邂逅からの依頼①
魔王城に向けてゆっくり話ながら歩く勇者と魔王。先ほどまで鬱蒼としていた森の中ではあったが、段々木々の間隔が広くなり、日が差し込むようになってきた。
「かなり歩くんだな?」
「コウイチも地図が見えているんだろう?城までもう少しさ」
「なんで俺が地図スキルを使っているって分かるんだ?」
「なんとなくさ。私が持っているスキルの大半をコウイチは持っているんじゃないかなと思ってね?」
「・・・それは後ですり合わせたいね。と言うか大半のスキルがまだまだ実際どうゆうものなのかもわかっていないしな」
「なるほど?それなら城でより話したほうが良さそうだ・・・ほらここの木々を抜けると着いたぞ!魔王城へようこそ!」
そこには光沢のある黒色の資材を使用した黒一色の巨大な城が現れた。大きさの比較としては東京ドーム○○個分と言ったところだろうか?それにしても魔王城と聞いていたのにおどろおどろしさは一切感じられず。威厳と風格に満ちた立派な城という印象をコウイチは持った。
「でっか・・・すごいなこの城」
「どうだ!かっこいいであろう!」
えへん!と胸を逸らす魔王アミナ。
「あぁ、驚いたこんなの俺が居た世界でも見たことはないな!」
満足そうに頷く魔王アミナ。そして頭に疑問符を浮かべながら
「俺が居た世界?と言うことはコウイチは別の世界からの転移者か!」
魔王も把握していなかったようで驚きの声を上げる。
「あぁ、そこら辺・・・と言うか俺があそこに居たことも含めて話をすり合わせたいな」
「まあここまで来て立ち話と言うわけにもいくまい。どれ入口はこっちだ」
魔王直々に案内される勇者。2人が近づくとこれまた黒一色の巨大な扉がゆっくりと自動的に開いた。
開いた扉の先にはメイド服を着た人物が立っていた。魔王のような青い肌。髪の毛は金髪をショートカットにした長身の女性であった。
「魔王様おかえりなさいませ。そちらの方が・・・?」
「うむ。こいつが今回の勇者コウイチだ!とは言え今回は余りにもイレギュラーなことが多すぎる。コウイチも転移しかもあの糞女による強制転移の可能性がある」
「なんと・・・あの国もとうとうそんな無茶を・・・」
「そんなわけでコウイチと話をするために連れてきたのだ。茶と茶菓子を用意してくれ」
「かしこまりました魔王様。精一杯おもてなし致しますね」
そう言うとメイドはコウイチに向き直り
「私メイドのノアと申します。それではご案内しますね」
二コリと笑顔を向けるとそのままコウイチ達を部屋まで案内してくれる。
「それではお茶とお菓子をご用意しますので暫くお待ちくださいませ」
案内してくれたノアが用意の為に席を外す。
「しかし、こんな広い城の中だってのに随分と静かだな?沢山部下がいるんだろう?」
今まで会ったのは魔王のアミナとメイドのノアのみ。こんな広い城なのだからもっと騒がしい物だろうと思ってのコウイチの言葉だった。
「ん?ん~・・・」
言いにくそうにするアミナ
「実はな、確かに以前はもっと沢山の部下たちが居たんだよ。でもね?ついこの間の戦いで・・・ね?」
「あ・・・」
途端に気まずくなる両者。
お互いどう話を始めようかと無言になっている時にノアがワゴンに茶と茶菓子を乗せて戻ってきた。
「お待たせしました・・・あの?何かございましたか?」
「ん?いやいや待っておったのだノアよ。さあ早く美味しい茶を入れてくれ!」
「かしこまりました。アミナ様」
クスリと笑うと茶を入れ始めた。
空気が変わったのを見てアミナが話し始める。
