第6話 あなたと結ばれます 1
『私、レオンハルトと一緒にいたいです』
その言葉を口にした瞬間、世界が変わった気がした。
レオンハルトの碧い瞳が、大きく見開かれる。そして――彼は、最高の笑顔を浮かべた。
「セリア……!」
彼が私を抱きしめる。
力強く、でも優しく。
温かい腕の中で、私は安心する。
これが、私の選んだ道。
レオンハルトと、共に歩む道。
「ありがとうございます……いや、ありがとう、セリア」
彼の声が震えている。
「俺は、今日この日を一生忘れない」
レオンハルトが私の顔を両手で包む。
その手は、少し震えていた。
「セリア、俺と――結婚してください」
その言葉に、心臓が大きく跳ねる。
結婚。
一生を共にする、という誓い。
「はい」
私は微笑む。
「喜んで」
レオンハルトの目から、涙が一筋流れた。
そして――彼は、ゆっくりと顔を近づけてくる。
私も、目を閉じる。
唇が、触れ合う。
優しくて、温かい口づけ。
これが、愛なんだ。
そう思えた。
――――――――
レオンハルトの部屋を出ると、廊下にアレックスが立っていた。
「アレックス……」
その表情は、複雑だった。壁に寄りかかり、腕を組んでいる。
「レオンハルトを選んだんだな」
「……うん」
私は頷く。
「ごめん、アレックス」
「謝るな」
彼が微笑む。その笑顔は、少し寂しげだ。
「お前が幸せなら、それでいい」
アレックスは少し間を置いて続ける。
「ただ――一つだけ聞きたい」
「何?」
「お前は、本当にレオンハルトを愛してるのか?」
その質問に、私は迷わず答える。
「うん。心から愛してる」
アレックスが安堵したように息を吐く。
「そうか。なら、きっと大丈夫だ」
「え?」
「いや、何でもない」
アレックスは少し照れくさそうに笑う。
「幸せになれよ、セリア」
「ありがとう、アレックス」
彼が去っていく。
その歩き方はいつもと変わらず、飄々としていた。
もしかするとアレックスも、私のことを――わかんないけど。
でも、ありがとう。
――――――――
その日の午後。
私とレオンハルトは、王城の謁見の間にいた。
国王陛下の前で、私たちは跪いている。赤い絨毯の上、石造りの床は冷たかったけれど、レオンハルトが隣にいるだけで心は温かかった。
「レオンハルト、セリア様。顔を上げなさい」
国王陛下が優しく言う。
私たちは顔を上げる。
玉座には、国王陛下と王妃様が座っている。その隣には、ルークもいた。彼は複雑な表情で私たちを見ている。
ごめんね、ルーク。
「二人が結ばれると聞いて、嬉しく思う」
国王陛下が微笑む。
「聖女と騎士団長の結婚――これは、王国にとっても喜ばしいことだ」
「ありがとうございます、陛下」
レオンハルトが頭を下げる。その声は、誇りに満ちている。
「では、婚約を正式に発表しよう。そして――」
国王陛下が立ち上がる。
「一週間後、結婚式を執り行う」
「一週間後……!?」
私は驚いて声を上げてしまう。
「うむ。リディアという魔術師が、セリア様を狙っていると聞いた」
国王陛下が真剣な顔になる。
「絆を結べば、セリア様は守られるのだろう? ならば、一刻も早く結婚式を執り行うべきだ」
「陛下……」
「それに――」
王妃様が微笑む。
「お二人とも、早く結ばれたいでしょう?」
その言葉に、顔が真っ赤になる。
レオンハルトも、耳まで赤くなっている。
「で、では、一週間後に」
レオンハルトが答える。
「うむ。準備は全て、こちらで整える。二人は、心の準備をしておきなさい」
「はい!」
私たちは声を揃えて答えた。
――――――――
謁見の間を出ると、ルークが追ってきた。
「おめでとう、セリア」
彼が微笑む。その笑顔は、少し寂しげだ。
「ルーク……」
「俺を選んでくれなかったのは残念だけど、お前が幸せならそれでいい」
ルークが私の頭を撫でる。その手つきは、いつものように優しい。
「幸せになれよ」
「ありがとう、ルーク」
ルークがレオンハルトの方を向く。
「レオンハルト」
「はい」
「セリアを泣かせたら、俺が許さないからな」
その言葉に、レオンハルトが真剣な顔で頷く。
「誓います。セリアを、一生守り抜きます」
ルークが満足そうに頷く。
「よし。じゃあ、祝福してやる」
彼が私たちの肩を叩いて、去っていった。その背中は、どこか寂しそうだった。
ルーク、いい人だな。
――――――――
一週間は、あっという間に過ぎた。
その間、私は結婚式の準備に追われた。
ドレスの採寸、式の段取りの確認、美しい立ち振る舞い方――。
正直、魔法研究してる方が楽だった。何度も仕立て室に通い、マダム・ロザリーに立ちっぱなしで採寸された。
でも、マリアが全て手伝ってくれたおかげで、なんとか準備が整った。彼女がいなければ、私は確実にパニックになっていた。
そして――結婚式の前日。
満月の夜。
私は研究室で、一人静かに過ごしていた。
明日、私はレオンハルトと結婚する。
新しい人生が始まる。
少し不安だけど、でも楽しみだ。
クッキーを一枚口に放り込む。
もぐもぐ。
甘い。
窓の外を見ると、満月が輝いていた。
美しい月。まるで銀色の宝石のように、夜空で輝いている。
でも――その月を見ていると、なぜか胸騒ぎがする。
空気が、重い。
その時、窓が突然開いた。
風が吹き込み、カーテンが激しく揺れる。書類が舞い上がり、床に散らばる。
そして――黒い影が、窓から入ってきた。
リディアだ。
「久しぶりね、聖女様」
彼女が冷たく微笑む。その赤い瞳は、憎しみに燃えている。
「リディア……!」
私は立ち上がる。
「どうして――」
「もちろん、貴女の力を奪いに来たのよ」
リディアが魔法陣を展開する。
紫色の光が、部屋を包む。複雑な幾何学模様が、床と天井に浮かび上がる。今までで一番複雑な魔法陣だ。
「明日、貴女は結婚する。そうなれば強い絆で結ばれて、もう『聖女の祝福』を奪えなくなるかもしれない。
彼女の赤い瞳が、私を睨む。
「だから、今夜が最後のチャンスなのよ」
魔法陣が輝き、私の胸が熱くなる。
痛い。
まるで心臓を掴まれているような感覚。
力が、吸い取られていく。
「やめて……!」
私はこのときのために習得した対抗魔法を展開しようとするが、身体が動かない。足が、床に縫い付けられたように動かない。
やっぱり一朝一石の付け焼刃では彼女には勝てないみたい。
「くぅっ……」
「無駄よ。今回の魔法陣は、前回よりも遥かに強力。二重のバリアを張っているから、物理攻撃も魔法攻撃も全て防ぐわ」
リディアが笑う。その笑い声は、勝利を確信したものだ。
「今度こそ、貴女の力は私のものよ」
何者にも邪魔されないようにバリアが私とリディアを包み込んだ。




