ソウルレガリア
秋のそよ風が森を吹き抜け、落葉樹の葉を揺らし、ひんやりとした冷気と、ほんのりとした甘さが混ざった湿った土の馴染みのある香りを運んできた。
ルルリアは今夜スープに入れる薬草を探しながら、寒さで腕をこすった。
「冬が近い。小屋を建てたほうがいいかも」
野で3日間キャンプをした彼女は、ベッドと暖かい部屋の心地よい抱擁を求めるようになった。
「%&*#!」
「キミもそう思う?」
ルルリアは小さな子に視線を向けると、軽く笑いました。
声に出して考えると、小悪魔は必ず嬉しい声や少し不気味なゴボゴボという音で応えてくれた。
熟考の末、彼女はログハウスが完璧な住居になると決め、森の丈夫な木を切り倒して建築作業に取り掛かった。
魔法を駆使して、太い幹をまるで常温のバターのみたいに難なく切り裂いた。
空き地の端に丸太をきれいに積み上げましたが、その間ずっと、好奇心を持って彼女の動きを追う小悪魔の監視の視線に気づいていた。
小さな観察者は明らかに、彼女の手の動きと労働のリズムに魅了されていました。
「どうしたの?」
と彼女は振り返りながら尋ねた。
小悪魔は興奮して両腕を大きく広げ、赤く光る目をきょろきょろ回ってから彼女を見つめた。
その時、バダーン!耳をつんざくような衝撃音が響き渡った。
彼女は再びくるりと回転し、目の前に広がる光景に仰天した。
かつては周囲に密集した要塞を形成していた木々は、今では均一な丸太に切り分けられ、地面に散らばっていた。
「*+%%&!!!」
小悪魔は『どーよ?すごいでしょう』のような雄叫びをあげ、その小さな姿は自己満足に満ち溢れていた。
ルルリアは驚いて瞬きをした。
熟練の戦士として、彼女の視力は数々の危険な遭遇を通して磨かれていた。
そして頭を向けたその一瞬、彼女の観察眼は最も奇妙な現象を捉えた。
「魔力じゃない、物理的な力で発生した風でもない……あれはいったい?」
木の幹は切り株や枝、樹冠から完全に切り離されている。が、損傷の兆候ない・・・?
もしあれは集中的な風や切り裂き魔法であれば, 倒れる前に木は揺れるはずだ。
もしあれは植物を直接操作の力、どんなに微弱でも魔力の波動を感じるはずだ。
でも今は、明らかにそのような現象に伴う通常の反発や元素の乱れが不気味なほどいない・・・
ルルリアは状況を飲み込むながら、唇を尖らせた。
上位の悪魔が物理と魔法の境界を超越した力を利用していることをよく知っていた。
この現象はソウルレガリアと呼ばれている。
因果関係を逆転させたり、時間の流れを操作したり、さまざまな次元を行き来したりする不思議な能力を持つ者もいた。
しかし、自分の子供が、同級生たちよりもさらに驚異的なソウルレガリアを宿しているのではないかと、うすうす感じていた。
「いや、まさかな…」
物質の消去、概念の無効化、あるいは運命そのもの・・・
【抹殺】
背筋が凍った。
もしこの子が成長し、あの恐ろしい力を使いこなし、悪事に使ったら……ボクは……
「%&*#.....」
かすかな鳴き声が彼女の思考を中断させ、現実に引き戻した。
小悪魔はそわそわし、「何か悪いことをしたかな」と問いかけているような表情で彼女ををじっと見つめた。
ルルリアは静かに息を吐き、小悪魔を見つめながら顔をほころばせた。
「ボクを助けたいだけだよな?ありがとう」
「*%&*+!」
「んじゃあ。ササッと工事を終わらせて、夕食の準備をしようか!」
「+*&*!」
「・・・ん?」
小悪魔から顔を背けると、ルルリアの笑顔は消えた。
殺意を放ちながら自分たちに向かって走ってくる魔獣を感知した。
それは巨大な猪で、強大な魔力が不気味に漏れている。
トゥルチ・トゥルウィスだ。
この巨大な獣は狩りをするとき、ずっしりとした体格で獲物に突進し、骨を砕き、内臓をこぼす。
牙は太く、剃刀のように鋭く、バターのみたいに肉を切り裂く。
木々や大きな土の塊が飛び散り、獣は破壊の跡を残した。
ダダダダダダダダダダッと力強い一歩を踏み出すたびに、雷のような衝撃が空気を貫いた。
その獣が、悪魔であるキルヴァニャへの復讐心から突進してきたのか、それともこのあたり森の主が領土への脅威を排除しようとしているのかルルリアは分からない。
いずれにせよ、その殺意は二人に向けられている以上、敵に容赦はしない。
天人は指を上げ、ゆっくりと下ろした。
たったそれだけ、まだ30メートル先を暴れ回っていた猪は真っ二つに切り裂かれた。
まるで見えないナイフが空中から現れたかのように、イノシシは知らぬ間にまな板の上で最期を迎えた。
まだ生きていたときの運動力を保っていた前面、つまり上半身が彼女に向かって舞い上がり、内臓が飛び出し、真っ白なのドレスを鮮やかな深紅色に染めた。
一片の情け容赦もなく、殺戮道具しかとは思えないほど効果的かつ効率的に、魔獣を退治した。
「……」
天人は静かに息を呑んだ。
自分の行動の結果を目の当たりにして、死んだ獣の姿が、目の前の悪魔が抱くかもしれない未来の幻像と重なった。
氷の刃で刺されたかのみたいに、背筋が凍りついた。
【命を軽んじてはいけない、小娘よ。その責任の重さに耐えられないのなら、今すぐその子の存在を終わらせるがよい。それこそが慈悲というものだ。なによりも、お主のように血に染まった者が、世間に忌み嫌われる悪魔の子を育てることなど、到底不可能であろう。遅かれ早かれ、世の中にとって脅威とされる時、その子を殺してしまうのではなかろうか】
木の精霊の言葉が脳裏をよぎった。
彼女にとって最大の恐怖を思い出させるものだった。
ルルリアは自分の中に存在する野蛮な面を痛感していた。
かつて悪魔を狩るためだけに研ぎ澄まされた凶器として受け入れていた部分だ。
本当に悪魔を守れるのだろうか?
まずまず母親としての自分の価値に疑問を抱いていた。