唯一の遺品が見つかる2
「おいおい、まだこの名前が山下さんの旧姓だと決め付けるな」
電話帳めくりに疲れたのか米田が早合点し過ぎる、別人かも知れんと水を差す。嫌な視線を浴びた米田は直ぐに「まあそれでも少し遠回りになるが辿り着けそうだ」と重い電話帳と格闘するみんなの視線を逸らすように励ました。
調べると全国で百五十人しか登録していなかった。特に広島県に多く居るようだ。
「それでも大変ね」
美紀が言い出すと桜木は、古い家や立派な家には家系図がある。それで道子さんの名前を辿って調べれば三分の一ぐらいは減る。そこから、不明なのは多くて二、三十で上手くヒットしていけば、一ケタに減るからと楽観論を打った。
「まあ二十人に落ち着けば後はあの写真が頼りになるわね」
家系図から漏れた行宗家には、あの写真の人が家族か身内か知り合いに知ってる人がいないか聴けばいい。するとこの先、僅かだが光明が見えるとみんなは安堵する。
とうとうこの家では印鑑と写真以外は本人をハッキリと証明する物は何ひとつ見つからなかった。見つけた本人に関する遺品は、四枚のしかもかなり昔の色褪せた写真と、これも矢張りかなり古い印鑑のふたつしか見つけ出せなかった。公式な身分証明書が一切なければ、これは一番貴重な物を遺してくれたと感謝するしかない。
そこでみんなは家の戸締まりをして、美味い珈琲の匂いに誘われて、三千院はずれ道の喫茶店へ自然と足が向いた。二回に亘る遺品調査を終えて足取りは重いが気持ちは軽くなった。
あの写真だけなら、どこから手を付けて良いか解らずに、途方に暮れていた処だった。それだけに苦みの中に酸味と調和したあの店の珈琲ほど、この場に相応しい物はない、とみんなは今更ながら夕紀に感謝した。




