唯一の遺品が見つかる1
逆さまの、しかも苗字としては見なれない文字だけに確認する必要があった。さあ大変今度は朱肉探しだか、これは机の引き出しにあった。
さっそく朱肉を付けて近くの紙に押しつけてみた。みんなの注目は桜木の手に集中する。桜木が静かにそ〜と印鑑を持ち上げたその下の紙には「行宗」と言う苗字が鮮やかに蘇った。
「ねえ、これって山下さんの旧姓かしら? で、これ、なんて読むの?」
美紀が桜木に訊ねた。
桜木はその幼い質問に仮定だが、多分おそらく「ゆきむね」または「いくむね」のどちらかだと思うが後は本人に聞かんと解らんと答える。美紀に対する桜木のぶっきら棒さに、夕紀はそんな言い方がありますかと嗜める。これに米田も同調すると、桜木は八方塞がりになりかねない。
「あんまり聴かない苗字ね」
直ぐに美紀が何事もなかったように桜木に話し掛けて、気を逸らすと夕紀もやり過ごした。
「そうだなあ、滅多にない苗字だと思うけど、そのどちらかの読み方で間違いないだろう」
「じゃあこの珍しい苗字から身内に辿り着けるかしら?」
美紀が何気なく言い出した。これに夕紀が直ぐに反応した。
「そうだッ、そこだッ、この家には随分と古い電話帳が沢山あった。それで宇田川由香さんの連絡先が解ったように行宗さんも解るかも知れないわね」
と夕紀が言い出すと、善は急げとみんなは一階に下りて埃のかぶった電話帳を押し入れから取り出して調べだした。しかし今時こんなアナログな方式で調べるなんて、昭和の人の苦労が身に染みる、と平成生まれのみんなは肝に銘じた。




