新たな遺品の発見1
この日、京阪電車出町柳駅にあるバス乗り場に、美紀と桜木と米田がやって来た。石田と北山は借りた軽四のトラックで直接行く。行き先は孤独死した山下道子さんの自宅での遺品整理作業だ。
春休みに入ってみんな忙しく無かったが揃うとなると日にちは限られてしまい、学生ほど我が儘な奴はいなかった。裏を返せばそれだけ自由奔放に懐具合に妥協して生きている連中だ。
石田と北山が借りる軽四トラックの都合で、ほぼこの日に決まったようなものだ。全くあの二人に振り回されたと、米田は来るなりぼやいている。
「しょうがないだろう、車がなければ家具は運び出せないじゃないか」
桜木にすれば家具は本みたいには簡単に、しかも大菩薩峠のように分散して運べないと米田の苦情に苦笑した。美紀も「あの本はまだ部屋の隅に積んだままか」と処分してないか確認するように訊いて来る。
貨物コンテナぐらいの広さが有るバスの待合室には、プラスチック製の一人掛けの椅子が横一列に並んでいる。その三つを三人は占拠していた。この時期は三千院行きのバスは頻繁に出ないからそうなった。
「あの本を本当に読むつもりなのか」
と米田は美紀に、別な思惑を勘ぐるように横やりを入れてきた。
「バイトに明け暮れる米田には無理な本だ」
と桜木は米田を一蹴した。
アレは確かに大衆小説家の中里介山の書いた本だが、彼はそこに人間の情念を染み込ませている。
「何だそれは人間の条件は聞いたことがあるが人間の情念は初耳だ」
米田は突っかかる。
「人間が生きる上で生じる理性では片付けられない。だからこそ終生を掛けて介山が挑んだ作品で読む値打ちがある」
と桜木は応酬して、読まないと解っていながら米田に今一度推奨した。




