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竜殺しの英雄  作者: しんや
第1章 『火の精霊王』
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第2話 異世界『ヴェルガディア』

第1話をお読みいただいた皆様、どうも有り難う御座います。

気づかぬ内にPVが11000オーバー、ユニークも3000オーバーと嬉しい限りです。

それではつたない文章ではありますが、読者様方の少しでも良い暇つぶしになればと思います。

 気がつくとホームのベッドに横たわっていた。


「あれ……? 俺、何でこんなとこに……?」


 その時、不意に左目にむず痒いような、何とも言えない不快感が湧きあがってきた。


「ッ!! そうか……俺、『ティアマト』とやりあって……死んだのか……」


 不快感とともに、あの時の記憶が蘇ってきた。


「ふぅ……これからどうするかな……」


 考えを纏めようとするが、左目の不快感が邪魔で考えが纏まらない。


「……取り敢えず、左目の部位欠損を治すか」


 部位欠損を修復する魔術は幾つかあるが、俺が使えるのは特殊属性『聖属性魔術』の上級魔術『パーフェクト・シャインヒーリング』だけだ。

 魔術には大きく分けて『基本属性魔術』、『上位属性魔術』、『特殊属性魔術』の3種類がある。

 『基本属性魔術』には火・水・風・土の4属性(基本4属性と呼ばれる)があり、火は水に、水は土に、土は風に、風は火に強い性質を持っている。

 『上位属性魔術』には光・闇・無の3属性があり、光と闇は相克の関係で、『上位属性魔術』は基本4属性に対し、優越する特徴を持っている。

 しかし、『無属性魔術』はどの属性にも強くない代わりに、弱くもない特徴を持っている。

 そして、最後の『特殊属性魔術』には月・太陽・聖・邪・時空の5つの属性があり、他の属性魔術とは異なる一風変わった効果を持つ魔術が多いのが特徴だ。

 基本・上位属性魔術は纏めて、『精霊魔術』と呼ばれることもある。(理由はそれぞれの属性を司る精霊や精霊王が存在しているからだ)

 俺は『人族』なので全属性を使うことができるが(邪属性は魔物専用の属性なので除外)、特殊属性魔術以外は下級魔術しか使うことはできない。

 なので、部位欠損を修復する魔術は水属性にも存在するが、上級魔術なので俺には使うことができない。


「『パーフェクト・シャインヒーリング』」


 本当は長ったらしい呪文があるが、【詠唱破棄】のExスキル【無詠唱】を習得しているので魔術名称を言うだけで発動できる。(ただし効果は0.9倍、消費MPは1.1倍になる)

 全身を陽光のような輝きが包む。

 しかし、何で回復魔術は気持ちが良いんだろうな?

 まぁ、気持ち悪いよりは遥かにマシなので気にしない。


「そろそろ、良いか」


 ベッドの脇に設置していた鏡を覗きつつ、左目のまぶたを開く――


「えっ!?」


 開いた瞼の奥には、冥い虚無があるだけだった。


「そんな馬鹿な!!」


 もう一度唱える。


「『パーフェクト・シャインヒーリング』!!」


 効果エフェクトが消えるのももどかしく、もう一度瞼を開く。

 しかし、俺の左目が戻ることはなかった……


「どうなってんだ……」


 不快感に耐えながら、必死で考える。

 そして、1つの仮説を立てた。

 それは――


 『邪神龍の攻撃によって部位欠損になった場合、それは永続的なものになる。』


 ――というものだ。

 なにせ、今まで邪神龍と闘ったプレイヤーはいないのだ。

 邪神龍がどんな能力を持っていても、おかしくはない。


「神殿に行ってみるか……? ……いや、止めておこう。おそらく無駄だ」


 『パーフェクト・シャインヒーリング』は元々部位欠損を修復するためだけの魔術ではなく、単体にしか効果はないが、HP、状態異常、部位欠損を全て回復できる最上位の完全回復魔術なのだ。

 それに、部位欠損をそのままにしておく馬鹿は皆無なので、いくら人の少ない時間帯を狙っても目立つことは避けられないだろう。


「それに、デスぺナの所為で金がほとんど無いしな」


 諦めるしかないか……

 もしかすればこの先、修復できるアイテムや魔術が見つかるかもしれないしな。(『VLO』では上位の魔術は、その魔術を習得できるだけの熟練度と、その魔術の魔術書が必要だ。そして、上級・最上級魔術は未だ6割程度しか見つかっていないと言われている)


「この距離感の掴み難さと、視界の狭さは追々慣れていくしかないか……」


 いつまでもウジウジしていても仕方がない。

 気持ちを切り替えよう!!


「とすると、まずは装備か……」


 鎧はあの時に破壊されたし、武器の耐久度も、もはや修復できないほどに落ちている。

 予備で持っていた装備もデスぺナでほとんど失っている。

 作り直すしかないだろう。

 ということで、まずは素材を置き溜めている倉庫に行こう。




「えーと、コレとコレ……後、コレもか」


 インベントリはほぼ空になっていたので、持てるだけの素材を持って行く。(一々取りに来るのも面倒だしな)

 ついでに少し倉庫の整理をしている時に、視界の端にメールの着信を示すアイコンが点滅しているのに気がついた。


「誰だ? 珍しいな……」


 俺とメールをやり取りするような相手は皆無ではないが、多くもない。


「取り敢えず、見てみるか」


 整理をしていた手を休め、メールを開いてみる。


 『クエスト『英雄への試練』が発行されました。受諾しますか?Yes/No』


 システムからのメールだったようだ。

 ウィンドウが開き、YesボタンとNoボタンが点滅している。


「『英雄への試練』? 聞いたことがないクエストだな」


 取り敢えず、Yesボタンを押してみる。

 『ポーン』という音と共に、新たな文面が浮かび上がってくる。


 『この試練は大変過酷なものとなります。本当に宜しいですか?Yes/No』


「…?? 矢鱈と確認してくるな……今までこんなのあったか?」


 若干おかしく思いつつ、再びYesボタンを押す。

 また新たな文面が浮かび上がる。


 『クエスト『英雄への試練』を受諾しました。ご武運を……』


 その文面を読んだ瞬間、いきなり意識が遠退き始めた……


「ッ!?」


 咄嗟に倉庫の棚に掴まろうとしたが、腕からも力が抜けていく…


「な……んだ……」


 そして、倒れ込むと同時に俺の意識は暗闇に落ちていった………




『つ…の……ほを…く……す』

『今度の奴は大丈夫なんだろうな? ――おっ、こいつか。俺もこいつには目をつけてたぜ。それにしても、その左目では何かと不便だろう。こいつなら今までの奴らより見込みもありそうだし、餞別をくれてやる……』

『わ……も……』




 ん……、眩しいな……、もう朝か……

 瞼越しに太陽の光を感じ、徐々に目が覚めてくる。

 何か不思議な夢を見ていた気がするが……

 それにしても、俺のベッド、こんなに硬かったか……?

