筋力で飛ばす
色々とスキルコントロールの可能性を試しているとMPがゼロになった。
スキルとはとても奥が深い。練習して使いこなせるようになれば、応用の幅は無限大だ。
「にゃん(訳:ところで赤谷くん、ずっと気になっていたんだけどそれはなんにゃ?)」
ツリーキャットは机のうえの『重たい球』に近づいて興味ありげに前足でツンツンする。
「俺の新しい武器。全英雄ポイント払って買ったんだ。かっこいいだろ」
「にゃん(訳:この性質はまさか……赤谷くん、良い筋力補正の武器を手に入れたにゃん)」
「筋力補正の武器? 俺のザ・アノマリースフィアのことか?)」
「にゃん……(訳:赤谷くんは、ザ、とかつけちゃうタイプの男の子なのにゃん……。まあいいにゃん。武器にはそれぞれ補正が存在するにゃん。パワーさえあれば使える筋力補正の武器、巧みな武器操作技術を要求される技量補正の武器とかにゃん。代表的なダンジョン装備の”魔法剣”なんかは筋力補正と技量補正が半分ずつってところにゃん。多くの探索者に推奨されているのは、たいていの探索者なら問題なく扱えるからにゃん。自分のステータスと相談して、最適な補正のかかる武器を選ぶことで探索者は最大のパフォーマンスを発揮できるにゃん)」
「詳しいなこのツリーキャット。俺に最適な武器は……」
「にゃん(訳:言うまでもなく筋力補正武器にゃん。技量補正の武器使っても壊すのが関の山にゃん)」
確かに魔法剣すでに壊しちゃってる。
「にゃん(訳:この『重たい球』はすごいにゃん)」
「アノマリースフィアすごいんですか」
「にゃん?(訳:『重たい球』……)」
「アノマリースフィア」
「にゃん(訳:……アノマリースフィアはすごいにゃん。筋力補正Sの武器にゃん)」
「補正がS……それってどういう意味ですか」
「にゃん(訳:筋力ステータスによる攻撃力上昇率が高いという意味にゃん)」
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『重たい球』
伝説のビッグ・Pが使った異質な武器
血錆の鋼球は使用者に応え 重みを増す
命を奪うには相応の重みがあるのだ
武器補正値
体力 E 魔力 E 防御 E 筋力 S
技量 E 知力 E 抵抗 E 敏捷 E
神秘 E 精神 E
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「にゃん(訳:私が鑑定したこの異常物質の武器としての補正値をアイテムウィンドウに反映しておいたにゃん。情報が更新されて見れるようになっているはずにゃん)」
「すげえ、表示が変わった。こんなことできるのか」
ツリーキャットはただ可愛いだけじゃない。すごすご猫だ。
「にゃんにゃん(訳:私の見立てでは『重たい球』……アノマリースフィアの筋力補正は約5倍にゃん。だから、もし筋力1,000の探索者が武器として使った場合、理想攻撃力は5,000になるにゃん)」
なるほど。補正による倍率が高いステータスをあげておけば、その武器で火力を出しやすいというわけか。勉強になる。
「にゃん(訳:さらにアノマリースフィアは面白い異常性を持っているにゃん。この鉄球は装備者の筋力ステータスに依存して、鉄球自体の重みが増すみたいにゃん)」
「そんな効果あったのか」
アイテムウィンドウの説明をよく見ると『血錆の鋼球は使用者に応え 重みを増す』とあった。この記述ってそういう意味だったのか。
「にゃん(訳:アノマリースフィアの声を感じるにゃん。そうすればどうすればいいのかわかるはずにゃん)」
意識を鉄球に集中する。
イメージが頭のなかに流れ込んでくる。
見える。この異常物質の血錆の鉄球にはスイッチのようなものがある。
物理的なスイッチではない。俺の意識だけがその存在を知覚している見えないモード切り替えスイッチだ。
そのスイッチをオンにする。
「うっ!?」
スイッチを切り替えた瞬間、重たい球はその重量を果てしなく増大させた。
