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観察対象:ミル・ミクロ ──相棒が、無双男だった  作者: 木村文彦


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11/23

合格、でも入学

「……合格だ」

 ガルディアの声色が、穏やかだった。

 それで張り詰めていた室内の空気が、わずかに緩んだ。


「えっ」

 ゆっくりと俺は後ろを振り返っている。

 斬撃は俺やリゼを避けるように、二方向に分かれ、壁を傷めつけていた。


「ミル・ミクロ。……貴様は避ける力を持っている。それが運なのか、別の能力なのかは分からん。だが……ワシの攻撃を避けたのは、事実だ」

 ここでガルディアが、破顔する。

「なにより仲間を身を挺して、守った。それが一番、大事なことだ。よくやったぞ、小僧」


「ごめんね……ミル。ちょっとは、信じてたよ? ちょっと……だけだけど」

 リゼが俺の後ろで舌を出していた。

「まあ、万が一に備えてね?」

 リゼは自らのお腹を見せてくる。

 鎧のような装備で、がんじがらめだった。


 元より、ガルディアとこのような展開になることを想定していたのだろう──先ほど、リゼに耳打ちをしていた意味が、ようやく分かっていた。


「合格だ。だが、条件はまだある」

 ガルディアが、真顔に戻った。

「まだあるの!?」

 驚くリゼをガルディアは指差していた。

「リゼ。お前も二人に同行しろ」

「……はああああああああ!?!?」

 リゼの絶叫が、ギルド内に響く。


「なんで私が!? なんで巻き込まれるのよ!!」

「お前は私の弟子だ。お尋ね者を監視しろ。特にミル・ミクロを、だ」

「監視って……私、そんな役回りいやよ!!」

「嫌でもやれ。これは、命令だ」


 ガルディアは当然のように言い放った。

 あはは、とマクが笑う。


「よかったな、リゼ。これで仲間だ。お前。一度は、俺の仲間になりたがってたろ?」

「よくないわよ!! こんな状況、願い下げよ!」


 俺は苦笑するしかなかった。

 その時も少女の声が、少しばかり、聞こえていた。


(……ミル兄……よかった……でも……まだ……)


 そこで、少女の声が途絶えた。

 珍しく、落ち着いた口調だった。

 それはマクにも聞こえていたようで、「まあ、あいつの杞憂だって。俺の横にさえいれば、死にはしねえよ」と俺に軽口を叩いてくる。


 ようやく場が和やかになり、俺たちもギルドから、解放される。


 ◆

 天井は、木製。

 壁には、筋トレ器具。

 床には、謎の巨大な拳型の穴がいくつも空いている。


「……どこだ、ここ!!?」

 目を覚ました瞬間、俺は首を傾げていた。

 ギルトに行き、激闘を経て、リゼと解散した後──記憶が、ない。

 

 いや、どこかで見たような気もする。でも、思い出せない。


「よお。おはよう、ミル」

 ふと、低い声がした。

 上半身裸でトレーニングをしているマクが目の前に、いた。


「なんで俺、マクの家にいるんだよ!? えっ、ここ。そもそもマクの家なのか?」

「ちげえよ」

「えっ、違うのかよ」

 マクは腕立て伏せを、止めない。


「昨日、疲れ切ったのか、ミルが帰りの道中でぶっ倒れてよう。その倒れた先が、この家の前だった」

「えっ、じゃあ、不法侵入?」

「まあ、ミル。運Sだしな。些細なこと、気にすんな」

「いや、運とか関係なく、アウトじゃん!」


 そこへ──ドガァァァァン!!