 それにさっきから頬に何かが触れて、くすぐったい。

 その何かを手で払うと――


『お目覚めですか、マスター?』


 ――と、14~15歳くらいの落ち着いた感じの少年(?)の声が聞こえてくる。

 寝惚けた頭で、やけにしっかりした感じの声だなぁと、何故か執事服を着た少年のイメージが浮かんできた。(念のために言っておくが、俺にそっち方面の特殊な性癖はない!!)

 そんなことを思いながら、二度寝に突入しようとしていたら再び――


『そろそろ起きて下さい、マスター』


 ――と、声が聞こえてきた。

 今……、何か凄く違和感を感じた……


『本当にそろそろ起きて下さい、マスター』


 また聞こえた。

 ……いや、待てよ。

 この声、頭に直接響いてくるぞ!!

 一気に目が覚めた。

 ガバッ!!――と音がしそうなほどの勢いで、上半身を起こし、目を開ける。

 俺は飛び込んできた光景に茫然とした……


「何処だ……ここ……」


 目の前の(というか周りの)光景は俺が思っていた光景ではなく(自分の部屋だと思っていた)、一面に広がる草原だった。

 下を見てみると、背丈が10cmほどの草が青々と茂っている。


「さっきからくすぐったかったのは、これか……」


 割とどうでも良いことを呟きつつ、周りをボーっと見渡した。

 いかん!!

 現実逃避しかかってる、気をしっかり持って状況を確認しないと。


「そ、そういえば、さっきから聞こえていた(?)声は一体何だったんだ?」


 もう一度しっかりと周りを見ても、別に執事服を着た少年はいない。(いや、執事服はどうでも良いが)

 ……落ちつけ、俺。

 ダメだ、パニックになりそうだ。

 それどころか、もっと酷い錯乱状態になりそうだ。

 その時――


『やっとお目覚めになりましたね、マスター』


 またあの声が頭に響いてきた。

 普通(?)の声なら聞こえてきた方を見ることもできるが、直接頭に響いてくる声なんてどうしようもない。

 なので、取り敢えずキョロキョロしていると――


『こちらです、マスター』


 ――と聞こえてきた。

 ……こちらってどっちだよ……

 段々イラついてきた……

 声の感じからして少年っぽいので、少し大人気ない気がしたが、ただでさえ訳のわからない状況なのだ。

 少しは大目に見てもらいたい。

 すると――


『マスターから見て、4時の方向、10mほど先です』


 ――と、若干焦ったような声が聞こえてきた。

 ……『マスター』というのは俺のことだろうな。

 さっきから繰り返してるし。


「4時の方向(右斜め後ろ)ってことは、こっちか」


 立ち上がり、謎の声に言われた方に歩いていくと、一本の剣が落ちていた。


「ん? この剣、何処かで見た気が……」


 記憶を探りつつ、剣を良く見てみる……

 改めて見ると、凄まじく美しい剣だ。

 長さは切っ先から柄頭まで含めるとおよそ1.5mで、剣身から柄まで全て良くわからない白銀の金属でできている。(しかし、銀ではないだろう)

 普通の片手剣に比べると少し長く剣身も幅広だが、柄の長さからして片手剣の一種だろう。

 そして、剣身には一見、電子回路のようにも何かの紋様のようにも見えるラインが彫ってあって、時折ぼんやりと蒼く輝いている。

 鍔と柄頭には蒼い宝玉が填まっていて(鍔のほうの宝玉が少し大きい)、ラインと同調するように輝いている。


「何処だ……何処で見たんだ?」


 これほどの剣、一度見れば忘れることはないと思うんだが……

 そして、思い出そうと唸っていると――


『ようやくお会いできましたね、マスター』


 またあの声が聞こえてきたので、周りを見渡していると――


『下です、下。下を見て下さい、マスター』


 下って、まさか……


『その“まさか”です、マスター。初めまして』


 何とこの剣は意思がある剣のようだ……




『落ち着きましたか、マスター?』

「あ、あぁ……何とかな」


 本当はそれほど落ち着いてはいないが、取り敢えずそう答えておく。


『嘘はいけません、マスター。御自分でもわかっていらっしゃるのに、強がってはいけません』

「おまえ、さっきから俺の考えてることがわかってないか?」

『全てがわかる訳ではございません。あくまで、ある程度の表層部分が読み取れるだけです』

「そ、そうか……何か釈然としないが……」

『それよりもマスターは、私にお聞きになりたいことがあるのではありませんか?』

「ッ!! おまえはここが何処か知ってるのか!?」

『まずは落ち着いて下さい、マスター。ここで気がつく前のことは、覚えておいでですか?』


 ここに来る前のこと……

 確か、俺は倉庫に素材を取りに行ったついでに、倉庫の整理をしていたはずだ。

 その時メールの着信に気づいて、それで……


「そうだ!! あのメールにあったクエストを受諾した途端、意識を失って……」

『思い出されましたか?』

「あぁ……ということは、ここはまだ『VLO』の中なのか……?」

『……そうとも言えますし、そうではないとも言えます』

「どういうことだ!! はっきりと言え!!」

『どうか落ち着いて聞いて下さい、マスター』




『この世界は『ヴェルガディア』。貴方がたの世界からは、異世界と呼ばれる場所です』




「なっ!? そんな馬鹿なことがあってたまるか!! ここが異世界だと!? そんなことが信じられる訳ないだろう!!」

『紛れもない事実です、マスター』

「黙れぇぇぇぇぇ!!」


 俺はやり場のない激しい感情を叩きつけるように、傍らにあった岩を殴りつけた!!


