⑦⑥組(ファミリー)/ニノからの話
GWですね、暇潰しにでもどうぞ。
パチッ
焚火に焼べてる木が弾く音が響く。
俺とニノは無言でその炎を眺めていた。
「じゃあ兄貴は組を割ったのがサムさんって知ってたでヤンすね?」
「いや、ケンド組って名乗ってる事くらいしか聞いて無い。でもなぁ、誰が割ったのかなんて若組とヤリの兄貴くらいしか居ないだろ?」
「その通りでヤンす。頭のやり方に不満を持つ一部の幹部達を、その2人が抱き込んで新しい組を立ち上げヤンした」
「そいつ等の気が知れねぇな」
頭の直舎弟が若頭のサム・ハラなら、ヤリ・ナシオは若頭のそれに近い存在でサムの護衛も担ってた男で、俺が組に入りたての頃、当時まだ若頭になる前のサムが『ゴート』に引っ張り込んだらしい。ヤリはその時確か20代半ば、今は30の後半になってる筈。正確には俺と同期だが、まだ餓鬼だった俺が大人相手に「俺お前」と呼び合うなんて出来ないと遠慮してヤリの事を兄貴と呼んでいた。自分を差し置いて先に幹部になった俺を悔しそうに見ていたのを覚えている。ヤリは若頭のサムと同じで器量の狭い男だった。
「頭達は裏切ったのを黙って見てたのか?」
「頭は兄貴が捕まって重罪奴隷で売られた事の方を気にしてヤンした。その後サムさん達が兄貴を嵌めたと知って大層怒ってたでヤンす」
「だったら」
「頭は残ってる皆を集めて、いずれ取り返すし落とし前を付けると言いヤンした。そして今はその時じゃ無いから黙って裏切り者共を調子に乗らせておけとも言ったでヤンす。
兄貴、あっしは知ってるでヤンす。頭はその間に貴族連中や仲介所から情報を集めたり、他の組にも頼んだり脅したりして兄貴が何処に売られたのかずっと探してたでヤンすよ」
あの親父は最初からそうだったけど、一体全体俺の何が気に入ったのか未だに解って無い。
「頭の事だ、『ゴート』は心配入らないさ」
「あっしが言いたいのはそんな事じゃ無いでヤンす!」
「何だよ真面目腐った顔して。大体何でお前がツルギ領で奴隷になってる?」
「今はあっしの話はどうでもいいでヤンすよ!それより何で頭が兄貴の事になると、そうまでするのか知ってるでヤンすか!?」
「俺が知りたいくらいだ、まさかお前が知ってるなんて言わないよな?」
「兄貴は『ゴート』の跡目なんでヤンす!!」
「は?」
こいつは何言ってんだ?何でいきなりそんな話になる?
気に掛けてくれてたのは確かだが、跡目ってなんだよ。
「馬鹿かお前は、それに」
「イゴト」
「!」
ニノが言った言葉で俺は固まった。
『ゴート』に入ってからは「ただのフツ」としか名乗って無い。
頭以外で知る筈の無い懐かしい響き。
何故なら「家名を捨てる」と言う条件を飲む前の俺は「フツ・イゴト」だったからだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私とステトさんは、奴役のニノさん達が住む平屋を鍵がある唯一の建物と言う理由で、ナサ様が説得?してお借りしていた。雑魚寝だが床に草が敷いてあって柔らかい。寒くも無く思ったより快適だった。フツさんとナサ様は外で寝るというのが何だか申し訳無い。ステトさんも自分も外で良いと言ったが、フツさんが私の護衛が必要だからと彼女を説得した。
「ステトさん?起きてます!?」
「んん??ナニ?寝れないのカーラ?」
「いえ、そういう訳では無いんですが」
「?」
「ステトさんは、フツさんが『ミネ』に行ったらどうするんですか!?」
「どうするってナニを?」
「フツさんが『ミネ』に住み着くとか、他の所に行くとかなったら?」
「オレも住むし一緒に行くヨ」
「離れるつもりは無いんですね?」
「何で?フツが嫌なら考えるけど‥‥ううん嫌でもついて行くよ。オレはもう決めたんだ、フツのツガイになるって」
「ツガイ‥‥そうですか」
「カーラはならないの?あ、そか。カクシャク様の、その何だっけ?アトツ、、ギ?にならないとダメなんだっけ?」
相変わらずハッキリ言う女。解ってる、ステトさんは嫌味で言ってるんじゃ無い。知ってる事実を言ってるだけ。でも、でも何か悔しい。私もハッキリ「ツガイ」じゃ無いけど「好き」って言えれば。
「フツなら平気だよ」
「何が、ですか?」
私が居なくても平気って事?
