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宇田川由香が来る4

 三十を過ぎた彼女は一度目の結婚に懲りて、金輪際結婚はしないと心に誓っても、それを覆せる人が現れれば女はもろい物だと知った。そんな思いが断ち切れるほどの雪が降り積もる山里に立つ三千院の本堂が気に入った。が、女心を見透かすように、都会装備の彼女に、雪の参道は容赦なくめげさせる。流石は名だたる天台宗の寺院だけ有って悟りきれない人間を拒むように、軽いパンプスだけの足元に容赦なく降り積もる。やっと到達した時に、難関な歩幅の短い急な階段で足を取られた。流石に無事では済まされないと覚悟した。その覚悟を優しく受け取ってくれる人が間近に居た。この世界も捨てたもんじゃないとその時に思わせたのに、その人が今はこの世に居ない侘しさを感じた。それほど宇田川由香さんは道子さんに心を寄せてしまったのだ。

 小さな川沿いの小径から小橋を渡るとあの山門が見えてきた。門前に立って見上げると、何処かのお城の城門のように見えるほど、その石段と門を囲む石垣に圧倒される。ここがひと月前の深い雪に閉ざされていれば「お前はこの山門を潜れる者なのか」と問われている錯覚さえ抱いてしまいそうだ。

 三人は石段を登り切った所で立ち止まり振り返って足元を見た。

「いま見れば普通の石段だけれど他の寺院に比べて数が多いわねぇ。丁度あの辺りの石段で滑って真っ逆さまに下まで落ちる恐怖を救って下さったのが山下道子さんでした。あの人は足元の覚束ないあたしを見て倒れても受け止められるように直ぐ真後ろに居たらしいのですよ」

「でも七十歳の人が若い宇田川さんを受け止めるなんて凄いしっかりした人なんですね」

「ええ腰もスラット伸びて髪はグレーでしたけれど染めていればもう十歳は若く見えたでしょうね」

 参拝者たちは門前の三人を遠巻きにして次々と門を潜って行く。中には「寺院の門って大概は短い石段の上にあるけど、ここのはちょっと石段の数も多くてしかも登る角度がきついわねぇ」と云いながら行き過ぎる人も居た。それを聴いて三人はクスッと笑って門を潜った。


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