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1-01  【悲報】全校生徒の前で、俺の暗躍が全部バレた

――俺、何のために生きてんだろうなぁ。


 男子高校生・黒峰シモンは、生まれ持った「隠形魔法」の副作用で、人に存在を認識されにくい体質だった。彼は深く悩んでいたのだが。


「どうした、後輩。随分しょぼくれた顔をしているのだな」


 彼に生きる気力を与えてくれた人こそ、桜風院ユリアだった。彼女は武の名門である桜風院家の長女で、学園では生徒会長をしている才女だ。


 そうして叶わぬ初恋の日々を過ごす中、シモンはとんでもない場面に遭遇する。なんとユリアの婚約者である星屑レオルが、浮気をしていたのだ。

 シモンは隠形魔法を駆使して証拠を集め、桜風院家に情報を提供した。これで、ユリアの婚約は穏便に解消されるはずだったが。


――その星屑レオルが、死体で発見された。


 そして、他でもない桜風院ユリアによって、彼は全校生徒の前で拘束される。


「洗いざらい吐け。お前が星屑レオルを殺したんだろう」

「――桜風院(おうふういん)ユリア。俺は貴女に恋をした」


 全校生徒の集まる大講堂。

 鎖魔術で四肢を拘束された俺は、自白の錬金薬を飲まされ、とんでもないことを口走っていた。皆がざわつくのも道理だろう。いっそ殺してくれないかなぁ。


「再度問う。黒峰シモン、お前が犯人か」

「違う。俺は殺人犯ではない。人違いだ」


 弁明する俺の前で、恐ろしい顔をして仁王立ちしている女の子こそ、桜風院ユリアその人だった。

 彼女は武の名門である桜風院家の長女にして、この鳳華(ほうか)学園の生徒会長であり、俺の初恋相手でもある。


 とはいえ庶民の俺には、高嶺の花どころか直視すら畏れ多い存在だから、この恋心はずっと隠していたのだが。


「あぁ。ほんのり桜色の魔力光を帯びた長い髪。切れ長の鋭い眼光。誇り高い立ち姿。俺のような一般庶民には近づくことすら(はばか)られるが、ずっと貴女に恋をしていた。出会った日から」

「戯言を。自白剤が足りないか」

「俺は貴女に救われ、感謝しているんだ。だから、貴女の意に沿わぬことはしない」


 俺の発言に、大講堂は微妙な空気に包まれる。

 どうしてこうなったんだろう。


――念球(キッカー)部の主将をしていた星屑レオルが死体で見つかったのが、つい今朝のことだった。


 奴は全裸で上半身だけを地面に埋められ、逆さまになって大股を開いていたらしい。現場は学園のすぐ側だったから、登校中の生徒が見つけて大騒ぎになり、すぐに警察がやってきた。

 そして全校集会の場で、俺はなぜか桜風院ユリアに吊るし上げられているのである。とても悲しい。


「確かに貴女の言う通り、死体で見つかった星屑レオルのことを、俺は尾行していた」

「ふん。星屑レオルは私の婚約者だったからな。その恋とやらを拗らせたのか?」

「いや。これを話してしまえば貴女を傷つけてしまうだろうが」


 この情報は話したくなかったが、自白剤の効果はまるで切れる様子がない。


「奴は浮気をしていたんだ。貴女以外に三人ほど、秘密の恋人が存在した」

「……は?」

「俺は調査のため、星屑レオルを尾行した。集めた情報は資料にまとめて桜風院家に提供してある。本来ならば、貴女に事実を知らせることなく、穏便な形で婚約は解消されるはずだった」


 あぁ、これだけは絶対に伝えたくなかったのに。彼女を無駄に傷つけてしまうだけで、良いことなんて何もないじゃないか。


「星屑レオルは人間のクズだ。女と二人きりになると貴女のことを口汚く罵り、真実の愛がどうのこうのと囁く。三人というのは俺が証拠を掴んだ数だが、実際はもっと多いはずだ。ずいぶん手慣れた様子だったから」

