橘美紀2
呼び出しベルで夕紀だと解ると「直ぐ来ると思った」と美紀は部屋に招いてくれた。
「まだ炬燵を出しているのか」
だって朝晩はまだ要るし、それにテーブル代わりになると、美紀はちょっと笑って応えながら紅茶を用意した。
なるほどと電源が切れた炬燵に入った。
「帰りに桜木に捕まったようだけどあいつなんか言ってた?」
「まだ見ぬうちから本の値踏みはみっともないって」
「そうか、思わせ振りな奴だ。あいつは本の虫だ。よく大学近くの古書店で見かけるがいつも買えずに出て来る。だからあいつは早速乗り込みたくてウズウズしているくせにもったいぶってやがる」
二人とも砂糖は入れずに、こちらもレモンが買えずにポッカレモンを数滴振りかけて紅茶を飲んでいる。
「良くそんな仕事が舞い込むね」
「お父さんのお店が老人クラブのような窓口になってるみたい。それでもあの店は結構若い女の子の旅行者も来るからね、でも殆どが一人旅らしいの」
「それと孤独死のおばあちゃんと何処で話題が合うんだろう」
「旅行者は昼ごろから夕方迄で、その後は閉店間際にご近所のお年寄りがやって来てワイワイ騒ぎ出すのよ、あれって夕食の支度に駆り出されたくないから内の店へ来るんだと思う。そこで年寄り仲間の大家さんが持ち込んだから近所づきあいの延長だと思って気楽にするつもりだけど」
「そうか、それじゃあ探偵仕事は二の次なら桜木が一番張り切るだろうなあ」
「どうでしょう。全集と言っても暇に任しておばあちゃんが読むのなら、大衆小説の全集物だと決めつけていると思う」
「ならあいつガッカリするだろうなあ」
それより美紀は、春休みは島根に帰らないらしい。と云うか帰省するのは、殆ど正月休みぐらいだった。美紀に言わすと、今まで普通と思っていたのが、こっちの都会に来てから実家は古臭い風習が残っていて、カビ臭いと感じているようだ。




