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第2章 成長

カエレスティス暦一〇三六九年


赤子の成長というのは、時に恐ろしいほど早い。


――そう、本当に恐ろしいほどに。

ルルリアが拾ったあの小さな悪魔の赤ちゃんは、ほんの二年前まで彼女の腰ほどの背丈しかなかったはずなのに、今では彼女の倍以上の大きさに育ってしまっていた。


どうしてこうなったのだろうか。

ルルリアは遠い目をしながら思う。


つい最近まで、彼女はキルヴァーニャを「ほら、たかい、たかーい」と軽々持ち上げては、その無邪気な笑い声に頬をゆるめていた。

だが今や立場は逆転している。

成長したキルヴァーニャが、今度は彼女をひょいと抱え上げる番になっていたのだ。しかも、楽しそうに悪戯めいた笑みまで浮かべながら。ルルリアがうろたえるのを見るのが、どうやら彼にはたまらなく面白いらしい。


「や、やめて……お願いだから降ろしてぇ……!」

耳まで真っ赤に染めながら、ルルリアは両手で顔を覆った。


「へへ。ママ、小さくてかわいい。ぼくが守ってあげる」


どれだけもがいても、降ろしてほしいと懇願しても、彼の腕はびくともしない。

本気を出せば振りほどくこともできるが、それでは傷つけてしまうかもしれない。

だから結局、ルルリアはされるがまま、彼の抱擁を受け入れるしかなかった。


息子が健康に、そしてこんなにも立派に育ってくれたこと――それ自体は、母として心の底から嬉しい。

ただひとつ。

自分をまるで子ども扱いする、その癖だけは……少しだけ複雑な気持ちになってしまうのだ。


(ぐうう……子どもみたいな体型に生まれたかったわけじゃないんだけど!)


彼女が自分の小さな体を嘆いている間に、キルヴァーニャはひょいっとルルリアを膝の上へと抱え込み、まるでぬいぐるみでも抱くようにぎゅっと包み込んできた。


しおれていく心を守るため、ルルリアは必死に自分に言い聞かせる。

これは、彼が幼い頃に自分から受け取った愛情表現を、そのまま真似しているだけ――きっと悪気なんてないのだ、と。


(そ、そうよ! ニーズホッグの毒よりは何百倍もマシ! 耐えなさいルルリア……キミならできる!)


深呼吸ひとつ。

ルルリアはようやく息子の方へ振り返った。


「そういえばキルヴァーニャ。お昼を食べたら、古エルニア語の復習をするよ」


「うん! わかった、ママ!」


返事と同時に、嬉しそうにルルリアの髪の毛を指でくるくる弄るキルヴァーニャ。

彼はつい最近、エルニアの共通語をほぼ完璧に操れるようになったばかりだというのに、今では古文書にも手を伸ばし、ルルリアの魔術や古代遺物の研究まで手伝ってくれるようになっていた。


親としての情がそう思わせるのかもしれないが、ルルリアにはどうしても彼が天才にしか見えない。

厳しめの教育方針を課しても、彼は一度も遅れを取ったことがなかった。


(戦う力だけじゃダメだ。この世界で生き抜くには、いろんな知識が必要だ。そうすれば――少しでも、生き残る道が増える)


もし彼が人間社会にある程度なじむことができれば、悪魔と人間が共に歩める未来だって、夢物語ではなくなるかもしれない。

それはあまりに理想論かもしれないと分かりつつも、ルルリアはそれでもそんな明日を願わずにはいられなかった。


だからこそ――

価値観の違いを、真正面から突きつけられたとき、彼女は思いがけず心を揺さぶられてしまったのだ。



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