苔むす庭の石仏3
「だって苔の絨毯に埋もれて、立派なお堂にも囲まれて、多くの人に見守られて鎮座しているんですもの」
美紀のそう謂う捉え方が出来るのも、この三人三様の拝観から来ている。この庭を道子さんも宇田川も巡りながら、一つ一つの石仏が丸みを帯びるのを愛おしんでいた。風雨にさらされて丸みを帯びた歳月を、まるで我が身に重ねて心を砕いて観ていた。あたしも同じ目で見詰める道子さんと目が合って、二人ともちょっと寂しげな薄笑いを浮かべたのを想い出して、夕紀も美紀も釣られてしまった。
「ここは笑っちゃいけないんだ」
と二人は罰の悪い顔をして自問した。そんな二人に、三人三様よと云って、由香さんも笑いの輪に入ってくれた。
帰りに寄った片桐の喫茶店では、いつもの珈琲にも深い味わいが漂ってくるから、お父さんの店も満更でもないと夕紀は勝手に解釈した。
「あのまま真っ直ぐ駐車場に行ってバスを待てばなんか味気なくなるでしょう、あの鑑賞した余韻に浸りたいと思う処にこのお店が在るなんて……」
この趣向はマスターの粋な計らいだと宇田川さんも褒め称えた。
「そう言う人のために砂糖抜きで丁度良いように、苦みと酸味が喉に染みるようにブレンドしてます」
テーブル席に注文した珈琲の配膳を終えた片桐は、美味くマッチしたこの味を愉しんで下さいと奥に下がった。
ここで夕紀は、父がこの味を出すのに五年はかかったと苦労話を披露した。言い換えればこの味が出来たからこそ、ここに店を出すと決めたらしい。
「そうなの、いっそうお店の名前も喫茶だけにしないで『はずれ道』ってしたらもっとお詣りのお客さんが寄って来るかも知れないわね」
そうかなあと夕紀は複雑な家族の事情を考え込んだ。