『ドカァァァァ!!』


 かなりの大きさのあった岩は粉々に砕け散った。


「ハァ……ハァ……ハァ……」

『……少し落ち着いて考えてみて下さい、マスター。マスターは、ここがあなたの普段生活をしている世界に思われますか?』

「……いや、それは絶対にあり得ない」


 現実世界でこんなことを(素手で岩を殴ったり)すれば、砕けるのは間違いなく俺の手の骨の方だろう。

 しかも意思のある剣なんて、それこそ性質たちの悪い冗談だ。


「しかし、『VLO』の中なら……」

『もう一度良く考えてみて下さい、マスター。マスターは『VLO』の中でなら素手で岩を砕くことができますか?』

「当たり前だろう!! 俺のステータスだったら……」


 いや、おそらくステータス的にはできるだろう。(何故なら、俺のステータスは全プレイヤー中トップクラスなのだから)

 しかし、『VLO』のこういった『ただの岩』のようなオブジェクトは、余程の理由(破壊すればアイテムが入手できるなど)が無い場合は『破壊不可』だったはずだ。

 今さっきの岩を破壊したことで、何かのアイテムを入手した形跡はないし、何かが起こりそうな気配もない。

 ということは、残る可能性からいってここは……


「そ、そんな……」

『ご理解いただけたようですね……』

「……本当にここは……異世界……なのか?」

『はい、紛れもなくここは異世界です、マスター』

「そ、そうか……異世界なのか……」

『納得していただけましたか、マスター』

「……納得はしていないが、取り敢えず理解はした」

『今回のマスターは、意外と頑固ですね』


 こんなこと、そう簡単に納得できるか!!

 ちょっと待て……、今……


「今回のって言ったか?」

『はい、あなたで5人目の『来訪者』で3人目の『マスター』です』

「『来訪者』っていうのは何だ? 後、数が合っていないのはどういうことだ?」

『1つ1つ答えていきましょう。まず『来訪者』というのは、貴方やこれまでのマスターたちのように貴方がたの世界――こちらでは『アース』と呼ばれていますが――そこから来た者達のことをそう呼んでいます。実際は連れて来られたのですが……後、『来訪者』と『マスター』の数が合っていない理由については後ほどお話しします。他にお聞きになりたいことがあれば、この機会に全てお話しします』

「……実際には連れて来られたと言ったな? 俺をこの世界に連れて来たのは、誰だ?」

『……そのことをお話しする前に、お聞きしておかなければならないことと、お話しておかなければならないことがいくつかあります』


 何か話を逸らされたような気がするが……

 まぁ良い。


「何だ……?」

『マスターはこの世界――『ヴェルガディア』についてどう思われますか?』


 どう、と言われても、質問の内容がアバウトすぎて答えづらい。


「『VLO』と何か関係があるのか?」

『ご明察の通りです、マスター』


 ご明察って言われても、ここまで名前が一緒なら、馬鹿でもわかるだろ……

 こいつ、ちょいちょい丁寧なのか、馬鹿にしてんのか、わかりづらい時があるな……

 もしかして、本当は馬鹿にしてんのか?


『お気に触ったのならば、謝罪します。何分、こういう口調なもので……』


 しかも、こうやって微妙に心を読んでくるのが余計に……

 ハァ……

 もう良いや。

 一応、本人(?)も反省してるみたいだし……


「話を戻そう、『ヴェルガディア』と『VLO』の関係についてだったな? この世界が『VLO』に似ているとか?」


 ありきたりな考えだが、取り敢えず言ってみた。


『確かにこの世界は、『VLO』と良く似ています。しかし、順番が逆なのです。『ヴェルガディア』に似せて造られたのが、『VLO』なのです』


 どっちでも大して変わりはなさそうだが……


『本当にそう思われますか、マスター? 良く考えてみて下さい』

「……取り敢えず、心を読むのをやめろ」


 言われた通りに考えてみる……

 もし『VLO』が先にあったのだとしたら、この世界はただ似ているだけの世界ということになる。(理屈などは全くわからないが……)

 しかしこいつが言うように、『ヴェルガディア』に似せて造られたのが『VLO』だとしたら……


「そうか、『VLO』を造った奴らの、少なくとも1人はこの世界のことを知っているはずだ」

『満点ではありませんが、一応正解です。実際はこの世界の神が、『アース』の人間たちを操って造らせました。その際、記憶操作が完璧ではなく、操られていた時の記憶が多少残ってしまった人がいるらしいのですが、お聞きになったことはありませんでしたか?』


 あぁ、そういえば『VLO』のデザイナーの1人が、「俺は神の声を聞いたんだ!!」とか言っていたらしいな。

 掲示板とかでも偶に「神の声を聞いた男(笑)が造ったゲームだしw」って荒らされていたしな。


『そういうことです。ちなみに、『コクーン』の開発者の中にも神に操られた人達はいます』

「何っ!? どういうことだ?」

『マスターはどうやってこの世界に来たと思っているのですか?』

「それは神の力とか、そういうのじゃ……」

『確かに、神の力も使われてはいます。しかし、世界を渡る――要するに次元を越えるのは、いかに神といえど容易なことではないのです』

「じゃあ、どうやって……?」

『マスターは、『コクーン』の内壁を見たことはありますか?』

「あぁ、当然ある。中に入れば嫌でも見えるからな」

『では、その時のことを思い出して下さい。……青いライトで照らされていましたね? 何かに似ていませんでしたか?』


 青いライト……、奇妙な形に曲がりくねって内壁に埋まっていた……


「ッそうか!! あのライトの形、【調伏テイミング】スキルで従えたモンスターを【召喚】する時に浮かぶ魔導紋章にそっくりだ!! しかもあのライトの色、おまえの光の色と良く似ている……」

『その通りです。あれは【召喚】の魔導紋章で、『来訪者』をこちらに呼び寄せる際に神が力を通すことによって発動し、次元を渡る時の補助装置になるように造られているのです』

「そういうことか……それでさっきから度々話に出てきている『神』が、俺をこの世界に連れて来た奴だな?」

『はい、そうです。マスターも薄々気づいておられるとは思いますが、今この世界で次元を越えて他者を呼び寄せることができるほどの力を持っておられるのは、『時空神ディオス』様だけです』


 やっぱりか。

 神龍の可能性も考えたが、神龍は眠りに就かなければならないほど消耗しているはずなので、可能性としては微妙だったのだ。

 あいつには色々と借りがあるからな、邪神龍のことや、邪神龍のことや、邪神龍のこととかな!!

