孤独死した家の調査4
「ヘ〜エ、そんなん読む人いるの?」
美紀の問いに、うちのオカンがそうだと解説の桜木は言ってのけた。これだけの本がありながら中里介山の「大菩薩峠」が一番愛読したらしい痕跡を残しているのが夕紀には気になった。
「それって全部査定するとどれぐらいだろう」
「米田はそこへ来るか、まあ結構増刷された普及本だから余り良い値は付かないけれど、あれだけの数なら絶版本とか作者のサイン入りとか在れば十万は行くだろうなあ」
「ウワー、これは軽四トラックを借らんとあかんなあー」
「他に宮沢賢治、北原白秋それに俺の気に入ってる立原道造なんかも在ったなあ」
「それは桜木君が持って帰っても良いんじゃないの」
「もうー、古本屋をやるんじゃないのよ。山下道子さんの身寄りを捜すのがこの整理の目的だと云うのを忘れていないでしょうね」
夕紀は呆れて釘を刺さずにはいられない。そこで夕紀の提案で、二階の四畳半の和室には彼女の私物がまとめられているような気がする。そこで昼からはあの座卓の周りと、やけに小さい引き出しが多い、あの茶箪笥を調べたいと言い出した。
大雑把ではあるが大体あの家の主人の好みを掴んだ桜木も賛成した。
それでも山本周五郎や山岡荘八、藤沢周平などは、おそらく五年前に亡くなった主人の好みとも受け取れた。だからこれ以上は書物を調べるより普段の生活空間を調べ直した方が手っ取り早い、この桜木の意見でみんなは一致した。
話が纏まるとみんな急に腹の虫が唸りだし、話題は直ぐにお父さんの店のランチに集まった。
町中の喫茶店のように凝ったメニューはないわよ、と夕紀は着く前から忠告する。まあ空腹時だから、食後の美味い珈琲で我慢しょう云うことになった。




