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第一話目が覚めたら

「ん~」


 重たい瞼をゆっくりと開けると,見慣れた天井が目に入る。


(あら,此処は……)


 白菫色の天井にヴァイオレットサファイアが散りばめられた銀色のシャンデリアは紛う事なき自分の寝室だ。


(嘘でしょ!?あの傷で助かったなんて,まるで奇跡ね)


胸に大きな穴が描くほどの氷槍を刺されたのだから,てっきり目を覚ましたらそこはあの世なのだろうと思っていたのだから驚きを隠せない。


「よいしょと」


 取り敢えずベッドから起き上がろうとするが,布団が重く起き上がり難い。

 あれだけの深手を負ったのだから,相当意識を失って体力が落ちているのだろう。

やっとこさで起き上がり目に入った自分の身体に目が点になる。


「きゃあぁぁ!!」


(何で私は小さくなっているの!?)


 誰もが羨むナイスバディだった筈なのに,視界に入る自分の胸に真っ平らだ。

 細長く綺麗な手だったのに小さくプニプニになっている。


(一体何がどうなっているのかしら!?)


 混乱して頭を抱えていると勢いよくドアがバン!と開かれ思わずビクッと身構えてしまう。


(今度は何よ!)


「お嬢様お目覚めになりましたか!?」

「えっと,貴方は…」


 エプロンの胸元に縫われた家紋の刺繍を見て現れたのは我が家のメイドであることにホッとする。

 しかし名前が一切出て来ずつい口に出でしまった。


「メイドのヴィオラでございます。嗚呼,やはりお目覚めになったばかりで混乱されているのですね。無理もありません……池で溺れて5日も意識がなかったのですから」


「5日も……って池!?」


(確か池に溺れたのって10歳の時じゃなかったかしら?)


「お嬢様,今からご家族様一同とお医者様をお呼びいたしますので安静にしてお待ち下さい。」


 額に手をあてながら思い出そうとしていると,メイドのヴィオラは早口で伝えロングスカートを履いているとは思えないスピードで部屋を去って行く。


「一体どうして私は10歳の頃に戻っているのかしら……」


 最大の疑問を口にしても私しかいない寝室には返事を無く静寂が包む。


「まずはお父様達が来る前に状況を整理しないと……」


 目を覚ます前は確かにパーティーの最中に殿下に婚約破棄されて,自暴自棄になって魔法を発動させたが結局殿下に討ち取られたのだった。


(そもそもあの時私を悪者扱いしてくれたけど,殿下も殿下ではなくて!)


 婚約が決まり手紙や贈り物に食事やデート誘いをしたのにも関わらず,全て断られ続け挙句の果てに別の女性と親密になるという不誠実な対応に思わず布団を怒りでポスポス叩く。


「私に興味がなければそもそも婚約などしなければ良かったのに……」


 目から涙が溢れ頬を伝って両手の甲にポタポタ落ちていく。

 そうすれば自分と気が合う別の婚約者を見つけられたかもしれない,殿下の来るはずのない返事を一人寂しく待ち続ける事も無かったのに。


 だが幸いに婚約前の頃に自分は戻ってきている。

 此処から先殿下と婚約しない事で新たな人生の可能性があるかもしれない。

 そんな期待を胸にして涙を拭っていると根本的な疑問が思い浮かぶ。


「何故私と殿下は婚約したのかしら?」


 確かこの池での転落から半年後にお父様から婚約の知らせを受けたのである。


 当時はその知らせに大喜びしたが,やり手の父は公爵家筆頭の宰相の地位にあり,色々な事業にも取り組み王家にも匹敵する財を成し得ている。


 更に王家と結びつくとなれば王家と我が家の権力集中になりいらぬ敵を作り兼ねない。


 生前の学園生活でも派閥ははっきり二分化していた。


「そんな危険まで冒してお父様はどうして婚約を……あっ!」


 池で溺れ目を覚ました後お父様との会話を思い出す。


『ベレーナお前に怖い思いをさせてしまったな……今お父様に出来る事はないかい?どんな願いでも叶えてあげよう』

『本当!?じゃあ,これから先私を守ってくれる白馬の王子様が欲しいな』


「完全に私のせいじゃない!!」


お父様が家の立場を悪くしてまで叶えなかった理由の原因が自分であることに頭を抱える。


 生死の境を彷徨った娘のたっての願いであれば,全力で叶えるために四方八方に手を尽くしただろう。


「でも,これで解決の糸口が見えたわ」


 この後のお父様との会話で同じ轍を踏まなければ新たな人生が待っているのだ。


 これから先の未知の人生への楽しみに思わずニヤリと笑みを零してしまうのだった。

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