 まぁ、『アイギス』を入手できたことであいつに恩も感じているが、今は知らん!!

 『VLO』の『ディオス』と、『ヴェルガディア』の『ディオス』が同じ存在かどうかはわからないが、全くの無関係ではないだろう。


『……ちなみにあのお方に受けた恩は、それだけじゃないんですけどね……』

「ん? 何か言ったか?」

『いいえ、何も。先に言っておきますが、マスターを元の世界に還すことができるのも、あのお方だけですからね? その上でお聞きしますが、マスターはディオス様をどうされるおつもりですか?』

「殺す――と言いたいところだが、元の世界に還る手段が無くなるのは困るから、一発思いっ切りぶん殴る!!」

『ま、まぁそのくらいなら良しとしましょう』


 自分で言っておいて何だが、良いのか?

 一応、神様だろう……

 まぁ、気にしないでおこう、俺が損をする訳でもないし。

 それにしても、『元の世界に還る手段』か……

 もうここが異世界だと受け入れてるのか、俺は?

 まぁ、これも気にしないでおこう、悪影響はないだろう……

 多分……


『これでこの世界が『異世界』であること、『ヴェルガディア』と『VLO』との関係性、マスターをこの世界に呼び寄せた人物(神)についてお話しました。そして、これから『ヴェルガディア』のことをもう少し詳しくお話ししたいと思います』

「……あぁ、わかった」

『それでは……マスターは『ヴェルガディア』のことをどのくらい御存じですか?』


 『VLO』がこの世界に似せて造られたのなら、ある程度は『VLO』の設定と似通ったところがあるはずだ。

 なので、『VLO』の公式設定や主なクエスト、出会ったことのあるモンスターや魔物のこと、そして『アイギス』のことを話していく。

 後、邪神龍と闘ったことも話しておく。


『……なるほど。まず公式設定については、大まかにはその通りです。異なる部分もありますが、それは先の『来訪者』と『マスター』の数の不一致とも繋がってきますので、後回しにしましょう。まずはモンスターのことについてです。この世界では『邪神龍の眷属』のことは同じように『魔物』と呼びますが、モンスターという呼び方はありません。ほとんどが『魔獣』と呼ばれています。マスターの話の中には『神獣』と呼ばれる存在もいましたが……モンスターという呼称を使っても意味は通じると思いますが、こちらの人間はまず使わないので目立ちたくないなら使わない方が良いでしょう』

「『意味が通じる』でふと思ったんだが、何で俺たち言葉が通じてるんだ? おまえ、日本語を話しているのか?」

『……別に日本語では話していません。ディオス様のお力です。話の腰を折らないで下さい』


 怒られた……

 聞きたいことがあれば聞けって言ったじゃん……

 やめておこう、また怒られそうだ……


『……それでクエストについてですが、クエストはこの世界でもあります。ただし、冒険者ギルドで受けることのできるものを『依頼』、『神族』からの試練を『クエスト』と呼び分けてます。一般人や普通の冒険者たちには、『クエスト』はほとんど関係ありませんね。まぁ、マスターなら『クエスト』を受けることもあるでしょう。と言うか、十中八九受けなければならなくなると思います』

「……? 何でだ? って言うかそうゆう風に言われると、何か嫌な予感しかしないんだが……」

『まぁすぐに、どうこうというものではないので、追々説明します』

「……それと冒険者ギルドか。こっちにもあるんだな」

『えぇ、あります。ですが、ついでに言っておきますが『VLO』のギルドカードは使えませんよ。というか、持っていないでしょう?』


 そう言われて慌ててインベントリを見てみる。

 確かに無かった……


「ん? インベントリ? 何で使えるんだ?」


 というか、この身体、『ディーン』の身体じゃねぇか!!


『……今頃気づいたのですか……? というか、岩を殴った時に気がつかなかったのですか?』


 それはそうだが、あの時はまだ『VLO』の中だと思ってたんだよ!!


『いえ、その後です。異世界にいると確認した時です』


 ……あの時は気が動転してたんだよ!!

 ほら、俺、身長とかほとんど変えてねぇし!!


『もう良いです……あまりに普通にされていたので、御自分で何か理由をつけて納得されたのだと思っていました。説明しなかった、こちらの落ち度もありますし、次はそこを詳しくお話ししましょう。『アイギス』のこととも関係ありますしね』


 な、何か凄い呆れられた……


「お、お願いします」

『わかりました。先程、『コクーン』が召喚の補助装置になっているのはお話ししましたね? 実は『VLO』のゲームそのものにも、ちゃんと役割があるのです。1つは、『コクーン』の使用者を増やすことです』

「確かに『VLO』がリリースされてから、『コクーン』は爆発的に使用者が増えたしな」

『もう1つは、この世界『ヴェルガディア』を疑似体験してもらうことです。これにはさらに2つの役割があって、1つ目は『来訪者』たりえる者を探し出すこと。2つ目が『来訪者』になる時の『器』を創り、成長させることです』