 部屋の扉が、爆音とともに吹き飛んでいた。


「ミル!! あっ。マクもいるっ!! あんたたち、ここで何やってんのよ!!」

 怒り狂ったリゼが剣を構えたまま、中に突入してきている。


「ちょ、ちょっと待て!! 俺は何も──」

 弁明はするが、それでもまだマクは腕立て伏せを続けている。

「不法侵入よ!! 完全に犯罪よ!! なんで私の家にいるのよ!!」

「ミルのおかげで、なぜか家の中にすんなり入れたんだよ」


 リゼは額を押さえ、深いため息をついた。


「はあ……ギルドから連絡が来たのよ。『ミル・ミクロとマク・マクロが私の家に侵入した疑いあり。至急確認せよ』って」


「なんでギルドにバレてんだよ!!?」

 マクがようやく腕立て伏せを止める。


「ミルの行動が、ギルドの監視対象だからよ!!」

 リゼはマクの少しばかり、太くなっただろう腕を掴む。


「私が友達の家に泊まっている間に、人の家で何してるの!」

「いやあ。ミルがこの家の前で偶然、倒れたんだよ」

「ミル、本当?」

「ごめん、リゼ。記憶がないんだ」

「嘘は許さないからね!」

 ぷりぷりしながらも、リゼは目を輝かせたマクに対して、トレーニング器具を使うことを許可している。


「いや、つーか、普通に鍵、あいてたぞ?」

「え?」

 それは完全にリゼの不注意だった。

 形勢が、逆転する。

「住民が戻ってきたら、すぐに事情を説明する気だったんだぜ? でも、誰も帰ってこねえ。いつの間にか、俺も寝ちまってた」

 マクの声量が、上がる。

「いや、それでもおかしいから。常識とか、ないの?」

 対してリゼの声が、か細くなった。

「……でも俺らが一晩、この家を見張ってやったんだぜ? 文句ねえだろ?」

「うっ……」

 リゼは固まり、俺を見た。

 その表情に怒りはなく、他の感情もなかった。

 それはその場を逃れようと必死な、のっぺらぼうの顔だった。

「……ごめん」

「……まあ、分かったわ。今回は特別に許してあげる。ほら、じゃあミル。行くわよ。今日からあんた、転校生なんだから」

「おい、リゼ。話題を急に変えただろ?」

 マクが凄んだ。

 だが、俺の「えっ、今日!? 今!? この状況で!?」の声にかき消され、「当然でしょ!!」とリゼは満面の笑みになり、大声で俺への対応を続けた。


 マクは、「けっ」とだけ、床に吐き捨てた。


「でも許可ももらったし、マクとダンジョンに行けるんじゃ……?」

「あくまでミルは、学生! 許可は、これからっ! ほら行くよっ!」


 リゼから押し付けられたギルドからの正式通達は、たった一枚の紙だけだった。


『ミル・ミクロ。即日、ル・トウキョウ学園へ転校を命ずる』


「……即刻?」

 リゼからもらった紙を受け取ったまま、俺は、固まる。

「おめでとう、ミル。強制転校だな」

 マクがなぜか誇らしげに言う。

「どこからどこに転校したんだろう、これ」

「いや、知らねえけど。まあ、ミル。おめでたい話だろ?」

「おめでたくないってば!!」

「まあまあ。学校って場所は楽しいらしいぞ。俺は行ったことねえけど。ミル、がんばれ」

「行ったことないのに、言うなよ!!」

「えー。じゃあ、マクはこれからどうすんのさ?」 

 俺はすかさず尋ねる。


「お留守番!」

 口を挟んだリゼは再び湧き出た怒気からか、頬を紅潮させていた。

「よし。やっぱり俺も学校、行くわ」

 マクがタオルで汗を拭きながら、いそいそと身支度を開始する。

「なんでよ!!」

 リゼがマクを睨む。

「ミルの相棒だからだ」

「学校は遊び場じゃないのよ!!」

「それに……俺がいないと、ミルが死ぬ」

「……それは否定できないけど!! いや、それはダンジョンの場合だけだから。学校は死なないから!」


 リゼは頭を抱えている。

「まあまあ」と僕はリゼを宥めてみた。

「うっさい!」と無下に返され、僕はしょんぼりと、する。


「マクまで学校に来たら、面倒ごとが増えるっ!」

 しばらくして、腕を組んだリゼが俯きながら、玄関で待っていた。

「いや、学校に用事があるんだ。……あいつに、会わなきゃならねえんだ」

 淡々とマクは真顔で言う。

「はあ……そんなの、知らないけど……分かったわよ。ほら、二人とも。行くよ」

 ここで、リゼの心がポッキリと折れたようだった。

「リゼ……そもそも、なんでお前が学校の面倒ごとまで抱える必要があるんだ?」

 ふとマクが、尋ねていた。

「それは……案内役よ。ギルド長命令。『ミル・ミクロは危険だから、学校でも監視しろ』ってね。はあ……なんで私がこんな役……」

「それは、ごめん。でも危険って……俺、弱いだけなんだけど……」

「運Sの時点で弱くないのよ!!」

 リゼが俺の腕を掴み、ずるずると引きずり始めた。

「ちょ、ちょっと待て! 俺、まだ心の準備が──」

「準備なんていらないわよ。あんた。今日からただの学生なんだから。運がちょっといいだけの、学生」


 マクが後ろから、にんまりとした笑みをこびりつかせて、俺たちについてくる。

「いやあ、学校。楽しみだなあ」

 


 

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