「オレとカーラの2人くらいメンドー見てくれる」
当然の様にそう言われて私は何故かホッとした。
「私がナンコー領に居ても、ですか?」
「会いに来ればいいじゃん。オレもフツも会いに行く」
「遠距離なんて上手く行くでしょうか‥‥」
「エンキョリ?遠いってコト??」
「はい。会えないのは、、、、辛いかも。」
「フツもカーラが居ないとサミしいと思うよ?それにオレもカーラに会いたいしさっ」
やっぱり勝てない、このステトさんには。
最後の「ツガイになれば何とかなるんじゃない?」はどうかと思うけど、案外本当にそうなのかもとも思った。
『ミネ』に着いて離れる前に彼に打ち明けよう、この気持ちを。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
はっと我に返った。そしてゆっくりとナイフを抜く。
普段あれだけ臆病なこいつがそれを見ても物怖じして無い。
「‥‥お前、何者だ?」
「そんな物騒な物必要無いでヤンすよ、兄貴はあっしが以前何してたか知ってるでヤンしょう?」
「仲介所の職員‥‥なるほどな」
まだ完全には納得して無いが俺はナイフを鞘に仕舞った。
「前から聞きたかったんだが、何でお前みたいな真っ当に生きてた男が『ゴート』に入ったんだ?って言うか入れたんだ!?」
「涙無しでは聞けないでヤンすがいいでヤンすか?」
「その時点で泣けそうに無いけど」
「酷いでヤンす!!」
今度はニノが自分の事を話し出す。
ニノは王都にある中央仲介所に努めて6年ばかりの中堅に差し掛かった職員だった。中央仲介所とは王国にある仲介所の本部で、あらゆる情報が本部に集められ管理される。本部で身分証明魔具を管理する者達は、王国民全ての経歴や記録を閲覧出来る。ニノが担当していたのがまさに身分証明魔具で、不正など縁が無く職員周りからも信用されていた。
「でも不幸ってのは突然やって来るモンでヤンす」
ニノも俺と同じで両親は既に亡くなっており妹と2人で暮らしていた。その妹が職場である飯屋からの帰りにどこぞの貴族の次男三男と思われる男達に乱暴される悲劇に遭う。犯人達が解っているのに証拠が無いとか現行犯で無いとか何とか、現場に来た近衛兵は動いてくれなかったらしい。恐らく金を掴まされたんだろう。そんな事情を知ってかある男が勤務時間が終わり、仲介所から出て来たニノに話を持ち掛けて来る。
妹の仕返しをする代わりに頼みがあると。
「その時のお前は中央仲介所の職員だ、いくら相手が貴族だからってそんな怪しい頼み聞かなくても上司に相談するとか、その近衛兵達がが無理なら直接詰め所に訴え掛けるとか出来たんじゃ無いのか?」
「妹が首吊って死んだんでヤンす。あっしの唯一の家族が」
「‥‥」
「あっしはどうしても妹に乱暴したヤツ等を許せなかったでヤンす。だからその頼みを聞いたでヤンすよ」
「それでそいつ等はどうなった?」
「瀕死の状態で見つかりました」
「それだけか!?」
「全員の手足が切り落とされてたんでヤンす、男の大事な物まで、、、、」
ニノは身震いして言う。
組に居た頃の俺だったら殺してただろうな。
相手が貴族だろうと関係無い。
話を聞いてこれを命令したのは誰だか解った。
死ぬより酷い目に遭わせるなんて、頭らしいっちゃらしい。
「それで頼まれた事って何だった?」
「自分じゃない男の身分証明魔具を書き換えて欲しいと言われヤンした」
「そんな事可能なのか?身分証明魔具は魔術で管理されてる筈だ」
「犯罪歴を消せとか、偽造しろとかは無理でヤンすが頼まれたのは名前の変更でヤンす」
名前の変更は婚姻、養子縁組などの事情によっては認められている。カーラも「ナンコー」性から母方「マハ」性に変更していたが、これには本人と第三者である証人の同意が要る。中央仲介所でその業務を担当していたニノにはその手続きを省略する事が可能だ。因みに変更後の身分証明魔具には現姓の名が表示され、旧姓の記録などは身分証明魔具を管理して全記録を閲覧出来る権利を持ってる者でないと確認出来ない。
「ある男が成人になったから、これを機会に名を変えたいと言われヤンした。その名は「フツ・イゴト」、「イゴト」を外して欲しいって事でヤンす」
これで捕まって調べられても「イゴト」性は出て来ない。
犯罪奴隷になった時もその性を呼ばれかなった筈だ、俺の知らない間に本当の「ただのフツ」になっていたんだから。
ニノの話はまだ続く。
「それからも時々頼まれたでヤンす。そんな悪どい無茶な事では無かったでヤンすから、あっしは受けヤンした」
「今度は何だ?」
「軽罪奴隷になった子分の売られ先を、王都かその周辺に出来ないかって事だったでヤンす。あっしは買い手の記録も閲覧出来たでヤンすから、その条件以外には手が出し辛い嘘の金額を伝えヤンした。」
「それって」
「その軽罪奴隷は兄貴、アンタの事でヤンよ。」
王国法では軽罪奴隷は罪を犯したその国内でしか売られない。俺がしょうもない事で捕まり軽罪奴隷なった時も王都かその近くの領の者に買われていた。お陰で刑期を終えるまで楽なもんだった、組の影響下で奴隷生活が出来たんだからな。手を回してくれてるとは思っていたが、それにニノが関わっていたとは。
「それが何で俺が跡目って話になるんだよ?」
「頼み事をしてくる人物があの『ゴート』の頭って知って興味が湧いたんでヤンすよ、どう見てもこの「フツ」って男は特別な扱いをされている、その訳は何なんだって」
ナンコー領主のパパさんみたいな事言いやがって。
溜息を吐いてニノを見るとまだ焚火を見つめていた。
「で?俺の何を調べた!?」
「正確には兄貴じゃないでヤンす」
「じゃあ誰だ?」
「兄貴の親父さんでヤンすよ」
15年前のワヅ王国の国中で流行った病で死んだ俺の両親。それから俺は孤児になって『ゴート』の頭に誘われ組に入った。
跡目の話と死んだ父親に何の関係が有る?
ツルギ領で奴隷になっているかつての舎弟から、こんな話が出るとは思いもしなかった。
次回は5/8更新です
読んで頂き有難う御座います。
☆マーク押して頂けると励みになります。
評価頂けるとやる気になります。
レビュー頂けると頑張れます。
宜しくお願いします~。