「『器』って何だ? いや、『何の』だ?」

『マスターは偶にもの凄く鋭いですね。おそらく想像の通りですよ』


 うるせぇーよ、“偶に”は余計だ。


「いや、一応説明してくれ」

『わかりました、『器』とはこの世界での『来訪者』の身体のことです』

「ということは、この世界に召喚されたのはいわば俺の『魂』だけってことか?」

『わかっていて、そんなことを仰るのですか?』


 いーんだよ、こうやって確認しつつ自分を納得させてるんだから。


『……違います。マスターの身体は今、向こうの世界『アース』にはありません。『器』というのは、『アース』の言葉を借りると、『幽霊』のようなもので実体はありません。ですので、『魂』だけ『器』に入れてもこちらの世界でそれこそ『幽霊』になるだけです。そんなことをしても無意味なので実際は身体、『肉体』も、これも『アース』の言葉を借りるなら、次元を越える際に原子、素粒子レベルにまで分解され『器』に合うように再構成されているのです。その再構成される際に『神龍』様、ディオス様のお二人のお力で『器』の能力を『VLO』で成長させた通りに強化し、潜在能力を引き出しているのです。ですので、その身体は『ディーン』であり、同時に『仙道明』でもあるのです』

「想像と少し違うところもあったが、大体はあってたな……」


 しかし、これで当たって欲しくはなかった仮説が1つ証明されてしまったな。

 それは――この世界で死ねば、向こうの世界でも死ぬということだ……




『大丈夫ですか?』

「ん? あぁ、大丈夫だ」


 俯いて、考え込んでしまったので心配されてしまったようだ。


『話を続けさせていただいても、宜しいですか?』

「あぁ、構わない。話を続けてくれ」


 予想していたとはいえ、意外と落ち着いてるな、俺。

 てっきり、異世界だと聞かされた時のように取り乱すと思ったが……

 まぁ、良い。

 今は話を聞こう。


『ギルドの事は、御理解していただけましたか? いずれマスターには、ギルドに登録していただくことになりますので、疑問があれば、またその時にお答えすることにしましょう。では、次はインベントリについてお話しましょう。マスター、お手数ですがインベントリを開いていただけますか?』

「わかった」


 言われた通りにインベントリを開く。


『今更ですが、この世界でも『VLO』と同じようにインベントリを使うことができます。ですので、普通に使っていただいて大丈夫です』

「ということは、この世界の人達もインベントリが使えるのか?」

『いいえ、使えません。しかし、『時空属性魔術』の一種として認識されているようです』

「何でこの世界の人達が使えないのに、インベントリの存在が認識されているんだ?」

『以前のマスターたちが使ったからです。それを目撃された際に咄嗟の言い訳として、「時空属性魔術だ」と言ったのが広まったようです。実際に『時空属性魔術』には、似たような効果を持つものがあります』


 さっきから微妙な違和感を感じつつも、インベントリを閉じながら先を促す。


「インベントリのことはわかった。使えると言うなら便利で良いさ。次は何だ?」

『そうですね……次は、ステータスウィンドウのことにしましょう』

「……ステータスウィンドウが存在するのか?」

『……? しますよ?』


 本当に異世界なのか?

 インベントリが使えたり、ステータスウィンドウがあったり、どう考えても『VLO』の中だとしか思えないんだが……


『そう言われましても、『そういうもの』だと納得していただくしかありません。この世界では『石を落とせば下に落ちる』のと同じくらい当たり前のことなのです。ちなみに、ステータスウィンドウはこの世界の人間たちにも見ることはできます。当然、許可がない限り見ることができるのは、自分自身の物だけですが』


 まぁ許可がなくとも、他人のステータスをある程度確認できるスキルはあるけどな……


「ステータスウィンドウのことは、そういうものと納得しよう。そういえば『アイギス』のことを聞いていないな。話してくれないか?」

『わかりました。まず、この世界にも『VLO』と同じようにクラスⅤの魔導兵装が6つ存在します。そして、マスターがお持ちの『アイギス』は紛れもなく、魔導兵装クラスⅤ『アイギス』です』

「でもこれは、『VLO』の中で手に入れた物だぞ? この世界の『アイギス』と同じ物なのか?」

『はい、同じ物です。『器』の話は覚えておいでですね? それと同じ原理です。この世界の『肉体』としての『アイギス』が分解され、マスターのお持ちだった『器』としての『アイギス』の元で再構成されたのでしょう。恐らくはディオス様の仕業でしょう』

「仕業って……まぁ、良い。あって困る物じゃないし、むしろ助かるし嬉しい」


 こいつは長い間、俺を助けてくれた相棒のような物だ。


『……それでは本題に入りましょう』


 何でちょっと拗ねたような声なんだ……?


『ちゃんと話を聞いて下さい』

「わ、わかったって。本題というと、最初の『来訪者』と『マスター』の数の違いに関してのことか?」

『はい、そうです。そのことに絡んで色々とお話しすることがあります。まず、前回『来訪者』がこの世界に招かれたのは200年前です…』

「は? 何て?」

『もう一度言います、前回『来訪者』がこの世界に招かれたのは200年前なのです』

「………、ちょっと待て…200年前だって!? おかしいだろう!? 『VLO』がリリースされてから、どんなに長く見積もっても10年くらいしか経ってないぞ!!」

『この世界『ヴェルガディア』とマスターの世界『アース』では、時間の流れる速度が全く違うのです。『ヴェルガディア』の時間の流れる速度は、『アース』の約1万倍なのです』


 1万倍だと!?

 単純に計算しても、『アース』での1日が『ヴェルガディア』の27年だ。


「それじゃあ、元の世界に還る時にはどうなるんだ!?」


 身体の方は多分大丈夫だろう、こちらに来る時に分解、再構成されているのだ。

 還る時も同様ならば、元の身体と同じに再構成されるだろう。(それでも不安だが……)

 だが、性格や精神年齢はどうなる?

