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滝川iに会う2

「でもお姉さんの恵子さんの話によると、四十年近く滝川さんは道子さんの消息を捜していたそうですね」

 桜木が最初に聞き込んだ。

「わざわざ島根まで行かれたんですか、ご足労なことだ」

「いやそうでもないですよ。そこにいる美紀ちゃんの実家ですから」

「ああさっき大菩薩峠を読んでいると言ったか」

 滝川は少し物思いに耽るように美紀を見て、

「アレは道子も読んでましたよ。随分昔でしたがねえ。どうでした」

 まだ出だししか読んでいない美紀はそれで慌てた。

「道子はねえ、アレはねえ、芭蕉の『おもろうてやがて悲しき鵜飼いかな』って詠んでそんな句だと言ってましたよ」

「そうなんですか?」

 と美紀はチラッと桜木の顔を覗った。

 道子さんが住んでいた借家の大家さんから遺品整理を頼まれて、その中にまだ残っていた本だと桜木は説明した。

「他に何かありましたか……」

「色々ありましたが電化製品と家具は処分しましたが、本と私物に関してはまだそのまま遺してますから。よかったらご案内しますからご覧になりますか」

 滝川は桜木の顔を見て、君が気に入りそうな本はあったかと聞かれた。素直に大衆小説ばかりでしたから特に目を引いたのは臼井吉見さんの「安曇野」ですと答える。

「ああ、あの相馬黒光を描いた安曇野ですか」

 と直ぐに返って来て桜木は驚き、他には「楡家の人々」だと付け加えた。

「北杜夫の作品ですね。どちらも長編小説で根気が要りますなあ」

「あれは本当に道子さんが読まれたのですか。亡くなったご主人かなあとも思ってましたが……」


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