⑦①出発
第四章の始まりです。
ストックが尽きるので次回は4/23更新です
しばらく四章は三日に一度の更新になると思います苦笑
すいません、出来るだけまた先行して書き溜めるのでよろしくお願いします~。
領主館の前にメスティエール商店の馬車が停まっていて番頭レンが自ら迎えに来てくれていた。
一応お忍びなので見送りは、ナンコー領主のクスナ・ナンコー国属伯爵と次女のオシカ、領属準男爵兼執事のタキ・ゴンゲの3人だけ。
雇い主のカーラに俺とステト、そして今回は領属騎士爵を持つナサ・ミツクが同行してくれる。カーラはツルギ領では商人『カーラ・マハ』として取引相手と会う為、ナサも騎士身分を伏してただの護衛の格好をしていた。
「カーラちゃん、気を付けて行きなさい。」
「はいお父様、有難う御座います。」
「前に約束した通り、お前はタミ様に手紙を渡したらナサと一旦帰っておいで。」
「・・・・・」
「その先はフツ君達が決める事だ、いいね。」
「、、、、、はい。」
「ナサ、無理言って済まないね、頼んだよ。」
「お任せを。」
「それじゃフツ君にステトちゃん、一時のお別れになるけど元気でね。」
「皆さんも。」
「有難う~でした!!」
迎えに来てくれた馬車に乗ろうするとレンがマントルを渡してくれる。
「フツ殿、修繕をしましたので持ち下さい。」
手渡されて気が付いた。そう言えば穴だらけになってから着ていなかったし、
領主館では見なかった。
俺はカーラに目をやる。
「直してくれたのか?でも何とかって言う魔獣の素材は貴重な物なんだろ!?」
「『マンティコア』です。仰る通り中々手に入る素材では有りませんが、祖父は修繕が必要になった時の為余った皮を保管してたんです。」
「有り難いけど良いのか?祖父さんの大切な物を俺が着続けて。」
「眠らせてるより着られている方が役に立ちますから。」
「じゃお言葉に甘えるけど、、、」
マントルの持ち主だった人物と一番付き合いの古い番頭レンにも確認する意味で目をやる。
「それはもうフツ殿のものです。お嬢様を守って頂くんですから先代もお喜びになるでしょう。」
レンは改めてそう言ってくれた。
「大事に着させてもらうよ。」
「オジさん元気でね!ビラお姉さんにもヨロシク言っといて!!」
にっこり笑ってレンは頷き、ステトにも別のマントルを渡す。
「ステト殿、貴女の素敵な見た目ではこれから向かうツルギ領では目をお引きになる。これを羽織って行かれるが宜しい居でしょう。」
「色々有難なレン、お前も礼言え。」
「オレ別に寒くないけど?、、、アリガト。」
流石レン、出来る番頭だ。
賊がそのはち切れんばかりの胸や際どい服を見たら絶対に放って置いてはくれないだろうし、賊で無くても男ならお近付きになりたいと誰しも思う。
「では参りましょう、お乗りください。」
ステトが意味を解らず取り敢えずマントルを受け取るとレンが馬車の扉を開けてくれた。
カーラとナサが乗り込み、俺とステトも後に続く。
領都「カナノ」を出たらツルギ領境までは整備さてない山沿いの道を進む。揺れるので車内ではステトが酔わない様に窓を下げ風を入れていて、カーラは『薬』を鞄から取り出して小袋を一つ一つ手にとって確認していた。
街から町へ景色が移って行く。「外側領の窓口」で交易拠点のナンコー領は自給している訳では無いんだろうが、外れた所では畑が見える。
「ナンコー領に来て畑なんて初めて見たな。」
「この辺りまで来ると昔とそう変わって無い。発展した領都や宿場町、倉庫街や厨車場、色町も王都方角の領地にあるからな、取引に来る者達にとってツルギ領側はが来る機会が無いだろう。」
俺がそう言うと珍しくナサが口を出した。
そのナサは自分の大剣を足の間に立てて座り、窓から見える景色を楽しんでるみたいだった。
「懐かしいのか!?」
「懐かしい?」
「だって出身地に近付いてるからな。この辺りの風景が昔を思い出すのかと思ってさ。」
「日頃巡回でも来ている、懐かしさど無い。」
「じゃ何で笑ってんだ?」
「馬車に乗る事など無いからだ。」
「馬車かぃ!!」
移動は順調に進み、午後になる頃にはツルギ領境手前に着くらしい。
何も変哲もない道で馬車が停まり、御者席の隣に居た番頭のレンが扉を開けてくれる。
「到着致しました。此処から徒歩で一時間程でツルギ領に入ります。」
「ご苦労様でしたレン。ではまた留守の間お願いしますね。」
「お任せ下さい。それよりお嬢様、くれぐれもお気を付けて行ってらっしゃいませ。無事にお戻りになられますのをお待ちしております。皆様もお気を付けて、お嬢様の事を宜しくお願い致します。」
深く腰を折った番頭に見送られて俺達4人は歩き出す。ツルギ領先の際まで馬車で向かえば、ツルギ領側に多いとされる犯罪者や無頼者達に見られて格好の得物と思われる。だからある程度離れた場所から徒歩で越境すると事前に決めていた。
