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俺だけスキルツリーが生えてるダンジョン学園  作者: ファンタスティック小説家


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赤谷誠は道理を通す

 どうしてヴィルトが志波姫を襲おうとしているのかわからなかった。

 いろんな考えが及んだが、少なくともそのままにしていてはヴィルトは志波姫へ取り返しのつかないことをしそうなのはわかった。

 ゆえに鉄球で牽制をかけたが……。


「ヴィルト、何してるんだよ、そんなボロボロの志波姫に……いくらそいつが性格の悪い嫌なやつだからってそこまでしなくてもいいだろうが!」


 彼女は壁にできた鉄球の陥没からこちらへ視線を向けてくる。

 俺は咄嗟に彼女がなにか平時とは違う雰囲気なのを悟った。


 もしかして……そういうことなのか?

 ヴィルト、お前、そんなに志波姫のこと嫌いだったのかよ。

 だから、混乱に乗じてその命を奪おうとしているのか?

 いや、わかるよ、すげえわかるよ、そいつ嫌なやつだもんな。

 もちろん、優しいところもあるんだけど、ちょっと視線を向けてただけで「欲情したのね。通報するわね」って脅してくるし「赤谷くんみたいな一般人、いえ、一般人以下のスペックでどうして英雄高校にいるのかわからない」とか平気で言ってくるし、「顔がモテなそう」「なんか臭そう」「目がいやらしい形状をしてる」「あんまり近づいてほしくないタイプの生物」とか、顔合わせるたびに言ってくるもんな。マジで嫌なやつだ。


 それにやけに自信家で「お前みたいなちみっこいガキに欲情するか!」ってキレても「でも、わたし美少女でしょ。胸の大きさは女性的魅力の決定的差にはなりえない。わたしは可愛いから、一番魅力的ということは自明」と真顔で恥ずかしげもなく力説してくる。正論だけど普通は自分で言わないだろうに。


 きっと女子にも同じような態度をとっていたんだ。

 だから、あいつはいつもひとりだった。

 不思議には思わなかった。それこそ自明だ。

 志波姫がボッチで、みんなから疎まれているのは自明に過ぎる。


「わかる、ヴィルト、お前ほどの完璧美少女でもきっと嫌味を言われたんだろ。あいつもまたすべてを持つ完璧美少女ってやつだ」


 志波姫は気絶している。

 俺の普段思っていることを吐き出そう。

 女子は共感されると嬉しいらしい。ヴィルトもきっと共感を求めてるはずだ。


「志波姫って本当に嫌なやつだよな。金持ちだし、才能に恵まれてるし、実際たしかに可愛いと思う。でもやっぱ志波姫は嫌なやつだ。もっと言えばくそだ。あの氷の令嬢が持ち合わせるすべてのスペックとたまに見せる優しさを加味したとしても、平時の態度のクソを打ち消せてないんだ」

「……赤谷くん、念の為言っておくけど、わたしはまだ意識あるわ」

「ヒェ……!?」


 血溜まりのなかで志波姫の恐ろしい眼光が睨みつけてくる。

 死です。これ後で殺されます。

 ええい、もう構うものか。なるようになれ!


「志波姫はクソだ! それは俺もそう思う。だが、ヴィルト、そこまでしなくていいだろ? 嫌なことがあったなら話してみろよ」

「赤谷、どうやら強くなったというのは本当みたいだね。先に赤谷のこと殺すね」

「なんで、お前の恨みは志波姫にあるんじゃ……!?」

「赤谷、くん、あれはいつものアイザイア・ヴィルトじゃないわ……何か、妙なペンダントをつけている、禍々しい雰囲気の……」


 ペンダント?

 ヴィルトの豊満な胸元に見覚えのあるキモいクルミが、ネックレスの装飾としてくっついている。趣味悪すぎだろ。ヴィルト、お前のセンス……。

 いや、違う、そうじゃない。彼女はシードホルダーだったんだ。


 何か変だと思ったが、そういうことだったのか。

 ツリーキャットは言ってた。シードホルダーは元来、邪悪なわけではない。

 闇の力を得るには、闇に染まる必要がある。

 『血に枯れた種子(アダムズシード)』によって力を増幅させられる代償に、その内に秘めた小さな暗い感情や欲望を増幅させられてしまうのだ。


「赤谷くんじゃ、とても敵わないわ……」

「志波姫、無理して立つなよ、ほとんど死んでるぞ……っ」


 いつも着てる黒袴は見るからに濡れ、脇腹と左腕の傷は大きそう。

 俺は咄嗟に駆け寄り、ヴィルトと志波姫の間に体を挟んだ。

 ヴィルトはコインを指にセットしており……あっ、これもう撃ってくる。


 彼女のスキル『クレイジースイス』はイカれた破壊力だと聞く。

 鉄板なんて簡単に貫通するって噂だ。戦車装甲でもなければ防げないとか。いや、戦車でも防げないのかな。わからないが、とにかく喰らってはまずい。


 俺は手元の鉄球を『やわらかくなる』で殴りつけた。

 同時に『かたくなる』を付与する。


 鉄球はでかいピザ生地のように広がり、大きな盾となった。

 アノマリースフィアは異常物質だ。その強度を信じていいはずだ。


 ガゴーン! コインと盾のぶつかっただろう鈍い金属音が響き渡った。

 アノマリースフィアはヴィルトのスキル攻撃による貫通を許さなかった。

 よかった。さすがは異常物質だ。


「赤谷くん……殺されるわよ……」

「かもしれないな」


 さっきから手の震えがひどい。

 すべてを持つ天才アイザイア・ヴィルトへ挑むことは━━それも生死をかけて━━俺にとって大きすぎる試練だ。


「だとしても俺はヴィルトを止める」

「どうして……わたしのこと恨んでるのでしょう。さっきあんだけ言っておいて」

「よくわかってるじゃないか。だが、この赤谷誠は道理を通す」


 志波姫、お前は俺をすでに救っている。

 女子風呂を覗いたというのに━━もちろん悪意などない事故だが━━、お前は俺を男子寮のまえへ運び、その事実をなかったことにしてくれた。

 お前がその気になれば、学校から俺を追放させることもできただろうに。


 この赤谷誠は道理を通す。

 恩人を見殺しにすることは俺の流儀に反することだ。

 だから志波姫よ、お前をここで死なせないのだ。

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