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⑧①領都へ

やっとこさ!!

ナサが俺の事をじっと見ている。

そうだよな、いきなり異世界の物だって言われたって、この人は俺が【秘魔術(カヘテレーバ)】で異世界を経験したなんて知らない。


「言っとくけど俺は転移者(うつし)じゃないし、転生者(かわり)転憑者(うつり)でもないぞ」

「では何故それが異世界の産物だと知っている?」

「それは‥‥」

「ナサ様、フツさんはある出来事で異世界に行き、奇跡的に戻って来れたのです。この事はお父様と私、ステトさんの3人しか知りません」

俺が自分で話す前にカーラが代弁してくれた。


「それを信じなさるのか!?」

「はい。私以外にお父様も信じていますよ」

「クスナ様も」

「詳しくはフツさんの不利益になるかも知れませんのでお話出来ませんが、私達は実際に信じるに足るものを目にしています」

「お主はどうなのだステト?」

「オレは何回も見てるし、フツがウソつくはずない。兄さんもアレ見たらビックリするヨ」

「ふうむ‥‥」

ナサが再び俺を見るので肩を竦めて受け流すとそれ以上聞かずにいてくれた。


「異世界を経験したとは、やはり変わった男だな」

「信じてくれるのか?」

「クスナ様とお嬢様が信じなさっておいでなのだ、俺はそれに従うのみ」

「詳しく話さないで悪い」

「誰しも知られたくない事はある、気にするな」

男前だな相変わらず。


「コレってどんな味?」

ステトがカーラから『スイートポテト』を受け取り、まじまじと眺めて俺に聞いてくる。


「蜂蜜程じゃ無いけど甘いぞ」

「うわ~食べてみたい!」

「『芋』なのに甘いんですか?」

「パタとは全く別物だと思った方がいい、菓子代わりに食ってたくらいだから」

「それは興味深いですね、私も食べてみたいです」

「パタは酒には出来ん。この『芋』は酒にも出来るのであろう?そっちの味はどうなのだ!?」

「う~ん、好き嫌い別れるかな?匂いに少し癖があるんだよ。この『スイートポテト』の他に『ポテト』って芋もあったんだけど、それは甘く無くて味はパタに近いと思う。それで造った酒の方が俺は飲みやすかった」

歩きながら芋談義し、気になっていた事を皆に言う。


「でも何で秘密にすんのかね?異世界の芋って言わなきゃ解らないし、これだと一気に食料問題抱えてる他の領も助かると思うんだけど」

「確かにそうですね。でもだからじゃありませんか?」

「え?」

「誰にでもそれなりに栽培出来て、痩せた土地でも育って保存も効く。これは革命ですよ。他に漏れれば一気に王国中、いえ大陸中に広まるでしょう。そうなればもう産業としての価値は無いに等しくなる。ですからこの『スイートポテト』の存在を秘匿して、その加工品やお酒のみ売っているんでは無いでしょうか?」

「それにツルギ領はチスク国とそう遠く無い、かの国はドワーフ族が多いと聞く。あの種族は酒好きだ、そちらだけに売れば酒の存在も王国には知れ渡るまい」

「知れたとしてもチスク国経由になる確率の方が高くなりそうですね、チスク国産だと言ってしまえば王国内で生産された物とは知られずに済むかも」

カーラとナンコー領の騎士ナサが自分の考えを言う。

流石は外側領の交易拠点ナンコー領の2人だけあって納得出来る意見だった。


昼になり実際に食わせてやろうと火を起こして『スイートポテト』を少し土に埋める、蒸焼きだ。ステトは待ち切れない様子だったが、時間を掛けないと甘くならないからと説明する。待ってる間は持ってる干し肉を火に炙って食い、ニノの黒輪集落でくれた野苺を摘まんだ。


