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ココロのガラス細工職人  作者: 白雛


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第三章・2




「いったいどういうつもりなんだ」

「ご主人様を守護していたまでのこと。殺すなら殺せ!」

「この現代にどんな覚悟で生きてんだ、君は……」


 保安官のハンサムガイ、マイケルは困り果ててそう返しました。


 先ほどからずっとこの調子で尋問はまったく進んでいないのです。


 すると、部屋の奥からまた別の保安官が出てきます。


 今度は見るからに厳しそうな中年の体育教師のような男性で、今は腹が出ていますが、若い頃はオリンピック選手だった経歴がありそうなマッチョでした。名はサイモン。


 彼はハンサムのマイケルの肩を叩いて替わると、たちどころにデスクを叩いて言いました。


「いい加減にしろ! お前のやったことは立派な通り魔! 俺たちはすぐにもお前を監獄送りにしたっていいんだぜ……」


 脅しかけるようなサイモンの言いように、ペスカは半目で唇を固く閉じ、顎を四十五度逸らしてカツ丼出待ちの体勢です。見るからに相手にしていません。


 というのも、彼女は第一印象脅しかけてくるような厳つい中年男性が大の苦手でした。シンプルに怖いし、その根拠も科学的裏付けもなく偉そうな態度が見てると腹の底でムカムカしてくるのです。


「まぁまぁ、サイモン先輩。相手は子供ですし、そう頭ごなしにしたら……」

「それが甘いんだ。ガキ相手に舐められてるってことなんだよ。こんなガキ一発締め上げちまえばこっちのもんよ」

「うーん……」


 サイモンの時代観のズレ、ややこしさはハンサムガイも重々承知。顎に手を当てしかめっ面。片目を閉じて長考の時間です。


(あーあ、せっかくフレンドリーに接してたのに……この子、完全に心閉ざしちゃったよ……見て分かんないかなぁ。ほんとこの人、偉そうだけど、今の子たちのこと何も分かってないんだよなぁ。余計にこじれるだけだからさー口出さないでほしいんだよな、マジで……)


 このままでは尋問が長引いてその分仕事が増え、残業に回される……彼女とのデートにも遅れかねない。それを危惧して、マイケルはぴこんと頭の豆電球を点けると機転を利かせます。


「あ、そういえば所長が呼んでましたよ。今度の日曜いく釣りで良い道具とかコツとか教えてほしいって」

「なに? 所長が?」


 サイモンはマイケルの背を軽く、のつもりでどしんと叩くと機嫌良く言いました。脳筋に力の加減は難しいのです。


「それを早く言えよ。じゃあ、ここはお前に任せる。必ず口を割らせろよ」

「イェッサー」


 マイケルは背中をさすりながら言い、サイモンはなおもペスカに睨みを利かせながら出ていきました。ペスカはぴょこっと反対側に顎を背けました。


 厳つい風体そのままのサイモンの大きな足音も聞こえなくなると、マイケルはペスカに語りかけます。


「ごめんね。怖かったろう」

「何のことですか。怖い? 私の広辞苑には載っていない単語ですね。人間ごときに恐れなど抱きませんが。それより、カツ丼はまだなんでしょうか?」

「来ないよ。頼んでないし」

「じゃあ、黙秘」


 ペスカはにべもなくつんとして返します。流石のマイケルのこめかみにもぴくぴくと青スジが入り始めます。


「どうして通りすがりにシャドーボクシングしたの?」

「…………」

「どこから来た?」

「…………」

「君は何者なんだ?」

「…………」

「なんだよもう! ドラマ見過ぎなんだよ! しかも妙に古いやつ! 分かったよ! カツ丼な? 食べたら答えんだな? ジョージ、カツ丼二つ!」


 部屋の隅で調書を作成していた後輩のメガネボーイが待ってましたとばかりに立ち上がると、冷静に答えました。


「三つですね。今かけます」

(ちょっと可愛いな、このハンサム……)


 ペスカは横目でチラ見。しめしめと思うのでした。


 数十分して、部屋に出前のカツ丼が届き、ペスカはようやく安心した笑顔を見せました。マイケル、ジョージと昼食にします。


 ペスカは元気よく両手を合わせるとこれまでにないハツラツとした声で言いました。


「いただきます!」

「……そういうところはしっかりしてるんだな。まぁいいことなんだけれども」


 マイケルはもはや呆れるように言いましたが、自分もカツ丼に箸を伸ばしました。


「じゃあ、質問を続けるよ。なぜ通りすがりの人に片っ端からシャドーボクシングを?」

「現人類、もれなくみんな、我の敵」

「大人なら即監獄行きの発言だよ。気をつけようね」

「人間はチンパンジーと遺伝子が似通っていて、中にはたぶん組成が同じだろうと思われる個体もいます。イケメンで愛妻家のゴリラさんとは大違い。危険です。防衛のため先手を打って何が悪いのか」

「ジョージ。精神鑑定の先生って今日お休みだよな? なんとかして呼べない?」

「——はっ、そうか。こうして私とご主人様を引き離し、フリーになったところを狙う作戦か! おのれ悪党〜!」

「——はっ、じゃないよ。もう君は何も気づかないでくれよ。そしたら世界が平和になる」


 マイケルも段々と扱いに慣れてきたのか。若干大人しくなって、カツ丼をかき込みながら言った次の瞬間でした。


 また奥から別の保安官が現れます。


 白髪の混じった寂しげな頭部の初老の男性で、彼はあたたかな湯気の立つ蕎麦を食べていました。


「まぁまぁマイケルくん。君はまだ若いな。直球ではうまくいかないこともあるよ」

「はぁ……デニムさん。でもこの子まったく悪びれないし……」


 デニムと呼ばれた初老の保安官はマイケルの肩を叩くと席を替わり、デスクに丼を置くと、如何にも温和そうな微笑みを浮かべてこう言いました。


「お嬢ちゃん。カツ丼うまいかい? こんな良い天気の日には外で食べたかったろうに、こんな狭いところに閉じ込めちまってすまんね」


 出ました。これこそペスカが最も警戒する、態度が柔和で第一印象めっちゃ優しそうに見えるけど実は裏でヤクザと繋がりがあって絶対腹黒くて黒幕になる系初老のおじ様です。もちろん、腹の内など見せられたものではありません。大の苦手でした。


 こうしてペスカの尋問は夕方過ぎまで延々と続いていくのでした。


 マイケルのデートはキャンセルになりました。




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