⑦⑤組(ファミリー)/あの罠
フツの過去話など続きます。
「まさかそんな、、有り得ないでヤンす、、、、」
「どうかしたんですかニノさん!?」
「奴役?」
固まってる集落の纏め役に声を掛ける奴隷達。
「ぷっ、、くく。」
ニノの驚いた顔を見て後ろに居るカーラが笑いを堪えてるのが解った。
いや声漏れてるぞ。
王都の『ゴート』で幹部になりかけたとか、俺の片腕をしてたなんて吹いてるんだから笑っちゃうのも当然だけど。
まぁこいつにも立場ってもんがあるし、俺達は宿さえ借りれれば良いんだ。わざわざ本当の事言う必要は無い。それにニノは最近のツルギ領の事情を知ってる。
「お~い、奴役さん。こっち、こっち来てくれ。」
「え?あはぃ、うん、でヤンす。」
俺は笑いながらの手招きを止めない。そんな俺を見たニノは顔が真っ青だ。
「ニノさん!全員やられてんだ、やり返さねぇと!!」
奴役の守役と思われるヨトと呼ばれた男が言う。まぁお前等からすると当然だよな。
固まってるニノにもう一度声を掛けた。
「ど・や・く・さん!」
「はいっっ!ゴホン。お前等は此処で待つでヤンすよ。あっしがナシを付けてるでヤンす。」
そう言ってニノは俺の方に来る、手と足同じなってるぞ。
「奴役に任せときゃもう大丈夫だぜ。」
「あぁ、ニノさんが落とし前付けてくれるさ。」
「アイツ等も良い度胸してたけどな、今度は相手が悪い。」
「お、何か奴役が早速睨みつけてドス利かせてんぜ。」
いやニノは今、涙目で俺を見てる。
「兄貴~生きてらっしたんですか!良かっでヤンす~、兄貴が重罪奴隷に落とされてどっかに売られたってんで心配してたんでヤンすよ。」
「調子のいい事言ってんじゃねぇよニノ、お前何時から俺の片腕になったんだ?」
「これにはですね、深~い訳があるでヤンす。お願いですから殺さないで~」
「殺さねぇよ、ちょっとした頼みがあるだけだ。」
「何でも言う事聞きますから命だけはお助けでヤンす!!」
「だから殺さねぇって。お前は俺をどんな目で見てたんだ?」
「え?だって兄貴っていつもナイフで斬ったり刺したりしてたでヤンす。」
「どんな危ない奴だそれ!抗争の時くらいだろ!!」
こいつの俺に対する印象ってこんな感じだったのか。
「もういい、集落じゃお前はお山の大将なんだろ?」
「へい。」
「だったら俺とあそこに居る連れを今晩泊めてくれ。」
「へ?それだけでヤンすか!?」
「頼みってのはそれだけだ、後で何か追加するかも知れないが大した事じゃ無ぇよ。」
「はぁそれは全然良いんでヤンすけど・・・・」
ニノは倒れてる奴隷達と後ろで期待の目を向け続けている仲間達を見る。
「お前の事は喋らねぇし、顔も立つ様にしてやるからさ。カーラ!!」
雇い主のカーラを呼んでニノの面目が保てる様、宿代を出せるか聞いてみた。
「ニノさん、4人の宿と諸々の費用の代金として銀貨四十枚で如何でしょう?」
「1人銀貨四十枚も??それを頂けるのでヤンすか!!」
「はい、お世話になるんですからこのくらいはお支払いします。」
「ニノ、田舎の安宿じゃ銀貨一枚もしねぇぞ。これで泣き落としに遭ったとでも言えばいい。」
「そ、そうでヤンすね。了解でヤンす!それで手を打つでヤンすよっ。」
「何が「手を打つ」だよ、力尽くで奪ってやろうか?」
「兄貴はすぐそれだ、人は脅しだけじゃ付いて来ないでヤンすよ。じゃ皆に話して来るでヤンす~。」
自分の安泰が解って揚々と仲間の元に戻って行った。
「舎弟の方に窘められるフツさんなんて、何か可笑しいです。」
「あいつは腕っぷし無い癖に変に度胸があるって言うか、結構痛いとこ突きやがんだよ。」
