⑦⑦組(ファミリー)/知らなかった話
文字数を減らして頻度を上げるか、このままのペースでいくか悩んでおります。
‥‥宜しければ意見下さい、参考にさせて頂きます。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。死んだ俺の父親って?何の話だよ?」
ニノが俺に興味を持って調べたって話は解る、でも何で俺の家族を調べる必要があるんだ??
第一、俺も親が何してたかなんてあんまり知らないんだぞ。
戸惑っている俺を置いてニノは話を進めた。
「兄貴も知ってる通り、平民が死んでも詳しい記録は残ならないでヤンす」
そう、貴族や由緒ある家でないと死んだ者の身分証明魔具の記録は抹消される。平民などは自分達で記録を残す以外は公式の家系図なんて無い、あっても伝承や言い伝えが殆どだった。
「平民の場合は今生きてる者の身分証明魔具に死んだ一親等の情報だけ記録が載るでヤンすよ。あっしは兄貴の身分証明魔具の性を変えた時、兄貴の記録を見ヤンした。兄貴の両親は15年前病で亡くなったでヤンすね?」
「ああ、だからそれが何の」
「兄貴は『ゴート』の以前の名前知ってるでヤンすか?」
「は?ずっと前から『ゴート』じゃ無いのか!?」
「組自体は30年程前から存在してるでヤンす。その頃はまだ小さな集団で、そこから徐々に大きくなっていきヤした」
「ちょっと待てって、だから何の話だよ!それに何でお前がそんな事知ってるんだ?」
「黙って聞くでヤンす。王国の治安を脅かす集団を黙って見てる訳には行かないのでヤンすから、中央仲介所と近衛軍は国中の犯罪組織の情報も当然扱ってるでヤンす。その成り立ちから系図まで記録が残ってるでヤンすよ。あっしはその情報も閲覧出来たんでヤンす、組の名が『ゴート』と言う名になったのは15年かそのくらい前でヤンした」
何だって?組自体は以前からあったのに何で名前を変える必要が有ったんだ??
「兄貴、組が名を変えるのは珍しい事では無いでヤンすよ。代が変わったとか、組割れたとか、逆に吸収されたとかで色んな理由で結構変わってるでヤンす。それを把握するのも大切な仕事でヤンした」
俺の疑問を察してか説明してくれる。
なるほどそうだったのか、それだけ頻繁に淘汰される世界って事なのかもな。
俺は組の名なんて継承しているもんだとばかり思っていたけど。
「ここからが本題でヤンす。今の『ゴート』は15年前に名を変えヤンしたが、それまでは『イゴト』組と名乗ってたでヤンす。」
「!!」
「あっしが思うに兄貴の親父さん、ハヌシ・イゴトは前の頭でヤンす。」
更にニノはまるで確信してるかの様に自分が調べた事を話し出す。
「『ゴート』の頭は記録にも載ってヤンした、兄貴は頭の名を知ってるでヤンす?」
「え?ああ確か「ツユ」?だったよな。」
「そうでヤンす、記録によると『イゴト』だった組の若頭をしていたのがツユ・ソサネ、今の頭でヤンす。」
焚火の木がもう全て灰になりそうだった。それでも明るいのは満天の星空に月のお陰だ。
俺はニノは話した一連の事を整理する。
思い出せ、何で食ってたのかまだ餓鬼の俺には解らなかったが家には確かに色んな種族が訪ねて来てた。そして話をして頭を下げて帰って行ってたな。
あれは何か頼み事や揉め事の相談だったのか?それを父親が聞いて解決してた?
『ゴート』でもそんな事はしょっちゅうあった事だ。
今の頭が俺に目を掛けていた理由もそれか?先代の息子と知っていたから?
辻津は合うが信じられない。
俺の父親が組の頭をしていただって??
