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祖母の便りを待つ4

「桜木くん、フリーマーケットで本を処分してもあの大菩薩峠全二十巻は美紀が読みたいから置いといてよ」

 美紀が鈍感な桜木を引き留める手段にしている本は、読む読まないは別として、関心を示している以上、夕紀は処分しないように申し送った。

「そうだなあ。ひょっとして夕紀も読みたくなるかも知れないからなあ」

 そのうちに人間学部で取り上げてもおかしくない本だと桜木は言ってる。何でこっちへ返って来るの「この唐変木」と夕紀は溜め息を吐いた。

「だって狂人の剣士の物語でしょう」

「生死を突き詰めれば人はトコトン自分を見失ってしまう。その典型を一人の剣士に忍ばせて架空の世界で実践させているんだ中里介山は」

 そんな本だから美紀には難しすぎる、と暗に言ってるのかも知れないと思った。

「まあ、あの本は俺も興味があるから、それにしても気になるなあ」

 率先して取り組んでいる時は我を忘れてしまうのに、こうして待つ身になれば時間がやけに長くて辛いもんだ。朝一で島根のばあちゃんに連絡してもう午後の二時近くになる。

「恋すると一分が待てなくても十年がサラリと流れたりするから不思議なもんよ」 

 人は気の持ちようと夕紀は云う。

「何だそれは」

「例えばあの家から見つかった二人の写真のように、アレは四十年以上前の写真よ」

「確かに古い写真だ、だからどんな恋か気になる。そうなると益々島根からの連絡が気になるなあ」

 桜木は食事が終わり手持ち無沙汰にしている美紀を見た。

「何だ珈琲か紅茶か」

「わあー、それも付くの」

「付かないけど、ここの紅茶は凄いぞー、なんせ六種類の香辛料をそれぞれの紅茶の種類に合わせて混ぜて淹れるんだ、これで芳醇なひとときを味わえる」

 礼は飲んでから言ってくれ、お前らのは俺が選んでやる、と三つ種類の違う紅茶を桜木は注文した。その紅茶が醸し出す芳醇なひとときから目を覚ますように、美紀のスマホに着信音が鳴った。


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