「え、ちょ、え」

「俺の調査能力に目をつけた桜風院家からは、卒業後に隠密部門で働かないかと打診を受けた。貴女のことを陰ながらお守りしようと思っていたが……今の状況を踏まえると、その未来は潰えたか。残念だ」


 しんと静まり返った大講堂。

 誰も言葉を発せずにいる中、桜風院ユリアの綺麗な目が戸惑ったように揺れる。まいったな。


「星屑レオルを殺害した犯人は俺ではない。それに動機のある者は少なくないだろう。なにせ奴は恋人のいる女を寝取って破局させることで、自分の顔の良さを確認して、悦に浸っているような男だったから。例えば、古流柔術部の主将は最近恋人と破局したが――」


 自白の錬金薬は、五分ほどで効果が切れる。

 その短い間に、俺は全校生徒の前でペラペラといらないことを話し続けた。あぁ、俺はこれからどうなるんだろう。人生ってままならないよなぁ。


 そうして、俺の意識はプツンと途切れた。


 ◆


 人間は生まれつき、自分だけの固有魔法を持っている。俺の場合は「隠形魔法」という、存在感を薄める魔法だ。厄介なのは、気を抜いていると自動で発動してしまうところだろう。

 そんなわけで。これまでの十七年の人生を振り返り、他人に言われた言葉をランキング形式にするとしたら、堂々の第一位に輝くのは……。


「えっ、いたの?」


 これである。

 基本的に俺は、よほど頑張って自己主張しないと人に認識すらされないのだ。


 笑えるエピソードには事欠かない。

 幼少期から両親は俺の存在をうっかり忘れるため、いつしか自炊が趣味になった。同級生とかくれんぼをすれば、誰も探しに来てくれないのが常だ。それと、小学校から中学校まで無遅刻無欠席だったのに「出席日数が少ない」と担任に言われたこともある。


