進まぬ解明1
翌日、美紀は三千院からやって来る夕紀の為に、京阪電車出町柳駅で待ち合わせた。二人ともノートパソコンを持参して、桜木のアパートを訪ねる予定だ。それは前日のストーリービューから、門構えの立派な家とか古い家を捜してもなかなか見つからず、もう少し捜査対象を拡げてはどうだろうかと相談に行く。
駅で落ち合って、スターバックスでセルフコーヒーを三つ買い求めて、桜木の部屋へ向かった。
「あいつこんな朝早くから起きてるだろうか」
美紀に云われても夕紀は、今まで桜木をそこまで心配しなかった。
「もう十時前よ。会社勤めならもうとっくに働いてる時間だから考えが甘過ぎるが本の虫だ。起きてるに決まってる」
まあ大学院生として続けるのなら別だけれど、第一に文学部で何を研究すると云うの、と夕紀は桜木の将来性に疑問を持つ。しかし美紀はそこまで考えていない。とにかく振り向いて欲しいらしい。美紀が古い時代物の大衆小説に興味を持つはずがない。わざわざ運んだ重い全集物は、口実に過ぎないと夕紀は睨んでいた。案の定に部屋に入るなり、美紀は片隅に積まれた大菩薩峠全二十巻に目が行く。それは本そのものより、まだ彼との接点が有ると安心している。
桜木は既に二人の意に反して机のパソコンと格闘していた。しかしその顔を見ればはかどってないのは一目瞭然だ。困窮する桜木を見た夕紀と美紀は、あたし達と同じ疑問に突き当たっていると確信した。
「朝から頑張っているわね。これぞ福祉の鏡だと、その姿を他のサークルの者に見せてあげたいわね」
「美紀、赤穂浪士じゃないんだ。大袈裟すぎる」
二人ともブツブツ言ってないで、と桜木が用意してくれた折りたたみ式のテーブルの前に三人は座った。