「この転移者だから最初から説明しておこう。この世界は、魔王と勇者が存在しているということはもう分かりきっておるだろう。魔王は代々世襲制での?魔王と言う称号というか種族のようなものなのだ。魔王が倒れるとその血縁者が魔王に覚醒する。魔王は1人だけなのだ。しかし勇者はそうではない。1人だけではなく何人も勇者になる場合もある。それはまあ・・・その時の魔王との力の差とでも言うべきかな?1人の勇者では立ち向かえない位強い魔王になってしまった場合数人の勇者が現れるのさ」
そこまで一気に話して茶を飲む魔王。コウイチも飲んでいるはずなのに妙な渇きを覚えるほどの驚きの無いようであった。
「だが、今の時代そんなに争ってばかりもいられまいと先々代辺りの魔王から融和政策を打ち出しての。コミュニケーションの取れるモンスター達から徐々に慣れさせて行ったのだ。既に友好条約を結んでいる国もいくつかある」
「既に人とモンスターが手を握っているのか・・・」
「うむ。だがそういう国ばかりでは無いのが実情での?コウイチを召喚した国・・・あの国の名前はアギトだ。あの国は生粋のモンスター排斥主義での。手を取るなんてもってのほか、魔王を倒せ!と息巻いている国なのだ」
「俺の召喚した国か・・・」
「因みに最近は、友好条約を結んだ国からは勇者は現れず。必ずアギトとその周辺国から勇者が出現するようになっているな」
「と言うことは先々代も先代も勇者に?」
「そうじゃ。勇者に倒されておる。だが今回の勇者は少しおかしい気がするのだよ」
「ん?俺の事か?」
「そうだ。モンスター達は勇者の称号を持つ者に嫌悪感を抱くようになっておる。だが、今回はそんなものではなかった。理性を失うほどの強烈な嫌悪感によってコウイチに一気に押し寄せたのだ」
「あれは・・・本当にひどい目にあったなぁ」
遠い目をするコウイチ。
「まぁよくこうやって会話のできる状態で生き残ってくれたのか、それだけでも大したものだとおもうがの?今回の件は、あの国に生まれた姫と呼ばれる糞女が、企てた策のようだの。本来何人かの勇者が出現する予定だったのだろう。それをどうやったのか、コウイチ1人に全ておしつけたのだ。それにより嫌悪感は凄まじいものになったのだろうよ。しかもコウイチを固定化させて動けなくさせる鬼畜ぶり」
「そう言えば死ぬと即復活するのはなんでなんだ?」
「普通勇者の称号を持つ者は何度か復活することが出来ると言われておる。だが回数制限付きであったはずだ。しかしそれらの勇者をコウイチに纏めた為何かが変節してしまい回数制限が無くなってしまったのかもしれないな。ほぼ不死身なのではないか?」
「何だろう、あまり嬉しくないな。しかしこの体にそんなに勇者何人分も入っているのか。それはそれで余りいい気持ちではないな」
「それはそうだろうな。しかしお陰で大量のポイントが手に入ったであろう?それが姫の唯一の誤算であろうな。本来は攻撃してきた連中に入る予定が、ほぼ全て攻撃され続けたコウイチに入っておる。己を強化してもしても余るくらいであろう?」
「あぁそうだな。実際ステータスやスキルはほぼ取得している。それでも使いきれない位あるな」
「まあ大切に使ってくれ。部下たちの命の結晶のようなものだからな」
「あぁ・・・肝に銘じるよ」
ノアが淹れてくれたお茶をお代わりするアミナ。コウイチは茶菓子に手を伸ばした。硬めに焼かれたクッキーだろうか?仄かに甘味があり茶によく合う。
「それで、魔王が態々勇者を探していたんだ。色々親切に教えてくれるけど何かあるんじゃないのか?」
被害者でもあるコウイチではあるが、モンスター達を殲滅させる標的にされつづけたのだ。何も魔王達が思うところがあるのではないかと考えていた。
「話が良くて助かるの。それでは、そろそろ本題に入ろうか」
魔王が椅子に座り直し姿勢を正した。