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三千院はぐれ店3

 ここで話題になるのはやはり最近亡くなった婆さんだった。七十二と歳を聞いて若いねぇ。北村は平均寿命から若いと云っている。

「七十で若いのなら、じゃあ大学生の内の娘はどう言うんだ」

 片桐は全ては運命だと云いたいのだ。

「その前にそれを言うなら五十代のマスターはまだあの世から見放されてるって言えるなあー」

 ありがたく思え、と北村はさも美味そうに珈琲を飲む。

「それよりその婆さんはどうしてその歳で亡くなったんだ」

「何でも脳溢血で玄関の三和土たたきの前で倒れていて、三日目に近所の人が引き戸の郵便受けから倒れている婆さんを見つけたんだ」

「それじゃなにかい、三日も誰も気付かずってわけか」

「婆さん近所づきあいがなくても毎朝見かけていたからね。まだ三日で見つかりゃあ良い方でさあ可怪おかしな死臭で数ヶ月後に見つかる一人暮らしの年寄りが多いそうだよ」

「その前を若者が引っ切りなしに通って三千院の参拝道を歩いて行くんだから、お寺へ行く前にもう既に仏さんになっちまってるのに誰もお参りしてくれないだからなあ。気の毒に」

「そうなりゃあ、俺たちはそんな因果な場所に住んでるってことだ」

 三千院の側で何処が因果なんだ、と片桐は客の入りが悪くなるような言動は慎んでくれッ、と北村に文句を垂れる。

「もう、おじさん達は昼の日中ひなかからなんてちんけな話なの」

「大学の講義が終わった時間帯だから日中もないが大体あの京都大学で何習ってんだ」

「専門は人間学部ですけれど高齢化についても考えてます」

「ホオーわしらの事を大学で勉強してんのんか」

「高齢社会を見据えているけど、主に社会の弱者についてどうあるべきか考えるのです」

「わしらは弱者やないて云うのか、今も話していたけど孤独死が多いのもわしらの世代やでー」

「あなた達は五体満足じゃあ有りませんか、それに引き替え身体の機能を失いながらも懸命に生きてる人達に光を当てるのが福祉です」

「わしらも懸命に生きているがなあ」

「年金を貰ってね」

 と夕紀は皮肉っぽく言う。これに北村は直ぐ反応する。

「なんかトゲのある云い方やなあ親父さん、あんたの娘は一体何を習っとる」

 北村はそう言いながらも、若い女の子に口でちょっかいを出すのが好きなのだ。

「いつも鼻の下を伸ばしてるくせに、今日はえらい娘に突っかかるのやなあ。今さら若い子にご機嫌取る歳でもなかろう」

「嘘つけ、わしはまだまだ現役や、子供を作ろうと思えば作れるんや」

「確率は九割以上は無理やろう」

「その残りの1パーセントに賭けるのが男と言うもんや」

「何をアホなこと云うてんのや、そやさかい若い子に嫌われるんや」

 お父さんは処置なしやと、北村さんをぼやいていた。





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