「オレはあの「ヤンす」が笑えた~。」
「だろ?あの特徴のる訛り、最初は耳障りでしょうがなかったんだ。」
「お主の周りは変わった者が多い。」
「それあんたも入ってるからな!」
ニノは奴役の面目を保った様だった。
「流石だぜ奴役、銀貨四十枚もふんだくるなんてよ」とか「これじゃ仕方無ぇよな!」「俺達にも分け前くれるらしいぞ!!」なんて言ってるし。
何て説明したのか知らないが、こういう所本当要領良いなこいつは。
そして変な喋り方をする奴役の居る「黒輪」集落の一つで世話になる事が出来た。
空も暗くなり、その日の食事は獣肉や木の実を煮込んだ、簡素だが奴隷風情には勿体ない程の代物で、酒は残念ながら今は品切れしてるらしく無かったが、つい先日やらかしているので逆に良かったのかも知れない。
「何であっしが外で寝るんでやんすか!」
「ぶつくさ言うな、俺も居てるだろ。」
「兄貴は良いでヤンす!余所モンだから!!あっしは自分の寝床奪われたんでヤンすよ!!」
「俺もだ。」
「図体デカいアンタは外で良いでヤンす!!でも何であっしが外なんでヤンすか??」
「女を外で寝かせる訳にはいかねぇじゃねぇか。」
「鍵付きの部屋がお主の棟しか無かった。」
俺とナサは野苺など摘まみながら焚き火を囲んで座って寛いでいた。ニノは自分の部屋を、棟を占領された事をまだ愚痴ってる。この集落には全部で四棟の平屋があって一棟に4人住んでいた。奴役であるニノの棟には鍵が付いており、それを俺達の女性陣に使って貰った、と言うか混血男前騎士のナサが否応なしに決めたんだけど。追い出されたニノの棟に住んでいる本人以外の男達3人は他の棟で寝るみたいだ。4人部屋にもう1人来れば狭い上、奴役と一緒じゃ気が休まらないとニノは外でしか行き場が無かって訳だ。
「良いじゃねぇかよ、こうやって星を眺めながら寝るのも悪く無いもんさ。なぁナサさん?」
「そうだな、野営も久し振りだ。」
「兄貴達はそうでもあっしは見飽きてるでヤンす!」
「うるせえな全く、いい加減諦めろ。」
「全く。変わって無いでヤンすね兄貴は。」
観念したのか文句を言いながらニノも焚火の側に腰を降ろす。
「王都が恋しいか?」
「いや、それは無いでヤンすよ。兄貴が居なくなった組に居ても楽しく無なかったでヤンすからね。」
「組と言えば割れたんだろ?」
「まだ一年も経って無いのに何で知ってるでヤンすか?それにおかしいでヤンすよ、兄貴に付輪が無いなんて。兄貴は重罪奴隷になったんだから刑期はもっと長い筈でヤンす。」
「まぁ言ってみると持ち主の奴隷に対する扱いが問題になって強制終了した。」
「重罪奴隷に人権なんて無いでヤンす!そんな事有り得ないでヤンすよ!!一体何したでヤンすか??」
「ヤンすヤンすうるせえな、俺も色々あったんだよ。」
「お主は重罪奴隷だったのか?」
そっか、ナサはこれも知らなかったよな。
「実際、重罪になる程の事してないぜ?俺を目障りと思ってる連中のせいだよ。」
「自由になった理由は?」
「さっきこいつに言った通り持ち主のせいさ、いやお陰かな。」
「どうせお主の事だ、何かを隠してるな?」
「そんな大した話じゃ無い。」
俺は笑って誤魔化した、自慢にもならない話だし。
「ふ。明日もある、俺はもう寝るぞ。」
「今日はお疲れさん、明日も頼むよ。」
「うむ。」
ナサは深く聞こうとせず薪として持って来た太い木に頭を乗せて横になった。
俺は火が絶えない様に小枝を焼べる。
暫くするとナサの寝息が聞こえ、流石に寝息が男前とか無いな、なんて考えていた。
