即死からの脱出
ある程度状況確認ができるようになってからコウイチはステータス欄とスキル欄を目を皿のようにしてじっくりと見て回った。そうしている間にもどんどん巻き込まれるような形で自分と化け物が死んでいくのだが、まだまだ化け物は尽きることなく津波のように押し寄せてくる。
「どんどん化け物どもが死んでいくからポイントがどんどん増えていく・・・これならここに出ている全てを取得しても大丈夫なんじゃないか?」
敵を倒しました。○○P取得しました。
ずっと鳴りやまない声に少し辟易しながらもポイントがどんどん溜まっていくのを感じる。
「よし、作戦を考えよう。この状況も何時までも続くわけがない。この化け物どもの波も何時かは消えるだろう。そのタイミングが勝負だな。」
そう言いながらスキル欄から幾つかこれはと思ったスキルを有効化させていく。
スキル一覧を睨めながら暫く経った頃。
「こんなもんか・・・まだまだポイントが増えていく一方だし、後でスタータスにも使っていくためにも残しておくか」
そう言いながらもそのスキル一覧のほぼ全てを取得してしまった。それでもまだ増えていくポイント。しかしその増えていくスピードも減少しつつあった。
「ん?そろそろ化け物も品切れかな?」
徐々に化け物の数が少なくなってきている。それでもどんどん攻撃を撃ち込まれコウイチ共々爆散されていく。
「この化け物どもが消えた瞬間が勝負だな。この瞬間に’’状態異常回復’’で固定化を解除させた上で’’透明化スキル’’を有効化させて’’瞬間移動’’で移動場所なんて特にないんだからランダムで一か八か。どうせ死ぬような状況でも強制復活しちまうしな」
何時か訪れるタイミングに備えて着々と動作の確認をするコウイチ。
「今のうちに俺に攻撃をどんどん打ち込んでいる相手の顔も見ておきますか・・・’’遠目’’有効」
取得したスキル’’遠目’’を早速使ってみる。
すると数百メートル後方で様々なローブを着た集団と騎兵と歩兵達からなる軍隊のような集団がまるで目の前にいるようにコウイチの目に映し出された。しかも’’遠目’’と言いつつしっかり音声まで聞こえたのだ。
「攻撃の手を緩めるな!どんどん打ち込んでやれ!魔術師達は魔力が無くなりそうなら直ぐ交代!’’勇者様’’が我々の盾となってくださっている!尊い犠牲を無駄にするな!」
全身鎧に身を包んだ。カイゼル髭が良く似合う偉丈夫が馬上から大声で指示を出している。
「尊い犠牲とはよく言ったものですなぁ・・・何処の誰ともわからんやつを強制的に勇者に仕立て上げておいて・・・」
その隣で同じく馬上にでローブに身を包んだ髪の毛も髭も伸ばし放題の老人がボソッと呟く。
「黙れ!我らが姫様のお考えに異を唱えるつもりか!」
偉丈夫がローブの老人を怒鳴りつけるが、老人は「ヒヒヒ・・・」と笑いながら
「いやいや、私好みの素晴らしい作戦だ。このようなことを思いつく姫様が居ればこの国もまだまだ安泰。儂も忠誠心がほれうなぎ上りじゃ!」
そう言いながらその老人が片手を高く上げると巨大な火球が生まれる。
「ほらほら焼き尽くしてくれる!」
そんな火球がコウイチ目掛けて飛んでいきまた化け物共々即死した。
「またとんでもない火球だったなぁ。これが魔法ってやつか?取得したスキルにそれらしいのが大量にあったから全部取得しておいたけど。まあやり返すのはまだ先だな」
復讐することを胸に刻みコウイチはそのまま復活した。
そしてその攻撃をしてきた軍の掲げている旗を目に焼き付ける。
「剣と槍を交差させて真ん中に龍の首か。OK忘れないからな」
その旗とその一団を目に焼き付ける。
もう襲ってくる化け物も残り数体となってきた。
「そもそも何で攻撃され続けているのに俺にしか来ないのか?それにもうこの数なら逃げてもよさそうなのに全く戦意が衰えていないで俺に向かってくる。これも俺が’’勇者’’認定されているからか?この称号も移動した先でどうにかするしかないな」
