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三千院はぐれ店2

「今更お前の知ったことではなかろうが元の鞘に収まるのなら別だが」

「頭を下げて貰っても戻るわけないでしょう」

 とフンと鼻息も荒く云われる。

「ならどうしてわしの所へ来るんだ」

「あなたの所でなく娘に会いに来ただけよ、それにここは喫茶店でしょうあたしが客として来て何処が悪いの」

「別に悪くはないが世間体っちゅうもんがあるだろう」

「娘に会いに来てるんだから別に誰も何とも思ってないわよ。それにここでは知ってる人は誰も居ないわよ」

「夕紀なら店でなく自宅へ行けば良いだろう」

「ここなら黙っていても珈琲が出るけど、あそこにはあのいけ好かないババアが居るでしょう」

「まあ、表から来れば客だから追い返すわけにも行かねぇか」

「ちゃんと売り上げに貢献してあげてるんじゃないの。もうちょっとましなこと言えないの」

「まあ、普通の客なら良いが別れた女房になんて言えば良いんだ」

 そこへドアのカウベルが鳴り響き、夕紀がやって来た。

 もう二人ともいい加減により戻したら、といつもは勝手口から来るのが表から店に入って来た。

 どうしたんやと聞けば、今日は大学に行ったが休講だそうだ。

「何だ先生も気楽なもんだなあ」

 まあ、お陰で今日はいつもより早めに店に出てもらった。

 しかし何処で聞きつけたのかさっそくに、六十半ばを超えて髪が薄くなった近所に住む北村と云う親父がやって来る。親父は娘の居るカウンターと対面するように座る。その前に彼らと入れ替わるように離婚した妻が娘に一声掛けてそそくさと店を出た。

「なんやあのおばはん、たまに見かけるなあ」

 と夕紀にさっそく愛想笑いを浮かべる。

 大学生の娘が 講義が終わると店を手伝いに来てくれる。げんきんなもんでその辺りから近所の男の客が増える。これはいつも通りだが、別れた女房については彼らは知らないから、今出ていった女は単なるお客さんだと思っている。それが証拠に直ぐに娘にちょっかいを出している。

 いつも顔を見せる禿げ茶瓶のおっさんに、その頭なら散髪代が相当浮くやろうと云うと、なに云ってんだー、毎月舶来のブランデーより高い養毛剤を頭に振りかけてんだー、とまくし立てられた。

 ああ、北村のおじさんね、と娘は注文の珈琲を持って笑っている。

 ハイどうぞ、と北村の前へ娘は珈琲を置いていった。




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