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⑧⑥族長

集落で最初の鬼人が族長になってしまった。

待っていたら表から戸を開く音が聞こえ、大きな足音を立てて白髪の鬼人が入って来る。デンボが一礼して向かい入れると老齢の割には滑らかな仕草で囲炉裏の前に座った。

何だよその動き?歳のせいで遅れたなんて嘘だろ絶対。


「お待たせしたの」

「皆様、ツルギ領の鬼人族、族長ヒラ・ヨスタ様です」

「ヒラじゃ、よく参られた」

「カーラ・マハでございます」

族長の目力は鋭くそして額には一本の角が生えている。

カーラが初めに頭を下げ、続いて俺達も頭を下げた。


「孫娘が跡を継いだと聞いておったが真の様じゃの、お主がそうか」

「はい、カーラと申します」

「セフには世話になった、身罷ったのは残念じゃ」

「そのお言葉を聞けば祖父も喜んでいた事でしょう」

「カーラよ、お主はセフと儂の関係を聞いておるのかえ?」

「いえ、お恥ずかしながら全く」

「セフらしいの」

「ヒラ様、もし宜しければお教え願えませんか?」

「なぁに大した事では無いんじゃ。あれは何年前かの、長く生きとると年月に疎くなっていかん。ともかくじゃ、セフが森で襲われておった所をたまたま儂が助けたのが始まりじゃよ」


『受け』で各地を往来していたカーラの祖父セフが何処かの帰りにツルギ領を通る際、普段森の奥深くで生息している魔獣マンティコアを、珍しく浅い場所で見掛けたので後を追った。無謀な行動なのだがセフは自衛の為に持っている殺傷能力の高い魔具(クジキ)があるので大丈夫と思ったみたいだ。しかしマンティコアは魔術耐性がある皮膚で覆われていて魔具(クジキ)の攻撃では歯が立たなかった。そこに木を伐採していた鬼人族達を見回っていた族長のヒラ・ヨスタが居合わせ、セフを助けたのが縁の始まりらしかった。

今は脱いでるから気付かれてないけど、もしかしてその時手に入れたマンティコアの素材でこのマントルを造ったのかな?だとしたら思い出の(マントル)を譲り受けたのか。


「セフは恩義を感じてくれての、儂等の為に何かと骨を折ってくれとった。セフに孫が出来たと聞いて会わせろと言っておったんじゃ」

「そうでしたか」

「セフの孫娘がツルギ領に来ると聞いての、この機会にお主を一目見ようとこのデンボに言うて足を運んで貰ろた次第じゃ」

「え?今回ご依頼されたのはヒラ様では無いのですか!?」

「‥‥‥儂では無い」

そう言うと族長の顔が険しくなり、カーラはデンボに説明を求める。


「どういう事でしょう?」

「ヒラ様もカーラさんのお持ちの品を所望されていますが私の雇い主では御座いません、ヒラ様が貴女にお会いしたいと仰るので許可を得て御案内差し上げました」

「では何方(どなた)が?」

「私の雇い主はツルギ領、領主ハヤ・ツルギ様です」

「子爵様が‥‥」

考えてみたら領の治政に関わる検問所に手を回すなんて、一種族の族長であっても無理な話で、それが領主なら納得出来る。


「儂等鬼人族にその対価を支払う能力は無い、忌々しがあ奴の世話になっておる」

「代金の方はハヤ様が御支払い致します」

「それは問題有りませんが、ヒラ様は如何(いか)ほどご所望なのでしょう?」

「後でこのデンボに子細を聞くがよい」


話を聞く限り『(コセ・ポーション)』を必要としてるのはこの族長と領主で、2人には何かある。

ナサも会いたいと言われてるから色々気になるだろうな。


「そこの人族」

無関係顔してた俺に族長が声を掛けて来た。


集落(ここ)では人族は特に嫌われとる、歓迎はされん」

「カーラは?」

「セフの孫は別じゃて。獣族の娘、生粋では無いな?」

「ジイちゃんが人族」

「ではお主達は無暗に姿を見せるでない。デンボよ、お主もじゃぞ」

「俺達は籠ってろと?」

「若い衆は抑えが効かんでの、致し方無かろう」

何だそれ?それを抑えるのが族長の役目だろうが。

顔に出ていたのかデンボが誤魔化す様に言葉を挟んだ。


「今日は此方の集落で疲れを癒して下さい。そうですねヒラ様?」

孫娘(カーラ)の連れを追い出す訳にはいかんじゃろて。飯の支度をさせとるからそれまでゆっくり過ごすのじゃな」

そう言って族長ヒラ・ヨスタが席を立ち出て行くと、デンボは諦め顔で首を横に振る。


「何であんたもなんだ?」

「ツルギ領の鬼人族は混血も嫌っておいでなのですよ」

「じぁ兄さんもじゃん!」

混血が嫌いなら何故ナサと会いたいなんて言うんだ?


