三千院へ2
来店時のお父さんの印象では、華奢な感じで三十代の女性らしい。お父さんはあたしが入り口のドアに付けたカウベルの鳴り方で、その人の大雑把では有るが、癖を上手く見抜ける特技を持っている。
父に依ると、彼女はかなり緩やかに鳴らして入って来た。そこからかなり温厚な言い換えれば、おっとりとしているが芯は強そうだと睨んだ。でも自分には謙虚でなければ人は見抜けない。逸った気持ちで人を見れば、その人が持つ大事な物を見落としてしまう。だからお客さんが来ない日でも気が抜けない。張り詰めた気持ちで待機するのも、お父さんはあの人通りの少ない外れ道で覚えた。
お父さんほどでも無いにしても三千院でお詣りを終えても、張り詰めた気持ちがほぐれないままの人は、真っ直ぐ駐車場へ帰らず寄り道する。お父さんがそんな所に店を構えたのも、そうした思い入れから来ている。お父さんは管理された縦社会から脱皮したくて、念願の店を始めたのですから表通りより裏通りの方が、彼女のような人が来やすい。
昨今の夕方は、近所の年配者の溜まり場で、彼女のような人が長居出来る時間がなくては、せっかく唄にあるように三千院に訪れても多くを語れない。それにここ二年ほどかき回しに来る人が居て困っているらしいけれど。
「誰ですかそれは」
桜木がこの話に関心を寄せたようだ。
「身内だった人ですから簡単には追い払えないそうよ」
夕紀と仲の良い橘美紀の意味深長な解説に、桜木はフーンと唸ったきり追求しない。それよりもこれから行く家には余り凝った家財がないような気がすると言い出した。俺の実家も俺の部屋には書棚以外は、凝った物を置いていないから、あいつらが来てもがっかりするだろう。なんせ値の張る家財道具をどう処分するしか頭にない連中だからなあ。




