三千院への想い2
「ところで秀樹はどうしてる」
「見た目は変わらないようだけど、もうあたしの手に負えないのよ」
と言うことは自立したってことか。この十年間に母親が施した教育より、その前のわしの背中が今頃利いてきたかと父はほくそ笑む。
「何が可笑しいのよ」
父の勝利宣言に、母はちょっと嫌みっぽく遠回しに敗北を認める。
「それで秀樹はどうするつもりだ」
「もう予備校には行かないって宣言して働くそうよ」
そうなったのはあんたのせいでなくあの婆さんなのよ、と祖母の芳恵をどうやら母は責めているようだ。一通り店内の拭き掃除を終えた夕紀はひとまず二階へ引っ込んだ。
「ここの掃除はあんたが頼んだ訳じゃあないわね」
夕紀が引っ込んでから母は確かめる。
「お陰で大学がないときは助かってる」
「でももう春休みも終わるからまた人手が大変じゃないの」
「秀樹はいつから働くんだ」
そう来たかと父は訊く。
「何処の会社も今は新入社員で一杯で、五月病が出る頃に本格的に就職活動するらしいのよ」
「まあなあ、浪人生からのスタートだからそうなるか」
「それまで、ここで社会人の見習いを遣らせたいけど、どうだろう」
缶詰め教育をした優香の心配がもろに出た。
「それは本人次第だ」
優香もそこまで折れたか。
其れもそうね、と優香はアッサリ打ち切って、それでこの話は尻すぼみになると、今度は自宅にいるあの婆さんの様態を聞いてくる。
「ありがたいことにまだ元気に家の事をやってる」
残念ながらお前の出番はないらしい、と遠回しに避ける。そう元気なら良いんじゃないの、と嫌みタップリに返された。




