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⑧モグリな依頼

「昨晩は有難う御座いました。」


・・・・? 誰だっけ!?

階段から降りて来たのは短い金色の髪に青い目、

何となく高貴な雰囲気を持った美人だ。

そんな女に声を掛けられる覚えがない。

昨日は酔ってたしな。


「あの逃げ足の速い男達から助けて下さって。」


思い出した、そういや絡まれてた方は気にしなかった。

男相手にきつい物言いしてたし関わらない方がいいか。

「いや。あんた1人でも軽くあしらってただろうし、余計な事だったんなら謝るよ。」


「まさか。それにお食事の邪魔をしてしまって申し訳ありませんでした。」

女は下げた頭を上げ、周りを見渡した。

「今日はあの女性はご一緒じゃないんですか!?」


「ステト? あ~連れはまだ寝てるよ、久し振りに深酒したんでね。」


「彼女にもお礼を言わせて下さい。」


「言っとくよ。あんたは獣人に偏見はないのか!?」


「偏見? 何故ですか?! 種族が違うってだけでしょう?

良いも悪いも種族は関係ありません、個人の問題ですよ結局は。」


一見冷たい印象の美人さんだったが、

少なくとも種族を差別しないだけ悪い人物ではないのかも。

俺は頷き大将が持って来てくれた水を一気に飲んだ。


「ところでお2人は何処かへ行かれる途中かなにかでしょうか?

いきなり不躾(ぶしつけ)な質問ですいません。私は商人である物を届けに行く道中なんですが、

昨晩の顛末をご承知の通り護衛が居なくなりまして。」


俺は女を真っ直ぐに見据え直球で聞いた。

「ろくでもない事してるっていう話を聞いた気がするけど?!」


「ええ、厳密に言えば違法な物を運んでいます。」

女はあっさり言う、肝が据わってる女だ。


俺は少し思案した、何かに()められる可能性もある。

「別に護衛が居なくても問題ないだろあんたなら、俺にはそう見える。それに昨日たまたま出くわした俺達にいきなり違法行為を手伝えってのはちょっと無理があるぞ?!」


今度は女が真っ直ぐ俺を見据えテーブルの向かいに座った。

「そうですね仰る事は解ります、でも私は自分の直感を信じてまして。

失礼ながらお2人は見た感じ何か訳ありですよね!?」


「何でそう思う?」

俺は警戒した声で聞いた。


「あ、ご心配なく。そこは関知致しませんので。もしあなた方がモグリなのでしたら私にとっては都合がいいのです。私は本来真っ当な商いをしていて身分証明(マエマ)も持っています。

ただ今回の仕事は内容が違法なだけに行先など知られたくはなかったので正規の護衛依頼は出しませんでした。確かに私は自分の身は守れるかも知れませんが、女の1人旅は人目を引きやいんです『外側領』では特に。お2人が旅路の途中なら、商人と行動を共にするのは都合が良いと思いますよ。極力各領都は避けますが、もし入る事になっても従者としてなら検問も私が身元保証するという形を取れば通れます。それに・・・食べ物を大切になさってる事に好感を覚えましたし、そんな方が悪人とは思えませんから。」

女は笑って大将に果実水を頼んだ。


俺はもう一杯水を頼み、2人の飲み物が運ばれてくると口を開いた。

「あんたの言う通り俺達はモグリだ。護衛って?何すればいいんだ?荒事には慣れてるがその辺は素人だぞ。

それに獣人と人族と旅ってのは逆に目立たないか!?」


「そこは心配いりません。従者としてなら珍しくも何ともないですし。

それに『外側領』は野盗などが多いので、やはり護衛が居て下されば心強いんです。あの男達相手のお手並みはお見事でしたし、お2人なら立派な護衛が務まると思いますよ。」


仲介所(ギルド)に依頼を出す時は何時から何時まで、

何処から何処までなどの詳細を公開しなくはいけない。

依頼を受けた者も違法な事をすると数年は資格停止、その罪次第では追放又は犯罪奴隷行きだ。

真面(まとも)な奴なら受けないだろう、もっと言えば報告される危険性もある。

モグリに頼む理由も解るし確かに良い話だと思う。問題は何処に向かうのかだ。

彼女も違法と認めたからには派手な事はしないだろう。

俺達も目立ちたくはないし、辺鄙な旅路は願ったりだ。

でも俺達は「ミネ」に行きたいのだ。全く違う方向では困る。

それに違法な物とは何か?だ。

危険を冒してまでこの頼みを聞くか悩んだ。


「話は解った。連れに相談しなければ即答できないが。

条件がニつある。。。」


「報酬金額ですか?」


「違う、報酬はぶっちゃけ宿と飯さえあればいい。

聞きたいんだよ、目的地が何処かなのと違法な物とは何か?だ。

これに答えてもらえないなら断る。危険があるなら知っておくのは当然だろ!?