ニノも静かなので寝たと思ってたが、何やららしくない表情を浮かべて黙っているだけ。
「どうしたニノ?」
「兄貴を嵌めた犯人知ってるでヤンすか?」
「どうせ若頭だろ?俺に頼み事して来た時、何かあるなとは思ってたんだ。それまで散々俺を目の仇にしてたからな。」
「な、何で解ってるのにそれを引き受けたんでヤンす!!」
「罠なんて躱せると思ってたし、実際しょうもない罠だった。」
「だったら、、、」
「新顔のシマ・ハサイが死んだ。」
「え?」
「俺1人だったら問題無かったんだけどな、あいつが若頭の命令で、多分脅されて俺と組まされて、そのせいでシマは死んだ。」
『ゴート』での俺は組に目を掛けられて最年少で幹部になった。幹部に直接命令出来るのは頭だけ。俺を目障りと感じていた幹部達は、度々俺に嫌がらせをして幹部会でも俺を無視していた。その筆頭だったのが若組で名はサム・ハラ。頭の直舎弟だった男で俺とは受け持っていた縄張りも遠い為、それまで必要最低限の事しか関りが無かった。そんなサム若組から頼みたい事があると言われて怪訝に思ったもんだ、なんせ俺を露骨に嫌っていたからな。
俺はニノに何があったか話し出す。
「若組から「お前の腕っぷしを見込んで頼むんだから、やってくれるよな?」って面と向かって言われたら断れないだろ。どんな頼み事か聞くと、若組の所で最近縄張りを荒らすモグリ連中が居るって事だった。無断で『模倣薬』を捌いてるから締めて欲しいって。何で自分の手下にやらせないのか聞くと他の連中は手が回らないと言うんだぜ?それと新人1人付けるから勉強させてやってくれってさ。怪しいとしか思えないだろこれ?
罠と解ってたらやり様があると考え引き受けたんだが、それが間違いだったんだよな。」
「シマって新顔は組に入ったのに荒事なんてどだい無理そうな奴だったよ。まるでニノ、お前の様だよな?怖じ気付いてるシマにお前は俺の後ろで見てれば良いと言ってやった。俺に何かあっても構わず逃げて良いって、若頭に使い潰される前に組なんて抜けちまえってさ。あいつはその事真剣に考えたんじゃ無いのかな、やけに深刻な顔してたしよ。若組達に脅されてたんだろうけど、俺に相談すりゃ何とかしてやってたのにさ。」
「その密売してるって言う場所に乗り込むともぬけの殻だ、やっぱりなって。後ろに付いていた筈のシマの姿が無い。あいつもそうかと解ってその場を離れようとしたら男達が入って来た。若組か取り巻きの他の幹部が俺を殺す為に金で雇ったただのごろつき共だろう。俺も舐められたもんだ、すっかりやる気無くして殺さずに痛めつけるだけにした。」
「そしたら直ぐ近衛兵達が乗り込んで来た。消えたシマは近衛兵達を呼びに行ってたんだ、俺を殺せなかった時は殺しの罪で捕まえさせようって二重の罠、いや最初からこっちが目的だったのかもな。でも俺は殺してないし、近衛兵達はどうしていいか迷ってるみたいで笑えたぜ。それをシマの野郎が倒れてるごろつきを俺が殺したと勘違いして、急に近衛兵達に向かって隠し持ってた短剣で斬り掛かりやがったんだ「フツさん、すんませんでした逃げて下さい」って言ってさ。そんな事する必要無いってのに馬鹿が。結局シマは近衛兵の1人に斬られて死んだ。」
「俺はシマの死体を見て、もう何もかも嫌になってさ。シマを殺した近衛兵を半殺しにしてやったんだ。それで捕まり、重罪犯として奴隷になったんだよ。」
ニノは俺の話を最後まで黙って聞いていた。
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