 こちらの世界で5年も過ごせば、向こうの世界では5時間足らずの内に全くの別人だろう。


『その辺りのことは、私にはわからないのです……今までの『来訪者』たちの中で、『アース』に還ることのできた者はいないのです……』

「ッ!! それじゃあ、『来訪者』たちはどうなった……」

『全員死亡しました……』

「……前の『来訪者』は、200年前に来たと言ったな? 200年前なら『アース』では大体1週間ちょっと前のはずだ……今の時代、人1人が1週間も行方不明で事件にならないはずがない」

『それは『来訪者』としてこの世界に招かれる際に、その人物に関する記憶、記録は全て『アース』の人間たちに認識できなくなるように操作されるのです』

「ということは、俺のことも皆、忘れている訳か……その操作をやったのも『ディオス』か?」

『いえ、いくらディオス様でも『アース』にそれ程の影響力はありません。恐らくは『アース』の神の力でしょう』


 あの世界の神もグルなのか……

 というか、いたのか神様……


「ふぅ~、まぁ良い。おまえを問い詰めても仕方がなさそうだし、いずれディオスにも会うんだろ? その時に問い詰めてやるさ。それで、この話がどう『数の違い』の話に絡むんだ?」

『……先程、マスターは5人目の『来訪者』で、3人目の『マスター』だと言ったことは覚えておいでですね? マスターの前には、4人の『来訪者』がいたのです。まず、最初の『来訪者』はマスターと同じくらいの年齢の男性でした。しかし、彼と3人目の『来訪者』の話は最後にしましょう。それで、2人目の『来訪者』はマスターより少し年下の女性でした。そして、私の初めての『マスター』でもあります。心優しく素晴らしい女性でした。ここが異世界であることを受け入れ、邪神龍を滅ぼすために力を貸してくれました。当然、元の世界に還るという目的もあったでしょうが……しかし、彼女の優しさと圧倒的な力に目を付けた人間たちの所為で、彼女はある迷宮の中で命を落としました……そして、4人目の『来訪者』にして2人目の『マスター』は男性でマスターよりも少し年上で、何より勇敢な人でした。柔軟な思考も持ち合わせ、いくつもの迷宮を攻略しましたが、ついには力尽きてしまいました』

「…………、最初と3人目の『来訪者』のことを話してくれないか?」


 2人の『マスター』について訊きたいことはあったが、先に残りの2人のことを訊くことにする。


『……最初の『来訪者』の彼はここが異世界であるという精神的な過負荷に耐え切れず、精神を病んでしまわれました。その時、『神族』の間で彼を『アース』に還すという意見も聞かれましたが、『アース』では一瞬の内に廃人になってしまったので、還すのも酷だということで彼は神界に引き取られ、そのまま亡くなりました……3人目の『来訪者』は、思い出すのも嫌ですが、彼は異世界であるということは受け入れましたが、己の圧倒的な力を使い大勢の人間を手にかけ、さらには『神族』にも牙を剥き、悪逆の限りを尽くしました。『アース』に送り還す訳にもいかず、見かねたディオス様に殺されました……』

「……勝手に連れて来ておいて、随分と酷い仕打ちだな……」


 1人目はまだ良い、手厚く看病されたはずだ……(そのくらいは神の良心を信じたい……)

 しかし3人目は、全く同情はできないが、いくら何でもあんまりだろう。


『…………、何を言っても言い訳にしかならないでしょう……しかし、私たちもそれほどまでに追い詰められているのです』

「追い詰められている? どういうことだ?」

『……マスターは邪神龍が誕生する切っ掛けとなった全世界、全種族を巻き込んだ大戦争――こちらでは『大戦』と呼ばれています――がそれがいつ起こったか御存じですか?』


 ……いきなり話が変わったな。

 まぁ、良い。


「……そういえば、知らないな。公式サイトにも載っていた記憶が無いな」

『約30万年前です……そして、邪神龍が封印されたのが、約20万年前になります』

「そんなに昔のことなのか……」


 30万年前と言えば、『アース』では30年前か……


『そして、この世界の邪神龍の封印はもう解けかかっています』

「なっ!? 公式の設定ではそんなものは無かったはずだ!!」

『邪神龍の封印は、ここ300年ほどの間に急速に解け始めてきました……これが時間の流れる速度に差がある弊害にして、私たちが焦っている理由です』


 300年なら2週間ほどか……

 それなら対応することは難しいだろう……

 こちらの世界の神が『アース』に干渉するためには、一々『アース』の人間を操らなければならないのだ。

 迅速に対応するのは無理だろう。

 それなら、『アース』の神に頼めば良い気もするが……


『どうも『アース』の神は自分の世界に干渉することに、あまり良い気はしていないようです。『来訪者』に関しても、ディオス様がかなり無理を言って頼み込んでいるようですね』


 少しだけ見直したよ、神様……


「……そうか、この邪神龍の封印のことが公式設定との相違点なんだな? それにしても、時間の流れる速度の差か……これで、さっきの違和感の正体がわかったな」

『公式設定との相違点についてはその通りです。それで、違和感とは何ですか?』

「さっきおまえ、インベントリは『時空属性魔術』の一種と認識されてるので、何処で使っても問題ないって言ったよな? その時、その認識が広まるほどの時間なんてあったのか?――と思ったけど、さっきの話で納得した。少なくとも200年あったんだ。それだけあれば認識も広まるよな。色々と納得がいったよ」

『そういうことでしたか。他にお聞きになりたいことはありますか?』

「1つだけ。おまえの、2人の『マスター』の名前を聞いて良いか?」

『ッ!? はい。アバターネームで宜しければ……』

「それで構わない、教えてくれ」

『わかりました、『リシェル』様と『ギルム』様です……』


 ――やっぱりか……

 『リシェル』は、『妖精族』の『ケットシー』をアバターにしていた女性プレイヤーだ。

 正義感が強く、多少頑固なところもあったが優しい女性ひとだった。

 俺がまだ弱かった頃、PKされそうになっていたところを助けてもらったことがある。

 『ケットシー』特有の素早さで、舞うように【魔法剣】を操り、次々と敵を屠っていく光景は、今も鮮やかに思い出せる。(俺が【魔法剣】を使っているのは、彼女に憧れたからという理由もある)

 その姿と、戦闘後に話しかけられた時のギャップは、今思い出しても可笑しい。(『ケットシー』は強制的に語尾が『ニャ』になってしまうのだ)

 そして、『ギルム』は『魔族』に分類される種族『鬼族』をアバターにしていたプレイヤーだ。

 面倒見が良く、しょっちゅう低レベルプレイヤーを迷宮で鍛えていた。

 あいつとは、迷宮で助けたり、助けられたりした仲だ。

 隊列や作戦を迅速にかつ的確に決めていく頭脳派なところがあるくせに、いざ戦闘になると真っ先に最も手強そうな相手に【両手斧グレートアックス】を構え、突っ込んでいくような奴だった。