別にあんたに世話にならなくたって、2人旅じゃモグリでも何とかなる。」


女は無言で果実水を飲み、しばらく迷ってる感じだった。

そして意を決した様子で俺を見、答えた。

「解りました。私はやはり自分の直感を信じます。当然他言無用に願いますが。」


「そこは信じてくれていい。例え内容を聞いて断ったとしてもあんたの事は話さないし忘れるよ。

俺達には関係ない事だし巻き込まれたくないからな。」


女は頷き「行先はツルギ領です。」

続けて「荷物は『(ポーション)』です。」と言った。


(ポーション)?」


「はい。(ポーション)そのものは違法なものではありません。

その入手方法と売り渡す相手が違法となるのです。」


「それは何かやばい類の(ポーション)か?」

その手の物はタツ院国のテンウ・スガーノの所で嫌って言う程見たからな、そんな(ポーショ)だったら断ろうと俺は思った。

盗品の貴金属とかなら気にもしないけど。


「いいえ、そんなものではありません。もっともどんな(ポーション)でも使い様によっては害になりますが。」

女は微笑してポケットから袋を取り出した。

「「院社(ヤック)」専売のコセ・ポーションです。」


タツ院国が色んな国々に構えてる診療所「院社(ヤック)」は

人族を対象に病人・怪我人を有料で診ていて(ポーション)類も販売している。

それらの履歴は身分証明(マエマ(魔具(クジキ))に記録が残る。

院社(ヤック)」で売ってるのは安価な物から高価な物まで、用途も種類も様々だ。

ポーションはタツ院創始者アラ・ターサ(ラテス)の知識で基本的な物を創った。

後年、高位の弟子達がその基礎を土台に研究や新たな発見を重ね更に発展させた。

その結果あらゆるポーションを誕生させる。

そしてそれらポーションは医療技術と同じく、タツ院だけが持ちうる知識財産だった。

正規のポーションはタツ院の「院社(ヤック)」でないと入手出来ない。

(一部のポーションは模倣され、『模倣薬(ゼーション)』として闇市などで密売されているが)


俺は疑問に思った。

「マイクラ・ポーションとかアス・ポーションじゃなく?」


「ええ、違います。コセ・ポーションです、ただし個人で扱う量の範疇を超えてます。」


マイクラ・ポーションは毒に成りうる(ポーション)で極少量だと害を成さないらしい。

ポーション名と毒だという事しか知らない。販売されてないからだ。

医者が治療を施す際、必要と判断した患者だけに与えるポーションで医者しか扱ってないのだ。

毒薬にも転用される恐れがあるので管理も厳重だろう。


アス・ポーションは平民に一番馴染のあるポーションで、鎮痛、解熱などの効果があり。液体で揉み物に混ぜて用いる。多量に飲むと興奮状態に陥ったり、高揚したりして長期に使用すれば依存症になる。安価なポーションなので中毒者が後を絶たない社会問題となっているポーションだ。

薬師からも手に入るし、模倣薬(ゼーション)として一般的に市井や闇市で出回ってるのは

アス・ポーションだ。


そしてカーラが運ぶコセ・ポーションは専門的な(ポーション)で「院社(ヤック)」でしか扱ってない。詳しい効能は知らないが処方制限がある。錠剤で一度に処方される量も決まっていて、一度処方されると一定期間を空けなければいけないと聞いた事がある。

それに非常に高価な(ポーションらしい。

平民が安易に買える訳もなく、模倣薬(ゼーション)などもない。


彼女が取り出した袋にはかなりの量が入ってる。

その袋が何個もあるとなると違法な手段でないと無理だ。


「よくそれだけ手に入れたな。」

おそらくどこぞの「院社(ヤック)」に所属する権階医(ゴーイ)真階医(マーイ)から

横流しされたもんだろう。

害を成すって可能性は薄そうだ。俺は納得した。


「何にでも抜け道はあるものですよ。」

女はそう言い俺に、それで答えは!?と目で問い掛けてきた。


「解った。連れと相談はするが引き受ける方向で話をするよ。

多分彼女は頷いてくれると思う。」


「良かった、そういえばお名前を伺ってませんでしたね?!

私は「カーラ・マハ」と申します。」


「カーラさんか。俺はフツ。ただのフツだ。

じぁそろそろ連れを起こしに行ってくる。連れの名前はステトだ。」


「フツさんにステトさんですね、これから暫く宜しくお願いしますね。」


俺は水のグラスを大将に渡し、その場を後にした。


読んで頂き有難う御座います。

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