「何故嫌ってらっしゃるのです?」

「‥‥‥明日ハヤ様の元へご案内致しますのでお聞き下さい」

「子爵様に、ですか」

「申し訳ありません」

「デンボ殿」

それまで黙ってたナサが口を開く。


「何でしょう?」

(おさ)が俺に会いたいと聞いていたが」

「はい」

「何も触れられておらんかった」

「今晩、御呼出しがあると思います」

「俺1人か」

「恐らく」

そう言われてナサはカーラを見る。


「ナサ様はどうしたいですか?」

「は。正直な所気にはなっております。しかし俺はナンコー領の者、今更故郷とは言え鬼人族集落の(おさ)に呼び出される言われも無い。ましてお嬢様を差し置いてなど」

「でしたら私も同席します、ヒラ様がお許しにならないんであれば構わずお(いとま)しましょう」

「それではセフ殿が築かれた関係に‥‥」

「構いません、祖父は祖父、私は他領の族長より貴方の方が大切ですから」

「お嬢様‥‥」


「気に入らねぇな」

俺は少し腹が立っていたのでそれを口にした。


「珍しいですね、そんな事言うなんて」

「そうか?」

「はい、今までフツさんが初めて会ったお方に怒った事なんて無かったと思います」

「だってフツ、優しいもんナ!」

「そこまで興味が無かっただけだ」

「今回はどうしてですか?」

「人族と混血が嫌いってのは良いとして、だったらナサさんに何の用だ?考えてもみろ、これはナサさんと彼の両親の事も否定してる様なもんなんだぞ」

「お主‥‥」

「ナサ様の事で怒るなんて、フツさんらしいですね」

「やっぱりフツは優しい!」

「だからそんなんじゃ無いって。それに呼んだ客に姿を隠せだ?自分の集落の者に好き勝手やらせてる族長なんて居ても居なくても一緒じゃねぇか。聞きゃ取引相手でも無いし、希少種族だか長寿だか知らないけどさ、礼儀を知らねぇのかってんだ」

囲炉裏で沸いているお湯で鷲人族のヤトに貰った茶を淹れ一口飲んだ。

やっぱりこれは美味い、それに落ち着く。


「族長の態度、申し訳有りません」

「何であんたが謝る、あんたも被害者だろ」

「いえ私は‥‥」

「あんたは此処の鬼人族達が人族だけじゃなく混血も嫌ってる理由(わけ)を知ってるんだろ?」

「‥‥‥」

「何も言わないって事は納得してるのかよ、それも気に入らねぇ。よし!カーラが一緒ってんなら俺も行くぞ、従者だからな」

「フツが一緒ならオレも行く」

「話が済んでカーラが(それ)を渡したら、こんな集落(とこ)さっさと出て行こうぜ」

そう言って俺は囲炉裏から離れ壁際に移って横になった。


「カーラさん」

「はい?」

「フツさんは‥‥本当に従者なのですか?」

「そうですよ、何故です?」」

「言葉は乱暴ですがあの洞察力、従者とは思えません」

「護衛も兼ねてくれてますから」

「腕も立つと?‥‥偶然にしては良い出会いをされましたね」

「私もそう思ってます」


部屋に食事が届けられ、と言っても入口で受け取ったデンボが中に運んでくれる。

人数分の角兎の丸焼きで凄い量だった。


「こんなに食えないんだけど」

「野性的ですね」

「飯と酒は以前と変わらぬな」

「スゴーい!!」

ステトとナサは手掴みでそのままかぶりつき、俺はナイフで自分とカーラの分を切り分けて木で造られた器に盛った。味は塩のみだが脂の旨味が口に広がり見た目以上に美味い。

酒は「バイジュウ」「タイジュウ」の芋酒では無く、麦を発酵させた自家製の酒だとデンボが教えてくれ、その酒は昔と変わらずナサも知ってるみたいだった。

店に出る麦酒より濃度が高く酸味があるらしい。


「この麦酒スッパい」

「本来麦酒とはこの様な味だ」

「じぁ今まで飲んデた麦酒は?」

「改良されたものだぞ」

「これは麦酒の『田舎モノ』ってコト?」

「ぐ、まぁそうだ‥‥」

その言い方よステト、もっとナサさんに優しくしなさい。


食事が終わっって午後も遅くなってるが、このままこの家屋で時間を潰すのも飽きたし、はっきり言ってやる事が無い。

やっぱり大人しく待ってんのは性に合わないんだよな~。

族長(じじい)の忠告を無視する事にした。

次回は6/7更新予定です。

読んで頂き有難う御座います。

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