表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観察対象:ミル・ミクロ ──相棒が、無双男だった  作者: 木村文彦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/23

異常

 学校に戻ると、困ったような顔をしたセラがいて、廊下から窓越しに室内を見守ってくる学生がいた。

 ちょっとした騒ぎになっていた。


 学生もダンジョンに行くはずなのに、リゼやマクに比べ、やたら軽装なんだなあと思う。

 アイテムを獲得できないと、装備すらも買えないのか、と妄想も、する。


「……また壊れたわ」

 ようやくセラから許しを、得た。

 俺は人差し指をそっと、機械だったはずの残骸から、離している。


「ミル。これも運の影響か?」

「マク。運で機械って壊れるの?」

「知るかよ、そんなの」

 セラが眉間を押さえ、魔力測定器の残骸を見下ろしていた。

 金属片が床に散らばり、魔石は黒く焦げている。


「触っただけなんだけどなあ……」

 一応,言い訳をしてみた。

「触っただけで壊れる測定器なんて存在しない!!」

 セラの声が裏返っている。

 いつの間にか、測定室の中にいる教師の数も増えていた。


「三台目だぞ……」

「魔力ゼロのはずなのに……?」

「いや、ゼロだからこそ逆に……?」

「境界が揺れたって本当か……?」


 俺は一度、席から立った。

 それだけで廊下の魔石灯が一斉に明滅した。


 パチッ……パチパチッ……!


「ひっ……!」

 部屋の近くを通行していた女子学生が悲鳴を上げる。


「ミル君、動かないで!!」

 セラが慌てて俺の肩を押さえ、腰を沈めようとする。

「え、俺、何もしてないよ!?」

「それが一番怖いのよ!!」

 

 意味ありげな目つきで俺を凝視したマクは、次にセラを見て、口の端を上げる。


「機械が壊れる理由。それを俺で試すってのはどうだ?」

 セラが口を開けたまま固まり、その場にいた教師たちも「多くの能力がSの対象者は今までにいたか……?」などと、小声で話し合っている。


「物は試しだ。ほれ、指を置くぞ?」

「ちょっと待ってよ、マク。まだセラ先輩が悩んでるんだから」

「ギルドのカードは測定できただろ?」

「学校のは簡易版なんだってば!」

 リゼの制止を振り切り、マクは新たな機械に、人差し指を添えていた。

「うわ……綺麗」

 リゼが思わずうっとりするほどには、機械が、白の光を放っていた。

 それは冬の雪原を彷彿とさせるかのような、淡く、切ない、白だった。


「マク先生の測定結果は、限界値を超えているわね」

 リゼが機械のメモリを覗き込んでいる。

 白い光は、測定器の限界値を超えても尚、ずっと輝いていた。

「……それでもやっぱり、壊れない」

 セラは俺を憂うような目つきで、見た。


 すると途端に教師たちが慌てて、廊下に飛び出していった。


「魔王級の干渉か!?」

「いや、違う……もっと近い……」

「この揺れ方……まさか……」

 扉が開けっぱなしの状態であり、俺にも克明に教師の意見は、耳に届いていた。


「……嘘でしょ」

 セラも廊下を見て、唇をわなわなと震わせる。

 その時、廊下の光が、気味悪く、青白く光っていた。

「境界観測水晶が……反応してる……? こんな強度……前例がない……。ミル君。あなた、今……何かした?」

 セラが、まるで俺を、魔王であるかのように、見た。


「いや、立とうと思っただけ……」

「立っただけで、境界が揺れるわけない! じゃあ、まさかマク先生の仕業?」

「いや、知らねえ」

 セラが疑心暗鬼に陥った次の瞬間──バチィィィィン!!


 廊下に置かれていた水晶が砕け散った。

 教師たちが一斉に後ずさり、測定室に退避してくる。


「……危険だ」

「これは……本当に危険だ……」

「ギルドに報告を……」

「いや、ガルディア様に直接……!」

「ミル君……マク先生……あなたたち……本当に人間なのよね……?」

 セラは震える声で言った。


(……ミル兄……マク……ここ……いや……いやだよ……)

