第4話 急なプロポーズに戸惑っています 3
その夜、私は研究室で一人、考えていた。
レオンハルトは、本当の私を受け入れてくれると言った。
それは、とても嬉しいことだった。
でも――。
本当にそれでいいのかな。
彼はまだ、だらしなくて、魔法オタクの、本当の私を見たことがない。
口で「受け入れる」と言うのは簡単だ。
でも、実際に見たら、どう思うんだろう。
優柔不断な自分が嫌になる。
「だって、恋愛なんて経験したことないんだもん」
クッキーを一枚口に放り込む。
もぐもぐ。
考え事してると、クッキーが進む。
その時、扉がノックされた。
「どうぞ」
入ってきたのは、カイルだった。
「こんばんは、セリア様」
「カイルさん……こんな時間に」
窓の外を見ると、既に夜だ。月が昇っている。
「少し、お話ししたいことがありまして」
カイルが椅子に座ろうとして、床の魔法書を見る。
「あ、すみません。散らかってて」
「いえ、いつものことですから」
カイルが苦笑しながら、魔法書を避けて椅子に座る。
慣れてるな、カイルも。
「レオンハルト団長と、お話しされたそうですね」
「え、どうして知ってるんですか?」
「廊下で、ルーク様とお会いしまして。彼から聞きました」
カイルが微笑む。
「どうでしたか?」
「……レオンハルト様は、本当の私を受け入れてくれると言ってくれました」
「それはよかったですね」
「でも……」
私は俯く。
「でも、本当にそうかな、って。口で言うのは簡単だけど、実際に見たらどうなるのかな、って」
「それは――」
カイルが眼鏡を直す。
「試してみるしかないのでは?」
「試す……?」
「ええ。レオンハルト団長を、この研究室に招待してみてはいかがですか?」
その提案に、目を丸くする。
「うん、でも……」
「本当の貴女様を見せる、一番いい方法だと思いますよ」
カイルがにっこり笑う。
「普段の貴女様を、全部見せてしまえばいいんです」
「でも、それで嫌われたら……」
「その時は、その時です」
カイルが私の手を取る。
「でも、もし彼が本当に貴女様を愛しているなら、きっと受け入れてくれます」
「……」
「そして、もし受け入れてくれなかったら――」
カイルが私の目を見つめる。
灰色の瞳が、真剣だ。
「その時は、僕がいます」
その言葉に、ドキッとする。
「カイルさん……?」
「僕は、貴女様の全てを知っています。そして、全てを愛しています」
カイルが私の頬に手を当てる。
冷たい手。
でも、優しい。
「ですから、もしレオンハルト団長がダメだったら――僕を選んでください」
その真剣な眼差しに、言葉が出なかった。
カイルは、私のことを……?
「考えておいてください」
カイルが立ち上がる。
「では、おやすみなさい、セリア様」
彼が部屋を出ていく。
私は一人、呆然と座っていた。
カイルも?
ルークも、半分本気だと言っていた。
そして、アレックスも……あの時、何か言いたそうだった。
え、どういうこと?
私、モテてるの?
いや、ありえない。
床でゴロゴロしてるだけの私が……。
私、どうすればいいの?
窓の外を見ると、月が輝いていた。
美しい月。でも、その光は、どこか不安を煽るようにも見えた。
その時、研究室の窓が突然開いた。
風が吹き込み、書類が舞う。
そして――黒い影が、窓から入ってきた。
「誰!?」
私は立ち上がる。
影は、ゆっくりと人の形を取る。
黒いローブ。赤い瞳。
リディアだ。
「久しぶりね、聖女様」
彼女が冷たく微笑む。
怖い。
なんで、ここに?
「どうして……」
「安心して。今日は戦いに来たわけじゃないわ」
リディアが部屋の中に入ってくる。
「ただ、忠告しに来たの」
「忠告……?」
「ええ。貴女、誰と絆を結ぶつもり?」
その質問に、言葉が詰まる。
「それは……」
「誰を選んでも、後悔するわよ」
リディアが私に近づく。
「騎士団長? 彼は貴女の『聖女』の部分しか見ていない。王子? 彼は貴女を友達としか見ていない。侍医? 彼は貴女の弱みに付け込んでいるだけ。宮廷魔術師? 彼は――」
リディアが一瞬、言葉を切る。
「彼は、秘密を抱えている」
「秘密……?」
「ええ。彼が持っているあの本――『聖女の祝福と、失われし真実について』。あの本には、貴女が知らない真実が書かれている」
その言葉に、背筋が凍る。
「何を……」
「気になるなら、彼に聞いてみることね。“聖女の宿命”を」
そう言い残すと、リディアは煙のように消えた。
私は一人、呆然と立ち尽くす。
アレックスの秘密?
聖女の宿命?
それって、何?
頭の中が、混乱でいっぱいになる。
窓の外では、月の光が冷たく輝いて、まるで私を見下ろしているようだった。
―第4話 終―




