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行宗道子の浮かび上がる過去2

 夕紀の心配をよそに、恵子さんは頬を緩めて「嗚呼、この人ね」と写真を桜木に返した。

「その写真の相手の男性は滝川盛治たきがわせいじさんと云いました。妹の初恋の人です」

 やはりそうか、と桜木は勘が的中して一息吐いた。

 彼女は既に妹が亡くなったと知って、今は一つの想い出として、あっさりと話す気になったのかも知れない。

「あれは今から五十年ほど前かしら、昭和四十年代に丁度あの唄が流行っていて、それに憧れて道子が二十歳の頃だと思うんですが、ここから京都の大原三千院へ旅行に行ったんです」

「お一人ですか?」

 と桜木が問う。

「そう、あの、恋に疲れた女が一人……と謂う唄の文句の有るとおり一人旅なの」

 別に道子は失恋した訳でもなかった。彼女は高校を卒業して地元の島根で就職してからこの唄に吊られて一人旅を計画した。京都へゆく夜行寝台列車に揺られて、朝に着くと駅前で軽い朝食を済ませて、真っ直ぐ三千院を目指して行きました。殆ど一番乗りであの山門を潜ったと大喜びしていました。そこで同じく一人旅の滝川さんと知り合いました。滝川さんは地元の人ですから、旅と言うより向こうは正真正銘の恋に疲れた人ですから、心を休めに訪れたんでしょう。もっとも片思いだったそうだ。

「ひょっとして、それはあの宸殿から往生極楽院が正面に見えるあの場所だったのですか」

 エッ、と恵子さんは怪訝な顔をした。

 以前に父の喫茶店を訪ねた、宇田川由香さんの顔が夕紀の頭を一瞬よぎり、彼女から聞いた光景をそのまま訊ねたのだ。


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