 2人とも友人と呼べるほどの付き合いは無かったが、何度かパーティを組もうと誘われたし、俺がメールのやり取りをする数少ないプレイヤーだった。


「…………、そうか2人は死んだのか……」

『お知り合い……だったのですね。』

「……知っていたんだろう?」


 何となくそんな気がした……


『はい、お二人の記憶にマスターのことがありました』

「そうか……あいつらのこと、もっと話してくれないか?」

『私が話しても構いませんが、私の『記憶』を見ていただいた方が宜しいかと思います』

「……? 『記憶』を見る? どうやるんだ、それは?」

『私と『契約』していただければ、契約後にお見せできるはずです』

「『契約』? そういえば、おまえは何なんだ? 意志があることといい、その知識量といい、ただの剣ではないんだろう? 何処かで見たことがある気はするんだが……」

『そういえば、まだ言っていませんでしたね。私は……』



『ロングソード型魔導兵装クラスⅤ『ラグナレク』です。以後お見知りおきを、マスター』



「ッ!! そうか。何処かで見た覚えがあると思ったら、公式サイトだったのか。それが何でこんな所にあるんだ?」

『私は『神龍アリューゼ』様より、『来訪者』の手助けをするように申しつかっているのです。それに私は、『邪神龍ティアマト』を滅ぼすための6つの魔導兵装の力を解放する、『鍵』の役割も持っています。ちなみに、マスターの『アイギス』も未だ眠った状態です』

「力を解放する『鍵』!? 『アイギス』のこれほどの性能でも眠った状態だって言うのか!?」

『はい。本来の性能の、良くて半分ほどでしょう。私と『契約』すれば、本来の性能が解放されるはずです』

「……わかった。『契約』しよう。どうすれば良いんだ?」

『やり方は簡単です。私を持って立っているだけで構いません』

「それだけで良いのか? 簡単だな。早速『契約』しよう」

『ただ覚悟はしていて下さいね?』

「覚悟? 何のだ? 『契約』にもの凄い激痛でも伴うのか?」

『……『契約』自体には痛みは伴いません。ただ――いえ、やっぱり良いです。気づいておられないようなので……ただ覚悟はしておいて下さい』


 そんな言われ方をすると余計不安になる……

 取り敢えず、何が起こっても良いように覚悟はしておく。


『準備は宜しいですか?』

「あぁ、いつでも始めてくれ」


 言われたように、立ち上がり、『ラグナレク』の柄を右手で握り、剣身を左手で下から支えるようにして持つ。


『始めます』


 すると、俺を中心とした地面に見たこともない紋章が浮かび上がり、蒼く輝き出す。

 とても目が開けていられる光量ではないので、思わず目を閉じる。

 そうして、しばらくじっとしていると輝きが収まってきたので、目を開ける。


『お疲れ様でした、『契約』は無事完了しました。お身体に変わりはありませんか』


 ……終わったようだ。

 あれだけ脅されたが、特に何も無かったな……


「あぁ、特に変わりは――」


 『ズキッ!!』


「グゥッ!!」


 な、何だ……

 左目が……

 いや、今俺の左目は……


 『ズキッ!!!』


「ガァァァァ!?」


 左の眼窩にまるで真っ赤に焼けた鉄の棒を突っ込まれ、グリグリと掻き回されているかのような凄まじい異物感と痛み、焼けるような灼熱感が……

 ダメだ、考えることもままならない……


「ガアアアアァァァァァ………!!」


 ただ叫び、痛みにのたうち回る。

 すると、唐突に痛みや異物感等が引いていった……


「ハァ……ハァ……ハァ……ゲホッ! 今のは一体、何だったんだ……?」


 叫びすぎて、喉が痛い……


『大丈夫ですか、マスター?』

「あ、あぁ、今は大丈夫だ。それにしても、さっきの痛みは何だったんだ? 後10秒続いていれば、気が狂っていた自信があるぞ……」

『変なことに自信を持たないで下さい。それよりもマスター、インベントリから鏡を出して、顔を見てみて下さい』


 インベントリから鏡を取り出して、覗き込む。(ちなみに、この鏡は迷宮の曲がり角などで先を確認するために使う物なので、勘違いしないで欲しい)

 すると――


「ッ!? 左目がある!! しかし……何だこれは!? 瞳が金色になってるぞ!!」


 邪神龍につけられた傷は、今も左の眉の上辺りから顎の辺りまであるが、左目がちゃんとある!!

 しかし、何で瞳が金色になってんだ?


『やはり気づいてなかったのですね。マスターの左目は、この世界で気がついた時からありましたよ? そしてマスター、落ち着いて、左目に魔力を集中させるのを止めてみて下さい』


 気づかない内に、左目に魔力を通していたようだ……

 リラックスするように体の力を抜いてみる……


「ッ!? 瞳の色が黒になった!?」


 どうなってんだ?

 さっぱりわからん……


『それは『ディオス』様の左目なのです。何か、思い当たる節はございませんか?』


 あいつの左目だって!?

 それに、思い当たる節と言われても……

 俺はあいつと会ったこともなければ、顔すら知らない……

 いや、何かを忘れている気が……

 ――あっ!

 この世界に来る時に見た夢か!!


『そう、それです』


 ということは、あれは夢じゃなかったのか……


「そういえば、『餞別をやる』みたいなことを言われたな……そうすれば、あいつが『ディオス』か……もう1人、誰かいたような気がするが思い出せん」


 もう1人は霞がかかったように、ぼんやりとしていた……


『恐らくその時に渡されたのでしょう。そして、私との『契約』でその目の力が解放されたのでしょう。先程の痛みは『神の目』が身体に馴染もうとして、発生したと思われます』


 『神の目』か……

 段々人間離れしていくな……

 まぁ、厳密に言えば元々人間ではないのかもしれないが……


「ハァ……何か気が抜けたら、腹が減ってきたな」

『そういえば、もう昼時ですね。それでは、食事を摂りながら『神の目』のことを説明しましょう』

「いや、食事と言っても、俺は何も持ってないんだが……」

『……? そんなはずはありませんよ? インベントリを良く見てみて下さい』


 インベントリを開き、確かめていく……

 すると、『ポテト』と『コーラ』、そして『甘辛いタレとマヨネーズが美味しいハンバーガー』があった。


「…………、何だこれ……」

『恐らく『アース』の神の餞別でしょう』


 ――てことは、あの夢のもう1人は神様か!?