――俺、何のために生きてんだろうなぁ。


 そうして、鳳華学園の校舎裏で途方に暮れていた時だ。


「ふふん。どうした、後輩。随分しょぼくれた顔をしているのだな。高校生になって早々、落ち込むことでもあったのか?」


 それが桜風院ユリアとの出会いだ。

 俺は気配を消していたはずだから、彼女は何かしら知覚強化系の魔法を持っているんだろうと察しがついた。


「俺は……その。自分の魔法に悩んでまして」

「ほう? 固有魔法の悩みか」

「つまらない話です。自分の存在価値が分からないだなんて……思春期によくある、きっと平凡な悩みなんでしょう。わざわざ先輩に聞かせるほどのものじゃないですよ」


 俺はそう答え、ため息をついて雲を見上げる。すると彼女は口元に小さな笑みを浮かべ、俺の隣に腰を下ろした。


「確かに、よくある悩みかもな。私もずいぶん長いこと、自分の魔法に苦しんでいたよ」

「そうなんですか」

「私の場合は魔力操作(スキル)を磨いて、どうにか魔法を抑え込むことにしたが……人によって、解決方法は色々とある。固有魔法ではなく、汎用魔術を極める道もあるしな」


 彼女は念動スキルを用いてリンゴを一つ浮かせると、俺の目の前に持ってくる。


「食べるといい」

「あの」

「君は上背があるが、少しヒョロっとしているからな。もう少し鍛えたまえ。それに、意識を鍛錬に集中するのは、良い気分転換になるものだよ」


 俺がリンゴを受け取ると、彼女は立ち上がって踵を返す。


「私は君を見ているぞ、後輩」


 それがどれほど嬉しい言葉だったか。生きる気力を失いかけていた俺が、どんなに奮い立ったか。誰に説明しても、きっと全ては伝わらないだろう。

 その日から、俺は鍛錬を始めた。魔力操作(スキル)も汎用魔術も工夫して。そして時折、遠くから桜風院ユリアの姿を眺める。それだけで、俺の青春は満たされていた。


 星屑レオルの浮気を発見したのは、偶然だった。鍛え始めてから一年ほどが過ぎ、学年も上がり、たまたま旧校舎の裏を通りがかった時だ。


「――桜風院とは、本当に何もないんだ」


 そんな言葉が聞こえてきたため、俺は隠形魔法を使いながら声の方へと向かっていった。


「桜風院との婚約は親が決めたが、手を繋いだことすらない。それどころか、触れようとしただけで睨まれる始末で」

「うわ。桜風院さん目つき悪いもんね」

「あぁ。俺にとっては、君といる時間だけが癒しなんだ。皆には絶対に秘密だが」


 そうして、星屑レオルはどこぞの女とイチャイチャし始めたため、俺は奴を探ることにしたわけだ。こんな奴に桜風院ユリアは任せられんと思ってな。


 星屑レオルが殺害されたのは、それから二ヶ月後。長雨の続く六月のことだった。


 ◆


 ゆっくりと目を開けると、そこは医務室のベッドだった。

 身体は怠いが意識はクリアだ。できればもう少し頭がぼんやりしてくれていた方が、現実を直視しないで済んだのだが。


「目が覚めたか? 黒峰シモン」


 その声に振り返れば。


 桜風院ユリアが首から()()を下げていた。

 そこには『私は勘違いをして、無実の者に自白剤を飲ませて未来を奪った愚か者です』と書かれている。いったい何がどうしたんだろう。


「私は勘違いをして、無実の者に自白剤を飲ませて未来を奪った愚か者です」

「あの、先輩」

「この看板を首から下げて、私は先ほどまで学園中を練り歩いていた。こんなものでは謝罪には足りないだろうが……本当に申し訳ないことをした」


 彼女は深々と頭を下げる。

 まぁ、誤解だと分かってもらえたなら、俺としては十分だ。おそらく彼女は、俺が星屑レオルを尾行している様子を、どこかのタイミングで見かけていたんだろう。俺を怪しむのも無理はない。


「頭を上げてください、先輩」

「あ、あぁ。すまなかった」

「いいですって。自白の最中は、いっそ殺してくれと何度も思いましたが。もう終わったことです」

「んぐっ……ほ、本当にすまない」


 桜風院ユリアは胸元に手を置き、息を吐く。そして、ほんのり頬を染めながら、潤んだ目で俺を見てきた。


「し……しかし、だな。その……本当なのか?」

「本当とは?」

「は、初恋がどうとか……わ、私もちゃんと自覚してはいるんだぞ。自分に可愛げが備わっていないことも、目つきが悪いことも」

「先輩の目は綺麗ですが」


 俺がそう答えると、彼女は両手で顔を隠し、耳まで真っ赤になって顔を伏せた。なんだこの可愛い生き物は。


「ふぅ……と、とにかくだ。父から言伝がある」

「ご当主から?」

「あぁ。これは極秘だが」


 そうして、彼女は魔導端末を取り出すと、その画面を俺に見せる。


『――星屑レオルが殺害されたのは、敵国の工作の可能性がある。黒峰シモン殿、ことは緊急を要する故、貴殿を桜風院家で雇いたい。その類まれなる才能を活かし、ユリアと協力して捜査にあたってくれないだろうか』


 書かれていたのは、俺がまったく想像もしていなかった、特大の厄介ごとだった。

 もちろん、俺に断る選択肢などないが。さて、どうなることかな。

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あらすじで、いきなり殺人事件が発生し、無実の少年が拘束されたかと思ったら、本編開始早々に謎の告白。 怒涛の勢いに流されるまま一気に読み終わりました。 主人公の幼少期からの苦労に深く同情し、秘密を知っ…
話の展開、練り込まれ方が秀逸でとても面白かったです。 断罪の亜種のようなストレス展開が一話で解決するので(しかも序盤に強い掴みを入れて一話だけなら読み進めてみるかと読者に思わせる魅力があり)書き出し…
え、ユリアさんこれはヒドイ、反論の言葉も聞く耳持たず、ばっさり切り捨てるのか、ユリアさんヒドイ、と二回ほど脳内で繰り返して、後半。……あ、ちゃんと過ちを認めた、看板まで下げて練り歩いた……ここまで謝罪…
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