何とか口を開きニノに確かめる。
「お前‥‥それ頭に聞いたのか!?」
「いや聞いて無いでヤンす。あっしが勝手に調べて思った事で、頭が知ったらきっと怒るでヤンす」
「あくまでお前の推察なんだな?」
「はいでヤンす、でもあっしは間違って無いと思ってるでヤンすよ」
完全に火は消え寝ているナサの寝息が響く。
この話を確かめるには頭に直接聞くしか無い。でももう今となってはどうでもいい事だと思った。両親は死んでいるし、王都の『ゴート』も今は若頭達によって割れてる状況だ。何より俺は違う目的を持ってツルギ領に来ている。俺は俺の人生を見付けるんだ。
「参ったな、お前からまさか父親の事聞くなんて思いもしなかった。でもまぁ有難よ、参考になったぜ」
「それだけでヤンすか?」
「組に戻るつもりも無いし、それに俺は今違う目的があるんだよ」
「そう、でヤンすか、、、」
「それよりお前だお前、まだ話の途中だったろ?何で『ゴート』に入ったんだって話だ」
「そんな大した話じゃ無いでヤンすよ、サムさんが理由でヤンす」
「若頭?」
ニノは普段通り真面目に中央仲介所で務め続けていた。
時折『ゴート』の頭から頼みがあったがちょっと手を加えるだけの類だった。報酬も良かったし、少なくとも誰かを害したり騙したりする内容の頼み事じゃ無い。
罪悪感も抱かなくて良い頼み事をしてくる頭を寧ろ好意的な人物と思っていた。
だがそれも一変する。何処から聞いたのか同じ『ゴート』で幹部だったサムが接触して来たからだ。
サムの頼み事は頭とは正反対で、貴族や役人、他の組の脅しに使える様な情報を教えろというものだった。貴族や役人の情報を漏らせば重罪だし、他の組の情報を漏らしたと知られたらどんな目に遭う考えなくても解る。ニノが断ると、今度はニノを脅して来た。
帰りに怪しい男に跡を付けられたり、家の前に待ち伏せされたり、職場で嫌がらせを受けたりして大人しい性格のニノは次第に精神的に追い詰められていく。
「あっしはもうどうしていいのか、毎日怯えて中央仲介所と家を往復してヤンしたよ」
そしてとうとう頭に相談した。この事がサムに知られたらと考えると恐ろしかったが、同じ『ゴート』でも上の立場である頭なら何とかしてくれるかもと思った行動だった。
だがその期待はサムがやっている事を表立って咎める訳にはいかないと言われ無残に砕かれる。
自分も賄賂を渡してニノに頼み事をしていて、裏社会で脅しの情報を得ようとするのはよくある事だ。それも飯の種になる。余程目に余る事でない限り子分の稼ぎに口は出せないと言われた。
「まぁ頭の言う事は解る、脅迫の情報を欲しがらない組なんて無いからな」
「そうでヤンすけど、あっしは巻き添え食った気分でヤンした」
「でもそれだけじゃないんだろ?その後何を頭に言われた!?」
「中央仲介所を辞めろと言われたでヤンす、食い扶持は用意してやるって。でもあっしが仕事を辞めたらサムさんが絶対許さないって言ったでヤンす、ただじゃ済まないって」
「あの若頭なら腹いせに何かはするだろうな」
「でヤンしょ!同じ事を頭に言って泣き付いたら、いきなり「じゃあ『ゴート』に入れ」って言われたでヤンす!!」
あの人も物好きだからな、言いそうな事だ。
組の一員となれば末端でも頭の庇護下に入れる。サムの子分にならない限りは直接手を出される事は無い。ニノの身の安全策としてはこれ以上ないものだった。
「お前が『ゴート』に入れた理由は納得したけど、何で俺の下だったんだよ?幹部の1人っても俺はお前より年下だぜ!?」
「頭に言われたんでヤンす。兄貴は知ってるけどあっしは荒事なんて無理でヤンすし、睨みも利かせられない。そんなあっしがどうやって組内でやっていけばいいのか頭に聞くと、「フツの下に行け、あいつは出来ない事をやれと言う男じゃ無い。お前の使い道を考えてくれる」って。だからあっしは兄貴の舎弟になったでヤンす」
半ば押し付けられた形で俺の縄張りで面倒見ろと、頭が連れて来た男は場違いな程大人しい男、それがこのニノだった。最初っから荒事は無理と言う様な男で、最初は他の舎弟からも軽く見られていた。ニノは読み書きや算術も出来たので俺はそれを使って助手の様な仕事を与えると、自分の立ち位置を掴んだ事で次第に溶け込んでいく。笑顔も増え、その要領の良さで舎弟同士の仲も俺の知らない間にに深くなっていた。ニノは荒事を全くしない、出来ない舎弟だったが潤滑油的な存在だった。
「抗争じゃ役立たずだったけどな」
「何言ってるでヤンすか!あっしが居たから稼ぎも増えたんでやんすよ!」
「お前が持って来た仕事なんて別に俺等『ゴート』みたいな組で無くてもいいもんだったじゃねぇか」
ニノが中央仲介所の繋がりで、報酬払いが悪い依頼者の取り立てを代わりにしてやるとか、素行の悪い受託者連中を追い出すとか、諍いを治めるなどの細かな話を持って来ては自慢してたんだよな。
「兄貴の縄張りは一番荒事が多い場所でヤンしたからね、そういう軽い仕事は貴重なんでヤンすよ。」
「荒れた縄張りだったしな、確かに息抜きには良い仕事だったよ」
それを治めれたから縄張り内の娼婦館の客も増えて稼ぎも増え、俺が幹部になると王立闘技場の賭場を任せられる様になった。あれはかなりの額が動く賭場で、その結果俺は嫉妬の的になってしまったんだよな。
「自分が裏社会の仕事に関わるなんて想像もしてなかったでヤンすけど、あっしは楽しかったでヤンす。それは兄貴の舎弟だったからでヤンすよ、他の幹部の方達の下に付いたてたら鉄砲玉にでもされて直ぐに死んでたでヤンす」
「あっしが生きて来れたのは兄貴のお陰でヤンすよ、だから兄貴がこうして生きてる事が嬉しいでヤンす」
ニノは笑顔でそう言った。
次回は5/11更新です
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