『そういうことになりますね』


 おい……、おい……

 餞別っていったら、もっと他に何かあるだろう、神様!!

 折角見直したのに、また株がダダ下がりだ!!


『取り敢えず、食事にしましょう』




『それでは食事をしながらで良いので、聞いていただけますか?』

「あぁ、話してくれ」


 俺はポテトをつまみながらコーラを飲み、そう答えた。(ちなみに、俺はポテトを食べ終わるまで『バーガー』は食べない主義だ)


『ではマスター、左目に魔力を込めていただきますか?』

「……魔力を込めるって言っても、どうやるんだ? さっきは、訳もわからないまま込めてたし……」

『魔導兵装に魔力を込めるのと、同じ要領でできるはずです。その左目は、魔導兵装と同じようなものですから。後、右目は閉じておいて下さい』

「わかった。――なっ!?」


 魔力を込めた途端、視界に変化が起きる。

 景色全体が白黒のモノトーンになり、様々な色をしたぼんやりと光る拳大の球体が辺りを漂っている。


「何だ……これ……?」

『それは『下級精霊』たちです。色に偏りはありませんか?』


 言われてみると、赤いのが少し多く、青いのは他の色より少ない気がする。


『赤い色をしたモノは『火』の下級精霊で、青いモノは『水』です。同様に緑は『風』、茶は『土』になります。同じ色でもより色が濃く、輝きの強いモノが上位の精霊になります』


 見えている範囲ではどの色も、濃さ、輝き共に、目に見えて違うモノはいなかった。


『本来は『光』と『闇』の下級精霊もいるのですが、マスターにはまだ見えていないようですね』

「……まだってことは、これから見えるようになるってことか?」

『はい。その左目や私たちクラスⅤの魔導兵装は、各属性の『精霊王』たちと『契約』することにより力を増していきます』

「……まだ、力が増すっていうのか……」


 『アイギス』は、今でもあり得ないほどの性能を誇っているのだが……


『……マスターは『VLO』の中で、『邪神龍ティアマト』と闘ったと言っていましたね?』

「あぁ、俺の左目を奪ったのもあいつだしな……」


 あの圧倒的な力の差は、今思い出しても震えがする……


『ではこの世界の『邪神龍』の戦闘力を、……そうですね、『アース』の『ゾウ』、たとえばアフリカゾウ辺りだとしましょう』

「…………」


 何だ、その例え……

 しかも、確か『アフリカゾウ』ってキレたらかなりおっかない動物だったような気がするんだが……


『そうすると、『VLO』の『邪神龍』の戦闘力は……『あり』とまでは言いませんが、『小型の室内犬』ほどです』

「おい!! ちょっと待て!! 『室内犬』って何だ!? 例えとしておかしいだろ!?」


 そんなに可愛らしいものじゃなかったぞ!!


『……まぁ、例えはアレでしたが、戦闘力の差はそれほどあるのです』


 マジか……

 あの時でも全く勝てる気がしなかったのに……


「…………。そんなの、勝てる訳ないだろ!!」

『いいえ、マスターならば勝てる可能性は充分にあります。貴方の力は、過去2人の『マスター』に比べても圧倒的です。それに、ディオス様も貴方にはかなりの期待をしています。それは数々の『餞別』からも明らかです』

「数々? 『餞別』は、左目と『アイギス』だけじゃないのか?」

『……それは後ほど、確認しましょう。先に私の持っている『リシェル』様と『ギルム』様の『記憶』をお見せしましょう』

「わかった。少し待ってくれ」


 俺は残っていたポテトとコーラ、そして『て○○きハンバーガー』を一気に平らげた。


「それで、どうすれば良いんだ?」

『座ったままで結構ですので、目を閉じて私を握っていて下さい』

「……ところで、さっきみたいな痛みは無いだろうな?」


 アレは二度とゴメンだ……


『大丈夫です。終わった後には、少し頭痛がするかもしれませんが……』


 ……そのくらいなら良いだろう。


「始めてくれ」


 そう言って目を閉じた……




 頭の中に映像と、その時々の彼女たちの感情、想いが一気に流れ込んでくる!!




 気づくと俺は、涙を流していた……


『…………』


 彼女たちの故郷へ還りたいという想い、死に逝く時の恐怖、無念……

 様々な想いが溢れ出した……

 そして、それらの想いよりも遥かに強かったのは――



 『滅びの危機に瀕している、この世界の人達を救いたい』



 ――という想いだった。


「……ぐっ………うぐっ…………うっ……」


 涙が止まらなかった……

 彼女たちの優しさ、心の強さ、そして勇気に心を打たれた……

 俺と彼女たちとの数少ない思い出が、走馬灯のように思い出されるとともに――


 『彼女たちはもういない、死んでしまったんだ』


 ――という実感が湧いてきて、俺はその日、久しぶりに声を上げて泣いた………




「すまない……情けないところを見せてしまったな……」

『いえ、お気になさらないで下さい。私も大切な2人の『マスター』のことを悼んでいただき、とても嬉しいのです』

「そうか……俺にとっても大切な人達だったと、改めて思ったよ」


 俺はある覚悟を決めた……

 最初はただ元の世界に還ることだけを考えていたが、覚悟は決まった。


「彼女たちの『遺志』は俺が継ぐ。俺が邪神龍を滅ぼしてやる。俺の力でできるかどうかはわからないが、彼女たちが救おうとしたこの世界、必ず救ってやる!! だから俺に力を貸してくれ、『ラグナレク』!!」

『ッ!! ありがとうございます、マスター。それでは改めまして――』




『こちらこそ宜しくお願い致します、我が主(マイ・マスター)

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