斬り飛ばされた『ファイアドラゴン』が倒れているが、しぶとくブレスを吐こうとしている。


「これで!! 終わりだ!!」


 その前に【縮地】で距離を詰め、真上から振り下ろすように首を叩き斬った。


「あ~、疲れた。こんなのがまだ何匹もいるのか……洒落にならんぞ」


 俺は乱れた息を整えつつ座り込み、自分にHP回復効果のある聖属性下級魔術『キュアライト』をかけた。


『お疲れ様です、マスター。『ファイアドラゴン』はそう何匹もはいませんよ。1階層に2匹いれば多い方でしょう』

「まだこの階に1匹いる可能性があるのか……」


 まぁ、文句を言っても仕方ない。

 遭わないことを祈るだけだ。

 『精霊石』を拾って、先に進もう。


「おっ、角が落ちてるぞ」


 『精霊石』に混じって『ファイアドラゴンの角』が落ちていた。

 しかも、『ファイアドラゴン』が落とした『精霊石』は『精霊結晶』だ。


『あぁ、『神獣』クラスを倒すと『精霊結晶』とその神獣の素材を1つ、手に入れられるのです。素材の方は何を落とすかはわかりませんが』


 ランダムドロップかよ……


「それは少し『ファイアドラゴン』と闘うのが楽しみになったな」

『現金な人ですね、マスターは……』


 そんなことを言い合いながら『精霊石』を回収し、攻略に戻った。




 『炎竜の迷宮』地下42階



「これで最後だな」


 俺は『精霊石』を拾い終わり、そう呟いた。


『マスター、そろそろ夕方ですが、セーフルームを探しますか?』


 確かに辺りが暗くなってきている。


「いや、今日はもう少し進んでおきたい。地下45階までは行っておこう」


 明日最下層に辿り着くためには、できればそのくらいには行っておきたい。

 それに『フレイムドラゴン』との闘いもあるのだ、なるべく道中の戦闘は少なくしておきたい。

 そんなことを思いながら攻略を再開した。




 『炎竜の迷宮』地下45階



「ふぅ、何とか辿り着けたな……」


 俺は地下45階のセーフルームで一息吐いていた。

 あたりはもう真っ暗なので【暗視】を起動している。

 意外と暗くなってからの方が攻略が進んだ。

 何故ならこの迷宮にいるのは名前の通り、火属性の魔獣がほとんどなので暗くなると、火を纏っていたり出しているタイプの魔獣は、いればすぐにわかるからだ。

 考えてみれば当たり前のことである。


「こんなことに気がつかなかったなんて、俺は馬鹿か……」


 もっと早く気づいていれば、攻略の効率はずいぶんと違っていたはずだ。


『途中で気づいたので良しとしましょうよ、マスター』

「そうだな。ヘコんでいても仕方がない」


 途中でそのことに気づけたおかげで、無駄な戦闘を避けることができたしな。

 それでも何度かは戦闘をせざるを得なかった。

 『ファイアドラゴン』とも2度、闘って戦利品はどちらも鱗だった。

 そんなことを思い出しつつ、夕食(夜食?)の準備をした。

 出来上がった夕食を食べながら――


「明日はいよいよ最下層だな」

『はい。試練となってはいますが、実際は戦闘になるでしょう』

「『フレイムドラゴン』はどんな戦術を使ってくるんだ?」

『基本的には『ファイアドラゴン』と変わりません。ブレスと魔術で遠距離攻撃を仕掛けつつ、不用意に近づけば尾や翼などで迎撃してくるでしょう。ただし、その力は『ファイアドラゴン』の比ではありません。決して油断をしないで下さい』