「もうそろそろ、か」

元々小さめだから火が通るのも早いだろう。

炭になった木をどかせて芋を掘り出し、土を払って感触を確かめる。

柔らかくなってるし大丈夫そうだ。


「本当は皮まで食えるんだけど、今回は土に埋めたから皮を剥いて食ってくれ」

ナイフで切り分け3人に渡す。

「アチ!!」


言うのを忘れてた。

ステトが(かじ)り付こうとしたが猫人の彼女には熱過ぎたかな。

「熱いから気を付けろ」

「もう~遅いヨ」


カーラとナサも息を吹き掛け冷ましてから口に運ぶ。

「これは‥‥美味しいですね。本当に甘いです!」

「何だこの芋は!こんな甘くなるものなのか?」

『スイートポテト』の受けは良いみたいだ。


「ホントだ!甘いし美味いよフツ!!」

やっとステトも口に出来たみたいで、俺は食った事があるから遠慮して皆が食べ終えるまで野苺を楽しむ。


「例えば他にどんな食べ方があるんですか?」

「俺が居た集落はジャング‥‥森みたいな所にあったから蒸す焼く茹でるが殆どだったけど、聞いた事があるのは干したり油で揚げたり砂糖で煮詰めたりしてたみたいだぞ」

「これで色んな商品を開発出来そうですね‥‥」

商魂に火が付いたか店長(カーラ)は。


「蜂蜜!!」

「お前はそれしか無いのかよ」

「この芋が有ったらツルギ領も発展してたかも知れん」

「生活は楽になってたと思うけど、芋は芋だよ。ナンコー領みたいにはならないさ」



昼食を終えると再びあぜ道を進み、道中で杭が立ててある場所を何回か目にする。どうやら細かく分けて栽培しているみたいだ。ニノの言った通り、他の黒輪奴隷達のたかりに遭わなかったからか、途中休憩を挟みながらでも夕方前には領都に入る為の検問所が見える所まで来る事が出来た。


検問をしているのは小人族や蛇人、虫人の亜人族の男達で、ナンコー領と違って誰も並んでおらず、早速カーラが身分証明魔具(マエマ)を出した。カーラが商人『カーラ・マハ』で俺とステト、今回は騎士身分を伏せてるナサも彼女の従者になってる。主が身元保証する為、従者の身分証明魔具(マエマ)は要らないし、人数分の入領税を払えば済む。

検問口で小人族の男が彼女の身分証明魔具(マエマ)と入領税を受け取り確認している間、従者組の俺達は一歩下がって大人しくそれを待っていた。


「ナサさん、ツルギ領に来て奴隷以外の人族に会ってなけいどこれって普通なのか?」

「確かに人族は少なかったが()った筈だ」

「オレ達獣人は?」

()るぞ」

声を落としてそんな話をしていると蛇皮面した男か近寄って来る。


「女に従者が3人か。何用でツルギ領に来た?」

「俺達は主人の仕事の手伝いだ」

ナサが代表して答えてくれた。


「仕事とは?」

「主は商人だ、詳しい事は言えん」

「‥‥‥」

何を疑ってるか知らんけど本当なんだぞ。


「グセ殿!」

「何だ?」

「こちらへ」

俺達に質問した蛇人が名を呼ばれ振り返ると、呼んだのはカーラの身分証明魔具(マエマ)を確認していた小人の男で、2人は俺達から離れ何やら話をし始める。


「ナニしてるのアレ?」

「何の話だろな」

「さぁ?問題は無いと思いますが」

「いざとなれば俺が活路を開きますのでお嬢様はこの2人と先にお進み下さい」

「何言ってるんですかナサ様、駄目です!」

「しかし‥‥」

「いいですかナサ様、何でも力で解決しようとしてはいけません!余所様では特にです!!」

「は、承知しました」

脳筋過ぎだよナサさん。


「確認を致しましたので身分証明魔具(これ)をお返しします」

「失礼した。『カーラ・マハ』殿とその一行を歓迎する」

「有難う御座います」

グセと呼ばれた蛇人と、呼んだ小人の男2人がさっきとは違う態度で接してくる。

そんな相手に顔色一つ変えず頭を下げるカーラは流石だと思った。


「今日の宿は決まっているのかね?」

「実は私共ツルギ領に来るのが初めてでして」

「では丁度良い宿がある。『コシエ舎』と言って、このまま大通りを真っ直ぐ行くと左手に見えるから解る筈だ」

「感謝します。それでは」

「ツルギ領へようこそ」


彼女がもう一度お礼を言って亜人2人から離れると、俺達従者組も検問所を通った。

ついに来たな。

これで最初にカーラと出会ってから依頼を受けた当初の目的地に足を踏み入れた事になる。

次の更新は5/23予定です。


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