第6話 あなたと結ばれます 2
その時、扉が開いた。
「させるか!」
入ってきたのは――レオンハルトだった。
「レオンハルト……!」
「セリア!」
彼が剣を抜く。
聖剣グラディウスが、銀色に輝く。月明かりを受けて、刀身が美しく光る。
「この聖剣であればっ――」
レオンハルトが剣を振るう。
でも――。
ガキン!
剣がバリアに阻まれる。
「無駄なのよ」
リディアが冷たく笑う。
「この二重のバリアは聖剣であっても、両方を同時には破れないわ」
「くっ……!」
レオンハルトが何度も剣を振るう。
でも、バリアは破れない。剣が弾かれるたびに、金属音が響く。
魔法陣が更に強く輝く。
私の身体から、光が溢れ出す。金色の光が、糸のようにリディアの魔法陣へと吸い込まれていく。
このままじゃ――。
「やめろ!セリアから離れろ!」
レオンハルトが必死に剣を振るう。その顔には、焦りと怒りが浮かんでいる。
でも、バリアは破れない。
「レオンハルト……」
私は彼を見つめる。
必死に戦ってくれている。
私を守ろうとしてくれている。
この人を――守りたいっ!
その瞬間、私の中で何かが弾けた。
力が、溢れ出す。
これは――聖女の祝福?
いや、違う。
これは、もっと強い力。
愛する人を守りたいという、想いから生まれる力。
「レオンハルト!」
私は叫ぶ。
「私の手を取って!」
レオンハルトが一瞬戸惑うが、すぐに理解する。
彼がバリアの向こうから、手を伸ばす。その手は、バリアに阻まれて私には届かない。
私も、手を伸ばす。
届かない。
でも――。
私は力を込める。
愛する人と、繋がりたい。
その想いが、力になる。
金色の光が、私の手から溢れ出す。
その光が、バリアを――溶かしていく。
「何……!?」
リディアが驚く。
バリアに、小さな穴が開く。
そこから――レオンハルトの手が、伸びてくる。
二人の手が――触れ合う。
その瞬間、眩い光が溢れ出した。
金色の光が、部屋全体を包み込む。まるで太陽が昇ったかのような、温かく優しい光。
リディアのバリアが、砕け散る。ガラスが割れるような音を立てて、紫色の光の破片が消えていく。
魔法陣も、ひび割れていく。
「何……!? まさか……こんなことが……!」
リディアが驚愕の表情を浮かべる。
「これが――絆の力よ」
私とレオンハルトの周りに、新しい光の輪が現れる。
それは、二人を繋ぐ絆の証。金色の糸が、私たちを優しく包み込んでいる。
「聖女が深い愛を知ったとき――」
私は立ち上がる。身体が、軽い。力が、満ちている。
「聖女の祝福はより完全なものになるだろう」
光の輪が広がり、リディアに迫る。
「やめて……!」
リディアが後ずさる。その顔には、初めて恐怖が浮かんでいる。
でも、光は止まらない。
リディアの身体が、光に包まれていく。
「私の……私の十年が……!」
彼女が床に崩れ落ちる。その身体から、黒いオーラが剥がれ落ちていく。
禁術の力が、消えていく。
光が収まると、リディアはもう動けなくなっていた。床に倒れ込み、荒い息をしている。
レオンハルトが剣を構える。
「リディア・ヴォルテール。お前を、国家反逆罪で逮捕する」
その時、大急ぎで部屋に入ってくる人影があった。
「待て、レオンハルト」
入ってきたのは――アレックスだった。
「アレックス……!?」
彼は息を切らしていて、手には様々な魔法道具を持っている。
「今のは――絆の力か」
「うん……」
私は頷く。
「そうか。なら、今がチャンスだ」
アレックスが床に、複雑な魔法陣を描き始める。紫色のチョークで、素早く、でも正確に。
「何を……?」
「リディアの禁術研究は危険すぎる。完全に消すことはできないが、封印することはできる」
アレックスの魔法陣が光り、リディアの足元に魔法陣が浮かび上がる。六芒星の中に、古代文字が無数に浮かんでいる。
「何を……!」
リディアが抵抗しようとする。でも、身体が動かない。
「封印魔法――『水晶の牢獄』!」
アレックスが両手を掲げる。
魔法陣が強く輝き、リディアの周りに透明な結晶が生まれ始める。
「やめて……私は……まだ……!」
リディアの叫び。
でも、結晶は止まらない。
彼女の足から、膝、腰、胸、そして頭――全身が、透明な水晶に包まれていく。
「私は……ただ……認められたかっただけなのに……!」