「そうか。わかった」


 ラグと明日のことについて話している内に食べ終わったので、明日に備えてもう寝ることにする。


「おやすみ、ラグ」


 シュラフに潜り込みながら言った。


『おやすみなさい、マスター。明日は頑張りましょう』


 ラグの声を聞きつつ、眠りに落ちた……




 『炎竜の迷宮』地下50階



「痛いんだよ!!」


 背後から肩に噛みついてきた『バウジーガ』を背負い投げの要領で床に叩きつけ、縫い付けるように頭を剣で突き刺した。

 今、俺の目の前には荘厳な装飾がされた巨大な扉がある。


「ここだな」

『そうでしょうね。中で『フレイムドラゴン』が待っているはずです』


 今日も早朝から迷宮を攻略し、今は昼すぎだ。

 ここに来るまでに『ファイアドラゴン』と一度戦闘になったのを含め、何度か戦闘はあったが大した負傷も無く切り抜けられた。


「さて、それじゃあ入るか」


 俺は覚悟を決め、扉を開いた――


『来たな、『来訪者』よ』


 俺の頭の中にラグのものとは違う、重みのある声が響いてきた。

 前方を確認すると全長200mはありそうな巨竜がいた。

 その大きさは『ファイアドラゴン』の倍は優にある。

 そして、その鱗はまるで炎が揺らめくような輝きを放っていて、まさに炎の竜と呼ぶに相応しい姿だ。


「貴方が『フレイムドラゴン』ですか?」

如何いかにも。我が炎竜の王『フレイムドラゴン』だ』

『約200年ぶりですね、炎竜の王』

『ラグナレク殿も久しいな。此度こたびの者はどうだ? ディオス様はかなりの期待をしているようだが……』

『どうでしょうね? 御自分で確かめてみられては? どちらにしろ、私たちに後はないのです。まぁ私もマスターには期待をしていますが』

〈そんな挑発するようなことを言うなよ……〉

『それもそうだな。ならばその力、確かめさせてもらうとしよう!!』

「うわっ!!」


 その瞬間、まさに炎が噴き上がるように『フレイムドラゴン』の輝きが増した。


「あ、熱っ!!」


 凄まじい熱気だ。

 かなり広い部屋だが、室温が一気に5℃は上がったように感じる。


「我に風の加護を与えよ、『ウインドメイル』」


 体に風の鎧を纏う、風属性下級魔術『ウインドメイル』を呪文詠唱をして使う。

 さらに上位の『ストームメイル』もあるが、俺には使えない。

 無いよりはマシだろう。

 風の鎧で熱気が遮断されたのを確認し、ラグを抜く。


『準備は済んだようだな。では、いくぞ!!』


 どうやら、こちらの準備が終わるまで待っていたようだ。

 問答無用で殺しにはこないらしい。


「ッ!!」


 いきなりブレスを放ってきた。

 普通のブレスとは違い炎弾の形状で、しかもほぼノーモーションだ。

 『アイギス』に魔力を込めつつ、横っ跳びに躱す。

 地面に着弾した瞬間、凄まじい火柱が噴きあがる。

 直撃は避けたが、噴き上がった火柱に飲み込まれる――が、何とか『アイギス』と『ウインドメイル』で防ぐことができた。

 どうやら炎弾の状態だとノーモーションで放つことができるようだ。

 しかも、次々と炎弾を放ってくる。


「連射もできるのかよ!!」


 【加速】を起動して、高速で炎弾とそれに伴う火柱を躱していく。


「クソッ!! 近づけない!!」


 苦し紛れに左の魔導銃で『炸裂弾バーストシェル』を撃つが、『フレイムドラゴン』は気にも留めない。


『そんなものか、『来訪者』よ!! まだまだこれからだぞ!!』


 『フレイムドラゴン』は炎弾を放ちつつ、周囲に多数の紋章さえ浮かべながら言ってきた。


「なっ!? 【思考分割】だと!!」


 【思考分割】とは、同時に2つ以上の行動をすることを可能にするスキルだ。

 俺は『アイギス』に魔力を込めながら、【縮地】で『フレイムドラゴン』の首元まで跳躍する。

 迫ってくる数十にも及ぶ炎の槍と炎弾に突っ込むことになるが、目眩ましにはなるはずだ。


「うおぉぉぉ!!」


 障壁に次々と炎弾などがぶつかり、爆ぜる。

 恐怖心が湧きあがるが、『アイギス』の防御力を信じるしかない。


「抜けた!!」


 目の前には『フレイムドラゴン』の首がある。

 俺は右手に持った【通常形態】のラグを渾身の力で叩きつける!!


