迎撃からの殲滅
敵方は距離があり油断していたせいか、初動が遅れてしまう。そこを獣型や鳥型、軽量な人型のモンスター達があっという間に距離を詰めて攻撃に成功する。
「な、なんだこのゴブリン達!武装していやがる」
「どいつもこいつも爪も武装していやがる!全員気をつけろ!どいつもこいつも強化しているぞ!」
そう言いながらもどんどん武装化したモンスター達によって倒されていく人間たち。
「い、いかん!このままでは歩兵達が先に倒されてしまう!魔法使いたちよ!魔法で補助するのじゃ!狙いはある程度で構わん!数を撃つのだ!」
ザナンが部下たちにすぐに指示を出す。部下たちが何かを詠唱し始めた時だった。その魔法使いたちに様々な爆発が起こる。
「なんじゃ!暴発でもしたか未熟者め!」
「いやいや・・・あなたの部下たちは一生懸命に詠唱していましたよ?まあそれを待っている義理もないので先にやらせていただきましたがね」
コウイチはザナンにゆっくりと声をかける。
「こっちにも魔法が使える部下が沢山いましてね?ほら・・・早く防御系の魔法使わないとあっという間に全滅してしまうんじゃないですか?」
そこには、後方から飛来する様々な魔法が見て取れる。火球から氷球、水球や風の塊・・・それらは杖を持ったゴブリンや、ローブを着た骸骨。禍々しい衣装の神官達から生み出されていた。
「うぉぉぉ!総員防御の魔法だ!なんでもいい直ぐ唱えよ!」
ザナンの焦った声に部下たちも大急ぎで防御の魔法を使い始める。次の瞬間魔王軍からの魔法が次々に着弾する。上手く防御出来たものも居れば、詠唱が未熟だったもの。防御を貫くほどの威力のものは吹き飛んでしまった。
「なんということだ私の部下たちが!」
「嘆いている暇があるかな?どんどん行くよ!」
こうして魔法使いたちを完封している中、通常の兵士達も苦戦を強いられていた。
「しまった!敵のゴーレム達がやってきてしまった!ぐあああああ・・・」
「ぎゃあああああああ!」
足が遅いゴーレムや巨人達が主戦場に到着してしまい。より戦場は混乱する。足が遅い代わりに1撃の威力が凄まじく。1撃で数人の兵士が吹き飛び、潰されていく。
「えぇい!魔法使いたちは当てにならぬ!我らだけでもなんとかせねばならぬ!」
「一度後退するしか!」
「馬鹿者!この状況で交代したとてこやつらどこまでも追って来るぞ!この場で何としても踏みとどまるのだ!」
「最初の当たり方としては良かったんだが、流石に敵側の人数が多すぎるな・・・」
1万人もの軍勢相手に奇襲に近い攻め方をし成功したものの、それでもまだ数千人の軍勢。それも徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。
「いくらこちらが1体1体が強力でも数の上では向こうが優勢だしな。どうするか?」
コウイチにはこの刻々と変化する戦場の全体像がタイムラグ無しに把握することが出来ていた。
それは遠目のスキルだけでなく、召喚した鳥型のモンスター達を空中に留まらせ、’’視覚共有’’スキルを用いて各鳥型モンスターの視覚を共有化していたのだった。
「本来こんなことしていれば頭がおかしくなりそうなのにな?これもステータスと他のスキルのおかげかね?」
更にカンストしているINT、更に’’並列思考’’と’’思考加速’’等のスキルで特に不自由なく視覚を共有化しながらも各モンスター達の指揮や作戦立案を行っていた。
「一旦こちらも引いて・・・砦にやつらを引き込もうか?でも出来ればもう少し数を減らしておきたい・・・」
砦とその周辺に仕掛けた罠の数々を使わない手はないが、まだまだ数が多すぎた。
「少しもったいないが、こっちで再製造しておけばいいか・・・」
コウイチが、モンスター達にその指示を伝えるとゴーレム達、取り分けその中でも一番弱いクラスのロックゴーレムやアイアンゴーレム達が恐慌状態となり、無差別に腕を振り回して暴れまわる。自分にどれだけ攻撃が来ようとも全く効かないかのように暴れまわりはじめた。