もう化け物最後の1体となった。巨大なドラゴンがコウイチを食い殺そうと大きく口を開けた。
そしてコウイチをその口内に収めた瞬間、爆炎に包まれた。
「今だ!状態異常回復、透明化!瞬間移動!」
そうしてコウイチは復活した瞬間、その3つを使用し固定化を解除し遠くへ飛ばされた。
「撃ち方止め!状況を確認し報告!」
「はっ!魔王軍の全勢力の殲滅を確認!こちらの損害は広範囲魔法の誤爆による軽い火傷を負った者が数名!被害は軽微です!」
カイゼル髭に部下である兵士から報告があがりそれに満足するように満面の笑みを浮かべる。
「こんな軽微な損害のみでこの数の魔王軍を殲滅できるとは・・・流石姫様!そしてあのどこの馬の骨とも分からぬ勇者(笑)にも感謝せねばな」
「報告!勇者の姿見えず!目下捜索中であります」
その報告にローブを着た老人と偉丈夫が訝しむ。
「勇者の特性を生かして固定化させて死んだら即復活するようにしておったはず、魔王軍がいる間はそれがずっと機能しておったようだしの」
「左様、それに作戦が終わって気が付いたのだが倒した後のポイントが全く入ってこなんだ?もしや勇者へ・・・?」
「しかし勇者に入っていたとはいえあの何時まで続くかもわからぬような死の体験と痛みにまともでいられるとも思えぬ」
「確かに!恐らくは余りの攻撃により耐えきれなくなり復活もできないほどのダメージを負ってしまったのでは?ポイントが溜まったところであの状況下で使いこなせるとは思えぬ。そのまま持ったまま消え去ってしまったのだろうよ」
「捜索しても勇者の影も形も出ないようであれば、そのように姫様に報告するしかないのう」
「まあ何はともあれ我々は帰ったら英雄だ!胸を張って帰還するぞ!」
偉丈夫の掛け声と共に帰還の準備に入る軍団。
そんな連中を尻目にコウイチは鬱蒼と茂る森の中に突如現れた。
「移動成功か?ここがどこだかわからないからまだ透明化はそのまま維持しておこう」
透明化したまま、コウイチは周辺を見回す。
余りにも木々が生い茂っているためか陽の光も入りにくく若干薄暗い。そのためか下を見るとキノコも複数生えている。
「とりあえず今のうちにステータスにポイントを振り分けるか。ゲームみたいにSTR・VIT・INT・DEX・AGI・LUKとなっている。どんどんポイントを振り分けていこう」
余りあるポイントをどんどんステータスにつぎ込んでいく。各種ステータスの上限が999なのだがそれを全てカンストしてもポイントが余るようであった。
「これだけ上げればとりあえず大丈夫かな?後は流石にこの格好でうろつくのもな。武器も何も持ってないし、腹も減ってきたけどこのキノコは食べても大丈夫なんだろうか?」
そこで早速スキル’’鑑定’’を試してみる。目の前のキノコの中で焼けば食べられるものをいくつか発見した。早速辺りで使えそうな枝を集め火を起こそうとする。
「そういえば魔法?関係のスキルも全部取得していたな。試しに使ってみるか。使用するには威力等を思い浮かべてください?頭の中でイメージ軽くマッチで付いた火くらいのやつを思い浮かべて・・・えい!」
そう言うと指先に火がともる。
「おぉ!こ、これを集めた枝に・・・」
順調に火を起こすことが出来、枝に刺したキノコを火であぶり腹を満たすことが出来た。
「まあ旨い不味いじゃなくお腹いっぱいになったってだけだな・・・」
同じ要領で水も出すことが出来、飲み水として使った後顔や体を洗うことが出来た。
「取りあえず今日は色々なことが起こり過ぎた・・・透明化は解除しなければ誰が来ても気が付くことはないだろうから、このまま寝てしまうか」
そう思うなり木に背中を預け眠りの体制に入るコウイチ。
「明日はまた状況確認と何か目標を持たなくては・・・あいつらに復讐もしなくてはいけないし・・・」
そう言いながら夢の世界へ誘われていったのであった。