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往生極楽院1

 もしあの下まで滑って落ちてしまえば直ぐに救急車で運ばれて、今のあたしはまだ病院のベットの上に居たかも知れない。それを考えると石段を共に登った先にある、この日の山門はいつも訪ねた寺院より何故か印象に残った。それだけあの日の山下道子さんの支えが利いている。

 門を潜ると夕紀ゆきは、亡くなった山下道子さんの遺された遺産に付いて、電話より更に詳しく補足した。それに対して余りにも遺された遺品から、相続人を捜す手掛かりが乏しいのに同情された。

 先日あの喫茶店で、山下道子さんの突然の死を告げられて、動揺して何も聴かずに帰ってしまった。それから少し日が経つと、どうしてもっと聞けなかったかと後悔した。そこへ実家の母から連絡を受けてはやる心を抑えた。矢張り身も知らない人にいきなり電話をするのもと、取り急ぎメールを出せば、直ぐに丁寧な返事を貰った。それで電話すれば少しずつ事情が飲み込めてもう一度、今度はゆっくりと三千院へ行きたくなった。それは死後の整理をされている夕紀さんからの苦労を聞いたからだ。電話で知る限りやり残したもどかしさが募る。これであの時に救って下さった山下道子さんに、報いられると思う気持ちで落ち着きを取り戻せた。

 先ずは拝観受付して中へ入る。客殿中書院を通り、宸殿から往生極楽院を望む階段に佇んだ。道子さんは往生極楽院に安置されてる三体の仏さんをここから眺めていた。それは直接目で触れるより、もっと鮮やかに心に触れられるからだ。それが昔の想い出を連れて来るらしい。一種の瞑想に耽っていたのだと想われる。

「ここで道子さんは昔の想い出を喋ってくれたんです」

「どんな想い出ですか」

 そこで夕紀は遺品の写真を見せて、写っているのが道子さんだと確信を得たが、一緒に写っている人については首を傾げられてしまい、それ以上は頓挫してしまった。


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