滝川を捜す4
「そんなにじっくりとは見てませんから、我々は別の要件であのお掘り端を歩いただけなんです」
何が気に入らないのかあのお堀端をサッサと歩いた米田が、みんなを代弁するように答える。
「でもあの見事に咲き誇る桜は目に留まるだろう」
何処が気にいらんのか、と老人は少し眉間を寄せた。
「それは嫌でも目に留まり、ちょっと見ていかないかという声も掛かりますけれど……」
更に米田は無表情で老人と対応している。
「じゃあどうしてユックリ見ていかないんだ。勿体ない今しか見られない、今日しか見られないのに・・・」
「今日散っても、また来年咲きますから」
米田がアッサリ言うのに驚愕したようだ。それが証拠にそれもそうだが、と老人はそこでため息交じりに諦めて呟いたのだ。
「いいねぇ若いって謂うのは、桜は今日散ってもまた次の春まで待てるが我々のように歳を取ると毎年これが見納めの桜かと思うと、散る花びらまでが頬に掛かると命が縮まる思いだよ。アレは見事な桜だった。まさしく北面の武士、西行を彷彿させた」
「それは西行、佐藤義清の事を云ってるんですか」
老人は桜木の顔をまじまじと見詰めた。
「ホウー、あんたは詳しいようじゃあなあ、桜の和歌をあれほど詠んだあの御仁を知ってるのか」
「彼は文学部を専攻してますから」
夕紀が言い出すと美紀も、あたしは大菩薩峠を読んでいるの、と急に割り込んでくる。これには老人も呆気に取られているようだ。
「あっ、そこがさっき娘さんが訊ねた清風荘だよ」
老人は二階建てで八室在る、古びたアパートを指さした。二階へ上がる鉄製の階段には所々塗装が剥げ落ちて鉄さびが浮いていた。
じゃあなあ、と老人は二階の階段を上りかけると、もし滝川さんのお部屋はどちらですかと夕紀が声を掛けた。




