⑧②領都アラギと酒の味
四章の主役はナサ????にならない様に四苦八苦中です笑
検問所は大通りに繋がっており、通り沿いには店なども営業していた。
大通りだけあって往来もそこそこあるし、至って平凡な町の印象を受ける。これだけ見たら領外に奴隷集落が存在する異常な領だとは信じられないだろうな。
陽が落ちてきたが真っ直ぐ行けばいいなので迷う心配は無い。俺とステトは当然だけど、今回はカーラも初めて来る領だからか足取りはゆっくりとしたものだ。
「あ、人族!」
「領都にはいらっしゃるみたいですね」
「オレが言うのもヘンだけど、少しホッとしたよ」
「ええ解ります、私もですから」
人族が物を売ったり、亜人族達が荷車を引いたり抱えたりして材木などの物資を運んでいる。その他にも王都ではあまり見掛けない種族の亜人達が通りを闊歩していて、その営みは思ったより種族の対立を感じさせないものだった。
幼い頃まで両親と過ごした当時を思い出しているのか、ナサがその様子を注意深く見回している。
「ナサさんがツルギ領に来たのは何時振りなんだ?」
「俺が十に成る前にナンコー領に移った」
「やっぱり懐かしいか?」
「‥‥余りその様な感情は湧かん」
「何かあるだろ、当時と何か変わったとか」
「よく解らんな。俺が居った時は物を買うのも行商人からで、集落から出る事が余り無かったのだ」
「いつの時代の話だよ」
「たかだか四十年ばかり前の話だぞ」
「ちょっと待て、ナサさんあんた何歳?」
「確か五十にはなって無い」
「まじ?」
この人は混血だから人族と歳の食い方が違うのか、どう見ても二十代にしか見えない。
ただでさえ男前なのに何かずるいぞ。
「歳など気にした事がないが、何だ?おかしいか?」
「いや、四十年前に比べたら色々変わってるんじゃないかと思ってさ」
「ツルギ領生まれで主人に任されたのに、これでは俺など全く役に立たんな」
「あんたが居てくれて心強いのは間違いないよ」
気休めにもならなかったか、ナサは複雑な顔をして頷く。
教えられた『コシエ舎』は木造の二階建ての食堂もある、外側領にある一般的な宿と変わりない宿だ。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?お食事ですか?」
「泊まりで2人部屋を二部屋お願いします」
「有難う御座います、何日ご滞在のご予定でしょうか!?」
受付でやり取りしているカーラが俺の方を見るので声を掛けた。
「どうした?」
「何泊すればいいかと思いまして」
「まずは一泊でいいんじゃないか?延びたらまた部屋を取ろうぜ」
「そうですね。では一泊で4人お願いします」
「畏まりました」
男女に別れ一旦部屋に入り、風呂が無い宿なので体を拭いて汚れを落とす。これだけでも多少さっぱりするもんだ。俺以外の3人は『スイートポテト』を食べたが少量だったし、後は干し肉と野苺だけの昼飯。ステトは当然で俺達も腹を空かせて早速一階にある食堂に集まり案内された席に着いた。
「肉と酒~とナニしよっかナ~」
「ドワーフ族の方々が多いですね」
「やはりチスク国からかもしれませんな」
ステトは料理を選ぶのに必死だがカーラとナサは客を見て話している。
「あっちの客は何族って言うんだ?」
俺はドワーフとは違う席の客の種族を尋ねた。
その客達は下半身が馬だったり、首から上が猪顔だったり、体の一部分が人族のそれとは異なっている種族だった。
「じろじろ見てはいかん、彼等は『半族』と言って奇異な目で見られることが多い。そのせいか人族を嫌っておる」
「混血とは違う?」
「混血は両親のどの部分が受け継がれるのか生まれるまで解らんが、『半族』は混血であっても『半族』の見た目に生まれて来る。だから他種族は混血になるのを忌避し、その為種族内での繁殖しかせぬ希少な種族なのだ」
確かに見世物小屋以外で実際に見るのは初めてだけど、そんなに変か?
