唯一の遺品が見つかる3
前もって夕紀が連絡した父の店に着くと、テーブル席の前には直ぐに特別ブレンドの珈琲が四人分並べられた。
「お父さん、ご近所の年配の人たちはまだ来ないのね」
「春休みになって観光客が増えたせいでちょっとは遠慮してるんちゃうか」
そうか、まあごゆっくり、と親子の短い会話で戻るマスターの後ろ姿を見ながら四人は珈琲に一口添えた。
「ところで夕紀よ、一つ妙案が出来たのだが。大家さんが役所に頼み込んで全国の役所に行宗道子の名前で戸籍に記載されていないか調べて貰えば楽なんだがなあ」
苦労を惜しむと謂うよりは楽な方法を探る米田らしい提案だ。
「個人情報保護法が施行されて厳しいこのご時世ではどうでしょう」
「でもよ、これは役所からの依頼やん、なら役所同士の横の繋がりはどうなってんだろう」
「でも役所と云う処は問題が出ると責任を取るのを嫌がるからなあ」
何事もなく定年まで勤め上げれば、民間の数倍の退職金と恩給に役職者で有れば天下り先のポストまで用意してくれる。それを棒に振る役人がどこに居る、火中の栗を拾う役人がどこに居る、と桜木は当てにはならんと米田につれない態度で返した。
まあ地道にやっていくしかないやん、と美紀も桜木に同調する。これに米田はムッとして、すまし顔の美紀を牽制した。美紀の云う朝のバスの雰囲気とはこう言うことかと夕紀は納得した。
そこで桜木はあの家の本は市役所前で行われる次の市民フリーマーケットヘ出す。その選定を次回の予定に組み入れた。残った家具の運び出しは米田から石田と北山に伺うように依頼した。残った私物は段ボール箱に詰めて暫く置いておくが、この家は借家だからいつまでも置いておけない。大家さんも、早う次の家賃収入を期待しているだろうから、その予定で早う遺産相続人を捜し出す事で一致した。