リディアの最後の言葉が、水晶の中に封じ込められた。
透明な水晶の中で、リディアは眠るように目を閉じている。その表情は、どこか安らかだった。
「これで……終わりだ」
アレックスが息を切らしながら言う。額に汗が浮かんでいる。
「封印は永遠じゃない。いつか解ける日が来る。でも、今は――」
彼が私を見る。
「お前たちの結婚を、邪魔するものは何もない」
水晶は、静かに光を放っている。まるで巨大な宝石のようだ。
「アレックス……ありがとう」
「礼を言うのは、こっちの方だ」
アレックスが微笑む。
「お前たちの絆の力が彼女を消耗させてくれた。おかげで、封印魔法が成功した」
レオンハルトが私を抱きしめる。
「セリア……無事で……よかった……」
その腕の中で、私は涙を流した。
怖かった。
でも、レオンハルトがいてくれた。
だから、乗り越えられた。
「ありがとう、レオンハルト」
「いや、俺こそ。セリアが、俺を守ってくれた」
彼が私の頭を撫でる。
「これが、絆の力なんだな」
「うん……」
私たちは、しばらく抱き合っていた。
水晶に封じられたリディアは、静かに眠っている。
その顔を見て、私は思う。
彼女は、ただ認められたかっただけ……。
でも、方法を間違えた。
「リディア……」
私は水晶に手を当てる。
「いつか、貴女も幸せになれるといいね」
水晶が、小さく光った気がした。
――――――――
翌日。
結婚式の日。
王城の大聖堂には、大勢の人々が集まっていた。
貴族たち、騎士たち、そして王族。ステンドグラスから差し込む光が、美しい色彩を床に映し出している。
みんなが、私たちの結婚を祝福してくれる。
私は純白のウェディングドレスを着ていた。
マダム・ロザリーが特別に仕立ててくれたドレスは、とても美しい。
レースとシルクで作られた、優雅なドレス。胸元には真珠が縫い付けられていて、スカートは歩くたびに優雅に揺れる。
相変わらずコルセットはきついけど、今日は全然気にならない。
バージンロードを歩きながら、私は前を見つめる。
そこには、レオンハルトが立っている。
白と金の正装に身を包んだ彼は、まるで王子様のようだ。その碧い瞳が、私だけを見つめている。
私は彼の隣に立つ。
白い髭を蓄えた老神父が厳かに言葉を述べる。声が、聖堂に響く。
「レオンハルト・フォン・ヴァルハイム。汝は、セリア・ルミナスを妻とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、共に歩むことを誓うか」
「誓います」
レオンハルトが力強く答える。その声は、揺るぎない決意に満ちている。
「セリア・ルミナス。汝は、レオンハルト・フォン・ヴァルハイムを夫とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、共に歩むことを誓うか」
「誓います」
私も答える。声が、少し震えている。
「では、指輪の交換を」
レオンハルトが、私の左手の薬指に指輪をはめる。
金色の指輪に、小さなダイヤモンドが輝いている。その輝きは、まるで星のようだ。
私も、彼の左手の薬指に指輪をはめる。少し手が震えるけれど、しっかりとはめることができた。
「では、誓いの口づけを」
レオンハルトが、私の顔を両手で包む。
そして――唇が、触れ合う。
温かくて、優しい口づけ。
周囲から、大きな拍手が響く。
私たちは、夫婦になった。
――――――――
結婚式の後、披露宴が開かれた。
大広間には、豪華な料理が並んでいる。
ケーキ、肉料理、魚料理、サラダ――どれも美味しそうで、テーブルの上は華やかだ。花で飾られたテーブルには、銀の食器が並んでいる。
私とレオンハルトは、高砂席に座っている。
みんなが、次々と祝福の言葉をかけてくれる。
「おめでとう、セリア」
アレックスが乾杯の音頭を取る。
「お前が幸せになって、俺も嬉しい」
「ありがとう、アレックス」
ルークも、グラスを掲げる。
「レオンハルト、セリアを頼んだぞ」
「はい」
レオンハルトが真剣に頷く。
カイルも微笑む。
「末永くお幸せに」
フェリックスは、涙を流している。
「セリア様、本当におめでとうございます! 俺、すごく嬉しいです!」
マリアも、嬉しそうに微笑んでいる。
「セリア様……幸せになってくださいね」
みんなの祝福が、とても嬉しかった。




