表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

午前3時のアドリブ

掲載日:2026/07/22

今日は部活で遅くなった。

食卓の上に、俺の分の夕飯がラップをかけて置いてあった。


「ひとっ風呂浴びてから食うか」


制服のボタンを外しながら自分の部屋へ行こうとして、真一はソファの上に投げ出されたバッグと上着を見つけ、顔をしかめた。


「またかよ。姉ちゃん、ほんと、だらしないな」


真一は放り出されていた上着をソファの背もたれに、皺にならないようにそっとかけた。

すると。

姉の上着の下から、薄い緑色のスカーフが滑り落ちた。


「へぇ、姉ちゃん、こんなの持ってたのか。最近買ったのかな」


真一は、何気なくスカーフを手に取った。

するりと、ふんわりした手触りで、少し透けた感じの布でできている。

真一の目から見ても、それはとても綺麗なものに見えた。

風になびかせてみたら、さぞ美しいだろうと想像した。


真一はスカーフを手にしたまま、しばらく考え込んでいたが、やがて「うん」と頷くと、「姉ちゃん、これ、ちょっと借りるぜ」とスカーフをズボンのポケットにしまい込んだ。


風呂に入って、部屋着に着替え、用意してもらっていた夕飯を食べ。

真一は、なんだかソワソワしていた。

部屋でベッドに寝転がって漫画を読みながらも、なお落ち着かない気持ちでいた。


そして、午前3時。

いつもなら、もうとっくに寝ている時間だが、真一は姉のスカーフを持って、そうっと家を抜け出した。


夜中の住宅街は、街路灯がぽつ、ぽつ、と灯っているだけで、人っ子ひとりいない。

真一は、1本の街路灯の下で、手に持ったスカーフを、ひらり、と揺らしてみた。

スカーフが、やわらかく宙を舞った。


ほら、やっぱり綺麗だ。


真一は、何度もただ、ひらり、ひらり、とスカーフを振っていたが、そのうち、ふと思いついて、くるりとその場で回ってみた。

真一についてくるように、スカーフがふわりと回って、ゆっくりと弧を描いた。


すごく、綺麗だ。


それから真一は、静かに手を差し伸べて、踊り始めた。

優雅なワルツ風、

しなやかなバレエ風、

エスニックな舞いのように、

どれも、全く知らないから、思いつくままに、でたらめに踊った。

こんなところを誰かに見られたら恥ずかしいな、と思いながらも、止められなかった。


スカーフも、ひらり、ひらり、と舞っている。


いつしか、街路灯の灯りは眩しいスポットライトになり、

足元のスニーカーが華奢なガラスの靴に変わっているように感じた。


カツン、コツン、と透き通った靴音を鳴らしながら、真一は夢中で踊った。

スカーフも、ひらり、ひらり、と舞った。


空が白味がかってきて、遠くで新聞配達のバイクの音がした。


真一は、ハッと我に返った。

もうそんな時間か。


真一は、スカーフを小さくたたんでポケットに入れ、慌てて家に帰った。

そして、スカーフを姉のカバンにしまって、何事もなかったかのように、ベッドにもぐり込んだ。


外ではスズメがチュンチュンと鳴き始めていた。


あ、いけない、靴を片方置いてきてしまったな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
深夜のショータイム。秘密の時間でしたね(#^^#) 優雅で美しいものに魅せられてしまったんですね。 普通は押し殺してしまいそうなのに、素直に感じる心を表現できた真一くん。 最後の靴の片方にはくすりと笑…
きれいなものへの純粋な憧れだったのかなぁ、と思いました。 ディ○ニーとかの映画で、そんな妖精みたいなダンスありそうですものね。 密かに綺麗だなぁって憧れていたのかも(*^_^*) 靴は…… 王子様(お…
不思議な味わいのお話でした。 主役が女の子なら、姉のスカーフに憧れてっていう展開になるでしょうけど、男の子ですもんね。部活はダンス部じゃなさそうだし、なんだかシュールな感じさえします。 でも真一くんに…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