良いじゃねぇか半族、便利そうだし。
「お客さん達はツルギ領は初めて?」
「はい」
給仕の小人の男が俺達に聞くのでカーラが代表で答える。
「人族なのによく無事でいたね」
「ええまぁ、驚きましたが何とか」
「そっちの連れの方々の腕が良いんだな、大したもんだ」
「こちらのお勧めは何ですか?」
「あんたとお仲間は酒飲めるかい?」
「はい」
「じゃ一度はあれを飲まないと」
ドワーフたちが飲んでるグラスを見て言う。
「あれですか?」
「そうだよ、王国内でも滅多に飲めないシロモンさ」
「何と言うお酒です?」
「あのお客さん達が飲んでるのは「バイジュウ」って酒だ。他にも「タイジュウ」ってのがあって、あれより匂いに癖があるが「通」はこっちを好んで飲んでるよ。どうだいお客さん達も?」
カーラが俺を見るので頷く。
「ではその「バイジュウ」と「タイジュウ」を二杯ずつお願いします」
「あいよ。でも気を付けなよ、結構キツい酒だから。ドワーフ族のお客さんは喜んでるけどね」
小人の給仕が離れて行くと再びカーラは俺を見た。
「フツさんが言っていた『スイートポテト』で造ったお酒でしょうか?」
「多分な。匂いに癖がある「タイジュウ」の方が『スイートポテト』で、「バイジュウ」ってのが『ポテト』で造った酒だと思う」
「では今のツルギ領は酒を造って、それを生業にしてると?」
ナサが疑問を挟む。
「芋だけ売っても稼ぎなんて知れてるからな」
「ドワーフの方々はナサ様が仰った様にチスク国の方々だと思います。買い付けに来たんじゃないでしょうか?」
「酒をわざわざ買い付けに、ですか。理解出来ん」
「酒の製造方法を知らないって事だろ」
「まさしく専売特許ですね」
「領の産業になる訳だ」
「ナニナニ?何の話?」
「何食うか決めたのか?」
「アソコに一番デッかく書いてあるヤツにする!」
ステトが料理を決めたのか壁に貼ってある紙を指差す。
「定食ね、じゃ俺もそれにしようかな」
「酒は?」
「もうそれは頼んだ、でもお前は無理して飲なくていいぞ弱いんだから」
「えぇ~?大丈夫だヨ~」
そんな話をしていたら酒が運ばれて来る。
俺とカーラは匂いに癖のある「タイジュウ」、ステトとナサに「バイジュウ」を飲む事にした。
人族の血が四分の一混じってるとは言え獣人の彼女と、混血の男前は匂いに敏感だと思ったからだ。
「では皆さん、先ずは此処まで有難うございました」
カーラの音頭で無事にツルギ領の領都に来れた事を乾杯し、ゆっくりと一口飲む。
多少の違いを感じたが、喉が焼ける感覚は異世界で味わったものと同じだった。
始めて飲んだ時は酔い潰れてベトナム人達に馬鹿にされたっけ。
「どうだ?」
「ゴホッ‥‥本当ですね、匂いが何と言うか個性的で、それにワインとは比べ物にならない程強い」
「強過ぎるなら、水やお湯で薄めて飲む飲み方もあるぞ」
「では私はその様にしてみます」
水差しの水をグラスに入れて飲み直す。
「あ、これだと私でも大丈夫そうですよ。匂いも慣れれば気になりません」
「それは良かった」
水割りはカーラも飲めると解り、俺は「バイジュウ」を飲むステトとナサを見た。
「そっちはどうだ?」
「これは俺の口に合うかも知れん、強さも申し分無い」
「味がナイ‥‥」
「風味だステト、お主は風味を感じとらん」
「オレ、これダメだよ。麦酒がイイ」
ステトには無理みたいだったので新たに麦酒を頼み、カーラとナサも定食にすると言って注文する。
定食は外側領で馴染の獣肉の煮込みにキノコのスープと黒パンで、酒を飲みながら腹も満たす。その頃には『スイートポテト』で造った「タイジュウ」」にも慣れてきた様子で、何やらカーラが納得した顔でグラスを傾けていた。
「なるほど「癖になる」ですか、これを目当てで来られるのも解る様な気がしました」
「そうですな、問題はどうやって異世界の芋やその製造方法を手に入れたか」
ナサが俺を見て言うので自分の考えを言う。
「普通に考えりゃツルギ領に異世界の知識を持ってる奴が居るって事だよな」
「本当に居ると思うか?そんな者が」
「転生者や転移者、転憑者の存在は歴史書にもあるくらいだし、別におかしく無いだろ」
「フツみたいな?」
「俺は経験しただけで知識は少ない。でも今は気にしなくていいんじゃないか?見てそいつがそうかなんて本人が認めるか、認めても嘘かどうか、それこそ「嘘発見魔具」にでも掛けなきゃ解らないんだし。俺達がツルギ領に来たのはそれを見付ける為じゃない。目的があるんだ、まずはそれを終わらせようぜ」
「そうですね。他領様の事を害も無いのに詮索するのは止めてきましょう」
ステトが『スイートポテト』の塩掛けを見付けてそれを注文し、お茶を飲みながら皆でそれを味見する。
塩が甘みを引き立てて、また違う味わいで好評だった。
「カーラの取引っていつ来るの?」
「取引は来んぞ、取引相手だステト」
「兄さんはコマカイねぇ~」
「細かいと‥‥」
ナサは少し凹んだみたいだが大丈夫、あんたは間違って無い。
「接触して来るまで待つしか無いんだろ?」
「すいません」
「カーラが謝る必要なんか無いさ。でも身動き取れないのも確かだよなぁ」
「ナサ様がいらっしゃってくれてますので、フツさんとステトさんは自由に動いて頂いても構いませんよ?」
「そういう訳には‥‥」
その時俺達の席に近寄る人影が現れ、咄嗟にナイフを抜きかけたが着ている服が上等の物だと解り途中で止める。人影は男で顔は人族だったが肌に羽毛が生えているから恐らく混血。
乱暴など働く気が無い意思表示か、その男は笑顔で俺に一礼し、カーラの方へ向き直った。
「「カーラ・マハ」さんですか?」
噂をすれば、だな。
次回は5/26更新予定です。
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