「ザナン!これは一体何事だ!」
ようやく落ち着きを取り戻し、指示を行き渡らせたところにこのゴーレムの大暴れである。ライゼルも慌ててザナンに知らないか尋ねる。
「こ、これはゴーレム達が恐慌状態なのです。HPが残り僅かとなったゴーレム達が良くこれに陥るのです」
「ならば、もう間もなくこいつらは倒せるという事か!兵士達よもう少しだ!」
倒せるという言葉が兵士間に広まり、ここが踏ん張りどころと力を入れる兵士達。そんな光景が戦場の彼方此方で見ることが出来た。
高耐久を誇るゴーレム達もついに倒れる時が来た。
「オォォォォォ・・・」
その巨体が轟音と共に倒れる。
「よっしゃ!これで次はモンスター達を・・・あれ?そう言えばモンスター達はどこへ?」
そう。ゴーレムが倒された時、その場にはその倒されたロックゴーレムとアイアンゴーレムしかおらず、他のエレメンタルゴーレムやオリハルコンゴーレム、他のモンスター達の姿が消えていた。
「な、なにが起こったんだ?」
兵士たちが疑問に思った次の瞬間。倒されたゴーレム達が光り出しその体が一瞬で膨れ上がったかと思ったら大爆発を起こし、その破片を周囲にまき散らした。
「ギャー!破片が!」
「た、助けてくれ!岩が俺の足に・・・」
その爆発と散らばった破片のダメージでまた更に千人単位での被害を起こす。
「なんということだ!我が兵士達が!」
「あんな爆発するゴーレムなぞ見たことがありませぬ!」
その被害の大きさに愕然とする。ライゼルとザナン。
「こ、ここは一度体制を整えるか、補充人員をお願いするしか・・・」
怯え始めるザナン。
しかし彼らにも引くに引けない理由があった。
「既に我らは英雄の身。これで敗北して帰還してみろ。死ぬよりひどい目にあうだろうよ。何としても戦果をあげるしかないのだ!」
ザナンの胸ぐらをつかみ上げ怒鳴りちらすライゼル。
2人は満身創痍の軍を率いながらコウイチの待つ砦へ向かうのであった。
モンスター達の猛攻を受けながらも、どうにかコウイチの待つであろう砦の近くまで進軍することが出来たライゼルとザナンの軍。そんな近くまで進めることが出来たのは、進行方向にあれだけ居たはずのモンスター達が全く出現しなかった為であった。
「どうなっている⁉一体のモンスターも現れなかったぞ」
「あのゴーレム達の爆発の後全く見かけなくなりましたな。まさか誘われているのでは?」
訝しむザナン。それに対しまだ強気を崩さないライゼルであった。
「モンスターなんぞの考えなど分かるわけもない!何はともあれ砦近くまで来たのだ。このまま砦さえ制圧できてしまえばこちらの物!あの形状からしてゴーレムや巨人と言ったものは入れまい!」
「なるほど。それならこのまま制圧に・・・」
そうやって2人が兵を動かそうとすると突然進軍している後方から悲鳴が上がる。
「何事だ!」
後方の兵たちから報告が上がる。
「ま、またゴーレム達です。何時の間にか後方に出現しそのまま突き進んできます!」
「また突然現れたか!このままではゴーレムと砦に居るモンスター達とで挟み撃ちに・・・」
後方に注意を向けていると、突然砦から轟音と大きな揺れが起こる。
「こ、今度はなんだ!」
先頭の兵士からまた報告が上がる。
「将軍!砦から急に腕が生え我らを押しつぶそうと振り下ろしてきます!」
「は⁉・・・」
砦だとばかり思っていた将軍たちであったが、砦そのものもゴーレムと化していたのであった。
只でさえ巨大なゴーレムよりも何倍も大きな砦ゴーレムに太刀打ちできるはずもなく徒に兵を消耗していく。
「逃げるしか・・・!」
「逃げるってどこへ!うわっ!」
逃げようとした兵たちも、事前に設置しておいたトラップに引っかかりまた1人また1人と倒れていく。
こうしてゴーレムの挟み撃ちにより瞬く間に人間たちは殲滅していったのだった。
「あぁ・・・上手く行った」
この成果に安堵するコウイチ。
「お、ゴーレム達も指示した通り偉そうな2人は殺さずに捕まえられたか。よかったよかった」
この戦いは、2人の捕虜を残して殲滅する結果となった。