ツルギ領方向への道を歩いていると少しずつ景色も変わって来て、岩や木の根が剥き出しの道で高低差も激しい。
道も険しくなって来て、この辺りだけかと思っていたらずっとそれが続いていた。
「しかし何だな、坂が多いと言うか平地が少ないよな?」
「ツルギ領は地理的に見ても山沿いの土地が殆どですからね。作物を育てるのも大変でしょう。林業が主産業なのも納得です。」
「カーラも来た事無いのか!?」
「はい。失礼ながら今回祖父の引き継ぎが無ければ、これからも訪れる機会は無かったと思います。」
「ナサさんは?生まれ故郷たけどたまには来ようと思わなかったのか?」
「育ちはナンコー領だ。思い入れも無い。」
こりゃ知らない土地を手探りで進む羽目になりそうだ。
「杭がそこら辺にあるよ。」
先頭を歩いているステトが道端にある木の杭を指差す。
先には杭が一定の感覚で地面に打ち付けられていた。
「この先からツルギ領と言う事でしょうか、、、。」
「珍しいよな?こんな辺鄙な領境できっちり境界線の目印を置くなんて。」
「そうですね、私も初めて見ました。一般的には領境は暗黙の了解みたいな扱いですから。」
カーラも余り見た事無いって事は、何か他の理由があるかも知れない。
確かに今まで通ってきた「外側領」の領境には目印なんて無かった、詳しい境目なんて土地の者しか知らないもんだ。だから検問もナンコー領以外の領は領都にしか無かったんだからな。
「昔はどうだった?」
「俺も初めて見るな。こんな杭なぞ立てて何の意味があるのか解らん。」
幼少まで居たナサも知らないのか。
「アレじゃないかフツ、縄張りみたいなモンだよ。」
「縄張りってツルギ領主のって事か?」
「違うよ、カクシャク様も言ってたじゃん、あの、何だ、バンザイ者?達が多いって。ソイツ等の縄張りだよ。」
「『バンザイ』じゃ無い『犯罪』だ。手上げてどうすんだよ。それに勝手に縄張りとか言って領主が許すか?」
「頭が悪いヤツ等はしそう。」
ステトにこの言われようは気の毒な気もするが、確かにしそうだ。
無事?にツルギ領側に入り荒れた道を歩く。まだ領の端なのは解っているが人の気配が無かった。当然民家などの建物も見当たらない。
「これは今日は野営かな。」
俺とステトは平気だし、騎士であるナサも大丈夫だろう。騎士は遠征もするから野営も訓練されている筈だし、そんな事関係なくこの男前は何でも出来そうだ。
「皆さんが居てくれるんですから、そうなったとしても問題有りません。
それも旅の醍醐味でしょう。」
俺の考えを察したのかカーラが笑いながら悠長な事を言う。
「汚れるぞ?」
「それこそ問題無いですよ。一日二日お風呂に入らなくても死にはしませんし、市井の者達は三日に一度は入れればいい方なんですから。」
「確かに。」
風呂が有る家に住めるのは金持ちくらいなもんだし風呂が無い屋敷に住んでる貴族も居ると聞くくらいだからな。宿は基本風呂は無いから体を拭くだけ。そうした市井の者達は週に何度か公衆風呂に行くってのが普通の感覚だ。名のある大店や高級宿、『成金貴族』と呼ばれるパパさんの領主館に泊まっていたから贅沢に慣れてしまった。ましてやカーラは日頃からそんな環境なんだから野営なんて出来ないと思っていたんだが。
「祖父が生きていた頃は、時々遠方まで取引に赴く際一緒に連れて行ってくれました。流石に徒歩では無かったですが野営をする機会も有ったんです。枯れ木を集めたり、保存食の干し肉を火に炙って食べたりして。荷台で寝たんですが横になって見上げる星空が本当に綺麗でした。」
「まぁまだ野営と決まった訳じゃないけど、それを聞いて安心した。」
「フツ」
ステトがまた何か見つけた様だ。
「男共が居るな。俺達を品定めしてる。」
ナサも気付いていて先にある藪を見ていた。
「どうする!?」
俺は雇い主であるカーラが決定権を持っているのでこの先の行動を聞く。
「このまま行きましょう、賊でも初めて接触するツルギ領の者です。何か聞けるかも知れません。」
「解った。そういう訳だからナサさん、殺すなよ?」
「ナサ様、ツルギ領内ではフツさんの言う通り無暗に死人を出さないで下さいね。まずは取引相手と会う事が先決ですから。」
「は。解っております。」
「これで兄さんもオレ達の仲間だね!」
「仲間では無かったのか?」
「殺さない仲間だよーっ」
ステトは嬉しいそうだ。
「そんな訳だし、とりあえず絡まれようぜ。やり過ぎ無い程度に小突いてくれよ?」
「ふ、「とりあえず絡まれろ」なんて初めて言われた。やはりお主は変な男だ。」
いや男前も大概だけどな。
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