⑦③奴隷達
この後少し集落での話が続きます。
次回は4/29更新です。
ステトとナサに殴られて倒れてた2人の意識が戻ったので、お喋り君に事情を説明させこいつ等「黒輪」の集落に案内させていた。
「どうなってんだよっ。」
「そうだぜ、正気か?奴役に殺されるぞ。」
「仕方ねえだろ、耳削ぐとか脅された俺の身になれ!それにお前等は気失ってたから知らねぇけどアイツ等頭おかしいんだぞ!」
前を歩く奴隷3人が言い合っている。そんな中お喋り君が何やら失礼な事を言った気がしたが?
確かに色々おねだりしたのは認める。あの後更に俺が「風呂ある?」とか聞くとステトが「甘いの欲しい」とか言い出して、ナサなんか「お嬢様の部屋は鍵付きの個室で」とか犯罪奴隷の集落に何を求めてんだみたいな事言ってたし。
「まだぁ~?腹ヘったよ~。」
「も、もう少しだ。」
ステトは短剣を片手に逃げない様に見張りつつ奴隷3人組の横を歩いている。
俺とカーラとナサはその後ろだ。
「彼方達の集落には何人の奴隷が住んでいるのですか?」
カーラが一番話の通じるお喋り君に質問する。
「じゅう、、、16人くらいかな。」
「何正直に答えてんだっ。」
「お前どうかしてるぞ!」
「真面なのはこのお嬢さんだけなんだよ、それにほら金もくれた。」
お喋り君はさっきカーラが渡した銀貨一枚を仲間に見せた。
「マジか!?銀貨じゃねぇか!!」
「俺も!何か聞いてくれ!!銀貨貰えるんなら知ってる事教える。
情報料だ、いいだろ??」
「え?まぁ役に立つ情報なら払いますが、、、」
カーラが苦笑いしてる。
忠誠心ってものは無いらしい。
情報料って犯罪奴隷が金を稼いで何に使うんだ?いや、使えるのか?
3人が漏らした情報はこうだ、
中央領出身者が多い「黒輪」と言っても一つに纏まってなくて、幾つかの集落に別れてる。
俺達が向かっている集落はツルギ領に来て日が浅い新参者で構成されている「黒輪」達だ。
犯罪奴隷以外にも悪事に手を染めたく無い者や、ただ食い扶持が欲しい者が契約奴隷になるらしい。その代わり集落での地位は低くなるんだそうだ。この3人は契約奴隷を選択し、契約期間終了後の生活を考えて小銭を稼いでいるんだと。
真面目だなこいつ等。
「さっきお前等が言っていた奴役って何だ?」
俺は銀貨なんてやらないけど聞いてみた。
「集落に1人、奴隷を束ねる者を置くのが決まりなんだよ。その人も奴隷だけど集落の者達を管理する役目をツルギ領から与えられてるんだ。俺達が問題起こせば奴役の責任になって、最悪俺達集落の全員が売られるか死刑になっちまう。」
「大体何でお前等は奴隷契約した?悪事が嫌って事は元々普通に暮らしてたんだろ!?」
「俺達はちょっとした諍いを起こして恨みを買ったんだ。その相手が貴族と繋がっててさ、でっち上げてでも重罪奴隷にしてやるって脅された。そんな事言われたらビビるだろ。逃げるにも親兄弟を置いて行けねぇし、何をされるか解んねぇ。だから俺達が奴隷になって他人の手に渡れば手出し出来ないし諦めるだろうと考えたのさ。」
「それが何でわざわざツルギ領でなんだ?」
「噂を聞いたんだよ。」
「噂?」
人族はツルギ領で奴隷になれば領主が持ち主となって売られない。ただし殺人の様な重罪を領内で犯す者には当てはまらない。
命を削る様な過酷な労働を課されないし、仕事さえ真面目にすればある程度自由に行動出来る。
そんな噂が脛に傷がある者達や、実際に罪を犯して逃げ回っていた者達などに流れた。
そして噂が本当だったと解ると、捕まるならツルギ領が良いと進退窮まった犯罪者達がわざわざツルギ領に来て自首したり、食うに困った者達がツルギ領で奴隷になる為にわざと軽い罪を犯し始める。それ以外にもこの3人の様に奴隷契約を結ぶ者達が押し寄せ、奴隷ではあるが人族の数が増える事に繋がった。
最初に出くわした賊の「茶輪」の奴等の内1人だけ付輪を嵌められてない奴が居たけど、あれは奴隷になる為だったのか。
「でもそうやって奴隷になった後も何で罪を犯す様な事をする?」
「余所モンは追い出せってお達しが出てるんだ、多少の略奪も良いってよ。」
「それをここの領主が認めてるってのかよ?乱暴しても構わないって??」
「決まり事を破らない範囲でな。」
「決まり事?」
「ああ、『女には手を出すな』『金を巻き上げるのはツルギ領の住民以外の者だけ』、そして『決して殺すな』ってのが決まり事で、それを守ってたら手に入れたモンは全部自分の懐に納めて良い事になってるし、俺達奴隷でも買い物が許されてる。」
本当に小遣い稼ぎか。
「おかしいと思ったぜ、こっちを殺す気も女に乱暴する気も見えなかったしな。でももしその決まり事を破ったら?」
「集落全員即死刑だ。」
なるほど、そこら辺は真っ当の様だ。
「店なんか無いじゃん、ドコで買うのさ。」
今度はステトが聞いた。
「月に二度ほど集落を見回る役人が来るんだよ、その時一緒に行商人も来る。大したモンはないけど物を買うにはそれしか方法がねぇし、それを楽しみにしてる奴等もいるんだ。」
奴隷にも娯楽は必要って事か。
「甘いモノとかもある?」
「基本は自給自足だからな、でもちょっとした菓子くらいならあるぜ。」
「なぁ~んだツマンナイ。」
奴隷の集落に何を期待してるんだよお前は。
一通りの情報は聞いたし、後は集落に着いて考えよう。
そう思っていたらそれまで黙って歩いていたナサが口を開いた。
「お主等は自給自足していると言いているがどうやってだ?この瘦せた土地では作物を育てるにも苦労すると思うのだが。それとも狩りのみでか?」
「狩りは勿論するけど他にも、、」
「こら」「おい」
お喋り君が何か言い掛けたが他の2人に止められる。
ツルギ領出身のナサと両親が出身のコヒも、昔は狩猟や採集で食べ物を得ていたと言っていた。確かに歩いて来た印象では平地も少なく農耕には適して無い土地だ。
でも待てよ?