 胸の奥ではずっと、少女が嘆いていた。ひどく幼い声だった。

 その声が、学校全体に響いているように、感じた。


「ミル。お前の運はSだ。それは強運もSであり、悪運もSであるってことだ」

 マクは、誰にでも聞こえるような大声で持論を述べた。


「だから、俺の裏技なんてなくても、いつでもどこでも、魔物を呼べちまう。ダンジョンに魔物があれほど多く出たのも、ミルがダンジョンにいた時だけだ」

 学生たちが測定室の前で、一斉に足を止めている。

 廊下の壁に貼られた魔法陣が、青白く滲んでいた。


「魔法陣が……逆流してるだと……?」

 教師の一人がまた、廊下に飛び出していく。


 逆流──本来、魔力を外へ逃がすための陣が、今は内側へ吸い込まれるように歪んでいた。


「……ミル君。あなた、今……胸が痛んだり、熱くなったりしてない?」

「え……なんで分かるの……?」

「やっぱり……!」

 セラの顔が蒼白になった。


「境界の揺れ方が……ミル君の鼓動と同期してるのよ……!」

 セラは口を開いたまま固まり、続きの言葉が一つも出てこなかった。

 セラの理性が、今、現前としてある、この現象を処理しきれていないようだった。

「同期って……?」

「過去に一度だけ、あった事例よ。あなたの心臓の鼓動に合わせて、学校全体の魔力が……揺れてるのよ!!」

 その言葉に、周囲にいた学生たちがざわめいた。


「あれが……監視対象……?」

「近づいたら死ぬって聞いた……」

「魔王より怖いかも……」

 数多の視線が、窓越しに突き刺さってくる。


 俺はその場から、思わず後ずさった。

 その瞬間──またしてもバチィィィィィン!!


 廊下の床に埋め込まれた魔石が、まるで心臓の鼓動に合わせるように破裂した。


 ドクン──ドクン──


(……ミル兄……やめて……やめて……)


 少女の声が、俺の鼓動と同じリズムで震えている。

 セラが叫ぶ。


「全員、下がって!! ミル君から離れて!!」

 教師たちが測定室に入ってきた学生を後ろに押しやる。

 俺はただ立っているだけなのに、周囲の魔力が渦を巻き始めていた。

 リゼですら、顔を歪め、俺から離れていく。


 風が吹く。

 床に落ちていた紙が、ふわりと舞い上がった。


「魔力暴走じゃない……これは……」

 セラの声が震える。「……境界干渉……それも……内側からの……!」

「内側って……?」


 俺は深呼吸に、努めた。

 だが、魔力は暴走したままだ。

「通常は、魔王や外敵が境界を揺らすものなの。でも今のは違う……逆流だった。ミル君の存在そのものが、境界を内から外に押し広げてるのよ……!」

 俺の背筋が凍った。

「それはつまり……どういう……?」

 直感では、分かっていた。

 ただ。

 分かりたくなかった。


(……ミル兄……逃げて……逃げて……)

 瑞々しい少女の声が、泣き叫ぶ。


 ──まさか、この少女の声が逆流の原因だったのか?

 ──自分が世界を壊しているかもしれないのか?

 

 俺はセラに引っ張られ、廊下に連れ出されていた。

 すると奥の扉が、ひとりでに開いていた。ギィィィィ……と軋む、音がした。


 誰も触っていない。

 風も止んでいた。

 ただ、俺を呼ぶように、ゆっくりと開いたかのようだった。


「……ミル君。あなた、今……何かに呼ばれてる感覚、ある?」

 セラが息を呑む。

 唯一、俺の側から離れなかったマクの横顔を、見た。

 ひどく険しい顔をしている。

「……ある。胸の奥が……引っ張られてるみたいで……」


(……来ちゃだめ……ミル兄……)

 少女の声が震え、胸の奥が熱くなる。

 ドクン──ドクン──ドクン──!!


 俺の心臓と同期するように、床に散っていた水晶の残骸が脈動し始めていた。

 青く、白く──ド明滅している。


「ミル君!! これ以上は危険!! あなたを学園に置いておけない!! これはギルドに……ギルドに報告しないと……!!」

 命を削るような金切り声で、セラが叫ぶ。

 俺の背中を、冷たい汗がつうっと伝っていった。


 自分の鼓動が、世界を揺らしている──そんな馬鹿げた感覚が、現実味を帯びていた。

 帯びてしまった。


「うるせえなあ」

 喚き続けるセラの手を掴んだのは、マクだった。


(……マク……だめ……)

 その瞬間、胸の奥の光が、ふっと消え、少女の声も、遠ざかった。

 マクはセラの手首を掴んだまま、言う。


「心の声が、ミルと呼応しただけだ。それが何だってんだ。この学校の設備が脆いだけだぞ」

 ぱっとセラの手首を手放したマクは、廊下に出てきた教師陣を順に、睨みつけていった。


「ミルは悪くねえ。それに、壊れてんのは……」

 まだ水晶の残骸が、廊下で青く、白く、光っていた。

「この世界の方だ」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