びっくりして手で持っていることができず、とり落とす。鉄球は床のうえに落ちて、べきっとフローリングを陥没させ、床の下に消えてしまった。
「なんて重さ……っ、これがアノマリースフィアの異常性……!」
俺は恐る恐る鉄球を拾いあげる。
我が筋力を誇れば持てないことはない。しかし、くそ重い。
およそこの世のまともな物質が持つだろう重さではない。
「にゃん(訳:どうやら赤谷くんは筋力を上げすぎたようにゃん。本来なら筋力ステータスに比例して上昇するはずが、すでにアノマリースフィアの増加重量は限界値を記録しているにゃん)」
「マジか。これ何キロあるんだ?」
「にゃん(訳:ざっと1,000キロにゃん)」
重てえ。アノマリースフィアくん、メンヘラ気質だったか。
「にゃん(訳:元の鉄球の重量が10kgだから、1,000kgになれば重さは100倍にゃん。運動エネルギーは物体が重たければ重たいほど高まるにゃん。『飛ばす』で同じ速度で飛ぶと考えれば、威力は単純に100倍になるにゃん)」
うん、難しいこと言ってるな。
「とりあえず、この重たいモード……モード:リーサルにして撃ち出したら、相手は終わるってことでいいんだろ?」
「にゃん(訳:まあ、間違ってないにゃん)」
なんだか小難しいことを色々言われたが、とにかく『重たい球』は攻撃能力に置いて非常に優秀だと言うことがわかった。
「にゃん(訳:アノマリースフィアで殴った場合の威力方程式はこうにゃん)」
筋力×筋力補正S=ATK
「にゃん(訳:モード:リーサルを使うとこうにゃん)」
筋力×筋力補正S×100=終わり
「おお、これならわかるかも」
ざっと計算してみる。
筋力は30,000。筋力補正Sで5倍。
30,000×5=150,000ATK
となった。
これは強いのだろうか。
いまいちピンとこない。
「にゃん(訳:己を知り、相手を知れば百戦危うからずにゃん)」
「なるほど。理解。ところで、これって『飛ばす』したらもったいないのかな」
「にゃん(訳:飛ばしてしまったらせっかくの筋力補正が乗らないにゃん。筋力ステータス30,000も宝の持ち腐れ状態になってしまうにゃん)」
「マジか……飛ばしてたの間違いだったのかよ。俺、防御も敏捷もないから近づかせない戦法でこの先やってこうと思ったのに」
「にゃん?(訳:なるほど、だとしたら私がなんとかするにゃん。ちょっとツリーにお邪魔するにゃん)」
「何する気だ。待て、やめろ━━うぎゃああああああ!?」
ツリーキャットは俺の腕に飛び乗ると、腕を引っ掻いて、傷口から体内へ滑るように侵入してきた。スキルツリーは呼応して飛び出す。くそ痛い。死ぬ。
「にゃん(訳:お待たせにゃん。赤谷くんがこれまで溜めた経験値のおかげで『スキルの種』が実っていたにゃん)」
言ってツリーキャットがスキルツリーの幹から分離して出てくる。血が飛び散り、嗅ぎ慣れた鉄臭さが部屋に充満する。また掃除しないとだ……。
この猫、ツリーと一体化していた。異常キャットということか。
黒い前足がずいっと何かを差し出してくる。トロンっと蕩けた人の目玉のように見える。黄ばんだ粘質の液体に包まれていて、非常にグロテスクだ。なんのつもりだ。この猫。
「にゃん(訳:食べるにゃん)」
「無茶言うな」
「にゃん(訳:安心するにゃん。異常物質にゃん)」
「異常だから安心できないんだ。さては俺たちあんまりわかりあえてないな?」
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『スキルの種』
スキルツリーが実らせる瞳
内に宿すことで神秘の力を増幅させる
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なんで樹に人の目玉が実るんだよ。狂ってるよ。
そして、俺の頭になかで「強くなりたくば喰らえ」って声も響いてる気がするし、俺はおかしくなってしまったのか?