「お前らの仕事は農作業だったよな、何か作物を作ってるって事だろ?」
3人は目配せして首を横に振る。
「悪りぃ、それは俺達の口からは言えねぇんだ。」
「ああ、これも決まりでね。」
「その話は奴役に聞いてくれ。」
やはり何か隠してる。パパさんから教えて貰った「薬」の原材料となる物を育ててるのかも知れない。でもそれじゃ食えないよな??
それ以上聞かず暗くなる前に集落に着く様足を速めた。
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「見えて来た、あれが「黒輪」の俺達新顔の集落だ。」
思っていたよりしっかりとした造りの平屋が何棟か並んでいた。
「よし、カーラはナサさんと一緒に居てくれ。先に俺とステトが話付けて来る。」
「解りました、無茶はしないで下さい。」
集落に来た時点で無茶してるんだけど、そんな俺達にカーラも慣れたかな
「今晩お世話になるんだ、まずは挨拶しに行こうぜ。」
「奴役の事知ったらその態度も改めるぞ。」
「そうだぜ、あの人は有名な組織にいたらしいからよ。」
「俺達も知ってるくらいだから相当の悪だぜ。あ~あやっぱマズいよなこれは。」
俺に促された3人がそれぞれ漏らす。
「ソシキ??」
「獣人のお嬢さんは知らねぇと思うけどよ、俺達の奴役は最近まで現役だったんだよ。」
「まだ若いんだけど王都でブイブイ言わしてたって聞いてるぜ。」
「実際よ、「黒輪」の新顔集落を作ったのも奴役らしいからな。大したモンだぜ。」
「フツも王都で悪い仲間のエライさんだったんだ。もしかして知ってるかも?」
その言い方。
「王都で悪さしてる奴なんて数えきれないくらい居るんだ、全部知ってる訳無いだろ。そもそも誰がその奴役ってのを決めるんだ??」
「各集落の奴隷達で自分達の代表を選ぶんだ、それをツルギ領が認めれば奴役として正式に決まる。」
「多分だけど他の奴隷達に睨み効く様な過去や実力を持ってる奴が選ばれてるんだ、王都の『ゴート組』で活躍してたなんて聞きゃ誰も反対しねぇ。」
「アンタ王都に居たのか?じゃあ『ゴート』の名前くらい聞いた事あんだろ!?」
何ですと??
「フツの悪い仲間じゃ、、、え?」
ステトを目で黙らせもう少し奴約の事を聞き出す事にした。
「へぇ~『ゴート』か、俺も知ってるよ。」
「そりゃそうだろよ、有名だからな。」
「これも聞いた事あるんじゃねぇか、あの『ゴート組』で若くして幹部に上り詰めたって男の話を。」
「そうそう、何でも腕っぷしが強くて両手のナイフ使い。抗争の時にゃ真っ先に殴り込んでたってよ。」
「それフツじゃ、、え?」
またステトを黙らせて先を促す。
「そんな奴が居るのか、それは知らなかったな。」
「何だよアンタ、俺達でも知ってる事知らねぇのかよ?案外大した事ねぇな。」
「流石にこれは耳した事あるんじゃないか?「飛出しナイフ」って言ってな、その男の通り名だよ。」
「若くして三大組の一つで幹部にまでなってこの通り名だぜ?俺達には到底無理だけど憧れるよな。」
通り名なんて恥ずかしいだけなんだけど。
「それで結局お前等の奴役はその男とどんな関係だったんだよ?」
犯罪奴隷になった時に身分証明魔具で身元は知れる、口頭の嘘なんか通じないし詐称なんて不可能だ。俺の名を騙る事は出来ない。
「その「飛出しナイフ」の肩腕だったって話だ。」
「もう少しで自分も幹部になれる所までのし上がったらしいしな。」
「俺達新顔「黒輪」の奴役に選ばれるのも納得だよ。」
俺に片腕なんか居なかったんだけど?
身分と経歴以外は何を言おうが解らないから言ったもん勝ちだ。
でも誰が吹いてる?
「その元『ゴート』だったって言う奴役さんの名は?」
「ニノさんだ、ニノ・イシロさんだ。まさか知ってるのか?王都じゃ名が売れていたのかも知れないな、
流石だぜ。」
いや名は売れて無い。売れて無いがニノの事は知ってる。
俺の舎弟の1人だった男で片腕だったとか吹きそうな野郎だった。
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