孤独死3
「それじゃご主人が奥さんを籍に入れてもご主人はおんなじじゃないですか」
「奥さんの本籍は判るかもしれんが、それでそのままにしていたのかも知れんなあ」
なぜ山下道子さんが住民登録をしていないのか。だから彼女の本籍も解らないが、ご主人の通帳や年金から、歳は自己申告ながらも解った。
身内が居なければ財産は全て国庫に入るそうだ。もし、もしもだ、後から身内が判明すれば、一旦国庫に入った物を出すには、法律上相当厄介になる。だから市が負担するには大きすぎる額だった。そこで役所としては、大家さんの方で心当たりを探して欲しい、との依頼を受けて大家の佐川さんは頭を痛めていた。
「だから亡くなったあの家の住人の山下道子さんは、今は無縁仏として寺で預かってるそうだ」
あの婆さんではないが、最近はご近所をはばかって、何でも葬儀社が経営する葬儀会場でやるらしい。同じ町内の人ですら亡くなったのを知らないから、世知がない世の中になったと大家はぼやいていた。
「それで結構荷物が多くてなあー……」
「ゲ! それってまさか。ゴミ屋敷!」
これには夕紀が眉を寄せて、あからさまに不快感を滲ませる。それを佐川は笑って見返した。
「いや〜、それが家の中は綺麗に仕上げてあるから大丈夫だよ、それよりただ本が多くてね、一目見てもわしらにはちんぷんかんぷんな本ばかり何だよ。そこで夕紀ちゃんたち京大生が見て処分しても構わんよ、残りは古本屋に任すから」
「おいおいそんなに凄いのか」
「ああ、結構な物ばかりで全集物はほぼ揃ってるみたいだ」
「それじゃあ婆さんは独りで本ばかり読みふけっていたのか」
「テレビを見ながら晩酌する我々とそこがちゃうやろう」
とにかく大量の本は我々凡人には解らんから、そこは現役の大学生に整理を頼めば向こうも欲しい本があるかもしれん。それで手間賃代わりになるだろう、と夕紀ちゃんに頼んだが、実体は山下道子の遺留品から彼女の身元調査に他ならない。
使える家具はフリーマーケットで処分して、問題は大量の本の整理だ。これには興味を惹く本の虫になる学生が知り合いに居て、夕紀は彼らの応援を仰いだ。しかし最大の謎は山下道子さんが、住民登録をしていないのだ。だから彼女の本籍も正確な出生も解らなかった。




