宇田川由香が来る3
紹介された宇田川由香は直ぐに行きましょうと踵を返して歩き出すと、二人も後を追って店を出た。優香にすれば突然の出来事に為す術もなく見送ってしまった。
「何なのあの女は、それに夕紀も夕紀でしょう側にいるあたしには目もくれずに行っちゃうなんて、あなたどう言う教育をしてるのッ」
「ご覧の通りお前に挨拶する時間もないぐらい今は忙しいんだ」
「春休みなのに……」
夕紀は大学生活を謳歌しているのか。それに引き換え息子は独り今年も浪人の身の上、この違いに優香は胸が詰まった。
「そう春休みだから」
浩三は自慢げに言い切った。
二人は喫茶店の屋根裏部屋のような所で待機して、宇田川由香さんの対応策として。この際はハッキリと山下道子さんの遺された遺産の相続人を捜して居ると伝えて協力して貰うことで一致した。そう決めた以上はサッサと出会った現場で、一刻も話を訊くべきだと母の前を素通りして店を出た。
わざわざ神戸から来て頂いて恐縮です、と店を出るなり労いの言葉を掛けた。
「大袈裟過ぎる。あたしはあなたの誘いに応じたので無く、三千院に観光に来ただけですから」
と宇田川さんに気さくに対応されて、身構えていたものが崩れて、一つ肩の荷が下りた。
「春は急にやって来るものですね」
ひと月前までは雪に囲まれてここへ来るのは大変だった宇田川さんらしいひと言で、今はあの日を身近に感じている。
月日は回り舞台のように躍動的に季節が入れ替わり、春風があの日を想い出させた。と語るように気持ちを落ち着かれた宇田川さんに、二月の三千院にやって来た理由をそれとなく訊ねた。