 『ガキィィ!!』


「何っ!?」


 金属のような鱗を断ち斬り、その下の肉体を斬り裂いたが深手には至らない。


 『バキッ!!』


「グッ!!」


 翼で弾き飛ばされた。

 空中で体勢を立て直し、靴底のスパイクで石畳を削りながら着地する。


「何て硬さだ……」

『その程度では我を倒すことはできんぞ』


 俺を挑発しているのか、嘲笑を含ませつつ言い放った。


「…………舐めやがって……」

『その程度では邪神龍を滅ぼせるはずもない。ディオス様には申し訳ないが――ここで果てよ!!』


 『フレイムドラゴン』は多数の紋章を浮かべながらブレスの体勢に入った。


「やってやるよ……ラグ、【魔導杖ワンド形態】!!」

『了解しました』


 俺は『奥の手』を出すための準備を始めた。

 ラグの変化が終わるのと同時に、『フレイムドラゴン』がブレスと『フレイムランス』を放ってくる。


「『ショックウェイブ』!!」


 俺は魔導杖ワンドを掲げ、無属性最上級魔術『ショックウェイブ』を放つ。


『ッ!!』


 魔導杖ワンドによってブーストされた『ショックウェイブ』で発生した衝撃波が、ブレスと『フレイムランス』を掻き消しつつ『フレイムドラゴン』に迫る。


『GURUUU!!』


 『ショックウェイブ』の効果で『フレイムドラゴン』が麻痺する。


「次だ、ラグ!! 【鋼糸形態】!!」


 麻痺は長くは続かない、急がなければ。

 魔導杖ワンドが分解され、鋼糸用の手甲に再構成される。

 すかさず鋼糸を展開しつつ【思考分割】を使い、無属性魔術で力場を『フレイムドラゴン』の周囲に設置する。

 設置した力場を利用し、『フレイムドラゴン』を包むように鋼糸で魔導紋章を編み上げていく。

 麻痺が解けつつあるのか、『フレイムドラゴン』が動き出している。


「くっ、間に合うか!? ラグ、頼む!!」

『了解しました』


 ラグのサポートを受け、編み上げる速度をさらに速める。

 『フレイムドラゴン』はもうブレスを放とうとしている。


「発動しろ――」


 紋章が完成した瞬間、【魔力装填】で鋼糸に魔力を通し紋章を発動させる!!


「『爆水陣』!!」


 『フレイムドラゴン』を包む巨大な水球が発生し、圧縮され、凄まじい勢いで爆発する!!

 一連の現象がまさに一瞬で起きた。

 爆発によって飛び散った水飛沫を浴びながら、肩で息をした。


「……これで……やった……だろ……」


 先程の技は鋼糸で魔導紋章を編み上げ、魔力を通し、魔術と同じような効果を発動する【鋼糸】のオリジナルアーツスキル『陣術』だ。

 その威力は最上級魔術にも匹敵するがMP、SPを大量に消費するので連発はできないし、準備に時間がかかるので使いどころが難しい。

 精霊魔術の上級・最上級魔術が使えない俺が戦闘を有利にするために開発したアーツスキルで、俺の『奥の手』の1つだ。

 そんなことを考えている内に、水煙が晴れてきた。


「…………」


 『フレイムドラゴン』は体の至る所の鱗が砕け散っていて、その下の肉体もズタズタに裂けている。


『見事だ……』


 『フレイムドラゴン』は瀕死の様子で話しかけてくる。


『先程の無礼な物言い、失礼した……その力、認めよう。『証』を受け取ってくれ、『来訪者』よ。この世界をどうか頼む』


 『フレイムドラゴン』は紅い光の粒子になり、消えていく。


「……わかった」


 俺は天に昇っていく光の粒子に応えた……


「なぁ、ラグ。あいつは死んだのか……?」

『いえ、心配なさらなくとも神界に戻っただけですよ。神界で遭うことになるでしょうし、その内ここにも戻ってきますよ』

「それは良かった」


 俺は安堵しつつ、『フレイムドラゴン』が残した巨大な『精霊結晶』と『角』と『証』だろう紅い『宝玉』を拾い、時空属性下級魔術『脱出エスケープ』で『炎竜の迷宮』を後にした。

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