恐る恐る目玉を受け取り、俺は一息に飲みこんだ。
目玉は程よい弾力があって、硬い外国産のグミみたいな食感だった。
味はほんのり甘く、蜂蜜のような風味を感じる。意外と不味くはない。
「にゃん(訳:『スキルの種』を食べるといろんなことができるにゃん。例えばスキルレベルを上げたり、スキルを変質させたり、スキルを融合させて新しいスキルを生み出したり……今回は『飛ばす』を少し編集するにゃん)」
ツリーキャットは再び、俺のツリーと一体化した。
激しい痛みに耐えていると、やがてツリーから飛び出してくる。
「にゃん(訳:終わったにゃん)」
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【Status】
赤谷誠
レベル:0
体力 1 / 100
魔力 0 / 400
防御 0
筋力 30,000
技量 300
知力 0
抵抗 0
敏捷 0
神秘 0
精神 0
【Skill】
『基礎体力』
『基礎魔力』×4
『基礎技量』×3
『発展筋力』×3
『かたくなる』
『やわらかくなる』
『くっつく』
『筋力で飛ばす』 NEW!
『引きよせる』
『とどめる』
『曲げる』
【Equipment】
『スキルツリー』
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増えている……『筋力で飛ばす』だと?
編集するとか言ってたが、もしかして『飛ばす』の効果を変えたのか?
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『筋力で飛ばす』
アクティブスキル
手元の物体を 筋力を総動員して
全力で投げた結果で飛ばす
【コスト】MP10
空を目指した兄弟
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これです。
求めていた物がすべてある。
「にゃん(訳:赤谷くんはまだスキルツリーに関しても、スキルに関してもほぼ何も知らないに等しいにゃん。これからたくさん学んで強くなるにゃん)」
「ありがとな。ツリーキャットのおかげで俺、強くなれてる気がするよ」
たくさん頭を使ったら眠たくなってきた。
俺はベッドに潜り込み、眠る体勢になる。
MPも全部使っちゃったし、今日のところはもう休もう。
明日またいろんなスキルを組み合わせて最強戦術を考えようじゃないか。
「にゃん(訳:ちょっと待つにゃん! まだ眠るに早いにゃん!)」
「いや、でも疲れたし。ツリーキャットも今夜は温かいベッドで眠れよ。ほら、股の間で丸くなっていいぞ」
「にゃん(訳:私は赤谷くんに用があって戻ってきたにゃん)」
ツリーキャットは枕元に来ると、俺の顔面を肉球でてしてし叩いて起こそうとしてくる。可愛いので、このまま寝ようと思う。いつまで叩いてくれるかな。
「にゃん(訳:見つけたにゃん。この学校に種憑かれの者がいるにゃん!)」
「シードホルダー……? 聞かない言葉だな」
「にゃん(訳:種憑かれの者は『血に枯れた種子』に認められた邪悪な心を持つ者のことにゃん! スキルツリーを発芽させることはないけど、種は保有しているだけで所持者の力は増幅してしまうにゃん)」
キモいクルミは悪しき者の元へ引き寄せられやすい性質があり、そしてその力を増幅させるというわけか。
「にゃん(訳:ぶち殺してでも奪うにゃん!)」
「そんな世紀末みたいなことが許されるのは群馬県くらいだぞ」
しかし、キモいクルミは気になる。
あれが使えばスキルツリーが成長する。
よかろう。赤谷誠、動きます。
21回目の猫パンチで俺はベッドから起きあがった。
現在時刻は夜の21時30分。寮の門限までは30分しかない。
チャチャっと行って種回収してこようじゃないか。




